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TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2017/6/26 医療運動部会長談話 「"失われた15年"の事実を直視し 第一線支える『診療所』へ人的投資を 2018年診療報酬改定へ 『初診・再診料』等の評価改善を強く求める!」

2017/6/26 医療運動部会長談話 「"失われた15年"の事実を直視し 第一線支える『診療所』へ人的投資を 2018年診療報酬改定へ 『初診・再診料』等の評価改善を強く求める!」

"失われた15年"の事実を直視し  第一線支える「診療所」へ人的投資を

2018年診療報酬改定へ 「初診・再診料」等の評価改善を強く求める!

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 野本 哲夫


 この15年間、医科・歯科診療所の診療報酬は不合理に歪められてきた。患者1人当たり医療費(1件)は2001年からほぼ横ばいで、初診・再診料は概ね▲20%減まで大幅低下した。従事者の技術・労働評価の軽視は、その経営的な基礎体力と弾力性、そして現場の士気を確実に奪っている。

 私たちは、次期改定に際し、医科・歯科診療所の経営環境の事実にも立脚した一面的でない議論を。また、診療所の労働力への適正分配へ、人的投資を促す初診・再診料等を中心に、診療報酬の在り方が適切に改善されるよう強く求める。

◆ 診療所の労働評価の実質逓減  「初診・再診」▲20%~▲25%が"基礎体力"を奪っている!

 政府は6月9日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2017)」を閣議決定、その副題を「人」への投資による生産性向上とした。診療報酬では、疾病・重症化予防の推進への連携や医介連携の強化等を課題としたが、第一線医療を担う診療所への経済的裏付けがなければ机上の空論だ。医療機関は、薬・機器など"モノ"自体ではなく、各職種など"人"によるサービス提供(患者ニーズを満たすこと)で成り立つ。その対価は、「初診・再診」など基本診療料、或いは「医学管理等」が事実上該当する。

 以下、厚労省「社会医療診療行為別統計」から、患者1人当たり医療費(1件当たり請求・支払単価)の実績で、2001年から15年まで入院外医療費の具体的変遷を見ると、累積するマイナス改定の直接的な悪影響に加え、その内実にある"歪み"に気づく。

 2001年を指数「100」として、まず診療形態別で見ると、「一般病院」143.6(+43.6)、「医科診療所」85.1(▲14.9)、「歯科」83.0(▲17.0)で、入院外医療費全体の配分偏重が分かる。

 次に、医科の内訳を、患者年齢・点数項目別で見ると、「一般」患者では「初再診」81.4(▲19.6/2616円→2131円)、「初再診+医学管理」85.3(▲14.7/3723円→3178円)。「後期」患者では、「初再診」76.7(▲23.3/2467円→1893円)、「初再診+医学管理」63.0(▲37.0/5322円→3354円)で、基本診療料の実勢価値が、約▲20%~▲25%も低廉化した。また、高齢者では「在宅医療」評価を加えた、「初再診+医学管理+在宅」合計でも約▲20%減(6651円→5174円)。「初再診+医学管理」と「検査+画像診断」(3094円→3920円)が逆転する程、経営裁量・弾力性を担保する費用割合が縮小している。

 歯科でも、「初再診」の推移を見ると、「一般」患者で96.8(▲3.2)、「後期」患者では77.3(▲22.7/1820円→1407円)と▲20%超も低下。また、義歯・被せ物等の評価「修復・補綴」は異常な縮小で、「一般」年齢63.2(▲36.8/6924円→4382円)、「後期」高齢では48.5(▲51.5/12161円→5899円)と▲50%超まで落ち込む。口腔機能管理の推進など、「骨太の方針」での歯科医療の言及は、評価されるべき前進だが、担い手である歯科診療所の"基礎体力"の回復・充実なくして推進力は生まれない。

◆ 診療所の受診患者  高齢者ほど大幅減(▲20%超)  今ある患者ニーズこそ最優先課題では

 勿論、診療所の初診・再診料等の低廉化は、患者の受診動向とも無関係ではない。「骨太の方針」では健康・予防分野の「新たな需要喚起」で健康寿命延伸等を謳うが、いま・ここに"ある"需要の見落しは本末転倒で、経済的センスに欠ける。厚労省統計「患者調査」から診療所(入院外)の「受療率」を算出(96年→14年比)すると、0~19歳や25~44歳で増加の一方、65~74歳で▲2084人/日(▲28.5%)75歳以上で▲2297人/日(▲23.8%)も受診患者は減少。また、他統計でも、受診日数は累積的減少の一途である。この満たされない潜在的ニーズの受け皿整備こそ、効果的な投資先にふさわしい。

 その"受け皿"は、医師・歯科医師はじめ、看護師、理学療法士、歯科衛生士など各専門職種、また事務・相談員など多様な人材で担われる。「生涯現役社会」の実現と「人」への投資を両輪に、地域包括ケアを動かす"エンジン"として、医科・歯科診療所の再生・充実こそ、合理的である。

 私たちは、改めて2018年診療報酬改定において、医療の複雑化や高齢化に見合う、診療所の労働評価の再考を。初診・再診料等を中心とした診療報酬の評価改善、プラス改定を改めて強く訴えたい。

2017年6月26日

【参考資料(1)】 患者1人(1件)当たり入院外医療費の変遷 (01年と15年の比較)

年齢区分

点数区分

2001年

(単位:円)

2015年

(単位:円)

2001年→2015比較

01年「100」とした

15年の指数

増減

医科

一般

総数(*1)

11585

11809

101.9

+1.9

初診・再診

2616

2131

81.4

▲18.6

医学管理

1107

1047

94.5

▲5.5

検査

1954

2216

113.4

+13.4

画像診断

777

912

117.3

+17.3

投薬

2850

1997

70.0

▲30.0

後期

高齢

*2

総数(*1)

17639

16851

95.5

▲4.5

初診・再診

2467

1893

76.7

▲23.3

医学管理

2855

1461

51.1

▲48.9

検査

2122

2709

127.6

+27.6

画像診断

972

1211

124.5

+24.5

投薬

4625

3065

66.2

▲33.8

歯科

一般

総数(*1)

14025

11923

85.0

▲15.0

初診・再診

1682

1629

96.8

▲3.2

医学管理

989

1324

133.9

+33.9

歯冠修復・欠損補綴

6924

4382

63.2

▲36.8

後期

高齢

*2

総数(*1)

19639

14128

71.9

▲28.1

初診・再診

1820

1407

77.3

▲22.7

医学管理

1390

1177

84.7

▲15.3

歯冠修復・欠損補綴

12161

5899

48.5

▲51.5

(厚労省「社会医療診療行為別統計」より作成)

【編注】

* ・・・上記「入院外」医療費には、病院・診療所ともに含まれている。

*1・・・総数には、その他の点数区分全てを含む。患者1人・1件当たり医療費(/月)の合計額のこと。

*2・・・2001年(後期高齢者医療制度の創設前)は、老人医療区分にて準用。

【参考資料(2)】 医科診療所の入院外患者「受療率」の変遷(96、05、14年での比較)

20170626danwa.jpg*人口対10万人当たり推計患者数のこと。単位は「人(/日)」    (厚労省統計「患者調査」より作成)

"失われた15年"の事実を直視し  第一線支える「診療所」へ人的投資を

2018年診療報酬改定へ 「初診・再診料」等の評価改善を強く求める!

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 野本 哲夫


 この15年間、医科・歯科診療所の診療報酬は不合理に歪められてきた。患者1人当たり医療費(1件)は2001年からほぼ横ばいで、初診・再診料は概ね▲20%減まで大幅低下した。従事者の技術・労働評価の軽視は、その経営的な基礎体力と弾力性、そして現場の士気を確実に奪っている。

 私たちは、次期改定に際し、医科・歯科診療所の経営環境の事実にも立脚した一面的でない議論を。また、診療所の労働力への適正分配へ、人的投資を促す初診・再診料等を中心に、診療報酬の在り方が適切に改善されるよう強く求める。

◆ 診療所の労働評価の実質逓減  「初診・再診」▲20%~▲25%が"基礎体力"を奪っている!

 政府は6月9日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2017)」を閣議決定、その副題を「人」への投資による生産性向上とした。診療報酬では、疾病・重症化予防の推進への連携や医介連携の強化等を課題としたが、第一線医療を担う診療所への経済的裏付けがなければ机上の空論だ。医療機関は、薬・機器など"モノ"自体ではなく、各職種など"人"によるサービス提供(患者ニーズを満たすこと)で成り立つ。その対価は、「初診・再診」など基本診療料、或いは「医学管理等」が事実上該当する。

 以下、厚労省「社会医療診療行為別統計」から、患者1人当たり医療費(1件当たり請求・支払単価)の実績で、2001年から15年まで入院外医療費の具体的変遷を見ると、累積するマイナス改定の直接的な悪影響に加え、その内実にある"歪み"に気づく。

 2001年を指数「100」として、まず診療形態別で見ると、「一般病院」143.6(+43.6)、「医科診療所」85.1(▲14.9)、「歯科」83.0(▲17.0)で、入院外医療費全体の配分偏重が分かる。

 次に、医科の内訳を、患者年齢・点数項目別で見ると、「一般」患者では「初再診」81.4(▲19.6/2616円→2131円)、「初再診+医学管理」85.3(▲14.7/3723円→3178円)。「後期」患者では、「初再診」76.7(▲23.3/2467円→1893円)、「初再診+医学管理」63.0(▲37.0/5322円→3354円)で、基本診療料の実勢価値が、約▲20%~▲25%も低廉化した。また、高齢者では「在宅医療」評価を加えた、「初再診+医学管理+在宅」合計でも約▲20%減(6651円→5174円)。「初再診+医学管理」と「検査+画像診断」(3094円→3920円)が逆転する程、経営裁量・弾力性を担保する費用割合が縮小している。

 歯科でも、「初再診」の推移を見ると、「一般」患者で96.8(▲3.2)、「後期」患者では77.3(▲22.7/1820円→1407円)と▲20%超も低下。また、義歯・被せ物等の評価「修復・補綴」は異常な縮小で、「一般」年齢63.2(▲36.8/6924円→4382円)、「後期」高齢では48.5(▲51.5/12161円→5899円)と▲50%超まで落ち込む。口腔機能管理の推進など、「骨太の方針」での歯科医療の言及は、評価されるべき前進だが、担い手である歯科診療所の"基礎体力"の回復・充実なくして推進力は生まれない。

◆ 診療所の受診患者  高齢者ほど大幅減(▲20%超)  今ある患者ニーズこそ最優先課題では

 勿論、診療所の初診・再診料等の低廉化は、患者の受診動向とも無関係ではない。「骨太の方針」では健康・予防分野の「新たな需要喚起」で健康寿命延伸等を謳うが、いま・ここに"ある"需要の見落しは本末転倒で、経済的センスに欠ける。厚労省統計「患者調査」から診療所(入院外)の「受療率」を算出(96年→14年比)すると、0~19歳や25~44歳で増加の一方、65~74歳で▲2084人/日(▲28.5%)75歳以上で▲2297人/日(▲23.8%)も受診患者は減少。また、他統計でも、受診日数は累積的減少の一途である。この満たされない潜在的ニーズの受け皿整備こそ、効果的な投資先にふさわしい。

 その"受け皿"は、医師・歯科医師はじめ、看護師、理学療法士、歯科衛生士など各専門職種、また事務・相談員など多様な人材で担われる。「生涯現役社会」の実現と「人」への投資を両輪に、地域包括ケアを動かす"エンジン"として、医科・歯科診療所の再生・充実こそ、合理的である。

 私たちは、改めて2018年診療報酬改定において、医療の複雑化や高齢化に見合う、診療所の労働評価の再考を。初診・再診料等を中心とした診療報酬の評価改善、プラス改定を改めて強く訴えたい。

2017年6月26日

【参考資料(1)】 患者1人(1件)当たり入院外医療費の変遷 (01年と15年の比較)

年齢区分

点数区分

2001年

(単位:円)

2015年

(単位:円)

2001年→2015比較

01年「100」とした

15年の指数

増減

医科

一般

総数(*1)

11585

11809

101.9

+1.9

初診・再診

2616

2131

81.4

▲18.6

医学管理

1107

1047

94.5

▲5.5

検査

1954

2216

113.4

+13.4

画像診断

777

912

117.3

+17.3

投薬

2850

1997

70.0

▲30.0

後期

高齢

*2

総数(*1)

17639

16851

95.5

▲4.5

初診・再診

2467

1893

76.7

▲23.3

医学管理

2855

1461

51.1

▲48.9

検査

2122

2709

127.6

+27.6

画像診断

972

1211

124.5

+24.5

投薬

4625

3065

66.2

▲33.8

歯科

一般

総数(*1)

14025

11923

85.0

▲15.0

初診・再診

1682

1629

96.8

▲3.2

医学管理

989

1324

133.9

+33.9

歯冠修復・欠損補綴

6924

4382

63.2

▲36.8

後期

高齢

*2

総数(*1)

19639

14128

71.9

▲28.1

初診・再診

1820

1407

77.3

▲22.7

医学管理

1390

1177

84.7

▲15.3

歯冠修復・欠損補綴

12161

5899

48.5

▲51.5

(厚労省「社会医療診療行為別統計」より作成)

【編注】

* ・・・上記「入院外」医療費には、病院・診療所ともに含まれている。

*1・・・総数には、その他の点数区分全てを含む。患者1人・1件当たり医療費(/月)の合計額のこと。

*2・・・2001年(後期高齢者医療制度の創設前)は、老人医療区分にて準用。

【参考資料(2)】 医科診療所の入院外患者「受療率」の変遷(96、05、14年での比較)

20170626danwa.jpg*人口対10万人当たり推計患者数のこと。単位は「人(/日)」    (厚労省統計「患者調査」より作成)