2009年9月9日午後2時から、レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟第1回口頭弁論が横浜地方裁判所で行われた。
今回の口頭弁論は平尾紘一原告団長、入澤彰仁原告団幹事長、藤田倫成・小笠原敏夫両原告と代理人である小賀坂徹弁護士が意見陳述を行った。被告である国は、事前に答弁書を提出。この裁判を争う姿勢を示すと共に、原告に対し求釈明として、保険医療機関の指定を受けているか、また医科歯科の別の立証を求め、原告適格を問う姿勢を示した。
しかし国は、オンライン請求義務化を行う積極的な意見陳述は行わなかった。
口頭弁論にはまず、入澤幹事長が証言台に立ち、1744名の原告団を代表して意見陳述をすることを宣言。保険医が低い医療費で、WHO健康達成度第1位の医療レベルを維持しているとし、オンライン請求義務化によってその医療を支えている保険医が、廃業を余儀なくされている問題を訴えた。
さらに医療はCT、MRIなど診断や治療の分野でIT化は進んでいることを強調。規制改革会議等が言う「医療におけるIT化の遅れ」に反論した。そして「オンライン義務化は保険医にとって死活問題。義務化を撤回できるかどうかは、地域医療を守りきれるかどうかの試金石」と締めくくった。
次に平尾原告団長は、自身の糖尿病患者について触れ、「糖尿病の病状の悪化は、地位を守る上でも、出世の上や取引の上でも由々しきこと」と説明した。その上で、カリメートやクレメジンの投与により透析が近いと判断できるため、情報漏洩に敏感な患者が多いと指摘。そのため、患者がオンライン請求を拒み診療報酬が支払われないとなれば自費扱いとなるため、健康保険が事実上使えなくなることに疑問を呈した。
医療は会議室でなく診察室で行われている
藤田原告は、オンライン請求におけるセキュリティーの脆弱性を指摘。米国や日本の官公庁のサーバーが不正アクセスを受けたことを例に挙げ、このような環境でのオンライン化は怖くて出来ないと訴えた。
最後に小笠原原告が、歯科医として60年地域医療を支えてきたと説明。省令一つで強制的に廃業させられることに対し、「廃業せざるを得ないと言うのでは、地域の患者さんに対して無責任の謗を免れない」と高齢歯科医師の悔しさを強調。「供生僑有る限り地域医療を守る捨て石となって頑張って行きたい」と決意表明し、陳述を終えた。
続いて、小賀坂弁護士が意見陳述を行った。小賀坂弁護士は、この訴訟に至る経過を解説すると共に、訴状の論点であるオンライン請求義務化の違憲性をわかりやすく裁判官と被告に訴えた。
そこで事件がおきた。小賀坂弁護士が意見陳述中、被告代理人が「それは訴状に書いてある」と不規則発言を行ったのである。原告の代理人は、訴状に反する内容を陳述することはない。明らかに意図的な妨害といえる行為が行われた。しかし、小賀坂弁護士は動じず、「黙って聞きなさい」と一喝。被告代理人は二の句が継げず、押し黙った。
小賀坂弁護士は最後に「医療政策は、医療現場の状況を十分に把握し、病院の診察室の中で行われている営みに敬意を払い、一人ひとりの国民・市民の命と健康をどのように守っていくのか、という基本に立って行われなければならない。医療は診察室で行われているのであって、会議室で行われているのではない」と締めくくった。
閉廷後、裁判官、原告代理人、被告代理人による進行協議がもたれ、次回口頭弁論は11月4日午後1時30分から横浜地裁502号法廷で行われることとなった。また、被告からの準備書面は10月28日までに提出されることとなった。
報告集会 「1744名に背中押された」
口頭弁論終了後、横浜開港記念会館にて報告集会を開催。90名が参加した。入澤原告団幹事長は、「初めての裁判で気が揚がるものであったが、1744名の原告団に背中を押された」と挨拶。1人の仲間も廃業させないと訴訟への決意を述べた。保団連・住江会長も原告団の一員として、この問題を全国民に訴えていこうと強調した。
大阪訴訟からは、坂口副団長(大阪協会副理事長)、西弁護士(弁護団事務局長)が駆けつけ、横浜訴訟へエールが送られた。
質疑では、マスコミからの質問を受け入澤幹事長、藤田・小笠原両原告が意見陳述の内容を報告。藤田原告からは、コンピューターの知識を活かし「わかっているからこそ、ウイルス感染に限定できない情報漏えいが怖くてオンライン化は出来ない」と指摘。
最後に小賀坂弁護士は、厚労省には医療技官が沢山いるが、実際の診療に携わった方は少ないのではないか。今日はそれに事実を持って反駁することができた。民主党中心の政権の下、政治的決着をつけるだけでなく、裁判でも勝訴を―と締めくくった。
集会には、朝日新聞など各種マスコミが入り、テレビ神奈川、M3・comでは即日報道された。
神奈川県保険医新聞より抜粋
(2009年9月15日・第1769号)