医療の“株式上場”の責任も追及
協会は3月30日、神奈川県商工労働部と医療特区問題で懇談を行った。これは先月23日に国会で川崎厚労大臣が、医療特区で実施するバイオマスター社の高度美容医療について、「安全性を確認していない」と答弁し、県側の主張との食い違いが明らかになったことを踏まえてのもの。
揺らぐ安全性問題について、県側は安全性の論拠となる個別データの開示や県独自の倫理委員会の設置を頑なに拒み、関係者による協議会で安全性問題に配慮していくとした。当日は、協会より池川医療運動部会長と事務局3名が赴き、県側は山口課長代理ほか1名が対応した。
重さ増す申請主体、県の責任 安全性は大前提
【参 考】 川崎厚労大臣の国会答弁(3月22日予算委員会・議事録より)
○塩川議員―「・・バイオマスター社の高度医療技術、この医療技術の安全性については一体だれが確認をしたのか、・・」 ○川崎厚労大臣―「・・特区において提供される医療の安全性について国が個別に審査する仕組みとはなっておりません。」 |
県側は、1)大臣答弁は個別の医療機関の安全性への言及であり(!)、2)対象となる医療の構造設備、人員基準に合致していると厚労省は判断した、3)医療の安全性について国が審査機関を設けていないのは事実だが、バイオマスター社の高度美容外科医療について、厚労省は最小限の有識者に聞いてリスクはないと判断したと返答した。
協会より、医療特区は大臣告示で倫理性・安全性の担保を前提としており、安全性確認の仕組みがないので確認できないという国の姿勢は責任回避も甚だしいが、逆に医療特区の申請主体として県の安全性確認の責任は重くなった。県の「事務方が書面のみで安全性を確認した」ことを非常に危惧している。先端医療であればあるほど安全性・倫理性は追求されるべきだと指摘した。
緩い特区の基準 新設、特区協議会の機能は未知数
県側は脂肪吸引は確立された技術と強弁。池川部会長が実施23症例のうち東大倫理委員会で3例しか確認されていない事実を示すと、県側は東大で麻酔事故があったため学内で全身麻酔の美容外科手術ができなくなり外部での実施となっていると説明。また医薬食品局より細胞医薬品の確認申請が不要なケースに該当(1.自家細胞、2.新鮮細胞、3.培養プロセス)すると判断されていると、バイオマスター社から得ていると業を煮やして反論。
池川部会長が、23例のデータを「個別に確認していないのでは?」と投げかけると、県側は、各方面の危惧に対し、県と県医師会、バイオマスター社、外部の専門家(学識経験者)、横浜市(=オブザーバー)による「かながわバイオ医療産業特区に係わる協議会」を12月に立ち上げ、東大の吉村講師が医療内容を説明し一定の理解を得た。これが安全性を担保する仕組みだと強調した。
協会より、法的担保がないこの協議会はいつでも解散が可能であり、医療保険の高度先進医療は承認にあたり有効性・安全性を判断する機関があること、施設基準も保険診療に比して医療特区のそれはあまりにも緩い点を上げ、中立性を担保した県独自の倫理委員会の設置を要求。県側はバイオマスター社の倫理委員会に県が参加することで十分と応答した。
市場原理導入で瓦解する日本医療への自覚を要請
懇談では、協会より事故の際の患者救済制度の確立を要求。更には、この医療特区が株式上場、市場原理導入の嚆矢(こうし)となることへの自覚と、日本の医療制度を台無しにする転換点となったと後世から批判を浴びる覚悟を持つべきだと厳しく迫った。
県側は、次々と医療特区申請をする予定はない。安全性については県として最大限配慮すると強調した。
(2006年4月10日)