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2005/9/5 政策部長談話「責任重大! 医療費総額、厚労省7年間計算ミスは"犯罪的"作為」
責任重大! 医療費総額、厚労省7年間計算ミスは"犯罪的"作為
神奈川県保険医協会
政策部長 森 壽生
厚労省は医療費の総額「国民医療費」について、96~02年度の7年間にわたり計算間違いをしていたと発表(8月23日)、マスコミ各紙で「計算ミス」と報じられた。しかし、単なるミスですまされる内容ではない。これまでの政策判断に大きく影響を与えてきた数字であり、事の本質は別である。厚労省の責任は重大であり、かつ犯罪的な作為さえ潜んでいることを強く指摘する。
国民医療費は、医療保険からの支払い確定額(保険給付)の実額を基に、患者負担額を推計して、これを保険給付に足しこみ、医療費総額として算出されている。
厚労省によれば、実際670億円~2,400億円、過大に患者負担を推計したとし、各年度を医療費総額とあわせ下方修正したとしている。
この96年~02年度の7年間には、健保2割負担、外来薬剤一部負担、高額療養費の引き上げ、老人負担引き上げ、食事療養費標準負担引き上げ、老人1-2割負担、健保3割負担、と矢継ぎ早に、患者負担増が、国会で議論され実施された時期である。国民医療費は論議の土台の数字となってきた。
つまり、この制度改革の中心は"患者負担"であり、この数字そのものが間違っていたということが、重大な問題であることは、厚労省にも自覚はあるはずである。
制度改革論議のための資料は厚労省の保険局が作成するが、基礎的数字は今回間違った統計情報部の作成した国民医療費を使う。実際の資料は改定を実施した場合の患者負担、保険料、公費(国・地方)の影響額を「増減額」で出すものがほとんどで、根拠となる数字はほとんど表に出さない。保険給付(=保険料+公費)は実額、患者負担はそれを基にした推計値であり、計算式は一律である。
これの意味するところは、保険局の将来推計で患者負担が計算され、そこから、統計情報部の過大な患者負担を差し引き増額幅が出る。つまり、患者負担の増額幅が過小に見積もられたのである。実際に健保3割導入の資料で、珍しく表に出た02年の患者負担の数字は過大数値4.8兆円であった。
また、過大な患者負担は総額医療費を過大に見積もらさせ、将来推計も狂わせてしまっている(患者負担、公費、保険料の構成比率が変動する)ということである。
今回、間違ったのは厚労省の統計情報部であり、省内でその数字の信頼性がもっとも高いと言われる部署である。しかも間違いの内容は、高額療養費制度の負担軽減分の除外ミスや精神・結核医療給付の二重計上、入院時食事負担の金額ミスなど、初歩的なものである。
厚労省は、今回の件についてインフルエンザなどにより1,000億円ぐらい変動するので影響は小さいとしているが、最大2,400億円の間違いは患者負担の6%に相当し1ヶ月分(1ヶ月/12ヶ月=8.3%)に近い間違いである。
来年の医療「改革」では、老人の2割-3割負担導入、高額療養費の引き上げなど、早くも準備がなされている。総選挙の最中にあえて発表し、問題視されるのを回避し、次年度改定に向けて、患者負担の数字の土台を低く抑え直したとの感は拭えない。また、この責任についても担当者への口頭注意といったレベルで済ましている点も、「出来レース」との不審をも抱かざるをえない。
過去にも、00年診療報酬改定を前にした中医協医療実態調査で診療実日数を補正せずに発表したり、初の実質マイナスとなった02年度医療費を盆休み直前に発表したりと、当協会が指摘した情報操作の"痕跡"がある。97年版「厚生白書」では02年度医療費38兆円の誇大推計で情報操作をしたと、過日、日医からも指摘がなされている。
われわれは、過大推計や情報操作による施策の実行に反対するとともに、今回の厚労省の失態について、現場の声ではなく数字に「改革」の根拠を彼らが求めてきただけに、重大な責任問題であることを厳しく指摘するものである。
2005年9月5日
■国民医療費の計算間違い
*厚労省発表資料より作成 単位:億円
'96 | '97 | '98 | '99 | '00 | '01 | '02 | |
健保2割 薬剤負担 老人500円×4回 |
老人530円×4回 |
老人定率負担導入 (800円×4回併用) |
老人1割-2割負担 |
||||
総額 医療費(誤) |
285,210 | 290,651 | 298,251 | 309,337 | 303,583 | 313,234 | 311,24033 |
総額 医療費(正) |
284,542 | 289,149 | 295,823 | 307,019 | 301,418 | 310,998 | 309,507 |
誤計算額 | ▲668 | ▲1,503 | ▲2,428 | ▲2,318 | ▲2,165 | ▲2,236 | ▲1,733 |
患者負担(誤)構成比 |
33,751 (11.8%) |
39,721 (13.7%) |
44,004 (14.8%) |
45,039 (14.6%) |
44,919 (14.8%) |
46,841 (15.0%) |
47,515 (15.3%) |
患者負担(正)構成比 |
33,063 (11.6%) |
38,218 (13.2%) |
41,576 (14.1%) |
42,721 (13.9%) |
42,754 (14.2%) |
44,605 (14.3%) |
45,782 (14.8%) |
*1)03年 健保3割負担実施、01年 薬剤一部負担廃止
*2)国民医療費(総額医療費)=公費(国庫・地方)+保険料(事業主・被保険者)+患者負担
*3)保険給付=公費+保険料<実額> 患者負担<保険給付より推計試算>
*4)患者負担<計算式>
=法定給付費-(高額療養費+現物高額)÷給付割合
×自己負担割合-(高額療養費+現物高額+付加給付)+薬剤一部負担
責任重大! 医療費総額、厚労省7年間計算ミスは"犯罪的"作為
神奈川県保険医協会
政策部長 森 壽生
厚労省は医療費の総額「国民医療費」について、96~02年度の7年間にわたり計算間違いをしていたと発表(8月23日)、マスコミ各紙で「計算ミス」と報じられた。しかし、単なるミスですまされる内容ではない。これまでの政策判断に大きく影響を与えてきた数字であり、事の本質は別である。厚労省の責任は重大であり、かつ犯罪的な作為さえ潜んでいることを強く指摘する。
国民医療費は、医療保険からの支払い確定額(保険給付)の実額を基に、患者負担額を推計して、これを保険給付に足しこみ、医療費総額として算出されている。
厚労省によれば、実際670億円~2,400億円、過大に患者負担を推計したとし、各年度を医療費総額とあわせ下方修正したとしている。
この96年~02年度の7年間には、健保2割負担、外来薬剤一部負担、高額療養費の引き上げ、老人負担引き上げ、食事療養費標準負担引き上げ、老人1-2割負担、健保3割負担、と矢継ぎ早に、患者負担増が、国会で議論され実施された時期である。国民医療費は論議の土台の数字となってきた。
つまり、この制度改革の中心は"患者負担"であり、この数字そのものが間違っていたということが、重大な問題であることは、厚労省にも自覚はあるはずである。
制度改革論議のための資料は厚労省の保険局が作成するが、基礎的数字は今回間違った統計情報部の作成した国民医療費を使う。実際の資料は改定を実施した場合の患者負担、保険料、公費(国・地方)の影響額を「増減額」で出すものがほとんどで、根拠となる数字はほとんど表に出さない。保険給付(=保険料+公費)は実額、患者負担はそれを基にした推計値であり、計算式は一律である。
これの意味するところは、保険局の将来推計で患者負担が計算され、そこから、統計情報部の過大な患者負担を差し引き増額幅が出る。つまり、患者負担の増額幅が過小に見積もられたのである。実際に健保3割導入の資料で、珍しく表に出た02年の患者負担の数字は過大数値4.8兆円であった。
また、過大な患者負担は総額医療費を過大に見積もらさせ、将来推計も狂わせてしまっている(患者負担、公費、保険料の構成比率が変動する)ということである。
今回、間違ったのは厚労省の統計情報部であり、省内でその数字の信頼性がもっとも高いと言われる部署である。しかも間違いの内容は、高額療養費制度の負担軽減分の除外ミスや精神・結核医療給付の二重計上、入院時食事負担の金額ミスなど、初歩的なものである。
厚労省は、今回の件についてインフルエンザなどにより1,000億円ぐらい変動するので影響は小さいとしているが、最大2,400億円の間違いは患者負担の6%に相当し1ヶ月分(1ヶ月/12ヶ月=8.3%)に近い間違いである。
来年の医療「改革」では、老人の2割-3割負担導入、高額療養費の引き上げなど、早くも準備がなされている。総選挙の最中にあえて発表し、問題視されるのを回避し、次年度改定に向けて、患者負担の数字の土台を低く抑え直したとの感は拭えない。また、この責任についても担当者への口頭注意といったレベルで済ましている点も、「出来レース」との不審をも抱かざるをえない。
過去にも、00年診療報酬改定を前にした中医協医療実態調査で診療実日数を補正せずに発表したり、初の実質マイナスとなった02年度医療費を盆休み直前に発表したりと、当協会が指摘した情報操作の"痕跡"がある。97年版「厚生白書」では02年度医療費38兆円の誇大推計で情報操作をしたと、過日、日医からも指摘がなされている。
われわれは、過大推計や情報操作による施策の実行に反対するとともに、今回の厚労省の失態について、現場の声ではなく数字に「改革」の根拠を彼らが求めてきただけに、重大な責任問題であることを厳しく指摘するものである。
2005年9月5日
■国民医療費の計算間違い
*厚労省発表資料より作成 単位:億円
'96 | '97 | '98 | '99 | '00 | '01 | '02 | |
健保2割 薬剤負担 老人500円×4回 |
老人530円×4回 |
老人定率負担導入 (800円×4回併用) |
老人1割-2割負担 |
||||
総額 医療費(誤) |
285,210 | 290,651 | 298,251 | 309,337 | 303,583 | 313,234 | 311,24033 |
総額 医療費(正) |
284,542 | 289,149 | 295,823 | 307,019 | 301,418 | 310,998 | 309,507 |
誤計算額 | ▲668 | ▲1,503 | ▲2,428 | ▲2,318 | ▲2,165 | ▲2,236 | ▲1,733 |
患者負担(誤)構成比 |
33,751 (11.8%) |
39,721 (13.7%) |
44,004 (14.8%) |
45,039 (14.6%) |
44,919 (14.8%) |
46,841 (15.0%) |
47,515 (15.3%) |
患者負担(正)構成比 |
33,063 (11.6%) |
38,218 (13.2%) |
41,576 (14.1%) |
42,721 (13.9%) |
42,754 (14.2%) |
44,605 (14.3%) |
45,782 (14.8%) |
*1)03年 健保3割負担実施、01年 薬剤一部負担廃止
*2)国民医療費(総額医療費)=公費(国庫・地方)+保険料(事業主・被保険者)+患者負担
*3)保険給付=公費+保険料<実額> 患者負担<保険給付より推計試算>
*4)患者負担<計算式>
=法定給付費-(高額療養費+現物高額)÷給付割合
×自己負担割合-(高額療養費+現物高額+付加給付)+薬剤一部負担