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2023/12/4 政策部長談話「『かかりつけ医機能強化』へ診療報酬のプラス改定を求める 保険料月400円減と交換で地域医療崩壊では元も子もない」
「かかりつけ医機能強化」へ診療報酬のプラス改定を求める
保険料月400円減と交換で地域医療崩壊では元も子もない
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆4,800億円削減の「本体」マイナス改定で診療所の看護師が消える 地域包括ケア構築に逆行
診療報酬改定を巡り、11月20日、財政制度等審議会「建議」は「本体」のマイナス改定が適当とし診療所の報酬単価を初・再診料を中心に5.5%程度引き下げるべきと主張した。改定率換算で1%相当、4,800億円の削減となる。増田会長代理は、会見で「診療所の収益を守るのか、勤労者の手取りを守るのか」と強調した。一方、11月24日、厚労省は中医協に改定の基礎資料となる医療経済実態調査(実調)の結果を報告したが、病院は赤字が拡大、診療所は黒字だが、コロナ禍の診療報酬の特例措置分が来年度以降なくなり薄氷を踏む状況となっている図4。歯科診療所は損益の悪化が5割超であった図6。
財務省の提案は、診療所あたり480万円減となり、看護師給与400万円を上回る。診療所の看護職員のほぼ一人分である図3。つまり、保険料の月400円減(年収500万円の場合)と引き換えに、看護職員1名の雇用を危うくする。確実に診療所経営と診療機能は弱体化する。
少子高齢化が際立つ2040年に向け国策の地域包括ケアの構築の最中、中心に位置づく、かかりつけ医の機能強化、制度整備に向け先般、医療法改正が行われた。診療所はその主力である。これに逆行する本体マイナス改定は論外である。30年ぶりの3.2%の異例の賃上げ状況下、公定価格の診療報酬への反映は、医療からの人材流出を避けるため必須である。診療報酬のプラス改定を強力に求める。
◆首相も医療現場の賃上げは喫緊の課題と答弁 原資の診療報酬プラス改定が道理 統計データも裏打ち
医療は費用の半分が人件費であり、人的サービスの塊である。岸田首相は11月27日の参院予算委員会で「医療現場における賃上げは、喫緊かつ重要な課題だ」と自民党議員の質問に答えている。
厚労省が11月28日発表の「賃金引き上げ等の実態に関する調査」では、従業員1人当たりの平均賃金改定率は3.2%のプラス、前年の改定率は1.9%である。これは残業代や賞与は含まれていない。物価高や人手不足を背景に賃上げに踏み切る企業が増え、比較可能な1999年以降で最大の伸びである。
医療現場の賃上げの原資は診療報酬である。プラス改定が道理となる。
◆「改定率」は医療費の高齢化分の削減手段ではないはず 医療者の士気を挫くべきではない
診療報酬改定とは、高齢化の自然増の上に、調整幅として政策企図をもって財源を変動させ、点数配分する作業である。本来、「本体」と「薬価」の合計の「ネット(全体)」が医療費に影響を与えるため「ネット」で論じるものである。院内処方の医療機関、入院患者に医薬品を使用する病院があり、院外処方の医療機関だけではない。院内処方の医療機関は卸との価格交渉で納入価を引き下げ、その分を経営減資に振り向ける経営努力がある。これを無視した議論は筋が違うのである。
財務省は、2014年改定で薬価の引き下げ分は「フィクション」と唱え、1972年の中医協「建議」での「薬価引き下げ分の技術料(本体)振り替え」を完全に反故にし、「時点修正」「過大要求の積算の修正」と撥ね退けてきた。しかし、これは「リアル」の医療提供に要した医療費である。
1998年以降、実質マイナス改定の連続で、累積▲20%に近い。財務省の伝でいうなら、保険料の引き下げでの天引き所得の増加は毎回、行われているのである。今回殊更、言い募るのは情報操作が過ぎる。
医療費の国庫負担分はいま高齢化分のみ増加を認め、医療の高度化分(技術進歩分)は除外されている。2024年度の概算要求は2,200億円増(医療費ベース8,800億円増)となっている。
この間の診療報酬改定は、この高齢化分をマイナス改定により削減し減額修正してきただけである。今回、薬価に加えて「本体」をマイナスにすれば、医療の再生産や良質な医療の提供、地域医療の基盤の盤石化は望むべくもない。死活問題であり、大転換となる。コロナ禍で、猛暑や極寒の中、駐車場でPPE完全装備と都度交換など、ふらふら状態で診療にあたってきた、医療者の士気も挫くことになる。
◆最頻階級の損益率はコロナの特例報酬込みでも2.3%と僅少 4割は21年度より経営悪化が現実
財務省は診療所の医療法人(無床)の「事業年度報告書等」を入手可能なほぼ全数を集計し2022年度の経常利益率は8.8%で全産業平均(3.1%~3.4%)より高いとし、日医の3.3%プラス要求に対抗するかのように差し引いた▲5.5%を提唱した。しかし、20年度、21年度、22年度の3年間平均の損益率(医業利益率)は5.0%、来年度以降なくなるコロナ禍の診療報酬の特例措置分が1.7%なので、実際は3.3%で全産業と大差がない*1。
過日発表の中医協調査では、最頻損益差額階級の損益率は、診療所・医療法人(無床)はコロナ関連の補助金を除き22年度で2.3%でしかない*2。特例措置分1.7%を除くと、0.6%と僅少である。
また、損益率0%未満(赤字)の診療所・医療法人は22年度に26.8%もあり、21年度より損益率が悪化した診療所・医療法人は42.1%に上る図2。診療所を槍玉にあげた、本体マイナス改定は、成り立たないのである。
◆本体マイナス1%は初・再診料の半減に匹敵 利益剰余金は設備・医療機器更新が使途 赤字のカバーも
2006年改定、10年改定と道理のない、診療所の再診料引き下げに際し、われわれは将来の感染爆発(パンデミック)を懸念し、第一線医療の果たす役割が極めて重要だと説き、現場の士気を挫かないよう撤回を求めた。しかし敢行された。図らずも到来したが、コロナ禍、第一線医療は二次、三次医療とともに尽力し、先進諸国の中でコロナ死者数やコロナ死亡率を最小限に抑えている。
しかも、コロナ禍の最中でも、医療者の尽力により、国民、県民の医療満足度は不変かむしろ向上している*3。英国のGP(一般医)が評価を激減させており、格段に異なっている。これを踏みにじり診療所を標的としたマイナス改定は医療者の人心を荒廃させる。
コロナ禍の感染爆発は「利益剰余金」で減収分を工面した診療所も少なくない。損益率の赤字も利益剰余金で凌いだが、本来は医療機器の設備更新や診療所の大規模修繕等の医療の再生産のためのストックである。通常の運転資金フローは診療報酬で賄うものである。
診療所の再診料は1点引き下げで約100億円削減、初診料は1点引き下げで約20億円削減となる。この間の診療報酬改定は本体0.1%(約480億円)の攻防であり、本体▲1%4,800億円削減という数字は、初・再診料を半減とするべらぼうな数字である。壊滅的な規模となる。焦点の外来管理加算の廃止は実に2,500億円削減となる。内科系の無形技術の評価が吹き飛んでもまだ削減されることになる。
◆平均値では実相は見誤る 「足元」の数字で「未来」語るべき、「過去」の数字を語っても未来は拓けない
財務省の機動的調査も中医協の医療経済実態調査も「平均値」を「代表値」として論じられている。しかし、医療機関の保険診療収入は正規分布しておらず実像と乖離がある。
診療所の保険収入は4割が5千万円未満であり、最頻値は5,000万円図1である。過去の「医療費の動向」や会計検査院調査で示されており、マイナス改定を鑑みれば変動はない。診療所の半数となる「中央値」は7,400万円程度であり、中医協実調の「平均値」で示された1億4,000万円で論じるのは無理がある。
歯科診療所は最頻値2,500万円で中央値3,300万円、平均値が4,000万円図5であり、中医協実調が平均値で示す7,000万円近傍は、明らかに高いのである。
よって、①「保険診療収益」の階級別分布や、②「保険診療収益」と「損益率」の相関分布、③「最頻階級の保険診療収益の診療所」の損益状況を示す資料は、改定率を考える上で必須である。地域医療を面として支えていることがコロナ禍でより顕在化しただけに不可欠だと考える。
加えて、事業年度単位データでの年度の対象期間のバラつきの限界(3月決算データは2割、半年分のデータのズレ等)を補完するため、今回の中医協実調ではなくなった、当年6月の単月調査は復活させるべきだと考える。11月28日に病院3団体が「2023年度病院経営定期調査」結果で23年6月データを示し100床当たり2,201万円の赤字と公表したが、現下の物価・賃金上昇局面では必須である。
「足元」の数字ではなく「過去」の数字で「未来」を判断しては誤るだけである。さすがに厚労省が、当年度の推計値を資料提出したのは面目躍如である。「足元で進む賃上げの動きに「過去のやり方では対応できない」(厚労省幹部)」(朝日新聞2023.11.25「診療報酬めぐる攻防 激化」)は見識である。
われわれは改めて、初・再診料、入院基本料の引き上げと診療報酬のプラス改定を強く求める。
2023年12月4日
*1:2023.11.22日本医師会「令和6年度診療報酬改定について~財務省財政制度等審議会「秋の建議」を受けて~」資料
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20231122_2.pdf
*2:「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」P288
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001170596.pdf
*3:『日本医事新報』2023.11.4「コロナ禍で国民の医療満足度は低下したか?{深層を読む・真相を解く(137)}」
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=23032
2023.11.29神奈川県保険医協会・医療政策研究室論考「首都圏の医療満足度 コロナ禍でも不変、若干増」神奈川県保険医協会・医療政策研究室論考「首都圏の医療満足度 コロナ禍でも不変、若干増」
https://www.hoken-i.co.jp/outline/58076ea5f7f2228aaab698238b8bd18617120707.pdf
◆診療所の4割が保険診療収入5,000万円未満 最頻値は5,000万円 中央値7,400万円 平均値1億円!
<図1>
(厚労省「医療費の動向」トピックス「施設単位でみる医療費等の分布状況(平成28年度版)」より)
◆診療所(医療法人):2022年度の損益率0%未満(赤字)のは26.8%(左)、経営悪化は42.1%(右)
<図2>
(「第24回医療経済実態調査(医療機関調査)報告」より)
◆改定率マイナス1%(4,800億円)は10万診療所で除し1診療所あたり480万円 看護職員給与を上回る
<図3>
(左:「第24回医療経済実態調査(医療機関調査)報告」より。給料は賞与含む。右:「2022年医療施設(動態)調査」より)
※看護職員数:41.0人月/30日=1.36人 上記調査結果の開設者別延べ人員数(全体)より
◆診療所(医療法人)の利益率はコロナ報酬特例等を除くとコロナ後平均5.6%で以前の6.2%を下回る
<図4>
(2023.11.24中医協資料「総-1-3」より)
◆歯科診療所の保険診療収入 最頻値2,500万円 中央値3,300万円 平均値は4,000万円?!
<図5>
(厚労省「医療費の動向」トピックス「施設単位でみる医療費等の分布状況(平成28年度版)」より)
◆歯科診療所:2022年度の損益率0%未満(赤字)は16.9%(左)、経営悪化は54.0%(右)
<図6>
「かかりつけ医機能強化」へ診療報酬のプラス改定を求める
保険料月400円減と交換で地域医療崩壊では元も子もない
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆4,800億円削減の「本体」マイナス改定で診療所の看護師が消える 地域包括ケア構築に逆行
診療報酬改定を巡り、11月20日、財政制度等審議会「建議」は「本体」のマイナス改定が適当とし診療所の報酬単価を初・再診料を中心に5.5%程度引き下げるべきと主張した。改定率換算で1%相当、4,800億円の削減となる。増田会長代理は、会見で「診療所の収益を守るのか、勤労者の手取りを守るのか」と強調した。一方、11月24日、厚労省は中医協に改定の基礎資料となる医療経済実態調査(実調)の結果を報告したが、病院は赤字が拡大、診療所は黒字だが、コロナ禍の診療報酬の特例措置分が来年度以降なくなり薄氷を踏む状況となっている図4。歯科診療所は損益の悪化が5割超であった図6。
財務省の提案は、診療所あたり480万円減となり、看護師給与400万円を上回る。診療所の看護職員のほぼ一人分である図3。つまり、保険料の月400円減(年収500万円の場合)と引き換えに、看護職員1名の雇用を危うくする。確実に診療所経営と診療機能は弱体化する。
少子高齢化が際立つ2040年に向け国策の地域包括ケアの構築の最中、中心に位置づく、かかりつけ医の機能強化、制度整備に向け先般、医療法改正が行われた。診療所はその主力である。これに逆行する本体マイナス改定は論外である。30年ぶりの3.2%の異例の賃上げ状況下、公定価格の診療報酬への反映は、医療からの人材流出を避けるため必須である。診療報酬のプラス改定を強力に求める。
◆首相も医療現場の賃上げは喫緊の課題と答弁 原資の診療報酬プラス改定が道理 統計データも裏打ち
医療は費用の半分が人件費であり、人的サービスの塊である。岸田首相は11月27日の参院予算委員会で「医療現場における賃上げは、喫緊かつ重要な課題だ」と自民党議員の質問に答えている。
厚労省が11月28日発表の「賃金引き上げ等の実態に関する調査」では、従業員1人当たりの平均賃金改定率は3.2%のプラス、前年の改定率は1.9%である。これは残業代や賞与は含まれていない。物価高や人手不足を背景に賃上げに踏み切る企業が増え、比較可能な1999年以降で最大の伸びである。
医療現場の賃上げの原資は診療報酬である。プラス改定が道理となる。
◆「改定率」は医療費の高齢化分の削減手段ではないはず 医療者の士気を挫くべきではない
診療報酬改定とは、高齢化の自然増の上に、調整幅として政策企図をもって財源を変動させ、点数配分する作業である。本来、「本体」と「薬価」の合計の「ネット(全体)」が医療費に影響を与えるため「ネット」で論じるものである。院内処方の医療機関、入院患者に医薬品を使用する病院があり、院外処方の医療機関だけではない。院内処方の医療機関は卸との価格交渉で納入価を引き下げ、その分を経営減資に振り向ける経営努力がある。これを無視した議論は筋が違うのである。
財務省は、2014年改定で薬価の引き下げ分は「フィクション」と唱え、1972年の中医協「建議」での「薬価引き下げ分の技術料(本体)振り替え」を完全に反故にし、「時点修正」「過大要求の積算の修正」と撥ね退けてきた。しかし、これは「リアル」の医療提供に要した医療費である。
1998年以降、実質マイナス改定の連続で、累積▲20%に近い。財務省の伝でいうなら、保険料の引き下げでの天引き所得の増加は毎回、行われているのである。今回殊更、言い募るのは情報操作が過ぎる。
医療費の国庫負担分はいま高齢化分のみ増加を認め、医療の高度化分(技術進歩分)は除外されている。2024年度の概算要求は2,200億円増(医療費ベース8,800億円増)となっている。
この間の診療報酬改定は、この高齢化分をマイナス改定により削減し減額修正してきただけである。今回、薬価に加えて「本体」をマイナスにすれば、医療の再生産や良質な医療の提供、地域医療の基盤の盤石化は望むべくもない。死活問題であり、大転換となる。コロナ禍で、猛暑や極寒の中、駐車場でPPE完全装備と都度交換など、ふらふら状態で診療にあたってきた、医療者の士気も挫くことになる。
◆最頻階級の損益率はコロナの特例報酬込みでも2.3%と僅少 4割は21年度より経営悪化が現実
財務省は診療所の医療法人(無床)の「事業年度報告書等」を入手可能なほぼ全数を集計し2022年度の経常利益率は8.8%で全産業平均(3.1%~3.4%)より高いとし、日医の3.3%プラス要求に対抗するかのように差し引いた▲5.5%を提唱した。しかし、20年度、21年度、22年度の3年間平均の損益率(医業利益率)は5.0%、来年度以降なくなるコロナ禍の診療報酬の特例措置分が1.7%なので、実際は3.3%で全産業と大差がない*1。
過日発表の中医協調査では、最頻損益差額階級の損益率は、診療所・医療法人(無床)はコロナ関連の補助金を除き22年度で2.3%でしかない*2。特例措置分1.7%を除くと、0.6%と僅少である。
また、損益率0%未満(赤字)の診療所・医療法人は22年度に26.8%もあり、21年度より損益率が悪化した診療所・医療法人は42.1%に上る図2。診療所を槍玉にあげた、本体マイナス改定は、成り立たないのである。
◆本体マイナス1%は初・再診料の半減に匹敵 利益剰余金は設備・医療機器更新が使途 赤字のカバーも
2006年改定、10年改定と道理のない、診療所の再診料引き下げに際し、われわれは将来の感染爆発(パンデミック)を懸念し、第一線医療の果たす役割が極めて重要だと説き、現場の士気を挫かないよう撤回を求めた。しかし敢行された。図らずも到来したが、コロナ禍、第一線医療は二次、三次医療とともに尽力し、先進諸国の中でコロナ死者数やコロナ死亡率を最小限に抑えている。
しかも、コロナ禍の最中でも、医療者の尽力により、国民、県民の医療満足度は不変かむしろ向上している*3。英国のGP(一般医)が評価を激減させており、格段に異なっている。これを踏みにじり診療所を標的としたマイナス改定は医療者の人心を荒廃させる。
コロナ禍の感染爆発は「利益剰余金」で減収分を工面した診療所も少なくない。損益率の赤字も利益剰余金で凌いだが、本来は医療機器の設備更新や診療所の大規模修繕等の医療の再生産のためのストックである。通常の運転資金フローは診療報酬で賄うものである。
診療所の再診料は1点引き下げで約100億円削減、初診料は1点引き下げで約20億円削減となる。この間の診療報酬改定は本体0.1%(約480億円)の攻防であり、本体▲1%4,800億円削減という数字は、初・再診料を半減とするべらぼうな数字である。壊滅的な規模となる。焦点の外来管理加算の廃止は実に2,500億円削減となる。内科系の無形技術の評価が吹き飛んでもまだ削減されることになる。
◆平均値では実相は見誤る 「足元」の数字で「未来」語るべき、「過去」の数字を語っても未来は拓けない
財務省の機動的調査も中医協の医療経済実態調査も「平均値」を「代表値」として論じられている。しかし、医療機関の保険診療収入は正規分布しておらず実像と乖離がある。
診療所の保険収入は4割が5千万円未満であり、最頻値は5,000万円図1である。過去の「医療費の動向」や会計検査院調査で示されており、マイナス改定を鑑みれば変動はない。診療所の半数となる「中央値」は7,400万円程度であり、中医協実調の「平均値」で示された1億4,000万円で論じるのは無理がある。
歯科診療所は最頻値2,500万円で中央値3,300万円、平均値が4,000万円図5であり、中医協実調が平均値で示す7,000万円近傍は、明らかに高いのである。
よって、①「保険診療収益」の階級別分布や、②「保険診療収益」と「損益率」の相関分布、③「最頻階級の保険診療収益の診療所」の損益状況を示す資料は、改定率を考える上で必須である。地域医療を面として支えていることがコロナ禍でより顕在化しただけに不可欠だと考える。
加えて、事業年度単位データでの年度の対象期間のバラつきの限界(3月決算データは2割、半年分のデータのズレ等)を補完するため、今回の中医協実調ではなくなった、当年6月の単月調査は復活させるべきだと考える。11月28日に病院3団体が「2023年度病院経営定期調査」結果で23年6月データを示し100床当たり2,201万円の赤字と公表したが、現下の物価・賃金上昇局面では必須である。
「足元」の数字ではなく「過去」の数字で「未来」を判断しては誤るだけである。さすがに厚労省が、当年度の推計値を資料提出したのは面目躍如である。「足元で進む賃上げの動きに「過去のやり方では対応できない」(厚労省幹部)」(朝日新聞2023.11.25「診療報酬めぐる攻防 激化」)は見識である。
われわれは改めて、初・再診料、入院基本料の引き上げと診療報酬のプラス改定を強く求める。
2023年12月4日
*1:2023.11.22日本医師会「令和6年度診療報酬改定について~財務省財政制度等審議会「秋の建議」を受けて~」資料
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20231122_2.pdf
*2:「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」P288
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001170596.pdf
*3:『日本医事新報』2023.11.4「コロナ禍で国民の医療満足度は低下したか?{深層を読む・真相を解く(137)}」
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=23032
2023.11.29神奈川県保険医協会・医療政策研究室論考「首都圏の医療満足度 コロナ禍でも不変、若干増」神奈川県保険医協会・医療政策研究室論考「首都圏の医療満足度 コロナ禍でも不変、若干増」
https://www.hoken-i.co.jp/outline/58076ea5f7f2228aaab698238b8bd18617120707.pdf
◆診療所の4割が保険診療収入5,000万円未満 最頻値は5,000万円 中央値7,400万円 平均値1億円!
<図1>
(厚労省「医療費の動向」トピックス「施設単位でみる医療費等の分布状況(平成28年度版)」より)
◆診療所(医療法人):2022年度の損益率0%未満(赤字)のは26.8%(左)、経営悪化は42.1%(右)
<図2>
(「第24回医療経済実態調査(医療機関調査)報告」より)
◆改定率マイナス1%(4,800億円)は10万診療所で除し1診療所あたり480万円 看護職員給与を上回る
<図3>
(左:「第24回医療経済実態調査(医療機関調査)報告」より。給料は賞与含む。右:「2022年医療施設(動態)調査」より)
※看護職員数:41.0人月/30日=1.36人 上記調査結果の開設者別延べ人員数(全体)より
◆診療所(医療法人)の利益率はコロナ報酬特例等を除くとコロナ後平均5.6%で以前の6.2%を下回る
<図4>
(2023.11.24中医協資料「総-1-3」より)
◆歯科診療所の保険診療収入 最頻値2,500万円 中央値3,300万円 平均値は4,000万円?!
<図5>
(厚労省「医療費の動向」トピックス「施設単位でみる医療費等の分布状況(平成28年度版)」より)
◆歯科診療所:2022年度の損益率0%未満(赤字)は16.9%(左)、経営悪化は54.0%(右)
<図6>