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2023/1/26 理事会声明 「新型コロナウイルス感染症の分類引き下げは 地域医療の実情踏まえソフトランディングを」

新型コロナウイルス感染症の分類引き下げは

地域医療の実情踏まえソフトランディングを

 

 政府は、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けを現在の「2類相当」※1から季節性インフルエンザと同等の「5類」へ引き下げる方針を固めた。移行日は58日とし、27日にも新型コロナ感染症対策本部で正式決定するとしている。1月中旬には死亡者数が過去最高に達し、第8波が収束をみない状況下での決定に、医療現場には動揺が広がっている。われわれ開業医は地域住民の健康を守る立場から、以下の理由により慎重な対応を求める。

 

〇診療の受け皿が即座に増えるとは限らない 医療提供体制の混乱も

 政府は5類への引き下げにより、新型コロナ患者を診療する医療機関が増えると見込んでいるが、その受け皿がすぐに広がるとは限らない。当会が首都圏1都7県の内科342院所に行ったアンケート※2では、35%にあたる121院所が「発熱外来の指定を受けていない」と回答。理由として、「動線(空間的・時間的)確保の困難さ」、「通院患者の重症化リスクが高い」等が多く挙がった。特にビル開業では「家主・テナントとの関係」という理由も目立つ。発熱外来を「やりたくてもやれない」医療機関は少なくない。

 これらの医療機関にも診療が強いられれば、テナントからの移転、診療の縮小を迫られるところも出てきかねず、地域の医療提供体制に混乱をきたす。院内クラスター発生を懸念する声もある。

 

〇公費助成の廃止による重症化、感染再拡大、医療ひっ迫の懸念

 現行では、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種費用及び医療費の窓口負担は公費で賄われているが、5類になればこれらは原則費用負担が発生する。オミクロン株対応のワクチン接種率が低い水準で推移する中※3、費用負担が生じれば、接種率がさらに低下することは想像に難くない。また急激な個人負担増とならないよう配慮するとされてはいるが、検査・治療、高額な薬剤費の支払いを忌避し受診を我慢して、症状を悪化させる人が出てくる可能性も高い。さらに5類になったことでの行動制限の解除も相まって、感染が再拡大する懸念もある。感染者の絶対数が増えれば重症者数も増え、医療ひっ迫を引き起こしかねない。

 

〇感染力、変異株の出現、後遺症...季節性インフルエンザと「同等」とはみなせない

 111日の厚生労働省・新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでは、5類に変更された場合の影響について有志による提言が出され、段階的な移行を求める声が上がった。同座長の脇田氏も18日の会見で、「重症化率、死亡率は低下しているものの、オミクロン株は伝播力が強い」、「季節性がなく予測が極めて難しい疾患」と、季節性インフルエンザとの違いを強調している。

 また、倦怠感や呼吸器症状、記憶障害等のいわゆる「後遺症」の実態も明らかになってきており、感染から1年経っても約半数の人に後遺症があったとの調査報告もある※4。季節性インフルエンザでいうオセルタミビル(商品名:タミフル)やザナミビル(商品名:リレンザ)に相当する適用薬が普及していない現状からも、リスク面ではまだインフルエンザと「同等」とみなすことはできず、5類への分類移行は慎重を期すべきと考える。

 

〇5類でも感染対策の継続は必要 受診行動へのインパクトも最小限に

 法律上の分類が変更になっても、リスクが低減するわけではない。医療機関には高齢者や基礎疾患を持つ患者など重症化リスクの高い人が通院し、感染に対する意識も人それぞれであるため、現場では引き続きの感染対策が求められる。人的負担やコストは継続して発生することから、医療機関への財政措置の継続は必要である。

 また上述のように急激な診療体制の変更はないと思われるが、「分類変更によって医療機関内のゾーニングが撤廃されるのでは」との憶測が広がれば、コロナ感染を恐れる患者の受診控えが発生する懸念もある。政府は、十分な周知期間を確保し患者・国民に丁寧な広報を行うとともに、必要な受診を控えないよう呼び掛けることも求められる。

 

 

 20201月に国内で初めて新型コロナ感染者が確認されてから3年間が経過した。2類相当の疾病は本来、その設備と技術を有する感染症指定医療機関が診療を担う位置付けだが、連綿と続く医療費抑制策により感染症病床は削減され、入院調整の役割を担う保健所も減らされてきた経緯がある※5。そのような中、第一線ではこの3年間、限られた医療資源を分担しながらコロナ対応と通常医療を懸命に両立し、地域医療を「面」で支えてきた。発熱外来を設置していない医療機関であっても、休日急患診療所への出務を行う等何らかの形で、その半数以上が新型コロナの診療に貢献している現状がある。政府は新型コロナの感染症法上の分類移行にあたっては、これら地域医療の実情を踏まえ、患者・国民が引き続き安心して受診できる医療提供体制の確保に努めていただきたい。

以上

 

1:分類は「新型インフルエンザ等感染症」

2:『診療所の COVID-19 診療実態調査』神奈川県保険医協会学術部 実施期間:2022916日~30

3123日現在の全人口に占める全国の割合は40.1%。

4:大阪公立大学病院・井本和紀医師ら

5:感染症病床数:19969716床⇒20211762床(厚生労働省「感染症指定医療機関の指定状況」)/保健所数の推移:1996845カ所⇒2022468カ所(全国保健所長会)

 

2023年126

神奈川県保険医協会

30期第28回理事会

 

新型コロナウイルス感染症の分類引き下げは

地域医療の実情踏まえソフトランディングを

 

 政府は、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けを現在の「2類相当」※1から季節性インフルエンザと同等の「5類」へ引き下げる方針を固めた。移行日は58日とし、27日にも新型コロナ感染症対策本部で正式決定するとしている。1月中旬には死亡者数が過去最高に達し、第8波が収束をみない状況下での決定に、医療現場には動揺が広がっている。われわれ開業医は地域住民の健康を守る立場から、以下の理由により慎重な対応を求める。

 

〇診療の受け皿が即座に増えるとは限らない 医療提供体制の混乱も

 政府は5類への引き下げにより、新型コロナ患者を診療する医療機関が増えると見込んでいるが、その受け皿がすぐに広がるとは限らない。当会が首都圏1都7県の内科342院所に行ったアンケート※2では、35%にあたる121院所が「発熱外来の指定を受けていない」と回答。理由として、「動線(空間的・時間的)確保の困難さ」、「通院患者の重症化リスクが高い」等が多く挙がった。特にビル開業では「家主・テナントとの関係」という理由も目立つ。発熱外来を「やりたくてもやれない」医療機関は少なくない。

 これらの医療機関にも診療が強いられれば、テナントからの移転、診療の縮小を迫られるところも出てきかねず、地域の医療提供体制に混乱をきたす。院内クラスター発生を懸念する声もある。

 

〇公費助成の廃止による重症化、感染再拡大、医療ひっ迫の懸念

 現行では、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種費用及び医療費の窓口負担は公費で賄われているが、5類になればこれらは原則費用負担が発生する。オミクロン株対応のワクチン接種率が低い水準で推移する中※3、費用負担が生じれば、接種率がさらに低下することは想像に難くない。また急激な個人負担増とならないよう配慮するとされてはいるが、検査・治療、高額な薬剤費の支払いを忌避し受診を我慢して、症状を悪化させる人が出てくる可能性も高い。さらに5類になったことでの行動制限の解除も相まって、感染が再拡大する懸念もある。感染者の絶対数が増えれば重症者数も増え、医療ひっ迫を引き起こしかねない。

 

〇感染力、変異株の出現、後遺症...季節性インフルエンザと「同等」とはみなせない

 111日の厚生労働省・新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでは、5類に変更された場合の影響について有志による提言が出され、段階的な移行を求める声が上がった。同座長の脇田氏も18日の会見で、「重症化率、死亡率は低下しているものの、オミクロン株は伝播力が強い」、「季節性がなく予測が極めて難しい疾患」と、季節性インフルエンザとの違いを強調している。

 また、倦怠感や呼吸器症状、記憶障害等のいわゆる「後遺症」の実態も明らかになってきており、感染から1年経っても約半数の人に後遺症があったとの調査報告もある※4。季節性インフルエンザでいうオセルタミビル(商品名:タミフル)やザナミビル(商品名:リレンザ)に相当する適用薬が普及していない現状からも、リスク面ではまだインフルエンザと「同等」とみなすことはできず、5類への分類移行は慎重を期すべきと考える。

 

〇5類でも感染対策の継続は必要 受診行動へのインパクトも最小限に

 法律上の分類が変更になっても、リスクが低減するわけではない。医療機関には高齢者や基礎疾患を持つ患者など重症化リスクの高い人が通院し、感染に対する意識も人それぞれであるため、現場では引き続きの感染対策が求められる。人的負担やコストは継続して発生することから、医療機関への財政措置の継続は必要である。

 また上述のように急激な診療体制の変更はないと思われるが、「分類変更によって医療機関内のゾーニングが撤廃されるのでは」との憶測が広がれば、コロナ感染を恐れる患者の受診控えが発生する懸念もある。政府は、十分な周知期間を確保し患者・国民に丁寧な広報を行うとともに、必要な受診を控えないよう呼び掛けることも求められる。

 

 

 20201月に国内で初めて新型コロナ感染者が確認されてから3年間が経過した。2類相当の疾病は本来、その設備と技術を有する感染症指定医療機関が診療を担う位置付けだが、連綿と続く医療費抑制策により感染症病床は削減され、入院調整の役割を担う保健所も減らされてきた経緯がある※5。そのような中、第一線ではこの3年間、限られた医療資源を分担しながらコロナ対応と通常医療を懸命に両立し、地域医療を「面」で支えてきた。発熱外来を設置していない医療機関であっても、休日急患診療所への出務を行う等何らかの形で、その半数以上が新型コロナの診療に貢献している現状がある。政府は新型コロナの感染症法上の分類移行にあたっては、これら地域医療の実情を踏まえ、患者・国民が引き続き安心して受診できる医療提供体制の確保に努めていただきたい。

以上

 

1:分類は「新型インフルエンザ等感染症」

2:『診療所の COVID-19 診療実態調査』神奈川県保険医協会学術部 実施期間:2022916日~30

3123日現在の全人口に占める全国の割合は40.1%。

4:大阪公立大学病院・井本和紀医師ら

5:感染症病床数:19969716床⇒20211762床(厚生労働省「感染症指定医療機関の指定状況」)/保健所数の推移:1996845カ所⇒2022468カ所(全国保健所長会)

 

2023年126

神奈川県保険医協会

30期第28回理事会