保険医の生活と権利を守り、国民医療の
向上をめざす

神奈川県保険医協会とは

開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す

TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2024/4/4 政策部長談話「賃上げ目標を保証しない『ベースアップ評価料』は看板倒れ 患者・職員との摩擦や診療報酬体系の変容を警鐘する」

2024/4/4 政策部長談話「賃上げ目標を保証しない『ベースアップ評価料』は看板倒れ 患者・職員との摩擦や診療報酬体系の変容を警鐘する」

賃上げ目標を保証しない「ベースアップ評価料」は看板倒れ
患者・職員との摩擦や診療報酬体系の変容を警鐘する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

◆賃上げ2.3%目標は半分の診療所、歯科診療所で保証されない改定

 2024年度診療報酬改定は改定率財源の殆どが、医療従事者の賃上げに使われ、新機軸として「外来・在宅ベースアップ評価料」等が創設された。政府目標のR6年度ベア+2.5%、R7年度ベア+2.0%(平均ベア+2.3%)の実現を目指すとし、この評価料収入は全額賃上げ充当が要件での使途限定となる。

 しかし、①当初より半数以上の医療機関が政府目標に達しない制度設計であり、②診療報酬の性格の変容や、③医療従事者と院長、医療従事者間、患者と医療機関での軋轢が懸念される。

 医療人材の流出防止や人材確保が趣旨なら、初・再診料等の基本診療料の底上げが本来であり、期中改定を要望する。併せて、ベースアップ評価料に関し6月実施前に可能な制度修正を図るよう求める。

 

◆物価・賃金スライドを反故とし、医療費抑制の強化での経営の窮迫は、弥縫策では回復しない

 診療報酬は1981年以降、改定率の決定では「物価・賃金スライド方式」をやめ「自然増控除方式」を採っている。スライド方式が医療費高騰を招くとし、自然増分を「前提」とし改定分を上乗せする方式に改めたのである。しかし、2000年代以降は自然増すら圧縮する「マイナス改定」が連綿と続き、「全体(ネット)」どころか、技術料・労働評価部分の「本体」のマイナス改定も時折、断行されてきた。

 しかもこの下、3年余にわたるコロナ禍による来院患者減、保険収入の激減が重なる中、なんとか医療機関は地域医療を面として支えてきた。しかし、医療費抑制策の集積により、医療機関経営は厳しく、先の中医協・医療経済実態調査で、診療所の1/4が赤字(損益率マイナス)、4割超が経営悪化(対前年度比損益率マイナス)であり、歯科診療所は1/6が赤字、半数超が経営悪化との実態が判明した。

 昨年11月、厚労省「令和5年 賃金引上げ等の実態に関する調査」で賃上げ率3.2%と30年ぶりに高水準の数字が示され、「過去のやり方では対応できない」(厚労省幹部)としていたが、今次改定の「ベースアップ評価料」は弥縫策でしかない。賃上げ基調の経営を保証し経営回復を図るものとは言えない。

 急場しのぎで短兵急に制度化した感が拭えない。中医協での議論は、改定率決定後、調査・評価分科会で昨年1221日が初出で今年14日と17日と3回、総会では今年110日と26日の2回のみ。年末から諮問答申まで熟議や理解が不十分である。しかも①賃上げの「使途限定」とし、②かつ「ベースアップ専用」と固定するという、経営裁量を度外視した保険点数を「特例的な対応」として創設したことに、そのことがみてとれる。

 

◆ベースアップは経営判断を大きく左右する 「賃上げ」は「定期昇給+ベア」のこと

 賃上げは、①「定期昇給」と②賃金表(基本給)改定で賃金水準を上げる「ベースアップ」でなされる。ベースアップは略してベアと呼ばれる。厚労省調査の賃上げ率3.2%はこの合計である。定期昇給は8割の企業が行っているが、ベアは5割でしか行っていない。賃金改定の決定に際し最も重視した要素は「企業の業績」が36%と最多である。令和4年の賃金改定率は1.9%であり、業績好転が背景にある。

 また東京商工リサーチの2024年度「賃上げに関するアンケート」調査では24年度に賃上げ予定の企業は過去最高の85.6%で、賃上げ率の中央値は3.0%。賃上げに必要なことでは、約7割(67.0%)の企業が「製品・サービス単価の値上げ」とし、賃上げを実施しない企業の過半数が「価格転嫁できていない」ことを理由に挙げている。診療報酬の改定率は賃上げ部分以外が0.18%でしかない。診療所は賃上げ財源捻出の標的となり、管理料等の効率化・再編で▲0.25%となり、実質マイナス改定である。

 今次改定で創設された「ベースアップ評価料」は、「物価高に負けない「賃上げ」の実現!」を謳っている。内閣府の「政府経済見通し」では、24年度のインフレ率(予測)は2.5%であり、これが改定における政府目標R6年度(24年度)ベア+2.5%となっている。しかし、基本給増加は時間外手当やボーナス・退職金にも影響を与えるため、毎月支給する給与額の増加に加え、その他の支給額の増加を考慮せざるを得ず、経営判断を大きく左右する。二の足を踏む医療機関は少なくないとみられる。

 

◆ベア1.2%の最低保証で設計 でも財務省、2024年度医療予算は「賃上げ4.0%分を措置」!? の不思議 

 2024年度予算では診療報酬改定で「R6年度にベア2.5%(医療従事者の場合定昇分を入れれば4.0%)、R7年度にベア2.0%(同3.5%)を実現するために必要な水準を措置」したとされている(財務省HP「特集 令和5年度補正予算及び令和6年度予算について」)。果たしてそうなのか。

 ベースアップ評価料は賃上げ率の中央値が診療所(無床)は2.5%、歯科診療所は2.3%となるように設計されている。つまり、5割の医療機関はこの評価料を算定しても賃上げ目標には届かない。しかも、目標の平均2.3%の半分1.2%に満たないケースが一定程度出現するため、追加的な評価料で調整となるが、1.2%までしか措置されていない。賃上げ率1.2%での最低保証である。いずれも、事務職員は除外で、有資格等32職種に対象が限定されている。しかも1.2%への調整は有資格等職員2名以上の医療機関にしか措置されない。零細な医療機関は対象外だ。1.2%到達調整は、中医協資料より人工透析、泌尿器科、内視鏡専門や常勤職員1人当り年間初再診料算定回数1,000回未満などが該当とみられる。

 

◆経営状況は加味されず、機械的にシミュレーションし点数設定 中医協実調回答は上振れデータ 

 この制度設計は中医協医療経済実態調査に回答があった中から抽出した診療所1,502施設、歯科診療所473施設(いずれも常勤職員給与が全職種0円の回答施設は含まない)の給与総額を基に、ベア2.5%に要す「必要な点数」を、NDBデータの初診料・再診料の「算定回数」を基に割り出し行われている。議論を単純化し1%賃上げに要す点数を数パターン示し、結果的に初診料・再診料の点数按分で配分設定となり、その2.5倍が、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の初診時6点、再診時2点である。そして先述の、1.2%への調整用が、同じくこの評価料(Ⅱ)の初診時18点、再診時864点である。

 この設計では①各施設の赤字・黒字や経営状況は加味されず、②一律的に全てが賃上げを実施する想定で、③しかも「ベースアップ」が「前提」とされている。経営判断の余地や、評価料収入の使途の自由度が全くない。そもそも中医協・医療経済実態調査の回答は、現実より上振れしており、平均値および損益差額の最頻階級値も、実際の保険収入の最頻値よりもかなり高い。今回の制度設計の妥当性については疑問が残る。仔細な検証は必須と考える。

 

◆1.2%のベア率計算判定の分母は定期昇給分を算入した総賃金が道理 実施計画等で賃金ガラス張り 

 ベースアップ評価料は、評価料Ⅱの追加算定の判断のため、評価料Ⅰで1.2%未満か否を判断する。その計算の概略は、「初再診料の総算定回数(前年度実績)×評価料Ⅰ」の想定額を分子とし、「対象職員の総賃金(前年度実績)」を分母とした割り算の商で判定する。

 しかし、これだと定期昇給のある場合、その分のベアを反映しておらず、この計算式での判定数値は高値となる。分母に当年度の定期昇給分を上乗せして計算しないと、1.2%のベアは保証されない。看板に偽りがないよう、計算式の修正と2.5%を保証するよう評価料Ⅱの適用の調整は最低限、必須である。

 ベースアップ評価料は、事前に「賃金改善計画書」を地方厚生局へ届け出をし、事後に「賃金改善実績報告書」を提出する。それとともに、対象の職員に対し、「賃金改善計画書」及び就業規則等を書面での配布や職員が確認できる箇所に掲示し周知することとなっている。実施のためのトリプルの担保措置が図られており、医療機関の賃金実態がガラス張りとなる。公的資金が支給される事業で、個々個別の事業体の賃金実態がここまでガラス張りにされる業種はほかに類例がないと思われる。

 

◆賃金改善実施計画の職員開示は、診療所にとって鬼門 労使交渉の先鋭化を懸念 底上げと漸進が肝要 

 職員に開示される「賃金改善計画書」は、看護師、薬剤師など職種別に、①賃金改善見込み総額が定期昇給分やベア分の内訳とともに記載され、また②その原資の内訳も、ベースアップ評価料の見込み額、それ以外の医療機関持ち出しのベア充当分、定期昇給分、その他の記載となる。しかもこの評価料の対象外の事務職員に関しても記載となる。職員間での不信や不要な摩擦が容易に想起される。

 患者への診療明細書にも評価料は載るため、会計窓口で患者質問への説明での混乱も想像に難くない。

 総じて補助金的手法で、使途限定で賃上げ専用の評価料を組み込んだため、複雑化し煩瑣となり、精算措置がないので所期目標のベア2.5%超の評価料算定も出現となり、経営の優勝劣敗が鮮烈となる。

 覆水盆に返らず。賃上げの先導役を医療機関に期し、何重もの担保措置をとっているが、医療提供により賃上げが可能となる診療報酬の底上げが本来である。これでは本末転倒である。2026年度改定での帰趨に疑問符が早くもでている。初再診料の単純な増点を含め、中止・再考、修正を改めて求める。

2024年4月4日

 

◆賃上げ2.5%(ベースアップ)は5割の医療機関では保証されない制度設計

2024.1.17入院・外来医療等の調査・評価分科会資料「入-1」(医療機関等における職員の賃上げについて)より>

図1.jpg

1)賃上げ率2.5%が中央値となるよう「必要点数」が設定されており、半数は2.5%未満となる。

2)枠囲みの部分は目標の賃上げ率2.3%(2年間平均)の半分1.2%未満。

3)1.2%以上の最低保証の方策が検討され、今次改定の評価料Ⅱと同様の点数、仕組みが以下に提案。

4)演繹的に明示がない「必要点数」は、今次改定の評価料1と同じ初診時6点、再診時2点となる。

 

 

図2.jpg

 

 

◆初・再診料の増点での医療機関裁量に任せず、行政主導賃上げとした「ベースアップ評価料」の骨格

2024.2.15「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて~今考えていただきたいこと(病院・医科診療所の場合)~」より>

図3.jpg

 

 

◆「賃金改善計画書」(診療所)記載項目(抜粋)「ベースアップ評価料」の対象外の事務職員の分も要記載

2024.3.5「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」より>

1.jpg

4.jpg

 

 

賃上げ目標を保証しない「ベースアップ評価料」は看板倒れ
患者・職員との摩擦や診療報酬体系の変容を警鐘する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

◆賃上げ2.3%目標は半分の診療所、歯科診療所で保証されない改定

 2024年度診療報酬改定は改定率財源の殆どが、医療従事者の賃上げに使われ、新機軸として「外来・在宅ベースアップ評価料」等が創設された。政府目標のR6年度ベア+2.5%、R7年度ベア+2.0%(平均ベア+2.3%)の実現を目指すとし、この評価料収入は全額賃上げ充当が要件での使途限定となる。

 しかし、①当初より半数以上の医療機関が政府目標に達しない制度設計であり、②診療報酬の性格の変容や、③医療従事者と院長、医療従事者間、患者と医療機関での軋轢が懸念される。

 医療人材の流出防止や人材確保が趣旨なら、初・再診料等の基本診療料の底上げが本来であり、期中改定を要望する。併せて、ベースアップ評価料に関し6月実施前に可能な制度修正を図るよう求める。

 

◆物価・賃金スライドを反故とし、医療費抑制の強化での経営の窮迫は、弥縫策では回復しない

 診療報酬は1981年以降、改定率の決定では「物価・賃金スライド方式」をやめ「自然増控除方式」を採っている。スライド方式が医療費高騰を招くとし、自然増分を「前提」とし改定分を上乗せする方式に改めたのである。しかし、2000年代以降は自然増すら圧縮する「マイナス改定」が連綿と続き、「全体(ネット)」どころか、技術料・労働評価部分の「本体」のマイナス改定も時折、断行されてきた。

 しかもこの下、3年余にわたるコロナ禍による来院患者減、保険収入の激減が重なる中、なんとか医療機関は地域医療を面として支えてきた。しかし、医療費抑制策の集積により、医療機関経営は厳しく、先の中医協・医療経済実態調査で、診療所の1/4が赤字(損益率マイナス)、4割超が経営悪化(対前年度比損益率マイナス)であり、歯科診療所は1/6が赤字、半数超が経営悪化との実態が判明した。

 昨年11月、厚労省「令和5年 賃金引上げ等の実態に関する調査」で賃上げ率3.2%と30年ぶりに高水準の数字が示され、「過去のやり方では対応できない」(厚労省幹部)としていたが、今次改定の「ベースアップ評価料」は弥縫策でしかない。賃上げ基調の経営を保証し経営回復を図るものとは言えない。

 急場しのぎで短兵急に制度化した感が拭えない。中医協での議論は、改定率決定後、調査・評価分科会で昨年1221日が初出で今年14日と17日と3回、総会では今年110日と26日の2回のみ。年末から諮問答申まで熟議や理解が不十分である。しかも①賃上げの「使途限定」とし、②かつ「ベースアップ専用」と固定するという、経営裁量を度外視した保険点数を「特例的な対応」として創設したことに、そのことがみてとれる。

 

◆ベースアップは経営判断を大きく左右する 「賃上げ」は「定期昇給+ベア」のこと

 賃上げは、①「定期昇給」と②賃金表(基本給)改定で賃金水準を上げる「ベースアップ」でなされる。ベースアップは略してベアと呼ばれる。厚労省調査の賃上げ率3.2%はこの合計である。定期昇給は8割の企業が行っているが、ベアは5割でしか行っていない。賃金改定の決定に際し最も重視した要素は「企業の業績」が36%と最多である。令和4年の賃金改定率は1.9%であり、業績好転が背景にある。

 また東京商工リサーチの2024年度「賃上げに関するアンケート」調査では24年度に賃上げ予定の企業は過去最高の85.6%で、賃上げ率の中央値は3.0%。賃上げに必要なことでは、約7割(67.0%)の企業が「製品・サービス単価の値上げ」とし、賃上げを実施しない企業の過半数が「価格転嫁できていない」ことを理由に挙げている。診療報酬の改定率は賃上げ部分以外が0.18%でしかない。診療所は賃上げ財源捻出の標的となり、管理料等の効率化・再編で▲0.25%となり、実質マイナス改定である。

 今次改定で創設された「ベースアップ評価料」は、「物価高に負けない「賃上げ」の実現!」を謳っている。内閣府の「政府経済見通し」では、24年度のインフレ率(予測)は2.5%であり、これが改定における政府目標R6年度(24年度)ベア+2.5%となっている。しかし、基本給増加は時間外手当やボーナス・退職金にも影響を与えるため、毎月支給する給与額の増加に加え、その他の支給額の増加を考慮せざるを得ず、経営判断を大きく左右する。二の足を踏む医療機関は少なくないとみられる。

 

◆ベア1.2%の最低保証で設計 でも財務省、2024年度医療予算は「賃上げ4.0%分を措置」!? の不思議 

 2024年度予算では診療報酬改定で「R6年度にベア2.5%(医療従事者の場合定昇分を入れれば4.0%)、R7年度にベア2.0%(同3.5%)を実現するために必要な水準を措置」したとされている(財務省HP「特集 令和5年度補正予算及び令和6年度予算について」)。果たしてそうなのか。

 ベースアップ評価料は賃上げ率の中央値が診療所(無床)は2.5%、歯科診療所は2.3%となるように設計されている。つまり、5割の医療機関はこの評価料を算定しても賃上げ目標には届かない。しかも、目標の平均2.3%の半分1.2%に満たないケースが一定程度出現するため、追加的な評価料で調整となるが、1.2%までしか措置されていない。賃上げ率1.2%での最低保証である。いずれも、事務職員は除外で、有資格等32職種に対象が限定されている。しかも1.2%への調整は有資格等職員2名以上の医療機関にしか措置されない。零細な医療機関は対象外だ。1.2%到達調整は、中医協資料より人工透析、泌尿器科、内視鏡専門や常勤職員1人当り年間初再診料算定回数1,000回未満などが該当とみられる。

 

◆経営状況は加味されず、機械的にシミュレーションし点数設定 中医協実調回答は上振れデータ 

 この制度設計は中医協医療経済実態調査に回答があった中から抽出した診療所1,502施設、歯科診療所473施設(いずれも常勤職員給与が全職種0円の回答施設は含まない)の給与総額を基に、ベア2.5%に要す「必要な点数」を、NDBデータの初診料・再診料の「算定回数」を基に割り出し行われている。議論を単純化し1%賃上げに要す点数を数パターン示し、結果的に初診料・再診料の点数按分で配分設定となり、その2.5倍が、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の初診時6点、再診時2点である。そして先述の、1.2%への調整用が、同じくこの評価料(Ⅱ)の初診時18点、再診時864点である。

 この設計では①各施設の赤字・黒字や経営状況は加味されず、②一律的に全てが賃上げを実施する想定で、③しかも「ベースアップ」が「前提」とされている。経営判断の余地や、評価料収入の使途の自由度が全くない。そもそも中医協・医療経済実態調査の回答は、現実より上振れしており、平均値および損益差額の最頻階級値も、実際の保険収入の最頻値よりもかなり高い。今回の制度設計の妥当性については疑問が残る。仔細な検証は必須と考える。

 

◆1.2%のベア率計算判定の分母は定期昇給分を算入した総賃金が道理 実施計画等で賃金ガラス張り 

 ベースアップ評価料は、評価料Ⅱの追加算定の判断のため、評価料Ⅰで1.2%未満か否を判断する。その計算の概略は、「初再診料の総算定回数(前年度実績)×評価料Ⅰ」の想定額を分子とし、「対象職員の総賃金(前年度実績)」を分母とした割り算の商で判定する。

 しかし、これだと定期昇給のある場合、その分のベアを反映しておらず、この計算式での判定数値は高値となる。分母に当年度の定期昇給分を上乗せして計算しないと、1.2%のベアは保証されない。看板に偽りがないよう、計算式の修正と2.5%を保証するよう評価料Ⅱの適用の調整は最低限、必須である。

 ベースアップ評価料は、事前に「賃金改善計画書」を地方厚生局へ届け出をし、事後に「賃金改善実績報告書」を提出する。それとともに、対象の職員に対し、「賃金改善計画書」及び就業規則等を書面での配布や職員が確認できる箇所に掲示し周知することとなっている。実施のためのトリプルの担保措置が図られており、医療機関の賃金実態がガラス張りとなる。公的資金が支給される事業で、個々個別の事業体の賃金実態がここまでガラス張りにされる業種はほかに類例がないと思われる。

 

◆賃金改善実施計画の職員開示は、診療所にとって鬼門 労使交渉の先鋭化を懸念 底上げと漸進が肝要 

 職員に開示される「賃金改善計画書」は、看護師、薬剤師など職種別に、①賃金改善見込み総額が定期昇給分やベア分の内訳とともに記載され、また②その原資の内訳も、ベースアップ評価料の見込み額、それ以外の医療機関持ち出しのベア充当分、定期昇給分、その他の記載となる。しかもこの評価料の対象外の事務職員に関しても記載となる。職員間での不信や不要な摩擦が容易に想起される。

 患者への診療明細書にも評価料は載るため、会計窓口で患者質問への説明での混乱も想像に難くない。

 総じて補助金的手法で、使途限定で賃上げ専用の評価料を組み込んだため、複雑化し煩瑣となり、精算措置がないので所期目標のベア2.5%超の評価料算定も出現となり、経営の優勝劣敗が鮮烈となる。

 覆水盆に返らず。賃上げの先導役を医療機関に期し、何重もの担保措置をとっているが、医療提供により賃上げが可能となる診療報酬の底上げが本来である。これでは本末転倒である。2026年度改定での帰趨に疑問符が早くもでている。初再診料の単純な増点を含め、中止・再考、修正を改めて求める。

2024年4月4日

 

◆賃上げ2.5%(ベースアップ)は5割の医療機関では保証されない制度設計

2024.1.17入院・外来医療等の調査・評価分科会資料「入-1」(医療機関等における職員の賃上げについて)より>

図1.jpg

1)賃上げ率2.5%が中央値となるよう「必要点数」が設定されており、半数は2.5%未満となる。

2)枠囲みの部分は目標の賃上げ率2.3%(2年間平均)の半分1.2%未満。

3)1.2%以上の最低保証の方策が検討され、今次改定の評価料Ⅱと同様の点数、仕組みが以下に提案。

4)演繹的に明示がない「必要点数」は、今次改定の評価料1と同じ初診時6点、再診時2点となる。

 

 

図2.jpg

 

 

◆初・再診料の増点での医療機関裁量に任せず、行政主導賃上げとした「ベースアップ評価料」の骨格

2024.2.15「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて~今考えていただきたいこと(病院・医科診療所の場合)~」より>

図3.jpg

 

 

◆「賃金改善計画書」(診療所)記載項目(抜粋)「ベースアップ評価料」の対象外の事務職員の分も要記載

2024.3.5「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」より>

1.jpg

4.jpg