神奈川県保険医協会・医療情報部は2011年8月3日、「共通番号で、どうなる社会保障と私たちの未来」をテーマに市民公開講座を開催。自治体情報政策研究所代表の黑田充氏が講演しました。当日は会員、市民、マスコミなど40名が参加しました。
黑田氏は、番号制が単に国民に番号を振ることではなく、国民ひとり一人の個人情報を“名寄せ”するネットワークシステムと指摘。その上で、番号制の問題点、議論の歴史的経緯、将来像などについて説明。番号制の狙いは「社会保障費の抑制と市場化・民営化」にあり、将来的には国民を「公正な人」「社会の敵」と仕分けし、後者を社会から排除する「類別化社会」が到来すると警鐘を鳴らしました。
(2011年8月25日号 神奈川県保険医新聞より抜粋)
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共通番号制=個人情報「名寄せ」システム
「類別化社会」の危険性示唆
番号制の問題を考える市民公開講座
神奈川県保険医協会・医療情報部は2011年8月3日、「共通番号で、どうなる社会保障と私たちの未来」をテーマに市民公開講座を開催。自治体情報政策研究所代表の黑田充氏が講演。会員、市民、マスコミなど40名が参加した。
はじめに黑田氏は、政府の番号制導入の目的は国民の個人情報を「名寄せ」するネットワークシステムの構築と指摘。その上で、番号制の問題点、議論の歴史的経緯、将来像などについて説明した。
6月30日に閣議決定した『社会保障・税番号大綱』に盛り込まれた「総合合算制度」とは、家計全体をトータルに捉えて医療・介護・保育・障害に関する自己負担の合計額に上限を設定するもの。将来的に社会保障給付に上限を設ける「社会保障個人会計」に変質する恐れがあるとした。
また「災害時の活用」について、大綱では災害時の本人確認や要援護者リストの作成等に活用すると提示。これに対し、氏は災害時の電気・通信網の確保や本人確認の困難さを指摘。「個人を特定できなければ助けないのか」と、本質的な矛盾を突いた。
医療分野では、電子カルテ並みの個人情報が行政機関等に集積・活用されると説明。また、経産省のPHR構想との連動により、個人の医療・健康情報を活用した新市場が創設。公的医療給付の縮小に繋がる危険性を示唆した。
狙いは社会保障費抑制と市場化
次に、番号制導入の議論の歴史的経緯を説明。古くは1970年の「事務処理用統一個人コード」構想から始まり、80年には「グリーンカード法案」が国会で可決したが、反対世論が強く廃止。99年には住基ネット法案が可決。しかしプライバシー権侵害や情報漏洩を懸念する世論が強く、住基ネットでの個人情報の名寄せ、納税者番号としての民間利用等は禁止された。
その後、小泉構造改革の中で、より自由で広範に利用できる「社会保障番号」構想が浮上。経団連をはじめとする経済界は、個人情報を活用した既存ビジネスの効率化と新市場の創造を目的に、番号制導入を支持。
民主党政権に変わった現在も、番号制の構想は継承されている。氏はこうした歴史を振り返り、「番号制が議論される根底には、社会保障費の抑制と市場化・民営化がある」と強調した。
最後に氏は、番号制という強大な名簿(システム)によって、国家が国民を強権的に仕分けする「類別化社会」が到来すると指摘。
社会保障給付の少ない「公正な人」と、負担よりも給付の方が多い「社会の敵」と、国民を単純に類別することも考えられる。その結果、後者を社会保障制度から排除するなど、国家が国民を排除することが正義とされる可能性があると警鐘を鳴らした。
会場からは、番号制の対案はあるかと質問。
氏は、今でも市町村が行政事務で個人情報を集約・活用していること、大綱の内容は大半が既存システムでも十分に可能と説明。その上で、データは市町村など小さい単位で管理・活用することが費用面、利便性、情報漏洩対策として有効とした。