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2015/4/23 政策部長談話 「『患者申出療養』は安全性・有効性が『承認』されるのではない 『期待』レベルでの『確認』、保険外併用の『実施』判断でしかない」

「患者申出療養」は安全性・有効性が「承認」されるのではない

「期待」レベルでの「確認」、保険外併用の「実施」判断でしかない

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 医療改革関連法案に盛り込まれた、「患者申出療養」の国会審議が重ねられている。この制度は有効性・安全性が「未確立」な医療を、患者の申し出を起点にして「迅速に」実施する保険外併用療養(混合診療)である。この運用スキームに関し、安全性・有効性を国が承認し実施するもの、との誤解が国会論戦や巷で広がっている感がある。しかし、国が審査するのは医療技術等の「実施計画」における、安全性・有効性の「評価方法」の妥当性であり、安全性・有効性に関しては、その確保が「期待」できることの「確認」でしかない。「承認」は「実施計画」の妥当性を踏まえた保険外併用療養、つまり混合診療の実施に与えられる。従来以上に短時間で審査し、しかも国の関与を緩める、規制緩和の象徴、患者申出療養は健康保険と臨床研究のルール、倫理を混乱、破壊させる。改めて撤回を求める。

◆臨床試験の「実施計画」の妥当性判断の限界

 未承認薬等を使用する保険外併用療養は、現在「先進医療B」として臨床研究の倫理指針(現「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」)の範疇で「実施計画」の作成を前提に、臨床研究(臨床試験)として、便法的に認められている。患者申出療養はこの延長線上に位置付き、違いは「患者起点」と「迅速化」であり、法案からも明確である。

 焦点の迅速化は、医療機関の申請から承認まで6カ月かかるものを6週間~2週間に短縮するものであり、これに関し国会などで安全性・有効性の審査が「可能」なのか、と疑問符がついている。

 しかし、いまある先進医療Bでさえ、安全性・有効性は国に担保されていない。審査で承認される要件のひとつが、安全性・有効性が客観的に確認できることが「期待」できる「実施計画」であり、申請書式で安全性・有効性の「評価方法」「評価基準」の記載が求められているに過ぎない。申請にあたっても査読論文の添付は不要で、期待できる科学的根拠があればよいと通知上も明確である。

 臨床研究、臨床試験は、医薬品等の製品化のための治験の前段階であり、これらは科学的検証のプロセスの中にある。有効性・安全性は「未確立」である。当然ながら、安全性・有効性は科学的には証明されておらず、国がそれを承認することは不可能である。

 患者申出療養もこれを踏襲することになる。実施計画(プロトコル)の審査が6カ月から6週間に短縮となることで、懸念されるのは「実施計画」のチェックが厳格に出来得るのかである

 患者申出療養は、前例のある医療技術を別の医療機関が実施する場合、前例を国に申請した臨床研究中核病院に「共同研究」の形で実施を申請する。この申請は臨床研究中核病院が、安全に実施できるかどうかの医療機関の「体制」について審査し承認する。この審査は、これまでの「施設基準」と違い、「特定機能病院」や「がん診療連携拠点病院」など、国が医療技術ごとに示す大まかな「施設指標」での判断となる。

 つまり、「実施計画」の妥当性判断の杜撰化や形骸化、登録症例数の確保のための、「共同研究」参加医療機関の安易な増加、そういう点が不安視される。これが問題点となる。

 患者申出療養は、中医協や社保審資料で、「安全性・有効性が確立すれば、保険適用」と記されており、「未確立」な医療であることは論をまたない。

◆再生医療の産業化との結託の心配

 また、患者申出療養が治験の形骸化のバイパスになる懸念だが、治験を経て製品化しない限りは上市できず、保険収載もありえないため、販売の観点から未承認薬では考えにくいが、症例数の少ない希少薬剤等ではありうる。ただ、4月17日に国会で唐澤保険局長が治験逃れを戒める否定的な見解を述べており、歯止めがかかると考えたい。

 懸念されるのが、効能・効果・用法・容量が承認されていない、適用外薬や医療機器の適応外使用(適応外機器)における、現在の公知申請の枠組みの乱用である。医学薬学上の文献、データを基に検討会で安全性・有効性を検討し、治験を省略して、承認へと繋いでいるが、患者申出療養での「実績」「既成事実化」をもって、医学薬学上の文献にとって代わられる危険はある。医工連携がクローズアップされているだけに猶更である。

 それ以上に再生医療分野との結合が憂慮される。そもそも、この患者申出療養の前身は、規制改革会議の提案した「選択療養」―患者と医療機関が合意し「診療計画」を策定すれば混合診療は何でも可能、という仕組みであり、その発端は一昨年の規制改革会議の公開ディスカッションである。ここでは混合診療をテーマに会議の委員から厚労省へ、拡充・拡大、全面解禁を強く求められている。この委員の一人は、再生医療製品の会社の創業者であり、この討論の日の午前中、東京証券取引所で再生医療製品の早期実用化に向けた薬事法改定について日本再興戦略に触れながら紹介。午後の混合診療の討論にも言及している。昨年はもう一つの顔である健康・医療戦略推進会議の参与として、参与会合でこの早期実用化の承認制と患者申出療養に触れている。この早期承認とは、治験での安全性確認と有効性の「推定」で、条件・期限付き承認をし「市販」、患者同意のもと使用をし、期限内に再度、「本承認」のための申請をし、適否を判断するものである。患者申出療養は、臨床実用とデータ収集を混合診療で可能とする。ここに期待が込められている。

◆大臣答弁の不思議 保険収載に向けた実施計画?

 国会論戦では、厚労大臣答弁で「保険収載に向けた実施計画」という言葉が繰り返されている。この実施計画は、臨床研究の倫理指針に基づく臨床研究、臨床試験の「実施計画」であると厚労省は当会の照会に応じてきた。中医協資料でも、「保険収載に向け、治験等に進むための判断ができるよう、実施計画を作成し、国において確認する」(2014.10.22)と出されていたが、この大臣答弁は、保険収載に向けた簡単なロードマップ的なものを想起させる。

 厚労大臣が4月17日、答弁で述べたように法文には"保険適用を目指す"、とはどこにも記されていない。保険収載に向けては「治験」は必須であり、前段の臨床研究(臨床試験)も「実施計画」(プロトコル)の作成が科学的検証のために必須だが、この点が意外と「素通り」されている感が強い。

 過日4月14日の当会の照会に、保険局医療課は臨床研究中核病院が介在することを理由に否定はしてみせたが、治験や臨床試験の「適格基準外」の患者をも対象にした制度であり、非常に心許ない。腹腔鏡事件の群馬大学は臨床研究中核病院である。また現在の先進医療Bで、倫理違反となり削除された金沢大学のカフェイン併用化学療法は、17日に厚労省の先進医療技術部会で安全性・有効性の解明に至らずとの報告が病院側からなされているが、関係者は文書訓告と口頭注意の処分である。ガバナンスが問われている。

◆科学研究と医療保険制度の峻別を

 医療・医学の進歩、発展は必要であり否定するものではない。科学研究費により推進すべきである。これを患者申出療養と称し、未確立な研究・試験段階の医療と保険診療の併用させることは、保険診療を歪め、保険財政を流用し、患者を翻弄する形で制度化することに他ならない。保険診療の充実にとっても、臨床研究の水準向上にとっても、結果的には悪影響が大きいと考える。改めて患者申出療養の撤回を求める。

2015年4月23日

「患者申出療養」は安全性・有効性が「承認」されるのではない

「期待」レベルでの「確認」、保険外併用の「実施」判断でしかない

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 医療改革関連法案に盛り込まれた、「患者申出療養」の国会審議が重ねられている。この制度は有効性・安全性が「未確立」な医療を、患者の申し出を起点にして「迅速に」実施する保険外併用療養(混合診療)である。この運用スキームに関し、安全性・有効性を国が承認し実施するもの、との誤解が国会論戦や巷で広がっている感がある。しかし、国が審査するのは医療技術等の「実施計画」における、安全性・有効性の「評価方法」の妥当性であり、安全性・有効性に関しては、その確保が「期待」できることの「確認」でしかない。「承認」は「実施計画」の妥当性を踏まえた保険外併用療養、つまり混合診療の実施に与えられる。従来以上に短時間で審査し、しかも国の関与を緩める、規制緩和の象徴、患者申出療養は健康保険と臨床研究のルール、倫理を混乱、破壊させる。改めて撤回を求める。

◆臨床試験の「実施計画」の妥当性判断の限界

 未承認薬等を使用する保険外併用療養は、現在「先進医療B」として臨床研究の倫理指針(現「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」)の範疇で「実施計画」の作成を前提に、臨床研究(臨床試験)として、便法的に認められている。患者申出療養はこの延長線上に位置付き、違いは「患者起点」と「迅速化」であり、法案からも明確である。

 焦点の迅速化は、医療機関の申請から承認まで6カ月かかるものを6週間~2週間に短縮するものであり、これに関し国会などで安全性・有効性の審査が「可能」なのか、と疑問符がついている。

 しかし、いまある先進医療Bでさえ、安全性・有効性は国に担保されていない。審査で承認される要件のひとつが、安全性・有効性が客観的に確認できることが「期待」できる「実施計画」であり、申請書式で安全性・有効性の「評価方法」「評価基準」の記載が求められているに過ぎない。申請にあたっても査読論文の添付は不要で、期待できる科学的根拠があればよいと通知上も明確である。

 臨床研究、臨床試験は、医薬品等の製品化のための治験の前段階であり、これらは科学的検証のプロセスの中にある。有効性・安全性は「未確立」である。当然ながら、安全性・有効性は科学的には証明されておらず、国がそれを承認することは不可能である。

 患者申出療養もこれを踏襲することになる。実施計画(プロトコル)の審査が6カ月から6週間に短縮となることで、懸念されるのは「実施計画」のチェックが厳格に出来得るのかである

 患者申出療養は、前例のある医療技術を別の医療機関が実施する場合、前例を国に申請した臨床研究中核病院に「共同研究」の形で実施を申請する。この申請は臨床研究中核病院が、安全に実施できるかどうかの医療機関の「体制」について審査し承認する。この審査は、これまでの「施設基準」と違い、「特定機能病院」や「がん診療連携拠点病院」など、国が医療技術ごとに示す大まかな「施設指標」での判断となる。

 つまり、「実施計画」の妥当性判断の杜撰化や形骸化、登録症例数の確保のための、「共同研究」参加医療機関の安易な増加、そういう点が不安視される。これが問題点となる。

 患者申出療養は、中医協や社保審資料で、「安全性・有効性が確立すれば、保険適用」と記されており、「未確立」な医療であることは論をまたない。

◆再生医療の産業化との結託の心配

 また、患者申出療養が治験の形骸化のバイパスになる懸念だが、治験を経て製品化しない限りは上市できず、保険収載もありえないため、販売の観点から未承認薬では考えにくいが、症例数の少ない希少薬剤等ではありうる。ただ、4月17日に国会で唐澤保険局長が治験逃れを戒める否定的な見解を述べており、歯止めがかかると考えたい。

 懸念されるのが、効能・効果・用法・容量が承認されていない、適用外薬や医療機器の適応外使用(適応外機器)における、現在の公知申請の枠組みの乱用である。医学薬学上の文献、データを基に検討会で安全性・有効性を検討し、治験を省略して、承認へと繋いでいるが、患者申出療養での「実績」「既成事実化」をもって、医学薬学上の文献にとって代わられる危険はある。医工連携がクローズアップされているだけに猶更である。

 それ以上に再生医療分野との結合が憂慮される。そもそも、この患者申出療養の前身は、規制改革会議の提案した「選択療養」―患者と医療機関が合意し「診療計画」を策定すれば混合診療は何でも可能、という仕組みであり、その発端は一昨年の規制改革会議の公開ディスカッションである。ここでは混合診療をテーマに会議の委員から厚労省へ、拡充・拡大、全面解禁を強く求められている。この委員の一人は、再生医療製品の会社の創業者であり、この討論の日の午前中、東京証券取引所で再生医療製品の早期実用化に向けた薬事法改定について日本再興戦略に触れながら紹介。午後の混合診療の討論にも言及している。昨年はもう一つの顔である健康・医療戦略推進会議の参与として、参与会合でこの早期実用化の承認制と患者申出療養に触れている。この早期承認とは、治験での安全性確認と有効性の「推定」で、条件・期限付き承認をし「市販」、患者同意のもと使用をし、期限内に再度、「本承認」のための申請をし、適否を判断するものである。患者申出療養は、臨床実用とデータ収集を混合診療で可能とする。ここに期待が込められている。

◆大臣答弁の不思議 保険収載に向けた実施計画?

 国会論戦では、厚労大臣答弁で「保険収載に向けた実施計画」という言葉が繰り返されている。この実施計画は、臨床研究の倫理指針に基づく臨床研究、臨床試験の「実施計画」であると厚労省は当会の照会に応じてきた。中医協資料でも、「保険収載に向け、治験等に進むための判断ができるよう、実施計画を作成し、国において確認する」(2014.10.22)と出されていたが、この大臣答弁は、保険収載に向けた簡単なロードマップ的なものを想起させる。

 厚労大臣が4月17日、答弁で述べたように法文には"保険適用を目指す"、とはどこにも記されていない。保険収載に向けては「治験」は必須であり、前段の臨床研究(臨床試験)も「実施計画」(プロトコル)の作成が科学的検証のために必須だが、この点が意外と「素通り」されている感が強い。

 過日4月14日の当会の照会に、保険局医療課は臨床研究中核病院が介在することを理由に否定はしてみせたが、治験や臨床試験の「適格基準外」の患者をも対象にした制度であり、非常に心許ない。腹腔鏡事件の群馬大学は臨床研究中核病院である。また現在の先進医療Bで、倫理違反となり削除された金沢大学のカフェイン併用化学療法は、17日に厚労省の先進医療技術部会で安全性・有効性の解明に至らずとの報告が病院側からなされているが、関係者は文書訓告と口頭注意の処分である。ガバナンスが問われている。

◆科学研究と医療保険制度の峻別を

 医療・医学の進歩、発展は必要であり否定するものではない。科学研究費により推進すべきである。これを患者申出療養と称し、未確立な研究・試験段階の医療と保険診療の併用させることは、保険診療を歪め、保険財政を流用し、患者を翻弄する形で制度化することに他ならない。保険診療の充実にとっても、臨床研究の水準向上にとっても、結果的には悪影響が大きいと考える。改めて患者申出療養の撤回を求める。

2015年4月23日