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2017/11/9 政策部長談話 「財務省の診療報酬改定率『▲2%半ば以上』を指弾する 改定率キャップ制導入の布石に警戒を」
財務省の診療報酬改定率「▲2%半ば以上」を指弾する
改定率キャップ制導入の布石に警戒を
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
総選挙直後、10月25日の財政制度等審議会・財政制度分科会で診療報酬改定を全体(ネット)で「▲2%半ば以上」とすることが提案された。医療界から総反発となり、本体(技術料等)部分の微増で政府が調整との報道も出始めている。しかし、中医協の医療経済実態調査の発表前でのアナウンスはそれ自体が問題であるが、それ以上に看過できない大問題は、今回の提案が自然増分のみの医療費増を担保するために、いわばマイナス改定率の「キャップ」をはめ込むことを主眼としている点である。われわれはこの間、乱暴な議論でマイナス改定を主導してきた財務省の改定率キャップ制導入を厳しく指弾する。
◆「▲2%半ば以上」の意味と「骨太方針2015」の先
財務省が分科会に提出した資料で国民医療費が年平均2.5%で増加し、うち高齢化等の要因による増加分は1.2%だとし、残りは「他の要因」での増加であり、医療費の伸びを高齢化等の範囲内にするには2年に1度の診療報酬改定で全体(ネット)で▲2%半ば以上とする必要があると主張している。
つまり、2年間の医療費の伸びは5.06%(1.025×1.025=1.0506)、うち高齢化等要因の伸びが2.41%(1.012×1.012=1.0241)、その乖離分を▲2.65%(5.06%-2.41%)の診療報酬改定で解消する(2年間で(0-0.0265)×1.0)ということである。医療費を自然増分だけに抑えるために、▲2%半ば以上の改定率で2年に一度の診療報酬改定を利用する―これが本当の意味である。よって財務省の資料は「1回あたり2%半ば以上のマイナス改定が必要」という表現になっている。
「骨太方針2015」は、2016年度から2018年度の3年間の社会保障費を高齢化相当分の1.5兆円増(単年度5,000億円)とするとし、その2018年度予算の概算要求6,300億円から1,300億円の削減が焦点となっていた。これが総選挙にあたり首相の意向で待機児童の解消等で新規に500億円を要すこととなり、社会保障費から深堀することとなり計1,800億円の削減となった。これを診療報酬改定で全て吸収すると▲1.8%相当であり、▲2%半ば以上という数字はこれを大きく上回る。つまり待機児童解消費用の捻出の追加要因での大幅マイナス改定の空砲となったのではない。財政健全化の先送り、消費税増税分の高等教育無償化などの使途変更への、「先手」対応である。
「骨太方針2015」は、2019年度以降の社会保障費の抑制は方向性は示しているものの、金額明示はしていない。今回の「▲2%半ば以上」は改定率キャップ制による、社会保障費の中核をなす医療費抑制を企図した新機軸として考える必要がある。
◆診療報酬改定は健全な医療機関経営のため 診療報酬は医療の質を規定する。
2年に1度の診療報酬改定は、中医協の医療経済実態調査の結果報告に基づく医療機関の経営収支状況や保険者の財政状況や、薬価調査・材料価格調査の結果報告を踏まえ、医療の進歩や経済指標の動向を勘案し行われる。改定率は12月中下旬に内閣で決定し、具体的な診療報報酬の項目・点数の設定を中医協で行う。
診療報酬は本体(技術料等)と薬価で構成され、双方合わせて全体(ネット)の改定率となる。薬価は公定価格と市場価格との乖離分が引下げとなるが、これは医療機関による卸業者との間での価格交渉の経営努力分であり、引き下げ分は実際に経営原資となっており、従来は潜在技術料とし本体(技術料等)に振り返られていた。これが、2014年度改定より、財務省の「フィクション」、「時点修正」との無理解な論理で、引き下げ分は本体(技術料等)に充当されず、まるまる召し上げられている。改定率に反映させない、薬価の「枠外」改定の奇手さえ常套手段として用いられている。
しかも、賃金・物価の動向と診療報酬の本体の改定率のみを対比し、歪んだ世論誘導を図ってきており、今回は更に拍車がかかっている。診療報酬は1981年以降、改定率の決定は「物価・賃金スライド方式」をやめ「自然増控除方式」を採っている。スライド方式が医療費高騰を招くとし、自然増分を「前提」として改定分を上乗せをする方式に改められている。また政府の予算化は診療報酬の全体(ネット)改定率、つまり本体(技術料等)と薬価の合計でなされており、本体のみを区分して論じるのは理がない。診療報酬は、医師・歯科医師・看護師等コメディカルの「技術」・「労働」と「諸経費」を「本体」で、医薬品等の「モノ」を「薬価」で点数表の分離評価をしているが、提供する医療は、「技術」「労働」「諸経費」「モノ」は一体的である。「本体」もCTや超音波など技術とモノの混然一体の評価もあり、院外処方の医療機関であっても注射薬など在庫を抱えている。医薬分業も100%ではなく、地方では医療機関の近隣に薬局がないなど患者の利便から院内処方としているところは少なくない。本体のみを分離し議論する恣意性は、あまりにも乱暴すぎる。診療報酬の水準は医療の内容と質を規定している、このことを抜きにした議論は医療崩壊に連動していく。
◆98年度以降、診療報酬ネット(全体)は凋落の一途 プラス改定が道理
しかも、本体イコール人件費との短絡は度が過ぎる。本体は人件費にとどまらず、諸経費、設備投資分を含んでいる。物価、賃金のグラフと本体改定率との対比を資料に提出しているが、診療報酬は事業所収入であり公共事業体の事業収入の伸び率ならまだしも、対比の対象がおかしい。医療職種の賃金動向も示されているが医療の公共性に鑑み公務員給与と対比すべきものである。給付と負担の議論をするなら作為的な資料ではなく正面から問い、健全な議論が筋である。
また、物価・賃金は「結果」の数値であり、本体の改定率は「予定」である。改定率は検証されることはなく、医療費の伸びの要因分析の際に所与のものとされ、あとづけで「高齢化等」と「その他」要因とされているにすぎない。16年度でみれば予算上は+0.6%の伸びが期待された国民医療費(概算医療費)は▲0.4%となり、当初想定より▲1.0%もの乖離が出ている。単年度の異例か転機かの確定は17年度医療費の結果を待ちたいが、15年度、16年度の平均は+1.7%である。財務省のいう国民医療費の伸び2.5%を下回っており、「改定率▲2%半ば以上」が、慣例化、固定化された場合、医療費は縮小のスパイラルとなっていく。財務省の資料へ診療報酬のネット改定率を示し以下に対置する。診療報酬の累積下落は一目瞭然である。われわれは「▲2%半ば以上」の改定率のキャップ制導入の布石となる財務省の提案の撤回と、全体のプラス改定を強く求める。
2017年11月9日
<1997年度を100としたときの診療報酬改定率・物価・公務員給与動向の推移>
※(2016年度) □: 100.1 ×:99.3 ▲:98.4 ◆:86.5
財務省の診療報酬改定率「▲2%半ば以上」を指弾する
改定率キャップ制導入の布石に警戒を
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
総選挙直後、10月25日の財政制度等審議会・財政制度分科会で診療報酬改定を全体(ネット)で「▲2%半ば以上」とすることが提案された。医療界から総反発となり、本体(技術料等)部分の微増で政府が調整との報道も出始めている。しかし、中医協の医療経済実態調査の発表前でのアナウンスはそれ自体が問題であるが、それ以上に看過できない大問題は、今回の提案が自然増分のみの医療費増を担保するために、いわばマイナス改定率の「キャップ」をはめ込むことを主眼としている点である。われわれはこの間、乱暴な議論でマイナス改定を主導してきた財務省の改定率キャップ制導入を厳しく指弾する。
◆「▲2%半ば以上」の意味と「骨太方針2015」の先
財務省が分科会に提出した資料で国民医療費が年平均2.5%で増加し、うち高齢化等の要因による増加分は1.2%だとし、残りは「他の要因」での増加であり、医療費の伸びを高齢化等の範囲内にするには2年に1度の診療報酬改定で全体(ネット)で▲2%半ば以上とする必要があると主張している。
つまり、2年間の医療費の伸びは5.06%(1.025×1.025=1.0506)、うち高齢化等要因の伸びが2.41%(1.012×1.012=1.0241)、その乖離分を▲2.65%(5.06%-2.41%)の診療報酬改定で解消する(2年間で(0-0.0265)×1.0)ということである。医療費を自然増分だけに抑えるために、▲2%半ば以上の改定率で2年に一度の診療報酬改定を利用する―これが本当の意味である。よって財務省の資料は「1回あたり2%半ば以上のマイナス改定が必要」という表現になっている。
「骨太方針2015」は、2016年度から2018年度の3年間の社会保障費を高齢化相当分の1.5兆円増(単年度5,000億円)とするとし、その2018年度予算の概算要求6,300億円から1,300億円の削減が焦点となっていた。これが総選挙にあたり首相の意向で待機児童の解消等で新規に500億円を要すこととなり、社会保障費から深堀することとなり計1,800億円の削減となった。これを診療報酬改定で全て吸収すると▲1.8%相当であり、▲2%半ば以上という数字はこれを大きく上回る。つまり待機児童解消費用の捻出の追加要因での大幅マイナス改定の空砲となったのではない。財政健全化の先送り、消費税増税分の高等教育無償化などの使途変更への、「先手」対応である。
「骨太方針2015」は、2019年度以降の社会保障費の抑制は方向性は示しているものの、金額明示はしていない。今回の「▲2%半ば以上」は改定率キャップ制による、社会保障費の中核をなす医療費抑制を企図した新機軸として考える必要がある。
◆診療報酬改定は健全な医療機関経営のため 診療報酬は医療の質を規定する。
2年に1度の診療報酬改定は、中医協の医療経済実態調査の結果報告に基づく医療機関の経営収支状況や保険者の財政状況や、薬価調査・材料価格調査の結果報告を踏まえ、医療の進歩や経済指標の動向を勘案し行われる。改定率は12月中下旬に内閣で決定し、具体的な診療報報酬の項目・点数の設定を中医協で行う。
診療報酬は本体(技術料等)と薬価で構成され、双方合わせて全体(ネット)の改定率となる。薬価は公定価格と市場価格との乖離分が引下げとなるが、これは医療機関による卸業者との間での価格交渉の経営努力分であり、引き下げ分は実際に経営原資となっており、従来は潜在技術料とし本体(技術料等)に振り返られていた。これが、2014年度改定より、財務省の「フィクション」、「時点修正」との無理解な論理で、引き下げ分は本体(技術料等)に充当されず、まるまる召し上げられている。改定率に反映させない、薬価の「枠外」改定の奇手さえ常套手段として用いられている。
しかも、賃金・物価の動向と診療報酬の本体の改定率のみを対比し、歪んだ世論誘導を図ってきており、今回は更に拍車がかかっている。診療報酬は1981年以降、改定率の決定は「物価・賃金スライド方式」をやめ「自然増控除方式」を採っている。スライド方式が医療費高騰を招くとし、自然増分を「前提」として改定分を上乗せをする方式に改められている。また政府の予算化は診療報酬の全体(ネット)改定率、つまり本体(技術料等)と薬価の合計でなされており、本体のみを区分して論じるのは理がない。診療報酬は、医師・歯科医師・看護師等コメディカルの「技術」・「労働」と「諸経費」を「本体」で、医薬品等の「モノ」を「薬価」で点数表の分離評価をしているが、提供する医療は、「技術」「労働」「諸経費」「モノ」は一体的である。「本体」もCTや超音波など技術とモノの混然一体の評価もあり、院外処方の医療機関であっても注射薬など在庫を抱えている。医薬分業も100%ではなく、地方では医療機関の近隣に薬局がないなど患者の利便から院内処方としているところは少なくない。本体のみを分離し議論する恣意性は、あまりにも乱暴すぎる。診療報酬の水準は医療の内容と質を規定している、このことを抜きにした議論は医療崩壊に連動していく。
◆98年度以降、診療報酬ネット(全体)は凋落の一途 プラス改定が道理
しかも、本体イコール人件費との短絡は度が過ぎる。本体は人件費にとどまらず、諸経費、設備投資分を含んでいる。物価、賃金のグラフと本体改定率との対比を資料に提出しているが、診療報酬は事業所収入であり公共事業体の事業収入の伸び率ならまだしも、対比の対象がおかしい。医療職種の賃金動向も示されているが医療の公共性に鑑み公務員給与と対比すべきものである。給付と負担の議論をするなら作為的な資料ではなく正面から問い、健全な議論が筋である。
また、物価・賃金は「結果」の数値であり、本体の改定率は「予定」である。改定率は検証されることはなく、医療費の伸びの要因分析の際に所与のものとされ、あとづけで「高齢化等」と「その他」要因とされているにすぎない。16年度でみれば予算上は+0.6%の伸びが期待された国民医療費(概算医療費)は▲0.4%となり、当初想定より▲1.0%もの乖離が出ている。単年度の異例か転機かの確定は17年度医療費の結果を待ちたいが、15年度、16年度の平均は+1.7%である。財務省のいう国民医療費の伸び2.5%を下回っており、「改定率▲2%半ば以上」が、慣例化、固定化された場合、医療費は縮小のスパイラルとなっていく。財務省の資料へ診療報酬のネット改定率を示し以下に対置する。診療報酬の累積下落は一目瞭然である。われわれは「▲2%半ば以上」の改定率のキャップ制導入の布石となる財務省の提案の撤回と、全体のプラス改定を強く求める。
2017年11月9日
<1997年度を100としたときの診療報酬改定率・物価・公務員給与動向の推移>
※(2016年度) □: 100.1 ×:99.3 ▲:98.4 ◆:86.5