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2025/2/25 政策部長談話「ドライアイ患者2,200万人を混乱させる点眼薬ジクアスのOTC化議論に反対する」

ドライアイ患者2,200万人を混乱させる
点眼薬ジクアスのOTC化議論に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

◆唐突な点眼薬ジクアスのOTC(市販薬)化議論は「寝耳に水」

 点眼薬ジクアスのOTC(市販薬)化の議論が2月7日、厚労省の検討会でなされ、賛否が二分し、再度の意見募集になっている。眼科医をはじめ関係者の多くが、一部報道により2月12日に知るところとなり、まさに寝耳に水である。ドライアイ患者は推定約2,200万人と多く、眼不快感だけでなく視機能異常も伴う。眼科診療における影響は大きい。拙速な議論と、ジクアスのOTC化に強く反対する。

 

◆医学の進歩が、治療の進歩となった眼科診療

 ドライアイはパソコンなどの作業(Visual Display Terminals(VDT)作業)が急増した平成になってスポットを浴びた疾患である。現在、約2,200万人の患者がいるが、病態機序が解明されたことで、新たな治療戦略が立てられるようになった疾患である。ムチンの関与などの機序が明らかになり、2010年のジクアス点眼液(ジクアホソルナトリウム点眼液)や2012年のムコスタ点眼液(レバミピド点眼液)という効果的な薬剤の登場につながり、現在の眼科診療に至っている。

 ジクアスは、後発品はあるものの圧倒的にシェアが高く、長期収載品の選定療養化の対象にもなっていない医薬品である。ジクアスの成分は諸外国では製剤として作られておらず、日本オリジナルの製剤となっている。これが、保険診療の医療用医薬品から処方箋不要で購入する市販薬へと、転用するスイッチOTCの対象とし急浮上したのである。

 

◆スイッチOTC化促進の枠組みへ評価会議が既に変更 薬事審議会が可否を判断

 厚労省の検討会は「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」。その目的は、「医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチ化)について、欧米諸国での承認状況及び消費者・学会等からの要望等を定期的に把握し、消費者等の多様な主体からの意見を幅広く収集」し「適切性・必要性を検討」、「スイッチ化する上での課題点を整理」し、「その解決策を検討する」とされている。いわばスイッチOTC化促進の枠組みである。候補成分の要望者・承認申請者は非公表である。

 過去は、OTC化の可否を判断する場であったが、2020年7月の規制改革実施計画を受け、①スイッチOTC化のための課題整理と解決策検討の場へ変更され、②産業界等からメンバーが追加されている。

 スイッチOTC化の候補成分は、意見募集(パブリックコメント)の上で、学会・医会・業界の意見等と併せこの「評価検討会議」で議論となり、「取りまとめ」が薬事審議会に提示され可否が判断される。

 前回(24年10月4日)の検討会では、パブコメを挟んで2回の会議開催だったものを1回とし、パブコメも期間1カ月とする時短スキームに変更し、企業が承認申請すれば直ちに検討スキームに載るようになっている。このスキームの適用の第一号が、ジクアスである。

 

◆誰もが知らない意見募集 26件の意見での判断は不当 患者おきざりの危険

 ジクアスのスイッチOTC化のパブコメは24年11月25日から12月25日までの1カ月間行われたが、募集タイトルは「候補成分のスイッチOTC化に関する御意見の募集について」。「意見募集要項」を見て、はじめてジクアスが対象とわかるレベルであり、厚労省のホームぺージを毎日丹念にチェックしていないと意見提出は不可能である。それが証拠に結果は26件と僅かである。しかも賛成意見の多くは記述内容から業界関係者を窺わせる一方、反対意見は少数でも、受診機会の逸失と軽症との自己判断による失明の危険などを憂い、自身のドライアイ受診で緑内障が発覚した経験が綴られたものがある。

 検討会では、日本眼科学会、日本眼科医会がドライアイは慢性疾患であり、眼科医による継続的な経過観察が必須で、ジクアスは重症患者が対象などと医学・臨床的観点で反対を表明。日本OTC医薬品協会は類似効能のヒアルロン酸がOTC化されているとし賛成としている。賛否が二分したこともあり、再度、パブコメ実施となっているが、医療関係者、患者の声を広く聞くべきである。

 

◆当事者の声、聞かぬ過ちは、戒めるべき 医療を棄損しないことが肝要

 現在、高額療養費の見直しをめぐり、がん患者団体、難病患者団体などから長期療養が困難になるとの切実な声が出され、長期療養患者の多数回該当が据え置きの方向となっている。この患者不在の施策の決定に対し、「高額療養費 当事者の声 きかぬ過ち」(朝日新聞2025年2月14日「社説」)と、指弾されている。このことを教訓として学ぶべきである。

 昨年6月決定の規制改革実施計画での「スイッチOTC化の承認申請から承認の可否判断までの総期間を1年以内に設定」することに沿って、プロセス、スキームの迅速化、簡略化が図られている。

 今年に入り改組した「セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」の第1回会合も1月8日に行われ、「スイッチOTCの推進」も課題に位置づいている。

 今回の拙速なスイッチOTC化への動きは、多くの診療科の医薬品へも今後波及する。要警戒である。われわれは、医療を棄損する危険性の高い、点眼薬ジクアスのOTC化議論に反対する。

 

2025年2月25日

 

 

◆スイッチOTC化のスキーム

◆スイッチOTC化のスキーム.png

2025.1.8「第1回セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」資料221頁より>

 

◆今回のパブコメに寄せられた26件の中の反対意見 (賛成21、反対5)

反対意見.png

<2025.2.7「第 30 回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」資料7-3より>

ドライアイ患者2,200万人を混乱させる
点眼薬ジクアスのOTC化議論に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

◆唐突な点眼薬ジクアスのOTC(市販薬)化議論は「寝耳に水」

 点眼薬ジクアスのOTC(市販薬)化の議論が2月7日、厚労省の検討会でなされ、賛否が二分し、再度の意見募集になっている。眼科医をはじめ関係者の多くが、一部報道により2月12日に知るところとなり、まさに寝耳に水である。ドライアイ患者は推定約2,200万人と多く、眼不快感だけでなく視機能異常も伴う。眼科診療における影響は大きい。拙速な議論と、ジクアスのOTC化に強く反対する。

 

◆医学の進歩が、治療の進歩となった眼科診療

 ドライアイはパソコンなどの作業(Visual Display Terminals(VDT)作業)が急増した平成になってスポットを浴びた疾患である。現在、約2,200万人の患者がいるが、病態機序が解明されたことで、新たな治療戦略が立てられるようになった疾患である。ムチンの関与などの機序が明らかになり、2010年のジクアス点眼液(ジクアホソルナトリウム点眼液)や2012年のムコスタ点眼液(レバミピド点眼液)という効果的な薬剤の登場につながり、現在の眼科診療に至っている。

 ジクアスは、後発品はあるものの圧倒的にシェアが高く、長期収載品の選定療養化の対象にもなっていない医薬品である。ジクアスの成分は諸外国では製剤として作られておらず、日本オリジナルの製剤となっている。これが、保険診療の医療用医薬品から処方箋不要で購入する市販薬へと、転用するスイッチOTCの対象とし急浮上したのである。

 

◆スイッチOTC化促進の枠組みへ評価会議が既に変更 薬事審議会が可否を判断

 厚労省の検討会は「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」。その目的は、「医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチ化)について、欧米諸国での承認状況及び消費者・学会等からの要望等を定期的に把握し、消費者等の多様な主体からの意見を幅広く収集」し「適切性・必要性を検討」、「スイッチ化する上での課題点を整理」し、「その解決策を検討する」とされている。いわばスイッチOTC化促進の枠組みである。候補成分の要望者・承認申請者は非公表である。

 過去は、OTC化の可否を判断する場であったが、2020年7月の規制改革実施計画を受け、①スイッチOTC化のための課題整理と解決策検討の場へ変更され、②産業界等からメンバーが追加されている。

 スイッチOTC化の候補成分は、意見募集(パブリックコメント)の上で、学会・医会・業界の意見等と併せこの「評価検討会議」で議論となり、「取りまとめ」が薬事審議会に提示され可否が判断される。

 前回(24年10月4日)の検討会では、パブコメを挟んで2回の会議開催だったものを1回とし、パブコメも期間1カ月とする時短スキームに変更し、企業が承認申請すれば直ちに検討スキームに載るようになっている。このスキームの適用の第一号が、ジクアスである。

 

◆誰もが知らない意見募集 26件の意見での判断は不当 患者おきざりの危険

 ジクアスのスイッチOTC化のパブコメは24年11月25日から12月25日までの1カ月間行われたが、募集タイトルは「候補成分のスイッチOTC化に関する御意見の募集について」。「意見募集要項」を見て、はじめてジクアスが対象とわかるレベルであり、厚労省のホームぺージを毎日丹念にチェックしていないと意見提出は不可能である。それが証拠に結果は26件と僅かである。しかも賛成意見の多くは記述内容から業界関係者を窺わせる一方、反対意見は少数でも、受診機会の逸失と軽症との自己判断による失明の危険などを憂い、自身のドライアイ受診で緑内障が発覚した経験が綴られたものがある。

 検討会では、日本眼科学会、日本眼科医会がドライアイは慢性疾患であり、眼科医による継続的な経過観察が必須で、ジクアスは重症患者が対象などと医学・臨床的観点で反対を表明。日本OTC医薬品協会は類似効能のヒアルロン酸がOTC化されているとし賛成としている。賛否が二分したこともあり、再度、パブコメ実施となっているが、医療関係者、患者の声を広く聞くべきである。

 

◆当事者の声、聞かぬ過ちは、戒めるべき 医療を棄損しないことが肝要

 現在、高額療養費の見直しをめぐり、がん患者団体、難病患者団体などから長期療養が困難になるとの切実な声が出され、長期療養患者の多数回該当が据え置きの方向となっている。この患者不在の施策の決定に対し、「高額療養費 当事者の声 きかぬ過ち」(朝日新聞2025年2月14日「社説」)と、指弾されている。このことを教訓として学ぶべきである。

 昨年6月決定の規制改革実施計画での「スイッチOTC化の承認申請から承認の可否判断までの総期間を1年以内に設定」することに沿って、プロセス、スキームの迅速化、簡略化が図られている。

 今年に入り改組した「セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」の第1回会合も1月8日に行われ、「スイッチOTCの推進」も課題に位置づいている。

 今回の拙速なスイッチOTC化への動きは、多くの診療科の医薬品へも今後波及する。要警戒である。われわれは、医療を棄損する危険性の高い、点眼薬ジクアスのOTC化議論に反対する。

 

2025年2月25日

 

 

◆スイッチOTC化のスキーム

◆スイッチOTC化のスキーム.png

2025.1.8「第1回セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」資料221頁より>

 

◆今回のパブコメに寄せられた26件の中の反対意見 (賛成21、反対5)

反対意見.png

<2025.2.7「第 30 回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」資料7-3より>