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2019/11/15 政策部長談話 「凋落の一途、損益率『赤字』が3割弱 保険『外』収入依存強まる 実態調査踏まえ、診療報酬プラス改定を求める」

凋落の一途、損益率「赤字」が3割弱 保険「外」収入依存強まる 

実態調査踏まえ、診療報酬プラス改定を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 第22回医療経済実態調査が11月13日公表され、医療施設別の「損益差額」を中心に各紙報道がなされているが、注目は「損益率」の階級分布である。前回以上に悪い。2018年度は「損益率」が「マイナス」(赤字)となった一般診療所は28.3%、歯科診療所で18.0となり、その2年前の2016年度(改定年度)の各々の25.7%、12.9%より増加。2014年度の各々17.8%、7.9%以降、凋落の一途である。また「対前年度増減」で「マイナス」(経営悪化)となった一般診療所が55.9%、歯科診療所が51.4と、これも2016年度より悪化し過半数を占めることが判明した。

 しかも、保険診療収益の構成比は医科診療所が83.4%、歯科診療所が77.7%と改定毎に比率を下げ、自費診療や健診、医療相談など「その他」の診療・医業収益への依存が強まる構図となっている。「損益差額」のプラスは、これによっており、保険収入で十分に経営できないことを示している(別表)。保険診療収益比率は2001年度に医科診療所は93.8%、歯科診療所は86.0%であり隔世の感が強い。

 財政制度等審議会より、理のない「▲2%以上改定」が唱えられているが、調査結果は前回以上に地域の医療機関の存立と医療提供、皆保険が「危ない」と「警告」している。診療報酬は医療の再生産や、医療の質を保障する。われわれは日本の医療を守るために、診療報酬プラス改定を強く求める。

◆ 保険収益の落ち込みを、「その他」の診療収益と医業収益で「補填」する構図

 診療報酬の改定率決定の基礎資料となる医療経済実態調査結果で見るべきものは「保険診療収益」と「費用」、「損益差額」(=「医業等収益-医業等費用」)である。ただ13年度調査より、①平年と改定年度の連続する「事業年度」対比と変更され、②各施設の事業年度終期月に1カ月でも重なれば改定年度とし集計しており、診療所は改定年度の影響の反映は6割程度しかなく、③「全体」の損益差額は「個人立」の院長給与を含んだまま平均化した数値であり、これらの考量は必要となる。

 旧来方法で改定年度対比をすると(別表)、医科診療所(無床)は損益差額が14.8万円増(1.1%増)と僅かにプラスとなる。保険診療収益が890.9万円増と伸びたものの、人件費781.1万円増を中心に医業等費用が1,262.7万円増とそれを上回り、その乖離を「その他の診療収益」や「その他の医業収益」で補填した結果である。

 また歯科診療所の損益差額は134.3万円増(14.3%増)となっている。保険診療収益681.3万円増を、医業等費用775万円増(人件費570.4万円増)が上回り、この乖離分を「その他」の診療収益と医業収益が埋め、介護収益の増加分がプラス分となった格好になっている。

 ただ、保険診療収益が医科診療所で1億2,356.6万円、歯科診療所で5,413.7万円とあるが、H29年度の医科診療所の1施設あたり保険診療費(収益)は中央値で7,455万円、最頻値で5,000万円、同じく歯科診療所の1施設あたりは中央値で3,381万円、最頻値で2,300万円、である(厚労省「医療費の動向」<施設単位でみる医療費等の分布の状況>)。医療経済実態調査は「平均値」を「代表値」としており、現実との乖離が大きく、この数値で全体を推し量るのでは対応を誤ることとなる。

◆ 落ち込む「院内処方」診療所の保険収益 薬価差召し上げの看過できない影響

 調査は院外処方の有無での集計がなされている。院外処方なし、つまり「院内処方」の医科診療所は、保険収益の比率が前回調査の76.5%から65.5%へ下落し、「院外処方」の84.1%より相当低い。損益率も「院内処方」は前回7.6%から6.9%へ落ち、院外処方の8.8%より低い。

 「院内処方」の医科診療所による、卸との価格交渉での経営努力は経営原資となっているが、2014年度改定より、財務省の「フィクション」、「時点修正」との暴論で、薬価差は技術料(本体)に振り替えずまるまる召し上げられてきた。この結果は如実にそれを反映している。患者の利便や経済的負担を考慮し、いまでも院内処方が主(院外処方割合20%未満)の診療所は3割ある(19.9.25中医協資料)。医療費シェアでみても、実は医科薬剤費は全体の15%で、調剤薬局薬剤費の15%と、比肩しており、薬価差の召し上げは、医科診療所にとって無視できないことを結果は物語っている。

◆ 実は最頻の損益階級は「赤字」群 プラス最頻階級の「損益率」は平均像の1/4未満 

 損益差額の階級別施設数をみると、最頻は一般診療所で「0円~500万円未満」(全体の18.5%)、歯科診療所で「0円~250万円未満」(同13.6%)と、医療の再生産の観点でみると低水準となっている。しかし、冒頭に述べたように、0円未満の「赤字」の群が、一般診療所では「▲500万円未満」(全体の14.5%)、「▲500万円以上~0円未満」(同13.9%)で合計28.4%あり、歯科診療所では「▲250万円未満」(同9.6%)、「▲250万円~0円未満」(同8.3%)で合計17.9%が一番多いのである。

 「赤字」群も階級区分しているため「最頻」とならないだけであり、先述のとおり「平均値」を「代表値」とし集計結果を出しているため、内実が隠されているに過ぎない。

 最頻の損益差額階級の損益状況が示されているが、一般診療所は損益率は2.0%に過ぎず、平均像の損益率8.9%より相当に低く1/4もない。保険収益比率も80.0%で平均像の83.4%より低い。歯科診療所は損益率2.0%で平均像の15.4%の1/7もなく、保険収益比率は69.4%で平均像の77.7%より低く、7割を切っている。しかも介護収益比率は0.2%で金額11.8万円で、平均像の2.3%、161.9万円と桁違いである。

 これが、実像、実相であり、平均像での改定率の決定判断は、実態を踏まえないものとなる。

◆ 医療提供の水準の維持が危ない 国民医療の充実へプラス改定を

 医療経済実態調査報告の発表後、報道各紙は夕刊で病院の損益率▲2.7%の悪さに触れ、翌日は一斉に「診療報酬 マイナス改定へ」と報じた。ただ、病院経営の数値の悪さと同様に、既にみたとおり医科・歯科ともに診療所の内実は悪いのである。

 それは当たり前である。この20年間、診療報酬は殆どネットでマイナス改定か、薬価の枠外改定含みの実質マイナス改定で、累積▲15%に上る。診療報酬のマイナス改定とは、患者の診療単価の実質値引きであり、その多くは医療機関の人件費にシワ寄せがいく。高齢者増の自然増分で実額の保険収益は増えるが、費用は人件費を中心に増える。マイナス改定で保険収益が上がらない中、自費診療や健診、医療相談などの「その他診療収益」、「その他医業収益」に活路を求めても限度、限界がある。そもそも日本は国民皆保険であり、本道から逸れる。赤字の医療機関の増大は当然の帰結である。

 次年度予算は、社会保障費の5,300億円増を1,200億円超程度圧縮することを巡り攻防となっている。改定率換算で▲1%程度だが、財務省は「▲2%半ば以上」を主張しており度が過ぎる。これは前回改定時と同様であり、われわれは「キャップ制導入」と批判した1。「骨太方針2015」が社会保障関係費の増加分を2016~18年度は高齢化増加相当分1.5兆円、以降も20年度までその延長とした当初約束にも反する。そもそも、診療報酬改定は社会保障費の圧縮のための「調整弁」ではない。医療機関経営と医療の質に資すべきものである。

 診療報酬は患者に提供される医療の質と表裏一体であり、医療は社会的共通資本である。医療機関の経営改善と国民医療の充実へ向け、診療報酬プラス改定を強く求める。

2019年11月15日

1)2017.11.9発表 政策部長談話 「財務省の診療報酬改定率「▲2%半ば以上」を指弾する/改定率キャップ制導入の布石に警戒を」

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* 第22回医療経済実態調査報告より作成

【別表】

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凋落の一途、損益率「赤字」が3割弱 保険「外」収入依存強まる 

実態調査踏まえ、診療報酬プラス改定を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 第22回医療経済実態調査が11月13日公表され、医療施設別の「損益差額」を中心に各紙報道がなされているが、注目は「損益率」の階級分布である。前回以上に悪い。2018年度は「損益率」が「マイナス」(赤字)となった一般診療所は28.3%、歯科診療所で18.0となり、その2年前の2016年度(改定年度)の各々の25.7%、12.9%より増加。2014年度の各々17.8%、7.9%以降、凋落の一途である。また「対前年度増減」で「マイナス」(経営悪化)となった一般診療所が55.9%、歯科診療所が51.4と、これも2016年度より悪化し過半数を占めることが判明した。

 しかも、保険診療収益の構成比は医科診療所が83.4%、歯科診療所が77.7%と改定毎に比率を下げ、自費診療や健診、医療相談など「その他」の診療・医業収益への依存が強まる構図となっている。「損益差額」のプラスは、これによっており、保険収入で十分に経営できないことを示している(別表)。保険診療収益比率は2001年度に医科診療所は93.8%、歯科診療所は86.0%であり隔世の感が強い。

 財政制度等審議会より、理のない「▲2%以上改定」が唱えられているが、調査結果は前回以上に地域の医療機関の存立と医療提供、皆保険が「危ない」と「警告」している。診療報酬は医療の再生産や、医療の質を保障する。われわれは日本の医療を守るために、診療報酬プラス改定を強く求める。

◆ 保険収益の落ち込みを、「その他」の診療収益と医業収益で「補填」する構図

 診療報酬の改定率決定の基礎資料となる医療経済実態調査結果で見るべきものは「保険診療収益」と「費用」、「損益差額」(=「医業等収益-医業等費用」)である。ただ13年度調査より、①平年と改定年度の連続する「事業年度」対比と変更され、②各施設の事業年度終期月に1カ月でも重なれば改定年度とし集計しており、診療所は改定年度の影響の反映は6割程度しかなく、③「全体」の損益差額は「個人立」の院長給与を含んだまま平均化した数値であり、これらの考量は必要となる。

 旧来方法で改定年度対比をすると(別表)、医科診療所(無床)は損益差額が14.8万円増(1.1%増)と僅かにプラスとなる。保険診療収益が890.9万円増と伸びたものの、人件費781.1万円増を中心に医業等費用が1,262.7万円増とそれを上回り、その乖離を「その他の診療収益」や「その他の医業収益」で補填した結果である。

 また歯科診療所の損益差額は134.3万円増(14.3%増)となっている。保険診療収益681.3万円増を、医業等費用775万円増(人件費570.4万円増)が上回り、この乖離分を「その他」の診療収益と医業収益が埋め、介護収益の増加分がプラス分となった格好になっている。

 ただ、保険診療収益が医科診療所で1億2,356.6万円、歯科診療所で5,413.7万円とあるが、H29年度の医科診療所の1施設あたり保険診療費(収益)は中央値で7,455万円、最頻値で5,000万円、同じく歯科診療所の1施設あたりは中央値で3,381万円、最頻値で2,300万円、である(厚労省「医療費の動向」<施設単位でみる医療費等の分布の状況>)。医療経済実態調査は「平均値」を「代表値」としており、現実との乖離が大きく、この数値で全体を推し量るのでは対応を誤ることとなる。

◆ 落ち込む「院内処方」診療所の保険収益 薬価差召し上げの看過できない影響

 調査は院外処方の有無での集計がなされている。院外処方なし、つまり「院内処方」の医科診療所は、保険収益の比率が前回調査の76.5%から65.5%へ下落し、「院外処方」の84.1%より相当低い。損益率も「院内処方」は前回7.6%から6.9%へ落ち、院外処方の8.8%より低い。

 「院内処方」の医科診療所による、卸との価格交渉での経営努力は経営原資となっているが、2014年度改定より、財務省の「フィクション」、「時点修正」との暴論で、薬価差は技術料(本体)に振り替えずまるまる召し上げられてきた。この結果は如実にそれを反映している。患者の利便や経済的負担を考慮し、いまでも院内処方が主(院外処方割合20%未満)の診療所は3割ある(19.9.25中医協資料)。医療費シェアでみても、実は医科薬剤費は全体の15%で、調剤薬局薬剤費の15%と、比肩しており、薬価差の召し上げは、医科診療所にとって無視できないことを結果は物語っている。

◆ 実は最頻の損益階級は「赤字」群 プラス最頻階級の「損益率」は平均像の1/4未満 

 損益差額の階級別施設数をみると、最頻は一般診療所で「0円~500万円未満」(全体の18.5%)、歯科診療所で「0円~250万円未満」(同13.6%)と、医療の再生産の観点でみると低水準となっている。しかし、冒頭に述べたように、0円未満の「赤字」の群が、一般診療所では「▲500万円未満」(全体の14.5%)、「▲500万円以上~0円未満」(同13.9%)で合計28.4%あり、歯科診療所では「▲250万円未満」(同9.6%)、「▲250万円~0円未満」(同8.3%)で合計17.9%が一番多いのである。

 「赤字」群も階級区分しているため「最頻」とならないだけであり、先述のとおり「平均値」を「代表値」とし集計結果を出しているため、内実が隠されているに過ぎない。

 最頻の損益差額階級の損益状況が示されているが、一般診療所は損益率は2.0%に過ぎず、平均像の損益率8.9%より相当に低く1/4もない。保険収益比率も80.0%で平均像の83.4%より低い。歯科診療所は損益率2.0%で平均像の15.4%の1/7もなく、保険収益比率は69.4%で平均像の77.7%より低く、7割を切っている。しかも介護収益比率は0.2%で金額11.8万円で、平均像の2.3%、161.9万円と桁違いである。

 これが、実像、実相であり、平均像での改定率の決定判断は、実態を踏まえないものとなる。

◆ 医療提供の水準の維持が危ない 国民医療の充実へプラス改定を

 医療経済実態調査報告の発表後、報道各紙は夕刊で病院の損益率▲2.7%の悪さに触れ、翌日は一斉に「診療報酬 マイナス改定へ」と報じた。ただ、病院経営の数値の悪さと同様に、既にみたとおり医科・歯科ともに診療所の内実は悪いのである。

 それは当たり前である。この20年間、診療報酬は殆どネットでマイナス改定か、薬価の枠外改定含みの実質マイナス改定で、累積▲15%に上る。診療報酬のマイナス改定とは、患者の診療単価の実質値引きであり、その多くは医療機関の人件費にシワ寄せがいく。高齢者増の自然増分で実額の保険収益は増えるが、費用は人件費を中心に増える。マイナス改定で保険収益が上がらない中、自費診療や健診、医療相談などの「その他診療収益」、「その他医業収益」に活路を求めても限度、限界がある。そもそも日本は国民皆保険であり、本道から逸れる。赤字の医療機関の増大は当然の帰結である。

 次年度予算は、社会保障費の5,300億円増を1,200億円超程度圧縮することを巡り攻防となっている。改定率換算で▲1%程度だが、財務省は「▲2%半ば以上」を主張しており度が過ぎる。これは前回改定時と同様であり、われわれは「キャップ制導入」と批判した1。「骨太方針2015」が社会保障関係費の増加分を2016~18年度は高齢化増加相当分1.5兆円、以降も20年度までその延長とした当初約束にも反する。そもそも、診療報酬改定は社会保障費の圧縮のための「調整弁」ではない。医療機関経営と医療の質に資すべきものである。

 診療報酬は患者に提供される医療の質と表裏一体であり、医療は社会的共通資本である。医療機関の経営改善と国民医療の充実へ向け、診療報酬プラス改定を強く求める。

2019年11月15日

1)2017.11.9発表 政策部長談話 「財務省の診療報酬改定率「▲2%半ば以上」を指弾する/改定率キャップ制導入の布石に警戒を」

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* 第22回医療経済実態調査報告より作成

【別表】

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