第498回月例研究会講演要旨(2011年9月22日開催)
テーマ 「胃癌に対する鏡視下手術の進歩」
講師 横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 外科 國崎 主税
はじめに:1990年初頭に本邦で初めて胃癌に対する腹腔鏡下切除が導入されて以来、手術症例数は増加の一途を辿っている。その症例数は年間5000例を超えるとも言われている。私共の施設でも2002年に腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)を導入して以来、技術の安定化に伴い噴門側胃切除術(LAPG),胃全摘術(LATG)を順次、導入してきた。その累積症例数は400例を超えている。その治療成績および手技の実際を供覧する。
治療成績:
1. 肥満とLearning curve
肥満のLADGのlearning curveに及ぼす影響を明らかにする。LADGを施行した100例を対象とし、前期50例と後期50例に分けた。肥満度の指標として高BMI群とBMI正常群に分類した。高BMI群では手術時間が長く, 出血量が多く, 開腹移行症例が多く, 合併症率が高く、在院日数が長かった。前期50例では、高BMI群で出血量が多く、開腹移行症例が多く, 合併症率が高く,在院日数が長かった。後期50例では全て差がなかった。Fat Scanを用いた検討では腹腔内脂肪面積は出血量と相関した。相関は前期50例でも認めたが、後期50例では相関しなかった。皮下脂肪面積は出血量、手術時間とも前後期で相関がなかった。肥満症例で手術時間が長く、出血量が多く、合併症率が高いがlearning curveとともにその影響は消失する。LADG導入時、高BMI症例は適応外とすべきである。
2. 高齢者と腹腔鏡下胃切除術
高齢者(75歳以上)早期胃癌に対するLADGの妥当性を明らかにする。幽門側胃切除術を施行した211例「LADG130例(75歳以上:26、75歳未満:104)とODG81例(75歳以上:16、75歳未満:65)」で高齢者と非高齢者間で治療成績を比較した。LADGとODGの術中因子を比較すると手術時間はLADGで有意に長時間であったが、60例以降の症例ではODGと同等になった。出血量は有意に少量であった。術前併存疾患がLADG, ODGとも高齢者群で有意に多かった。手術時間はLADGで高齢者が有意に短時間で、ODGで差がなかった。術中出血量でもLADGで高齢者が有意に少なかったが、ODGでは差がなかった。術後合併症はLADG、ODGとも高齢者、非高齢者で差がなかった。生存期間は高齢者、非高齢者間で差がなかった。早期胃癌に対するLADGはODGに比し優れた術式であり、75歳以上高齢者に対しても安全・確実に施行しうる。
3. LATGの治療成績
経口的挿入anvil OrVilを用いた腹腔内Roux-en-Y吻合30例と10cmの小開腹創からRoux-en-Y吻合を施行した15例の治療成績を比較検討した。OrVilを用いた症例では、手術時間短縮、出血量減少を図ることが可能で、縫合不全などの術後合併症の発生頻度は2群間で差がなかった。
4. Reduced port laparoscopic distal gastrectomy(RPLDG)の治療成績
SILS™Port + 1portの有用性を明らかにする目的で5-portsを用いたConventional LADGとの治療成績を比較検討した。全手術時間,リンパ節郭清時間はRPLDG群で有意に長く、節郭清時出血量は有意に短かった。術後合併症の発生頻度には差がなかった。RPLDGは審美的に優れている。learning curveとともに安全・確実な手術手技が確立されれば有用な術式になる。
5. 胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術と開腹胃切除術 ~a case-controll study~
LAGとOGの治療成績を比較し、その優劣を明らかにする. 727例(LAG315/OG412)中、背景因子(年齢、リンパ節郭清、進行度)をmatchさせた111例ずつの計222例を対象とし、その短期、長期治療成績を比較検討した。LAGとOGは年齢、男女比、手術手技、癌占居部、組織型、リンパ節郭清度,進行度と差を認めなかったが、肉眼型は有意差を認めた。術中因子では出血量は有意差を認め、手術時間はと差を認めなかった。術後合併症数はとその発生頻度には差がなかったが、LAGでやや縫合不全が多かった。生存期間はoverall、disease-specificとも差がなかった。進行度別でも差がなかった。胃癌に対するLAGとOGは短期・長期治療成績は同等で、LAGは手技の安定化とともに標準治療になりえる。
ビデオ供覧:
1. LADGの基本手技
2. OrVilを用いたLATG
3. Reduced port laparoscopic distal gastrectomy