神奈川県保険医協会とは
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2021/12/14 政策部長談話 「皆保険医療の盤石化は究極のSDGs 財政審『建議』の『マイナス改定』と提供体制改変へ反論する」
皆保険医療の盤石化は究極のSDGs
財政審「建議」の「マイナス改定」と提供体制改変へ反論する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
財務省の強硬姿勢に、医療界は改定率・改定内容に警戒を
2022年度診療報酬改定の改定率は、「本体プラス0.5%」への「上積み」を巡る攻防に現時点の局面は入っている。12月22日の財務・厚労両大臣折衝を視野に関係者の調整が本格化している。
これに先立ち財務省の財政制度等審議会は12月3日、「令和4年度予算の編成等に関する建議」(「建議」)を鈴木財務相に提出した。22年度の診療報酬改定に際し、「マイナス改定」を旗幟鮮明にし、「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」とし、春の「建議」以来の姿勢を一貫し、大きく踏み込むとした。本体と薬価の合計、ネット(全体)での「マイナス改定」如何が焦点となっている。
コロナ禍で20年度概算医療費が前年度比▲1.4兆円(▲3.2%)となり、いまだ医療費は前年度水準の金額にも伸び率にも回復せず、受診件数も前年度を依然と下回っている。補助金の多くはコロナ患者対応の確保病床に振り向けられ、しかも縮小方向にある。コロナ禍で全ての医療機関は面として一体的に地域医療を担ってきた。その経営原資の主体は診療報酬である。「マイナス改定」では、医療基盤が崩れていくことは明白である。われわれは、診療報酬全体の「プラス改定」を強く求める。
コロナ医療は通常医療とは一旦、途切れる関係
医療機関連携や「かかりつけ医」への難論に注意
今回の「建議」で社会保障分野については、11月8日の財政審制度分科会の資料がベースとなっている。既にわれわれは、その数字の詐術や論理歪曲を指摘し反論したので、重複は避けて反論を加える。
総じて「建議」は、コロナ禍にこじつけて、医療についてフィクションを論述・展開し、「自然増」の否定と、薬価の総枠予算制、かかりつけ医の「制度化」への誘導に重きを置いている。
しかもそれは、医療機関連携や機能分担などの構造的問題や、「かかりつけ医」の問題など、コロナ医療への一般の誤解や錯覚を利用した、意図的な世論誘導さえも駆使し、巧妙である。
通常医療とコロナ医療は別モノである。新型コロナの医療は感染症法に基づき、陽性者は保健所の管理下に入り、通常医療とは切れ、入院・宿泊も都道府県行政の調整チームが差配をする。通常医療なら、病院長の間で話をつけて連携をするが、コロナ医療はそうはならない。コロナの確保病床、即応病床のデータは、都道府県の調整チームで「見える化」を図り対応している。神奈川県では早くから「神奈川モデル」を構築し、重症、中等症、軽症に応じた医療機関を整備し安定的な医療提供を図ってきている。この理解を欠いた議論の展開は禁物である。
フリーアクセスが機能しない? 頓珍漢な空論に閉口
牽強付会の「かかりつけ医機能」の制度化
典型は、フリーアクセスへの難論、である。「建議」は、コロナ禍「第5波」のピーク時には全国で約 13 万6千人の自宅療養者、約3万6千人の入院先調整中が発生し、この方々の外来医療・在宅医療のアクセスの機会は限られていたとし、「世界有数の外来受診回数の多さをもって我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった」と指摘している。
既に示したように、コロナ医療は通常医療から途切れ、感染症法による陽性者の隔離をベースに行政主体の医療提供に切り替わっており、論理が破綻している。制度実態を承知していない。
その上、「建議」ではこれに重ねて、受診回数や医療行為の数の「量重視」のフリーアクセスを、「必要な時に必要な医療にアクセスできる」という「質重視」のものに切り替えていく必要がある、と強調。「フリーアクセスと出来高払いに過度に依存した診療報酬体系を温存すれば、患者のみならず医療機関にも不利益となる。制度的対応が不可欠であり、これを欠いたままの診療報酬上の評価は実効性を伴わない」と展開し、かかりつけ医機能の要件を法制上で明確化し、これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を提案している。
あまりにも牽強付会の度が過ぎる。しかも、一松旬・財務省主計官が「わが国の医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった」(MEDIFAXweb 2021.12.9)と専門紙のインタビューに瓜二つの言葉で応じており確信犯である。
かかりつけ医は疾病に応じ患者は複数持っており、制度化は医療実態に合わず、医療界は反対している。「機能」の制度化と書きぶりを変えても、「かかりつけ医」の制度化と同じである。
日本の医療は健闘してきている
低医療費政策の下でもコロナ禍、底力を発揮した
またもうひとつの典型もある。「建議」は医療提供体制の歪みの是正、病床機能の促進を唱え、低密度医療とあげつらった上で、地域医療構想の実現、医療機関の再編統合への言及を繰り返している。
この問題の本質は、長年の低医療費政策により、①専門人材や医療設備の充実、機能強化が全体的に図られず、余裕のない医療提供体制となっていたことと、②それに加えて感染症対策が後景に追いやられていたことにある。そのため医療体制が逼迫し、脆弱性が顕わになったのである。
そもそも地域医療構想には感染症対応は含まれてこなかったし、高度急性期や急性期の病床削減にともなう「病床機能の強化」に必須な医師・看護師などの医療人材の増加や入院医療費の増加が想定されてこなかったことも指摘をしておきたい。
先進諸外国との比較で、病床数の多さが論じられるが、高度急性期及び急性期病床の数は30万床程度であり、人口比では諸外国よりも少ない。よって、コロナ対応が可能な病床も同様である。その下で、各病院が努力し、療養病床をコロナ対応病床へ転換を図るなどの尽力をし、コロナ患者を受け入れ、入院治療に注力してきている。死亡者数(12/12現在)が日本は100万人あたり145.2人で、米国の2,408.9人や英国2,163.9人、独国1262.3人、仏国1860.1人と比較しても1/16~1/8と格段に少ないのである。
当然ながら、ベッドが患者を診るのではなく、医師や看護師が診療にあたるのである。
「ある意味で無駄に見えていたものが、今回の感染では非常に役に立った」は至言
今年の1月、民間病院バッシング報道があったが、以下の大阪大学大学院医学系研究科・医学部 感染制御学講座 教授・忽那賢志氏の指摘は明晰で正鵠を得ている。
そもそも医療機関で新型コロナを診療するためには「患者を診る」だけでなく「感染対策が適切に行える」必要があります。新型コロナ診療を行うキャパシティのある民間病院はすでに新型コロナの患者を診ている、というのが私の印象です。
今新型コロナ患者を診ていない民間の医療機関は、感染症専門医もいなければ感染対策の専門家もいない、という施設が多く、こうした民間の医療機関に何のバックアップもないままに「コロナの患者を診ろ」と強制しベッドだけ確保したとしても、適切な治療は行われず、病院内クラスターが発生して患者を増やしてしまう事になりかねません。
(略)現在は専門家も他院の指導に回る余裕はありませんし、病院のコロナ患者の導線を確認し、コロナ患者を診療する病棟のゾーニングを行い、診療に当たる職員の個人防護具の着脱のためのトレーニングを行い・・・といった準備は一朝一夕で身につくものでもありません。(略)単純にお金で解決する問題ではないでしょう。少なくとも単にお金を配って病床を確保するのではなく、「医療従事者の安全」と「診療の質」の両方が担保された上で民間の医療機関での診療拡充を行うべきと考えます。
(略)現在、新型コロナ診療を行っている医療機関は、多かれ少なかれ通常診療の規模を縮小していますので、新型コロナ診療を行っていない民間の医療機関は、
-
新型コロナを診療している病院がこれまで診ていた、コロナ以外の患者の診療をカバーする
-
新型コロナ診療医療機関からの転院など後方支援を徹底する
ということで相互に協力をする、というのが現時点では望ましいのではないかと思います。
(「医療が逼迫しているのは民間病院のせいなのか?」 Yahoo! JAPAN 2021.1.17)
地域医療構想については、日本医師会名誉会長・横倉義武氏の以下は至言である。
「幸いなことに、地域医療構想が徐々に進められてきたために、まだ病床の統合再編が行われている地域が少なかった。今回多くの患者が発生し、かなり"医療崩壊"に近いところまで追い込まれたが、なんとかそれを持ちこたえることができたのは、そのスピードの遅さがよかったと理解している。我が国の医療提供体制は、ある意味で無駄に見えていたものが、今回の感染では非常に役に立った」
(m3.comレポート2020.5.27 *関連:『新型コロナと向き合う―「かかりつけ医」からの提言』(岩波書店2021))
皆保険医療の盤石化は究極のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)である。地域医療を守り、全ての医療機関の経営安定と医療の底上げのため、ネットプラス改定を求める。
2021年12月14日
皆保険医療の盤石化は究極のSDGs
財政審「建議」の「マイナス改定」と提供体制改変へ反論する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
財務省の強硬姿勢に、医療界は改定率・改定内容に警戒を
2022年度診療報酬改定の改定率は、「本体プラス0.5%」への「上積み」を巡る攻防に現時点の局面は入っている。12月22日の財務・厚労両大臣折衝を視野に関係者の調整が本格化している。
これに先立ち財務省の財政制度等審議会は12月3日、「令和4年度予算の編成等に関する建議」(「建議」)を鈴木財務相に提出した。22年度の診療報酬改定に際し、「マイナス改定」を旗幟鮮明にし、「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」とし、春の「建議」以来の姿勢を一貫し、大きく踏み込むとした。本体と薬価の合計、ネット(全体)での「マイナス改定」如何が焦点となっている。
コロナ禍で20年度概算医療費が前年度比▲1.4兆円(▲3.2%)となり、いまだ医療費は前年度水準の金額にも伸び率にも回復せず、受診件数も前年度を依然と下回っている。補助金の多くはコロナ患者対応の確保病床に振り向けられ、しかも縮小方向にある。コロナ禍で全ての医療機関は面として一体的に地域医療を担ってきた。その経営原資の主体は診療報酬である。「マイナス改定」では、医療基盤が崩れていくことは明白である。われわれは、診療報酬全体の「プラス改定」を強く求める。
コロナ医療は通常医療とは一旦、途切れる関係
医療機関連携や「かかりつけ医」への難論に注意
今回の「建議」で社会保障分野については、11月8日の財政審制度分科会の資料がベースとなっている。既にわれわれは、その数字の詐術や論理歪曲を指摘し反論したので、重複は避けて反論を加える。
総じて「建議」は、コロナ禍にこじつけて、医療についてフィクションを論述・展開し、「自然増」の否定と、薬価の総枠予算制、かかりつけ医の「制度化」への誘導に重きを置いている。
しかもそれは、医療機関連携や機能分担などの構造的問題や、「かかりつけ医」の問題など、コロナ医療への一般の誤解や錯覚を利用した、意図的な世論誘導さえも駆使し、巧妙である。
通常医療とコロナ医療は別モノである。新型コロナの医療は感染症法に基づき、陽性者は保健所の管理下に入り、通常医療とは切れ、入院・宿泊も都道府県行政の調整チームが差配をする。通常医療なら、病院長の間で話をつけて連携をするが、コロナ医療はそうはならない。コロナの確保病床、即応病床のデータは、都道府県の調整チームで「見える化」を図り対応している。神奈川県では早くから「神奈川モデル」を構築し、重症、中等症、軽症に応じた医療機関を整備し安定的な医療提供を図ってきている。この理解を欠いた議論の展開は禁物である。
フリーアクセスが機能しない? 頓珍漢な空論に閉口
牽強付会の「かかりつけ医機能」の制度化
典型は、フリーアクセスへの難論、である。「建議」は、コロナ禍「第5波」のピーク時には全国で約 13 万6千人の自宅療養者、約3万6千人の入院先調整中が発生し、この方々の外来医療・在宅医療のアクセスの機会は限られていたとし、「世界有数の外来受診回数の多さをもって我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった」と指摘している。
既に示したように、コロナ医療は通常医療から途切れ、感染症法による陽性者の隔離をベースに行政主体の医療提供に切り替わっており、論理が破綻している。制度実態を承知していない。
その上、「建議」ではこれに重ねて、受診回数や医療行為の数の「量重視」のフリーアクセスを、「必要な時に必要な医療にアクセスできる」という「質重視」のものに切り替えていく必要がある、と強調。「フリーアクセスと出来高払いに過度に依存した診療報酬体系を温存すれば、患者のみならず医療機関にも不利益となる。制度的対応が不可欠であり、これを欠いたままの診療報酬上の評価は実効性を伴わない」と展開し、かかりつけ医機能の要件を法制上で明確化し、これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を提案している。
あまりにも牽強付会の度が過ぎる。しかも、一松旬・財務省主計官が「わが国の医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった」(MEDIFAXweb 2021.12.9)と専門紙のインタビューに瓜二つの言葉で応じており確信犯である。
かかりつけ医は疾病に応じ患者は複数持っており、制度化は医療実態に合わず、医療界は反対している。「機能」の制度化と書きぶりを変えても、「かかりつけ医」の制度化と同じである。
日本の医療は健闘してきている
低医療費政策の下でもコロナ禍、底力を発揮した
またもうひとつの典型もある。「建議」は医療提供体制の歪みの是正、病床機能の促進を唱え、低密度医療とあげつらった上で、地域医療構想の実現、医療機関の再編統合への言及を繰り返している。
この問題の本質は、長年の低医療費政策により、①専門人材や医療設備の充実、機能強化が全体的に図られず、余裕のない医療提供体制となっていたことと、②それに加えて感染症対策が後景に追いやられていたことにある。そのため医療体制が逼迫し、脆弱性が顕わになったのである。
そもそも地域医療構想には感染症対応は含まれてこなかったし、高度急性期や急性期の病床削減にともなう「病床機能の強化」に必須な医師・看護師などの医療人材の増加や入院医療費の増加が想定されてこなかったことも指摘をしておきたい。
先進諸外国との比較で、病床数の多さが論じられるが、高度急性期及び急性期病床の数は30万床程度であり、人口比では諸外国よりも少ない。よって、コロナ対応が可能な病床も同様である。その下で、各病院が努力し、療養病床をコロナ対応病床へ転換を図るなどの尽力をし、コロナ患者を受け入れ、入院治療に注力してきている。死亡者数(12/12現在)が日本は100万人あたり145.2人で、米国の2,408.9人や英国2,163.9人、独国1262.3人、仏国1860.1人と比較しても1/16~1/8と格段に少ないのである。
当然ながら、ベッドが患者を診るのではなく、医師や看護師が診療にあたるのである。
「ある意味で無駄に見えていたものが、今回の感染では非常に役に立った」は至言
今年の1月、民間病院バッシング報道があったが、以下の大阪大学大学院医学系研究科・医学部 感染制御学講座 教授・忽那賢志氏の指摘は明晰で正鵠を得ている。
そもそも医療機関で新型コロナを診療するためには「患者を診る」だけでなく「感染対策が適切に行える」必要があります。新型コロナ診療を行うキャパシティのある民間病院はすでに新型コロナの患者を診ている、というのが私の印象です。
今新型コロナ患者を診ていない民間の医療機関は、感染症専門医もいなければ感染対策の専門家もいない、という施設が多く、こうした民間の医療機関に何のバックアップもないままに「コロナの患者を診ろ」と強制しベッドだけ確保したとしても、適切な治療は行われず、病院内クラスターが発生して患者を増やしてしまう事になりかねません。
(略)現在は専門家も他院の指導に回る余裕はありませんし、病院のコロナ患者の導線を確認し、コロナ患者を診療する病棟のゾーニングを行い、診療に当たる職員の個人防護具の着脱のためのトレーニングを行い・・・といった準備は一朝一夕で身につくものでもありません。(略)単純にお金で解決する問題ではないでしょう。少なくとも単にお金を配って病床を確保するのではなく、「医療従事者の安全」と「診療の質」の両方が担保された上で民間の医療機関での診療拡充を行うべきと考えます。
(略)現在、新型コロナ診療を行っている医療機関は、多かれ少なかれ通常診療の規模を縮小していますので、新型コロナ診療を行っていない民間の医療機関は、
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新型コロナを診療している病院がこれまで診ていた、コロナ以外の患者の診療をカバーする
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新型コロナ診療医療機関からの転院など後方支援を徹底する
ということで相互に協力をする、というのが現時点では望ましいのではないかと思います。
(「医療が逼迫しているのは民間病院のせいなのか?」 Yahoo! JAPAN 2021.1.17)
地域医療構想については、日本医師会名誉会長・横倉義武氏の以下は至言である。
「幸いなことに、地域医療構想が徐々に進められてきたために、まだ病床の統合再編が行われている地域が少なかった。今回多くの患者が発生し、かなり"医療崩壊"に近いところまで追い込まれたが、なんとかそれを持ちこたえることができたのは、そのスピードの遅さがよかったと理解している。我が国の医療提供体制は、ある意味で無駄に見えていたものが、今回の感染では非常に役に立った」
(m3.comレポート2020.5.27 *関連:『新型コロナと向き合う―「かかりつけ医」からの提言』(岩波書店2021))
皆保険医療の盤石化は究極のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)である。地域医療を守り、全ての医療機関の経営安定と医療の底上げのため、ネットプラス改定を求める。
2021年12月14日