神奈川県保険医協会とは
開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す
TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2020/12/11 医療運動部会長談話 「75歳以上の窓口負担『2割』の導入は中止を 応能負担原則のすり替えと世代間分断は許されない」
2020/12/11 医療運動部会長談話 「75歳以上の窓口負担『2割』の導入は中止を 応能負担原則のすり替えと世代間分断は許されない」
75歳以上の窓口負担『2割』の導入は中止を
応能負担原則のすり替えと世代間分断は許されない
神奈川県保険医協会
医療運動部会長 二村 哲
政府・与党は12月9日、75歳以上の医療費の窓口負担割合について、原則1割から2割に引き上げる収入基準について、「200万円以上」(上位30%※3割負担の7%含む)とすることで合意した。2022年度後半以降の導入に向け、15日に閣議決定するとしている。
新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、感染を恐れ受診を控える高齢者は多く、当会が今年7月に行った調査では「医科で4割 歯科で6割」の会員が、受診控えによるとみられる健康悪化事例を経験している。慢性疾患の悪化事例を中心に、深刻なものではがんの診断遅れ、難聴や失明の治療時期を逸した事例もみられた。窓口負担増は、こうした状況に追い打ちをかけ、高齢者をさらに医療から遠ざけることにつながる。
高齢になるほど収入は低下する一方、疾病は増える。75歳以上の高齢者が窓口で負担する金額は年間6.4万円~8.4万円(75歳以上・年齢階級別)と、現役世代の年間2.6~6.2万円(30~59歳・同)よりも、原則1割負担の今でも高い水準である(*1)。『2割導入』の議論にあたり、保険者側からはことさら「現役世代の負担軽減」が強調されたが、社保審・医療保険部会で示された資料によれば、「200万円以上」で2割負担を導入した場合の現役世代の保険料に対する後期高齢者支援金の抑制効果は、一人あたり年間1,100円(2025年度時点)に過ぎない(*2)。「現役世代」を口実に、財源構成割合上での支出減とあわせ、2割負担化で受診抑制がかかることによる給付減(*3)も見込む保険者側の意図が透けている。
公的年金を受給する高齢者世帯の半数が、収入を公的年金のみに頼っている現状で(*4)、高齢者の生活や支出を支えている子世代は少なくない。このコロナ禍で雇用状況が悪化、あるいは収入が減ったこれらの世帯にとっては、窓口で負担する医療費の「倍化」の方が打撃となる。当会で実施する「クイズで考える私たちの医療」(クイズハガキ)には、後期高齢者の「2割化」には高齢者当事者だけでなく現役世代からも、「給料が下がる中で年金生活である親の負担増は子にとっても苦しい」との声のほか、自分たちの将来の医療費負担が過重になっていくことへの不安の声が寄せられている。社会保障は一人の人間の出生から老死までを包摂するものであり、本来年代で分けて論じられるものではない。また「支払い能力がある人が多く負担する」応能負担の原則は、税や疾病リスクに備え納める保険料に適用するものであり、リスク発生時である受診時の負担に適用するべきものではない。このすり替えと分断の議論の上で、負担増が断行されようとしている。
コロナ禍で生活が逼迫し、先行きの不安を抱える人は多い。感染拡大による病床不足や医療従事者の疲弊による医療崩壊も取り沙汰される中、「いつでも」「どこでも」保険証1枚でかかれる日本の医療制度の「安心」が、これ以上脅かされることがあってはならない。われわれは受療権を大きく侵害する「75歳以上の窓口負担2割」導入の中止を強く求める。
2020年12月11日
(*1)第138回社保審・医療保険部会資料
(*2)第135回社保審・医療保険部会資料。前年度からの支援金増加額の差額
(*3)参考・長瀬指数Y=1-1.6X+0.8X2 患者負担率(X)が上がれば医療費は低減する。Yは医療費の逓減率
(*4)令和元年度国民生活基礎調査。公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯は48.4%
75歳以上の窓口負担『2割』の導入は中止を
応能負担原則のすり替えと世代間分断は許されない
神奈川県保険医協会
医療運動部会長 二村 哲
政府・与党は12月9日、75歳以上の医療費の窓口負担割合について、原則1割から2割に引き上げる収入基準について、「200万円以上」(上位30%※3割負担の7%含む)とすることで合意した。2022年度後半以降の導入に向け、15日に閣議決定するとしている。
新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、感染を恐れ受診を控える高齢者は多く、当会が今年7月に行った調査では「医科で4割 歯科で6割」の会員が、受診控えによるとみられる健康悪化事例を経験している。慢性疾患の悪化事例を中心に、深刻なものではがんの診断遅れ、難聴や失明の治療時期を逸した事例もみられた。窓口負担増は、こうした状況に追い打ちをかけ、高齢者をさらに医療から遠ざけることにつながる。
高齢になるほど収入は低下する一方、疾病は増える。75歳以上の高齢者が窓口で負担する金額は年間6.4万円~8.4万円(75歳以上・年齢階級別)と、現役世代の年間2.6~6.2万円(30~59歳・同)よりも、原則1割負担の今でも高い水準である(*1)。『2割導入』の議論にあたり、保険者側からはことさら「現役世代の負担軽減」が強調されたが、社保審・医療保険部会で示された資料によれば、「200万円以上」で2割負担を導入した場合の現役世代の保険料に対する後期高齢者支援金の抑制効果は、一人あたり年間1,100円(2025年度時点)に過ぎない(*2)。「現役世代」を口実に、財源構成割合上での支出減とあわせ、2割負担化で受診抑制がかかることによる給付減(*3)も見込む保険者側の意図が透けている。
公的年金を受給する高齢者世帯の半数が、収入を公的年金のみに頼っている現状で(*4)、高齢者の生活や支出を支えている子世代は少なくない。このコロナ禍で雇用状況が悪化、あるいは収入が減ったこれらの世帯にとっては、窓口で負担する医療費の「倍化」の方が打撃となる。当会で実施する「クイズで考える私たちの医療」(クイズハガキ)には、後期高齢者の「2割化」には高齢者当事者だけでなく現役世代からも、「給料が下がる中で年金生活である親の負担増は子にとっても苦しい」との声のほか、自分たちの将来の医療費負担が過重になっていくことへの不安の声が寄せられている。社会保障は一人の人間の出生から老死までを包摂するものであり、本来年代で分けて論じられるものではない。また「支払い能力がある人が多く負担する」応能負担の原則は、税や疾病リスクに備え納める保険料に適用するものであり、リスク発生時である受診時の負担に適用するべきものではない。このすり替えと分断の議論の上で、負担増が断行されようとしている。
コロナ禍で生活が逼迫し、先行きの不安を抱える人は多い。感染拡大による病床不足や医療従事者の疲弊による医療崩壊も取り沙汰される中、「いつでも」「どこでも」保険証1枚でかかれる日本の医療制度の「安心」が、これ以上脅かされることがあってはならない。われわれは受療権を大きく侵害する「75歳以上の窓口負担2割」導入の中止を強く求める。
2020年12月11日
(*1)第138回社保審・医療保険部会資料
(*2)第135回社保審・医療保険部会資料。前年度からの支援金増加額の差額
(*3)参考・長瀬指数Y=1-1.6X+0.8X2 患者負担率(X)が上がれば医療費は低減する。Yは医療費の逓減率
(*4)令和元年度国民生活基礎調査。公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯は48.4%