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神奈川県保険医協会創立50周年記念「日本医療再生の懸賞論文」の受賞者決定! 福井県の人口1万人の町の取り組みに、未来への光明みる

 神奈川県保険医協会は、「医療崩壊」からの脱却へ、将来の医療の展望を拓く一助とするために、「日本医療再生の具体的提言」をテーマに全国から懸賞論文を公募し(エントリー12年10月~12月、論文提出締切13年6月末)、このほど入選(賞金100万円)をはじめ各賞4論文の受賞を以下の通り決定した。

 入選論文は、人口1万人の町、福井県高浜町という医師不足の地域での、医師・行政・住民の「協働」による地域づくりと結合した医療実践であり、全国の医師不足、医療資源不足の地域や都市部の地区へも適用できる普遍性をもつものとなっている。また佳作は提言のユニークさを評したものである。審査委員長・特別賞および奨励賞は各々、被災地の医療再建に向けた方向性の提示、限定的テーマだが医療者にとって切実で新鮮な点を評したものである。

 尚、審査にあたっては概して「論文的」でなくとも医療再生に資する内実をもつものを高く評価した。(審査委員=共同通信論説委員・髙瀬髙明氏、ジャーナリスト・田辺功氏、神奈川県保険医協会前理事長・池川明氏)

 


 

論文テーマ: 「日本医療再生の具体的提言」(副題各自)

 

◆入選 (1論文) <賞金100万円>

副題

「住民-行政-医療の“和”と“輪”を拡げる理想の医療・地域づくり」

氏名・所属

井階 友貴 氏(福井県・32歳)

たかはま地域医療サポーターの会/高浜町国民健康保険和田診療所

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(3.2MB)

 

◆佳作 (1論文) <賞金20万円>

副題

「日本の医療に残された道」

氏名・所属

藤井 将志 氏 (沖縄県・30歳)

沖縄県中部病院経営アドバイザー・大東文化大学非常勤講師(病院経営)

/NPO法人病院経営支援機構

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(1.3MB)

 

◆審査委員長・特別賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「被災地から医療再生と社会保障を考える」

氏名・所属

Team7.29花巻フォーラム(共同執筆) 代表 大竹 進 氏(青森県・61歳)

井上英夫氏(金沢大学)・石木幹人氏(岩手県立高田病院)・古田晴人氏(芦屋市立病院)・村田隆史氏(八戸学院大学)・都築光一氏(岩手県立大学)・藤林渉氏(青森県保険医協会)

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(2.5MB)

 

◆審査委員長・奨励賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「医療の視点が司法に活かされるための制度設計」

氏名・所属

神馬 幸一氏(静岡県・36歳)

静岡大学人文社会科学部法学科 准教授

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(580KB)

 

※なお、授賞式を11月30日(土)に崎陽軒本店にて開催いたします


 

講評

 神奈川県保険医協会創立50周年記念の冠で、「日本医療再生の具体的提言」をテーマとする懸賞論文の全国募集をし(応募期間2012年10月1日~12月31日、論文提出締切2013年6月30日)、期日までに12本の論文が提出された。尚、応募登録(いわゆるエントリー)は39件(個人・グループ)に及んだ。

 論文提出者は、北は青森県から南は沖縄県までの広がりを持ち、年代は20代から60代にまでに及び、職種は医療者・医療関係者が3/4を占めた。また応募登録で女性からもあったが結果的に男性のみとなった。

 

 審査にあたっては、12本の論文に関し、当協会役員会による選考をへて8本を審査委員会の審査に付託した。

 厳正な審査の結果、入選1本、佳作1本を選定し、これとは別に審査委員長特別賞1本、審査委員奨励賞1本を新たに追加し選定した。該当論文は冒頭のとおりである。

 

<全体>

 審査は公募論文のテーマ「日本医療再生の具体的提言」にあるとおり、具体的な「提言」であることに重きを置いて審議した。また、“論文”としての「完成度」より、提言としての「内容」や「実践性」や「普遍性」を重視し、いわゆる論文らしい論文ではなくとも、医療再生につながる「中身」を持ったものの評価を高くした。

 応募論文は、どれも大作であり、各自の副題に見るように日本の医療再生を願う熱意溢れるものであった。ただ、概して“現状分析”が優れているものの、「では、どうするのか」という“提言”部分となると、具体性が弱く、迫力や勢いを欠くものが多かったのは惜しく思われ、審査委員の一致した感想であった。医療を巡る状況が五里霧中の感があることもあり、このことは、その難しさを示すものとなった。

 

 その中でも受賞論文は、将来への光明を見出す、ないしは意欲的、挑戦的な思考が伺えるものとなっており、賞に値するとした。入選論文は、全国に無数にある医療過疎、医療資源不足の地域・地区へ適用できる可能性のある実践例であり、佳作は提言のユニーク性を評価したものである。

 また、審査段階で新たに設けた審査委員長特別賞は被災地の医療再建に向けた意欲的な実践課題の設定は見るべきものであること、審査委員長奨励賞は医療と司法の限定的テーマを扱ってはいるが医療者にとって切実であり、新鮮な提言であることから、表彰することとした。

 

 尚、惜しくも授賞とならなかった論文の数々は、論考や分析が優れているものの提言内容が新味に欠ける、具体性に乏しい、取り扱っているテーマが限定的などの理由で該当とならなかったが、どれも力作ぞろいであった。

 応募論文に共通するのは、患者、住民、他科、行政などを巻き込んで医療の未来を拓くという点であり、論文の中には、それを集約した「信頼」「異質なものとの対話」などの言葉がみられた。

 

 以下、授賞論文に関する審議による講評を、審査委員の寸評と併せて記す。

 


審査委員: 髙瀬 髙明 氏(共同通信論説委員)/田辺 功 氏(医療ジャーナリスト、元・朝日新聞編集委員)/池川 明 氏(神奈川県保険医協会・前理事長)

※ 審査委員長: 池川 明 氏 

 

◆入選 (1論文) <賞金100万円>

副題

「住民-行政-医療の“和”と“輪”を拡げる理想の医療・地域づくり」

論文PDF(3.2MB)

氏名・所属

井階 友貴 氏(福井県・32歳)

たかはま地域医療サポーターの会/高浜町国民健康保険和田診療所

合評

 人口1万人福井県高浜町という医師不足の地域での医療再生の実践報告である。「論文的」ではないが、この実践そのものが普遍性をもつ「提言」となっていることを高く評価した。読むものに「気づき」を与える点も魅力である。

 医療の基本は地域づくりであり、いまの医療の不十分な点は、個々の病院、診療所がうまく連携していないことにある。都市になるほどその傾向が強い。いまの日本の医療の抱える問題は、大都市の問題より、こういう地域が日本に多いことにある。また都市部も地域、地区ごとにみていけば同様のところが数少なくない。論文にあるような医療の不十分な点を補い各地で協働することはよいことであり、この論文は医療全体をとらえており、入賞に値するとした。

 論文で触れられている一つ一つの実践は「画期的」ではないものの、丁寧にとりくんでおり、地味な印象があるが、実践の大切さ、実践している強みがある。同じ方向性をもつ被災地に関する青森の論文よりその点が優っていると評価した。

審査委員

寸評

【池川評】 実際に実践されていて、地区でも取れ入れたい。今後、在宅が主となっていく中、地域やケアマネージャー、介護と連携していく上で指標となる。地域実践を主体的に取り組むかどうかで評価が変わる部分もある。


【田辺評】 福井県高浜町を例に説く。「地域医療を育てる5カ条」は面白い。各地で「協働」による地域づくりも新鮮。医療の基本は地域作りに賛同。


【髙瀬評】 現状をそのまま受け入れ、地域で何ができるか、まさに神は細部に宿るで、一地方から国全体がみえるいい内容。劇的な効果がみられるわけではないが、息の長い取り組みが続いているだけに、ある日気がついたら地域が大きく変わっていたとなるのではないか。在宅医療・介護の部分は詳述はないが、こちらの成果もみたい。

 

◆佳作 (1論文) <賞金20万円>

副題

「日本の医療に残された道」

論文PDF(1.3MB)

氏名・所属

藤井 将志 氏 (沖縄県・30歳)

沖縄県中部病院経営アドバイザー・大東文化大学非常勤講師(病院経営)

/NPO法人病院経営支援機構

合評

 率直にいってユニーク。医療費増のために経済成長を少子化対策の徹底で図り、それに要す20兆円を高齢者の資産を活用するとの論旨の明快さは魅力。実現性では難点はあるが画期的である。次の世代のために何をやるかは、社会的な共通の大事な基盤。また医療制度は患者のためになっていないとし、二次医療圏ごとに診療報酬点数を変えるのはユニークだが、介護保険のように地方と都市で変えるのもありだ。県が診療報酬を変えるというのもあり、唐突な提案ではない。日本の医療を変える、高齢者に偏ったありよう変えるという挑戦的な論文。

 提案は相続税の強化という考え方で実現性はあるが、税金の財源の集め方で踏み込まざるを得ないとは思う。ただ前半部分と後半部分の直接的な結びつきがない感はある。

 死亡消費税みたいな話や地域単価の変更は波紋を呼びリスキーな部分もある。当会の主義主張とは必ずしも沿うものではない、毒のある論文ではあるが、少子高齢化の下、どうやっていくかを熱く語っている。捨てがたい魅力がある。ある意味「話題性」をとった。

審査委員

寸評

【池川評】 お金の配分や財源はどうかという部分もあるが、医療制度本来の目的をきちんととらえており 良心的でポリシーは面白い。だからどうするの、が弱い面もある。


【田辺評】 医療財源の確保にユニークな意見。少子化対策を徹底、年間20兆円をどう得るか。高齢者の資産活用を提言。また、医療制度が患者のためになっていないと指摘、2次医療圏ごとに1点換算を変えるのはユニーク。実現性はともかく提言は面白い。


【髙瀬評】 前半の子ども手当10万円は非現実的か、それとも大胆か。高齢者の資産を国が活用した経済成長で医療費を増加させる。財源不足を解消する。これは現実的に相続税の強化で実現できるのではないか。後半の二次医療圏ごとに診療報酬を変える。方法は1点10円の操作。やる気を出させる。特区も。これは実現できるのではないか。ただし、厚労省は都道府県ごとの診療報酬といっている。二次医療圏ごとにすると非常に事務がややこしくなるという現実的な問題をどうするか。克服しなければならない課題は多いが、方向は間違っていない。

 

◆審査委員長・特別賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「被災地から医療再生と社会保障を考える」

論文PDF(2.5MB)

氏名・所属

Team7.29花巻フォーラム(共同執筆) 代表 大竹 進 氏(青森県・61歳)

井上英夫氏(金沢大学)・石木幹人氏(岩手県立高田病院)・古田晴人氏(芦屋市立病院)・村田隆史氏(八戸学院大学)・都築光一氏(岩手県立大学)・藤林渉氏(青森県保険医協会)

合評

 教えられるところが多く、芦屋市や延岡市の例を陸前高田に引き込みながら被災地という、日本の一番ダメージが大きいところでの再建に関する論文。被災地という少し限定的で、全国どこでもの共通性ではどうかという部分はあるが、内容は悪くない。入選論文と目指す方向は同じだが、実践し成果を上げている点で入選論文の後塵を拝することとなった。これも一年後に医療モールになり、住民を巻き込んでとなれば評価も違うだろうが、現時点では希望、願望の網羅的な課題列挙なので弱い感がある。過疎地・被災地で今後のゼロからの出発に、がんばってほしい地域であり、院内開業方式も肯けるがまだ道半ば。今後が期待される。またこの論文は唯一、チームでの共同執筆であり、広がりをもっている。

審査委員

寸評

【池川評】 被災再建と医療の関わりから医療そのものの在り方を論じた論文で、しかもチームで共同執筆し、かつ同じ方向性において調和のとれた論文として評価できる。今後の医療政策を提言するときの医療側から提案する一つのモデルとして参考となった。逆にチームとしての提案であるためか、具体的方法論が弱いことが惜しまれた。


【田辺評】 陸前高田を軸に被災地からの医療再生。芦屋市立病院の院内開業制度、延岡市・医療を守る市民条例をふまえる。提言も具体的だが、やや限定的か。


【髙瀬評】 被災地からの報告だが、医師不足地域全体に応用できる。医師確保策、院内開業制、地域との協同、被災地研修で過疎地にも目を向けて貰うなど。高浜町の実践と同様の問題意識。ただ、こちらの場合はこれから目指していくので期待されるが、すでに実践している高浜町のほうが説得力がある。その関係か、提言の全体が網羅的。一つ一つをもっと突っ込んで分析してもいいのでは。

 

◆審査委員長・奨励賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「医療の視点が司法に活かされるための制度設計」

論文PDF(580KB)

氏名・所属

神馬 幸一氏(静岡県・36歳)

静岡大学人文社会科学部法学科 准教授

合評

 評価が委員の中で大きくわかれた。全体の医療体制の提言としては難点がある。医師・歯科医師の立場からは勉強になったとの声もあるが、テーマの「日本医療の再生」に照らしてみると、医師側にとって関心事だが、外から見るとこの問題に限定されない。これだけでは医療の再生は図れない。大きなテーマの中の一部であるが、主題から考えてマイナスが大きい。

 しかし、論文の中身はしっかりしており、大きな問題であるので価値がある。扱っている範囲が狭いが、論文はねられており魅力的で捨てがたい。選考過程で当会役員会の評価が最も高かったこと、将来の有望な人材発掘という企画意図ならびに「評価した方がよい」との審査委員の声もあり、奨励賞とした。 

審査委員

寸評

【池川評】 医師ではない人がこれを書いたのが面白い。全体からみると範囲は狭いが、問題点の指摘は面白い。「異質なものとの対話」は意味深長で、今後のキーワードと感じた。


【田辺評】 医療事故の対応を熟慮。細かな分析はよいが、あまりにも問題は限定的。医療安全を扱う行政委員会の設置を提言。


【髙瀬評】 医療安全をめぐる第三者委員会をどう構成するか。これについての一つの研究で、説得力もあるが、懸賞論文のテーマに照らしてあまりに領域が狭すぎる。それからこのテーマだけでいっても、例えば医療技術が未熟な場合や、あるいは明らかに悪質の場合はどうするのか。

 

 神奈川県保険医協会は、「医療崩壊」からの脱却へ、将来の医療の展望を拓く一助とするために、「日本医療再生の具体的提言」をテーマに全国から懸賞論文を公募し(エントリー12年10月~12月、論文提出締切13年6月末)、このほど入選(賞金100万円)をはじめ各賞4論文の受賞を以下の通り決定した。

 入選論文は、人口1万人の町、福井県高浜町という医師不足の地域での、医師・行政・住民の「協働」による地域づくりと結合した医療実践であり、全国の医師不足、医療資源不足の地域や都市部の地区へも適用できる普遍性をもつものとなっている。また佳作は提言のユニークさを評したものである。審査委員長・特別賞および奨励賞は各々、被災地の医療再建に向けた方向性の提示、限定的テーマだが医療者にとって切実で新鮮な点を評したものである。

 尚、審査にあたっては概して「論文的」でなくとも医療再生に資する内実をもつものを高く評価した。(審査委員=共同通信論説委員・髙瀬髙明氏、ジャーナリスト・田辺功氏、神奈川県保険医協会前理事長・池川明氏)

 


 

論文テーマ: 「日本医療再生の具体的提言」(副題各自)

 

◆入選 (1論文) <賞金100万円>

副題

「住民-行政-医療の“和”と“輪”を拡げる理想の医療・地域づくり」

氏名・所属

井階 友貴 氏(福井県・32歳)

たかはま地域医療サポーターの会/高浜町国民健康保険和田診療所

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(3.2MB)

 

◆佳作 (1論文) <賞金20万円>

副題

「日本の医療に残された道」

氏名・所属

藤井 将志 氏 (沖縄県・30歳)

沖縄県中部病院経営アドバイザー・大東文化大学非常勤講師(病院経営)

/NPO法人病院経営支援機構

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(1.3MB)

 

◆審査委員長・特別賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「被災地から医療再生と社会保障を考える」

氏名・所属

Team7.29花巻フォーラム(共同執筆) 代表 大竹 進 氏(青森県・61歳)

井上英夫氏(金沢大学)・石木幹人氏(岩手県立高田病院)・古田晴人氏(芦屋市立病院)・村田隆史氏(八戸学院大学)・都築光一氏(岩手県立大学)・藤林渉氏(青森県保険医協会)

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(2.5MB)

 

◆審査委員長・奨励賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「医療の視点が司法に活かされるための制度設計」

氏名・所属

神馬 幸一氏(静岡県・36歳)

静岡大学人文社会科学部法学科 准教授

 

合評・審査委員寸評 | 論文PDF(580KB)

 

※なお、授賞式を11月30日(土)に崎陽軒本店にて開催いたします


 

講評

 神奈川県保険医協会創立50周年記念の冠で、「日本医療再生の具体的提言」をテーマとする懸賞論文の全国募集をし(応募期間2012年10月1日~12月31日、論文提出締切2013年6月30日)、期日までに12本の論文が提出された。尚、応募登録(いわゆるエントリー)は39件(個人・グループ)に及んだ。

 論文提出者は、北は青森県から南は沖縄県までの広がりを持ち、年代は20代から60代にまでに及び、職種は医療者・医療関係者が3/4を占めた。また応募登録で女性からもあったが結果的に男性のみとなった。

 

 審査にあたっては、12本の論文に関し、当協会役員会による選考をへて8本を審査委員会の審査に付託した。

 厳正な審査の結果、入選1本、佳作1本を選定し、これとは別に審査委員長特別賞1本、審査委員奨励賞1本を新たに追加し選定した。該当論文は冒頭のとおりである。

 

<全体>

 審査は公募論文のテーマ「日本医療再生の具体的提言」にあるとおり、具体的な「提言」であることに重きを置いて審議した。また、“論文”としての「完成度」より、提言としての「内容」や「実践性」や「普遍性」を重視し、いわゆる論文らしい論文ではなくとも、医療再生につながる「中身」を持ったものの評価を高くした。

 応募論文は、どれも大作であり、各自の副題に見るように日本の医療再生を願う熱意溢れるものであった。ただ、概して“現状分析”が優れているものの、「では、どうするのか」という“提言”部分となると、具体性が弱く、迫力や勢いを欠くものが多かったのは惜しく思われ、審査委員の一致した感想であった。医療を巡る状況が五里霧中の感があることもあり、このことは、その難しさを示すものとなった。

 

 その中でも受賞論文は、将来への光明を見出す、ないしは意欲的、挑戦的な思考が伺えるものとなっており、賞に値するとした。入選論文は、全国に無数にある医療過疎、医療資源不足の地域・地区へ適用できる可能性のある実践例であり、佳作は提言のユニーク性を評価したものである。

 また、審査段階で新たに設けた審査委員長特別賞は被災地の医療再建に向けた意欲的な実践課題の設定は見るべきものであること、審査委員長奨励賞は医療と司法の限定的テーマを扱ってはいるが医療者にとって切実であり、新鮮な提言であることから、表彰することとした。

 

 尚、惜しくも授賞とならなかった論文の数々は、論考や分析が優れているものの提言内容が新味に欠ける、具体性に乏しい、取り扱っているテーマが限定的などの理由で該当とならなかったが、どれも力作ぞろいであった。

 応募論文に共通するのは、患者、住民、他科、行政などを巻き込んで医療の未来を拓くという点であり、論文の中には、それを集約した「信頼」「異質なものとの対話」などの言葉がみられた。

 

 以下、授賞論文に関する審議による講評を、審査委員の寸評と併せて記す。

 


審査委員: 髙瀬 髙明 氏(共同通信論説委員)/田辺 功 氏(医療ジャーナリスト、元・朝日新聞編集委員)/池川 明 氏(神奈川県保険医協会・前理事長)

※ 審査委員長: 池川 明 氏 

 

◆入選 (1論文) <賞金100万円>

副題

「住民-行政-医療の“和”と“輪”を拡げる理想の医療・地域づくり」

論文PDF(3.2MB)

氏名・所属

井階 友貴 氏(福井県・32歳)

たかはま地域医療サポーターの会/高浜町国民健康保険和田診療所

合評

 人口1万人福井県高浜町という医師不足の地域での医療再生の実践報告である。「論文的」ではないが、この実践そのものが普遍性をもつ「提言」となっていることを高く評価した。読むものに「気づき」を与える点も魅力である。

 医療の基本は地域づくりであり、いまの医療の不十分な点は、個々の病院、診療所がうまく連携していないことにある。都市になるほどその傾向が強い。いまの日本の医療の抱える問題は、大都市の問題より、こういう地域が日本に多いことにある。また都市部も地域、地区ごとにみていけば同様のところが数少なくない。論文にあるような医療の不十分な点を補い各地で協働することはよいことであり、この論文は医療全体をとらえており、入賞に値するとした。

 論文で触れられている一つ一つの実践は「画期的」ではないものの、丁寧にとりくんでおり、地味な印象があるが、実践の大切さ、実践している強みがある。同じ方向性をもつ被災地に関する青森の論文よりその点が優っていると評価した。

審査委員

寸評

【池川評】 実際に実践されていて、地区でも取れ入れたい。今後、在宅が主となっていく中、地域やケアマネージャー、介護と連携していく上で指標となる。地域実践を主体的に取り組むかどうかで評価が変わる部分もある。


【田辺評】 福井県高浜町を例に説く。「地域医療を育てる5カ条」は面白い。各地で「協働」による地域づくりも新鮮。医療の基本は地域作りに賛同。


【髙瀬評】 現状をそのまま受け入れ、地域で何ができるか、まさに神は細部に宿るで、一地方から国全体がみえるいい内容。劇的な効果がみられるわけではないが、息の長い取り組みが続いているだけに、ある日気がついたら地域が大きく変わっていたとなるのではないか。在宅医療・介護の部分は詳述はないが、こちらの成果もみたい。

 

◆佳作 (1論文) <賞金20万円>

副題

「日本の医療に残された道」

論文PDF(1.3MB)

氏名・所属

藤井 将志 氏 (沖縄県・30歳)

沖縄県中部病院経営アドバイザー・大東文化大学非常勤講師(病院経営)

/NPO法人病院経営支援機構

合評

 率直にいってユニーク。医療費増のために経済成長を少子化対策の徹底で図り、それに要す20兆円を高齢者の資産を活用するとの論旨の明快さは魅力。実現性では難点はあるが画期的である。次の世代のために何をやるかは、社会的な共通の大事な基盤。また医療制度は患者のためになっていないとし、二次医療圏ごとに診療報酬点数を変えるのはユニークだが、介護保険のように地方と都市で変えるのもありだ。県が診療報酬を変えるというのもあり、唐突な提案ではない。日本の医療を変える、高齢者に偏ったありよう変えるという挑戦的な論文。

 提案は相続税の強化という考え方で実現性はあるが、税金の財源の集め方で踏み込まざるを得ないとは思う。ただ前半部分と後半部分の直接的な結びつきがない感はある。

 死亡消費税みたいな話や地域単価の変更は波紋を呼びリスキーな部分もある。当会の主義主張とは必ずしも沿うものではない、毒のある論文ではあるが、少子高齢化の下、どうやっていくかを熱く語っている。捨てがたい魅力がある。ある意味「話題性」をとった。

審査委員

寸評

【池川評】 お金の配分や財源はどうかという部分もあるが、医療制度本来の目的をきちんととらえており 良心的でポリシーは面白い。だからどうするの、が弱い面もある。


【田辺評】 医療財源の確保にユニークな意見。少子化対策を徹底、年間20兆円をどう得るか。高齢者の資産活用を提言。また、医療制度が患者のためになっていないと指摘、2次医療圏ごとに1点換算を変えるのはユニーク。実現性はともかく提言は面白い。


【髙瀬評】 前半の子ども手当10万円は非現実的か、それとも大胆か。高齢者の資産を国が活用した経済成長で医療費を増加させる。財源不足を解消する。これは現実的に相続税の強化で実現できるのではないか。後半の二次医療圏ごとに診療報酬を変える。方法は1点10円の操作。やる気を出させる。特区も。これは実現できるのではないか。ただし、厚労省は都道府県ごとの診療報酬といっている。二次医療圏ごとにすると非常に事務がややこしくなるという現実的な問題をどうするか。克服しなければならない課題は多いが、方向は間違っていない。

 

◆審査委員長・特別賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「被災地から医療再生と社会保障を考える」

論文PDF(2.5MB)

氏名・所属

Team7.29花巻フォーラム(共同執筆) 代表 大竹 進 氏(青森県・61歳)

井上英夫氏(金沢大学)・石木幹人氏(岩手県立高田病院)・古田晴人氏(芦屋市立病院)・村田隆史氏(八戸学院大学)・都築光一氏(岩手県立大学)・藤林渉氏(青森県保険医協会)

合評

 教えられるところが多く、芦屋市や延岡市の例を陸前高田に引き込みながら被災地という、日本の一番ダメージが大きいところでの再建に関する論文。被災地という少し限定的で、全国どこでもの共通性ではどうかという部分はあるが、内容は悪くない。入選論文と目指す方向は同じだが、実践し成果を上げている点で入選論文の後塵を拝することとなった。これも一年後に医療モールになり、住民を巻き込んでとなれば評価も違うだろうが、現時点では希望、願望の網羅的な課題列挙なので弱い感がある。過疎地・被災地で今後のゼロからの出発に、がんばってほしい地域であり、院内開業方式も肯けるがまだ道半ば。今後が期待される。またこの論文は唯一、チームでの共同執筆であり、広がりをもっている。

審査委員

寸評

【池川評】 被災再建と医療の関わりから医療そのものの在り方を論じた論文で、しかもチームで共同執筆し、かつ同じ方向性において調和のとれた論文として評価できる。今後の医療政策を提言するときの医療側から提案する一つのモデルとして参考となった。逆にチームとしての提案であるためか、具体的方法論が弱いことが惜しまれた。


【田辺評】 陸前高田を軸に被災地からの医療再生。芦屋市立病院の院内開業制度、延岡市・医療を守る市民条例をふまえる。提言も具体的だが、やや限定的か。


【髙瀬評】 被災地からの報告だが、医師不足地域全体に応用できる。医師確保策、院内開業制、地域との協同、被災地研修で過疎地にも目を向けて貰うなど。高浜町の実践と同様の問題意識。ただ、こちらの場合はこれから目指していくので期待されるが、すでに実践している高浜町のほうが説得力がある。その関係か、提言の全体が網羅的。一つ一つをもっと突っ込んで分析してもいいのでは。

 

◆審査委員長・奨励賞 (1論文) <賞金10万円>

副題

「医療の視点が司法に活かされるための制度設計」

論文PDF(580KB)

氏名・所属

神馬 幸一氏(静岡県・36歳)

静岡大学人文社会科学部法学科 准教授

合評

 評価が委員の中で大きくわかれた。全体の医療体制の提言としては難点がある。医師・歯科医師の立場からは勉強になったとの声もあるが、テーマの「日本医療の再生」に照らしてみると、医師側にとって関心事だが、外から見るとこの問題に限定されない。これだけでは医療の再生は図れない。大きなテーマの中の一部であるが、主題から考えてマイナスが大きい。

 しかし、論文の中身はしっかりしており、大きな問題であるので価値がある。扱っている範囲が狭いが、論文はねられており魅力的で捨てがたい。選考過程で当会役員会の評価が最も高かったこと、将来の有望な人材発掘という企画意図ならびに「評価した方がよい」との審査委員の声もあり、奨励賞とした。 

審査委員

寸評

【池川評】 医師ではない人がこれを書いたのが面白い。全体からみると範囲は狭いが、問題点の指摘は面白い。「異質なものとの対話」は意味深長で、今後のキーワードと感じた。


【田辺評】 医療事故の対応を熟慮。細かな分析はよいが、あまりにも問題は限定的。医療安全を扱う行政委員会の設置を提言。


【髙瀬評】 医療安全をめぐる第三者委員会をどう構成するか。これについての一つの研究で、説得力もあるが、懸賞論文のテーマに照らしてあまりに領域が狭すぎる。それからこのテーマだけでいっても、例えば医療技術が未熟な場合や、あるいは明らかに悪質の場合はどうするのか。