神奈川県保険医協会とは
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2025/3/12 政策部長談話「第一線の地域医療を崩壊させる OTC類似医薬品の保険適用除外の策動に反対する」
第一線の地域医療を崩壊させる OTC類似医薬品の保険適用除外の策動に反対する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆日常診療に打撃 汎用薬1兆円削減は第一線の医療費10%削減に
OTC(市販薬)類似医薬品の保険適用除外で医療費1兆円削減、が急浮上している。日本維新の会が医療費4兆円削減方策の一環として提案し、民間調査会社「日本総研」も同内容の提言を出している。
実は患者数の85%が使う医療費は全体の22%に過ぎない。1兆円削減と提言された2021年度の国民医療費45.0兆円でみれば9.9兆円である。1兆円はこの10%上であり影響度が大きい。
これらの患者は、日常的に高頻度で遭遇する疾患、有病率の高い疾患、コモンディジーズである。1兆円削減で「標的」にされている医薬品は、解熱鎮痛剤、消化器官用薬、外皮用剤、眼科用剤、アレルギー用薬、漢方、痔疾用剤など、あらゆる診療科にわたり、第一線の地域医療が成り立たなくなる。
患者を守る開業医医療の危機となる。われわれは、OTC類似医薬品の保険適用除外に断固反対する。
◆OTC類似医薬品は本家本元の「医療用医薬品」
OTCとは「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、薬を対面販売することを意味し、処方箋なしでも調剤薬局やドラッグストアなどで、登録販売者や薬剤師などから適切な情報提供を受け、本人が自己責任・自己判断で購入する薬である。「一般用医薬品」と「要指導医薬品」があり、現在、一般用医薬品はインターネットなどの通信販売が可能である。
医療現場で使用するのは「医療用医薬品」である。価格は公定薬価であり、品目は薬価基準に収載され保険診療の適用となる。市販薬は自由料金であり、CM料金も乗るため高額、有効成分の含有量が医療用医薬品よりも少ないことが多い。漢方や解熱剤など市販薬と類似の薬効のある医療用医薬品は、OTC類似医薬品と称されているが、本家本元はこちらの医療用医薬品である。
市販薬の要指導医薬品とは、主に医療用医薬品から転用(スイッチOTC)したものである。リスクの見極め最中のものであり、薬剤師の対面販売が義務付けられている。
◆自己診断治療のセルフメディケーションは危険含み
いま、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」、セルフメディケーションが推進され、OTCの活用が推奨されている。市販薬購入金額を所得控除する税制優遇もある。スイッチOTC化も規制改革推進会議が迅速化、簡略化を求め、その方向で着実に物事が進んでいる。
いわば自己判断でのセルフケアと受診との棲み分けとなるが、自己診断治療は危険を伴うものである。
過去にはH2ブロッカーがスイッチOTC化されたガスターなど、長期服用はスキルス胃がんを隠すとし問題となり、十分な服薬説明が求められ、CMの各社競演が終息した経緯がある。またスティーブンス・ジョンソン症候群や、漫然服用での腎臓の悪化など自己判断治療の弊害もある。風邪症状も実は自己診断とは違い、市販薬で改善せずに受診し別の診断名が下ることもある。
かつて90年代に、糸氏英吉・日本医師会副会長(当時)が、早期受診を逃し結果として悪化し医療費も嵩む弊害を、中医協・診療報酬基本問題小委員会で指摘している。拙速は禁物である。
◆OTC類似医薬品の保険外しは皆保険制度を棄損する 社会統合の砦
このOTC類似薬の保険外しは、80年代以降、度々取り沙汰されてきたが、医療上の必要性の下、ビタミン剤や湿布薬などで算定制限導入はあるものの、皆保険制度の理念、必要で十分な給付が崩れることはないものである。1兆円というのは、OTC類似の薬効大分類の範囲の医薬品の合計金額である。これまで類似の主張をしている健保連調査や財政制度等審議会資料での数千億円と比し桁違いである。
軽医療の保険外しで重い病気を対象とする、医療保険のスモールリスク・ビッグリスク論がある。しかし、8割強の患者は先進国でも高率な3割負担であり、数%が高額療養費で救済されて6割の医療費を使う。既にこの状態にある。8割強の患者のレセプト1件(月)の医療費は2万円以下(患者負担6千円以下)であり、数%が医療費30万円超で高額療養費により負担上限が抑えられているのである。
これは「社会連帯」の仕組みである「社会保険」の「医療保険」が可能としている優位性である。これは保険料で主に支えられ、公費が補完する仕組みである。「国民皆保険制度は現在、医療保障制度の枠を超え、日本社会の安定性・統合性を維持する最後の砦」(二木立・日本福祉大学名誉教授)となっており「皆保険制度の機能低下・機能不全が生じると社会の分断が一気に進む」ことになる。
OTC類似医薬品の保険外しで、確かに保険料は下がるが、それは公定価格の3割負担から外れ、自由価格で値が上がった一般市場での医薬品の自費購入となる。医療機関の医学管理から外れ、受診の機会を自己判断で遠ざけることになる。保険料負担が減っても、家計負担は増えることになる。
医療は第一線医療の上に、二次救急医療、三次高度救命医療と、重層的構造で成り立っている。われわれは第一線医療を崩壊させる危険が強い、OTC類似医薬品の保険適用除外に強く反対する。
【参考資料】
◆患者の8割が使う医療費は全体の2割ほど 重症な数%を医療費の6割が支える
*患者の85%の医療費は2万円未満
*令和3年の同調査も同様の状況
*85%の患者(2万円未満)の医療費が全体に占める割合は22%に過ぎない
*受診回復は大きくは医療費に影響しない
◆OTC類似医薬品の保険適用除外で1兆円の根拠
日本総研「『OTC類似薬』議論のポイント」<2025.3.4>より
◆【中医協基本問題小委・議事要旨】(97年11月28日)
【糸氏委員】医療の現場では、(市販の)風邪薬とかで対応していなければ、もっと早く医療機関に来てくれたのに、ということがある。その結果、悪化して医療費が嵩む。例えば、H2ブロッカーのOTCは相談もなく、寝耳に水だった。どこでどう決まったかも不透明。確かに一時的には(症状が)楽になるが、がんの見逃しなどにつながり、大変なことになる場合もある。 保険薬からOTCに行くためには、もう少し学問的な定義をきちっとして判断すべき。医療関係者にも情報がなく、ある日突然、TVCMで、市販されることがわかる。ことH2に限らず、医療費節約のためなし崩し的にOTCに回していくと、国民の健康はどうなるのか。決定過程の情報公開も遅れている。決定の過程がどうなっているのか。 |
メディファクス<1997.12.1>より
◆OTC類似医薬品を保険適用除外とした場合の費用負担の変化
(例)ファモチジン(ガスター)10の薬価は一錠10.1円。毎日2錠服用30日で606円。自己負担は3割で182円
一方OTCで購入すると12錠で1738円(A社店頭価格)なので30日分は8,690円。
よって8,508円の負担増(8690-182=8508)となる。
第一線の地域医療を崩壊させる OTC類似医薬品の保険適用除外の策動に反対する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆日常診療に打撃 汎用薬1兆円削減は第一線の医療費10%削減に
OTC(市販薬)類似医薬品の保険適用除外で医療費1兆円削減、が急浮上している。日本維新の会が医療費4兆円削減方策の一環として提案し、民間調査会社「日本総研」も同内容の提言を出している。
実は患者数の85%が使う医療費は全体の22%に過ぎない。1兆円削減と提言された2021年度の国民医療費45.0兆円でみれば9.9兆円である。1兆円はこの10%上であり影響度が大きい。
これらの患者は、日常的に高頻度で遭遇する疾患、有病率の高い疾患、コモンディジーズである。1兆円削減で「標的」にされている医薬品は、解熱鎮痛剤、消化器官用薬、外皮用剤、眼科用剤、アレルギー用薬、漢方、痔疾用剤など、あらゆる診療科にわたり、第一線の地域医療が成り立たなくなる。
患者を守る開業医医療の危機となる。われわれは、OTC類似医薬品の保険適用除外に断固反対する。
◆OTC類似医薬品は本家本元の「医療用医薬品」
OTCとは「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、薬を対面販売することを意味し、処方箋なしでも調剤薬局やドラッグストアなどで、登録販売者や薬剤師などから適切な情報提供を受け、本人が自己責任・自己判断で購入する薬である。「一般用医薬品」と「要指導医薬品」があり、現在、一般用医薬品はインターネットなどの通信販売が可能である。
医療現場で使用するのは「医療用医薬品」である。価格は公定薬価であり、品目は薬価基準に収載され保険診療の適用となる。市販薬は自由料金であり、CM料金も乗るため高額、有効成分の含有量が医療用医薬品よりも少ないことが多い。漢方や解熱剤など市販薬と類似の薬効のある医療用医薬品は、OTC類似医薬品と称されているが、本家本元はこちらの医療用医薬品である。
市販薬の要指導医薬品とは、主に医療用医薬品から転用(スイッチOTC)したものである。リスクの見極め最中のものであり、薬剤師の対面販売が義務付けられている。
◆自己診断治療のセルフメディケーションは危険含み
いま、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」、セルフメディケーションが推進され、OTCの活用が推奨されている。市販薬購入金額を所得控除する税制優遇もある。スイッチOTC化も規制改革推進会議が迅速化、簡略化を求め、その方向で着実に物事が進んでいる。
いわば自己判断でのセルフケアと受診との棲み分けとなるが、自己診断治療は危険を伴うものである。
過去にはH2ブロッカーがスイッチOTC化されたガスターなど、長期服用はスキルス胃がんを隠すとし問題となり、十分な服薬説明が求められ、CMの各社競演が終息した経緯がある。またスティーブンス・ジョンソン症候群や、漫然服用での腎臓の悪化など自己判断治療の弊害もある。風邪症状も実は自己診断とは違い、市販薬で改善せずに受診し別の診断名が下ることもある。
かつて90年代に、糸氏英吉・日本医師会副会長(当時)が、早期受診を逃し結果として悪化し医療費も嵩む弊害を、中医協・診療報酬基本問題小委員会で指摘している。拙速は禁物である。
◆OTC類似医薬品の保険外しは皆保険制度を棄損する 社会統合の砦
このOTC類似薬の保険外しは、80年代以降、度々取り沙汰されてきたが、医療上の必要性の下、ビタミン剤や湿布薬などで算定制限導入はあるものの、皆保険制度の理念、必要で十分な給付が崩れることはないものである。1兆円というのは、OTC類似の薬効大分類の範囲の医薬品の合計金額である。これまで類似の主張をしている健保連調査や財政制度等審議会資料での数千億円と比し桁違いである。
軽医療の保険外しで重い病気を対象とする、医療保険のスモールリスク・ビッグリスク論がある。しかし、8割強の患者は先進国でも高率な3割負担であり、数%が高額療養費で救済されて6割の医療費を使う。既にこの状態にある。8割強の患者のレセプト1件(月)の医療費は2万円以下(患者負担6千円以下)であり、数%が医療費30万円超で高額療養費により負担上限が抑えられているのである。
これは「社会連帯」の仕組みである「社会保険」の「医療保険」が可能としている優位性である。これは保険料で主に支えられ、公費が補完する仕組みである。「国民皆保険制度は現在、医療保障制度の枠を超え、日本社会の安定性・統合性を維持する最後の砦」(二木立・日本福祉大学名誉教授)となっており「皆保険制度の機能低下・機能不全が生じると社会の分断が一気に進む」ことになる。
OTC類似医薬品の保険外しで、確かに保険料は下がるが、それは公定価格の3割負担から外れ、自由価格で値が上がった一般市場での医薬品の自費購入となる。医療機関の医学管理から外れ、受診の機会を自己判断で遠ざけることになる。保険料負担が減っても、家計負担は増えることになる。
医療は第一線医療の上に、二次救急医療、三次高度救命医療と、重層的構造で成り立っている。われわれは第一線医療を崩壊させる危険が強い、OTC類似医薬品の保険適用除外に強く反対する。
【参考資料】
◆患者の8割が使う医療費は全体の2割ほど 重症な数%を医療費の6割が支える
*患者の85%の医療費は2万円未満
*令和3年の同調査も同様の状況
*85%の患者(2万円未満)の医療費が全体に占める割合は22%に過ぎない
*受診回復は大きくは医療費に影響しない
◆OTC類似医薬品の保険適用除外で1兆円の根拠
日本総研「『OTC類似薬』議論のポイント」<2025.3.4>より
◆【中医協基本問題小委・議事要旨】(97年11月28日)
【糸氏委員】医療の現場では、(市販の)風邪薬とかで対応していなければ、もっと早く医療機関に来てくれたのに、ということがある。その結果、悪化して医療費が嵩む。例えば、H2ブロッカーのOTCは相談もなく、寝耳に水だった。どこでどう決まったかも不透明。確かに一時的には(症状が)楽になるが、がんの見逃しなどにつながり、大変なことになる場合もある。 保険薬からOTCに行くためには、もう少し学問的な定義をきちっとして判断すべき。医療関係者にも情報がなく、ある日突然、TVCMで、市販されることがわかる。ことH2に限らず、医療費節約のためなし崩し的にOTCに回していくと、国民の健康はどうなるのか。決定過程の情報公開も遅れている。決定の過程がどうなっているのか。 |
メディファクス<1997.12.1>より
◆OTC類似医薬品を保険適用除外とした場合の費用負担の変化
(例)ファモチジン(ガスター)10の薬価は一錠10.1円。毎日2錠服用30日で606円。自己負担は3割で182円
一方OTCで購入すると12錠で1738円(A社店頭価格)なので30日分は8,690円。
よって8,508円の負担増(8690-182=8508)となる。