神奈川県保険医協会とは
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2023/10/30 政策部長談話 「感染爆発下での「往診」増加は不思議でも指弾の対象でもない 針小棒大な「適正化」議論でのミスリードを懸念する」
感染爆発下での「往診」増加は不思議でも指弾の対象でもない
針小棒大な「適正化」議論でのミスリードを懸念する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆訪問診療の有無を指標にした往診料の適正化が浮上
10月4日の中医協総会で、2024年度診療報酬改定へ向け、「往診料」の「適正化」を焦点とした議論が展開された。厚労省は往診が小児で顕著に増加していると説き、訪問診療の有無により患者の「特性の違い」があるとし、それを指標に検討する方向性を示している。しかし、新型コロナの感染爆発の下、地域医療が逼迫するなか、日頃は訪問診療をしていない医療機関が、自宅療養患者へ往診に赴いたのが実態である。この特殊事情や日常診療の実態を踏まえない議論では患者、地域医療への実害が懸念される。理のない「往診料」の適正化議論で点数・年齢区分や要件化等の改定へ踏み込むことへ再考を求める。
◆診療計画に基づく訪問診療患者への往診と、一般患者へ往診は意味が違う、患者の特性は異なって当然
訪問診療は、寝たきり高齢者等事前の診療計画に基づき計画的かつ定期的に訪問する診療、往診は急変など突発的な事態や患者の容態に応じ患者や家族の要請に応じ緊急的かつ臨時的に訪問する診療と、診療報酬で制度化されている。小児は医療的ケア児や難病患者等が訪問診療の対象となり数は少ない。
ゆえに、①訪問診療の患者が急変しての往診、②一般患者が急変しての往診と、2タイプあり、対象疾病が異なり、患者の背景や状態、特性が違うことは医療、医学的には当然の姿である。
中医協資料は2022年(令和4年)4月、5月の往診料のデータが示されている。新型コロナの第6波から大爆発の第7波の谷間にあたるが、栃木県で基礎疾患のない子どもが新型コロナに感染し1人が死亡、1人が重症化したケースが6月に報道され、親や保護者がより過敏となった背景が重なっている。
よって普段、訪問診療を行っていない15歳未満の小児の夜間・休日の往診での主傷病が上気道炎やCOVID-19などコロナ関連で8割を占め、その際の処方薬剤もカロナールやメジコンなど解熱鎮痛剤や鎮咳薬等が8割を占めると示されている。夜間・休日は、外来受診すべき患者の安易な往診ではない。
◆在宅療養支援診療所ではない医療機関の往診件数は実は減少
中医協では訪問診療の少ない医療機関の往診の多さが問題視された。では日頃、訪問診療をしない医療機関の往診の変化はどの程度なのか。訪問診療を日常的に担う在宅療養支援診療所(病院)、それ「以外」医療機関の15歳未満の緊急・夜間・深夜・休日の往診回数(往診料加算回数)に注目した。2022年6月とコロナ禍前2019年6月を比較すると、確かに39.6%(年率換算11.8%)と伸びが高いが、全国で361回が504回に増えたに過ぎない。しかも件数は▲6.45%(357件→334件)と減少している。実際は15歳以上の方が圧倒的に数は多い。しかもそれは中医協資料が示すようにCOVID-19と急性上気道炎で1割を占めるに過ぎず、高血圧症が13.6%と群を抜くがほかは認知症、糖尿病など3%以下で数多くの傷病が並ぶのである。つまり、医療機関が地域での患者ニーズに応えているという証左でもある。
◆在宅医療の底上げ、感染爆発時の自宅療養の支援体制へ、往診料「適正化」は逆行する
地域医療における往診は意外と知られていない。ADL低下でも介助者がいて自動車で送迎、車椅子の移動ができれば通院も可能だが、公共交通機関の利用が難しいADL低下の独居や、高齢者二人世帯で免許返納も多々あり、往診となる例がある。医療、医学的必要性に生活環境も加味される。通院する医療機関が在宅医療を行っていれば再診での往診となるが、行っていなければ他院による初診で往診となる。
15歳以上の大方が再診・往診であるが、他院による初診・往診が一定数あるのはそのためである。
15歳未満は日常、通院は少なく、新型コロナで自宅療養と往診が勧奨された最中、夜間休日の往診が増加したにすぎない。訪問診療の対象は少ないので、初診料の比率や請求点数が高いのは道理である。
在宅療養支援診療所はこの10年、1万1千施設程度で推移してきが、他の施設も在宅医療への関与に努め2016年以降、夜間等の往診が増加してきた。これに冷や水を浴びせる往診料改編へ再考を求める。
2023年10月30日
◆小児の夜間・休日往診の主傷病名と薬剤処方の状況 (2023.10.4中医協資料 総-2より)
◆15歳以上の往診の主傷病名&往診回数の推移 (2023.10.4中医協資料 総-2より)
感染爆発下での「往診」増加は不思議でも指弾の対象でもない
針小棒大な「適正化」議論でのミスリードを懸念する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆訪問診療の有無を指標にした往診料の適正化が浮上
10月4日の中医協総会で、2024年度診療報酬改定へ向け、「往診料」の「適正化」を焦点とした議論が展開された。厚労省は往診が小児で顕著に増加していると説き、訪問診療の有無により患者の「特性の違い」があるとし、それを指標に検討する方向性を示している。しかし、新型コロナの感染爆発の下、地域医療が逼迫するなか、日頃は訪問診療をしていない医療機関が、自宅療養患者へ往診に赴いたのが実態である。この特殊事情や日常診療の実態を踏まえない議論では患者、地域医療への実害が懸念される。理のない「往診料」の適正化議論で点数・年齢区分や要件化等の改定へ踏み込むことへ再考を求める。
◆診療計画に基づく訪問診療患者への往診と、一般患者へ往診は意味が違う、患者の特性は異なって当然
訪問診療は、寝たきり高齢者等事前の診療計画に基づき計画的かつ定期的に訪問する診療、往診は急変など突発的な事態や患者の容態に応じ患者や家族の要請に応じ緊急的かつ臨時的に訪問する診療と、診療報酬で制度化されている。小児は医療的ケア児や難病患者等が訪問診療の対象となり数は少ない。
ゆえに、①訪問診療の患者が急変しての往診、②一般患者が急変しての往診と、2タイプあり、対象疾病が異なり、患者の背景や状態、特性が違うことは医療、医学的には当然の姿である。
中医協資料は2022年(令和4年)4月、5月の往診料のデータが示されている。新型コロナの第6波から大爆発の第7波の谷間にあたるが、栃木県で基礎疾患のない子どもが新型コロナに感染し1人が死亡、1人が重症化したケースが6月に報道され、親や保護者がより過敏となった背景が重なっている。
よって普段、訪問診療を行っていない15歳未満の小児の夜間・休日の往診での主傷病が上気道炎やCOVID-19などコロナ関連で8割を占め、その際の処方薬剤もカロナールやメジコンなど解熱鎮痛剤や鎮咳薬等が8割を占めると示されている。夜間・休日は、外来受診すべき患者の安易な往診ではない。
◆在宅療養支援診療所ではない医療機関の往診件数は実は減少
中医協では訪問診療の少ない医療機関の往診の多さが問題視された。では日頃、訪問診療をしない医療機関の往診の変化はどの程度なのか。訪問診療を日常的に担う在宅療養支援診療所(病院)、それ「以外」医療機関の15歳未満の緊急・夜間・深夜・休日の往診回数(往診料加算回数)に注目した。2022年6月とコロナ禍前2019年6月を比較すると、確かに39.6%(年率換算11.8%)と伸びが高いが、全国で361回が504回に増えたに過ぎない。しかも件数は▲6.45%(357件→334件)と減少している。実際は15歳以上の方が圧倒的に数は多い。しかもそれは中医協資料が示すようにCOVID-19と急性上気道炎で1割を占めるに過ぎず、高血圧症が13.6%と群を抜くがほかは認知症、糖尿病など3%以下で数多くの傷病が並ぶのである。つまり、医療機関が地域での患者ニーズに応えているという証左でもある。
◆在宅医療の底上げ、感染爆発時の自宅療養の支援体制へ、往診料「適正化」は逆行する
地域医療における往診は意外と知られていない。ADL低下でも介助者がいて自動車で送迎、車椅子の移動ができれば通院も可能だが、公共交通機関の利用が難しいADL低下の独居や、高齢者二人世帯で免許返納も多々あり、往診となる例がある。医療、医学的必要性に生活環境も加味される。通院する医療機関が在宅医療を行っていれば再診での往診となるが、行っていなければ他院による初診で往診となる。
15歳以上の大方が再診・往診であるが、他院による初診・往診が一定数あるのはそのためである。
15歳未満は日常、通院は少なく、新型コロナで自宅療養と往診が勧奨された最中、夜間休日の往診が増加したにすぎない。訪問診療の対象は少ないので、初診料の比率や請求点数が高いのは道理である。
在宅療養支援診療所はこの10年、1万1千施設程度で推移してきが、他の施設も在宅医療への関与に努め2016年以降、夜間等の往診が増加してきた。これに冷や水を浴びせる往診料改編へ再考を求める。
2023年10月30日
◆小児の夜間・休日往診の主傷病名と薬剤処方の状況 (2023.10.4中医協資料 総-2より)
◆15歳以上の往診の主傷病名&往診回数の推移 (2023.10.4中医協資料 総-2より)