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2015/5/28 理事会声明「皆保険制度の大転換、医療制度改革法の成立に断固抗議する」

皆保険制度の大転換、医療制度改革法の成立に断固抗議する

                           神奈川県保険医協会

                               第26期第34回理事会


 医療制度改革関連法案が5月27日、参院本会議で可決され、成立した。39本もの法律を一括法案とする「異常」や、審議時間が実質、衆院19時間、参院18時間の「拙速」は、重要法案では過去に類例がなく、民主主義のルールを大きく踏み外し、憲政史上に重大な禍根を残した。それ以上に、法案は参院審議でも明らかになった混合診療の「自由化」、未確立な医療、実験医療の蔓延の危険や、社会保険の民間保険化に道を開くなど、時代転換的な内容を多岐に含んでおり、皆保険制度、社会保障制度に大きな風穴をあけるものとなっている。第一線医療を担う開業医団体として地域医療を壊す、今法案の成立に断固抗議する。

◆矛盾の集約点、患者申出療養 実質は混合診療の自由化 やはり同床異夢だった「実施計画」

 参院の委員会審議では、「患者申出療養」に大半の質疑が集中。制度の矛盾が次々と明らかになり、大臣、局長答弁が支離滅裂となっている。

 最たるものは、臨床研究の倫理指針に基づく実施としつつ、「実施計画(プロトコル)」の適格基準外への実施を予定している点にある。このプロトコル逸脱、倫理違反に関し、患者申出療養では「実施計画=プロトコル」ではなく、「実施計画にプロトコルが含まれる」との方便を駆使。適格基準外へは個別に実施計画を作成するもののプロトコルは「含まない」とした。つまり、症例データは科学的統計学的に意味がなく、単なる症例報告にすぎず、データ集積、保険収載に繋がらない。国会ではこの暴露と厚労省の規制改革会議への反論と矛盾すると追及されている。プロトコル作成に至らない先進医療、治験対象外への未承認薬使用なども、このプロトコルに値しない実施計画でOKとなる仕組みとなる。現在、プロトコルが前提の先進医療A及びBは109技術のうち、保険収載は8技術に過ぎない(H26年度)。患者申出療養のどこが保険収載につながるのだろうか。

 また、現在の先進医療Bと違い、多施設共同研究の形で2例目以降実施する医療機関の体制は国の審査がなく施設基準も定められず、厳格な安全基準が大幅に緩む。患者登録症例確保のため技量や人員体制のない医療機関での実施が容易となり、死亡、後遺障害など重篤な医療事故が懸念される。国は体制の「目安」以上のものは示さないため、安全性の担保がない。適格基準外は事故補償すらない。

 実施計画の審査は6週間と、現在の先進医療の6カ月の1/4であり、安全性・有効性の確認が実質、形骸化する。そもそもが、先進医療、未承認薬は未確立な医療だけに危険である。

 しかも、かかりつけ医、開業医が、「相談」役を担わされ、先進医療への理解・説明や実施医療機関への紹介などが求められ、リスキーな役目を担わされることになっている。

 患者申し出が起点といいながら、「実際は医師の働きかけによる理解と同意(納得)」と局長が答弁しており、条文違反であり、ネーミングも怪しければ、現在の評価療養に屋上屋を重ねる合理的理由が何ら示されていない。

 しかも、この患者申出療養のスキームは、先進医療に限定されていない。保険未収載の医療技術も対象となる。

 総じて、倫理指針に則らない医療や、便法の実施計画を作成し行う保険未収載の医療技術など、単なる自由診療と保険診療の混合診療となる。国の審査、指針などのタガが外れることになり、混合診療の「自由化」に道を開くことになる。

 参議院審議では野党議員が独自調査や諸外国比較も交え、徹底してこれらに関し鋭い追及を展開した。われわれは敬意を表する。衆院と賛否を違える等、反対、退席と苦衷の選択と行動をとった野党議員の心中は察して余りある。一方、与党議員は参考人に「質問の意味がわからない」と返される等、重大な中身を理解しているのかも疑わしく、質問時間、質問内容も乏しくあまりにも無責任である。

◆保険料の傾斜設定へも苦しい答弁 民間保険化の蟻の一穴

 また個人の予防努力に応じた保険料の値引き、社会保険料の傾斜設定は、社会保障の応能原則を崩し、リスクに応じた保険料設定の民間保険の原理の導入となる。総括質疑で釘がさされ、首相、厚労大臣とも「適当ではない」としたが、火種の法文は何ら修正されていない。社会保険と民間保険の境界域が曖昧化し、相互補完、相互乗入れが想定され、楽観は禁物だ。現に、住友生命、チューリッヒ生命、オリックス生命など昨年6月以降、キャッシュレスを謳い文句に保険金を医療機関に支払う「直接支払いサービス」に乗り出しており、厚労省保険局は保険会社からの出向者を受け入れている。

 患者申出療養を商機とした新たな保険商品の開発・販売は想定内であり、保険外医療費のカバーや事故補償に備えた患者、医療機関の加入・対応の如何は今後に大きく影響する。

◆選定療養義務化は患者負担増の打ち出の小槌、入院時食事療養の次は部屋代の保険外し

 大病院の紹介状なし初診への5千円~1万円の定額負担に関し、実は再診患者が9割と圧倒的で、紹介状なしの初診患者は数%に過ぎず、外来機能分化、勤務医の負担軽減には資さず、無関係であることが国会でも追及された。実質は、医療機関の責務規定と選定療養(差額徴収)の義務化の合わせ技で強行した「受診時定額負担」の導入である。法案の附則2条には、「保険給付の範囲の見直しと必要な措置」が盛られており、責務規定に盛り込む規定内容により、主治医のいない患者、在宅医療を実施していない医療機関受診など、あらゆる受診時定額負担が可能となる

 保険局長は、再診患者にも定額負担を求めるとしたが、逆紹介できない理由のトップが「医学的理由」、次いで「連携できる医療機関の不在」であり、経済的に無理を強行しては地域医療は壊れる。難病団体の代表が国会でも述べ、議員からもあったが、難病の確定診断まで「自力」で3~5カ所の大病院を訪れる例は3割あり、8カ所以上も数%ながらある。施策の妥当性を欠いている。

 入院給食も治療の一環でありながら、1食460円に引き上がり、1カ月入院で4万円強、高額療養費限度の8万円と併せ12万円の負担に上り、平均月収34万円の1/3が吹き飛ぶ。部屋代の保険外しすら財務省が主張しだしており、入院医療は成り立たなくなる。難病患者からは年収200万円以下の世帯の1食の食事代への想像力を欠いているともっともな指摘がされている。在宅医療で対応できないから入院治療なのである。この点も、在宅との公平論も国会審議で完全に破綻している。

◆高等戦略を見破り、来る参院選挙で審判を

 これ以外にも、市町村国保の再編、国保の県による財政運営、医療費適正化計画の医療費「目標化」などなど、問題山積である。

 患者申出療養は臨床研究中核病院や実施計画を、選定療養の義務化(受診時定額負担)は大病院の勤務医の負担軽減を、各々、「煙幕」「おとり」とした「ひっかけ問題」となっていた。本丸は別であり、眩惑された医療界はこれを教訓とすべきだと思う。

 医療界は下駄の雪ではない。既に小泉内閣の毎年2,200億円を上回る、単純計算で毎年3,000億円を超える規模の社会保障費削減が見込まれる提案が財政審議会でなされ始めている。来る参議院選挙は大きな審判となる。与党の「良心」に訴えたい。われわれは、現在の政治潮流に批判が露顕した滋賀、沖縄、佐賀の知事選挙に続き、現役医師が医療再生を掲げ立候補した青森知事選挙の帰趨に熱い視線を注いでいる。

 改めて、今法案の成立に強く抗議する。

2015年5月28日

皆保険制度の大転換、医療制度改革法の成立に断固抗議する

                           神奈川県保険医協会

                               第26期第34回理事会


 医療制度改革関連法案が5月27日、参院本会議で可決され、成立した。39本もの法律を一括法案とする「異常」や、審議時間が実質、衆院19時間、参院18時間の「拙速」は、重要法案では過去に類例がなく、民主主義のルールを大きく踏み外し、憲政史上に重大な禍根を残した。それ以上に、法案は参院審議でも明らかになった混合診療の「自由化」、未確立な医療、実験医療の蔓延の危険や、社会保険の民間保険化に道を開くなど、時代転換的な内容を多岐に含んでおり、皆保険制度、社会保障制度に大きな風穴をあけるものとなっている。第一線医療を担う開業医団体として地域医療を壊す、今法案の成立に断固抗議する。

◆矛盾の集約点、患者申出療養 実質は混合診療の自由化 やはり同床異夢だった「実施計画」

 参院の委員会審議では、「患者申出療養」に大半の質疑が集中。制度の矛盾が次々と明らかになり、大臣、局長答弁が支離滅裂となっている。

 最たるものは、臨床研究の倫理指針に基づく実施としつつ、「実施計画(プロトコル)」の適格基準外への実施を予定している点にある。このプロトコル逸脱、倫理違反に関し、患者申出療養では「実施計画=プロトコル」ではなく、「実施計画にプロトコルが含まれる」との方便を駆使。適格基準外へは個別に実施計画を作成するもののプロトコルは「含まない」とした。つまり、症例データは科学的統計学的に意味がなく、単なる症例報告にすぎず、データ集積、保険収載に繋がらない。国会ではこの暴露と厚労省の規制改革会議への反論と矛盾すると追及されている。プロトコル作成に至らない先進医療、治験対象外への未承認薬使用なども、このプロトコルに値しない実施計画でOKとなる仕組みとなる。現在、プロトコルが前提の先進医療A及びBは109技術のうち、保険収載は8技術に過ぎない(H26年度)。患者申出療養のどこが保険収載につながるのだろうか。

 また、現在の先進医療Bと違い、多施設共同研究の形で2例目以降実施する医療機関の体制は国の審査がなく施設基準も定められず、厳格な安全基準が大幅に緩む。患者登録症例確保のため技量や人員体制のない医療機関での実施が容易となり、死亡、後遺障害など重篤な医療事故が懸念される。国は体制の「目安」以上のものは示さないため、安全性の担保がない。適格基準外は事故補償すらない。

 実施計画の審査は6週間と、現在の先進医療の6カ月の1/4であり、安全性・有効性の確認が実質、形骸化する。そもそもが、先進医療、未承認薬は未確立な医療だけに危険である。

 しかも、かかりつけ医、開業医が、「相談」役を担わされ、先進医療への理解・説明や実施医療機関への紹介などが求められ、リスキーな役目を担わされることになっている。

 患者申し出が起点といいながら、「実際は医師の働きかけによる理解と同意(納得)」と局長が答弁しており、条文違反であり、ネーミングも怪しければ、現在の評価療養に屋上屋を重ねる合理的理由が何ら示されていない。

 しかも、この患者申出療養のスキームは、先進医療に限定されていない。保険未収載の医療技術も対象となる。

 総じて、倫理指針に則らない医療や、便法の実施計画を作成し行う保険未収載の医療技術など、単なる自由診療と保険診療の混合診療となる。国の審査、指針などのタガが外れることになり、混合診療の「自由化」に道を開くことになる。

 参議院審議では野党議員が独自調査や諸外国比較も交え、徹底してこれらに関し鋭い追及を展開した。われわれは敬意を表する。衆院と賛否を違える等、反対、退席と苦衷の選択と行動をとった野党議員の心中は察して余りある。一方、与党議員は参考人に「質問の意味がわからない」と返される等、重大な中身を理解しているのかも疑わしく、質問時間、質問内容も乏しくあまりにも無責任である。

◆保険料の傾斜設定へも苦しい答弁 民間保険化の蟻の一穴

 また個人の予防努力に応じた保険料の値引き、社会保険料の傾斜設定は、社会保障の応能原則を崩し、リスクに応じた保険料設定の民間保険の原理の導入となる。総括質疑で釘がさされ、首相、厚労大臣とも「適当ではない」としたが、火種の法文は何ら修正されていない。社会保険と民間保険の境界域が曖昧化し、相互補完、相互乗入れが想定され、楽観は禁物だ。現に、住友生命、チューリッヒ生命、オリックス生命など昨年6月以降、キャッシュレスを謳い文句に保険金を医療機関に支払う「直接支払いサービス」に乗り出しており、厚労省保険局は保険会社からの出向者を受け入れている。

 患者申出療養を商機とした新たな保険商品の開発・販売は想定内であり、保険外医療費のカバーや事故補償に備えた患者、医療機関の加入・対応の如何は今後に大きく影響する。

◆選定療養義務化は患者負担増の打ち出の小槌、入院時食事療養の次は部屋代の保険外し

 大病院の紹介状なし初診への5千円~1万円の定額負担に関し、実は再診患者が9割と圧倒的で、紹介状なしの初診患者は数%に過ぎず、外来機能分化、勤務医の負担軽減には資さず、無関係であることが国会でも追及された。実質は、医療機関の責務規定と選定療養(差額徴収)の義務化の合わせ技で強行した「受診時定額負担」の導入である。法案の附則2条には、「保険給付の範囲の見直しと必要な措置」が盛られており、責務規定に盛り込む規定内容により、主治医のいない患者、在宅医療を実施していない医療機関受診など、あらゆる受診時定額負担が可能となる

 保険局長は、再診患者にも定額負担を求めるとしたが、逆紹介できない理由のトップが「医学的理由」、次いで「連携できる医療機関の不在」であり、経済的に無理を強行しては地域医療は壊れる。難病団体の代表が国会でも述べ、議員からもあったが、難病の確定診断まで「自力」で3~5カ所の大病院を訪れる例は3割あり、8カ所以上も数%ながらある。施策の妥当性を欠いている。

 入院給食も治療の一環でありながら、1食460円に引き上がり、1カ月入院で4万円強、高額療養費限度の8万円と併せ12万円の負担に上り、平均月収34万円の1/3が吹き飛ぶ。部屋代の保険外しすら財務省が主張しだしており、入院医療は成り立たなくなる。難病患者からは年収200万円以下の世帯の1食の食事代への想像力を欠いているともっともな指摘がされている。在宅医療で対応できないから入院治療なのである。この点も、在宅との公平論も国会審議で完全に破綻している。

◆高等戦略を見破り、来る参院選挙で審判を

 これ以外にも、市町村国保の再編、国保の県による財政運営、医療費適正化計画の医療費「目標化」などなど、問題山積である。

 患者申出療養は臨床研究中核病院や実施計画を、選定療養の義務化(受診時定額負担)は大病院の勤務医の負担軽減を、各々、「煙幕」「おとり」とした「ひっかけ問題」となっていた。本丸は別であり、眩惑された医療界はこれを教訓とすべきだと思う。

 医療界は下駄の雪ではない。既に小泉内閣の毎年2,200億円を上回る、単純計算で毎年3,000億円を超える規模の社会保障費削減が見込まれる提案が財政審議会でなされ始めている。来る参議院選挙は大きな審判となる。与党の「良心」に訴えたい。われわれは、現在の政治潮流に批判が露顕した滋賀、沖縄、佐賀の知事選挙に続き、現役医師が医療再生を掲げ立候補した青森知事選挙の帰趨に熱い視線を注いでいる。

 改めて、今法案の成立に強く抗議する。

2015年5月28日