神奈川県保険医協会とは
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2015/10/7 政策部長談話「大学病院の紹介率は既に8割 紹介状なし定額負担は機能分化とは無関係 『かかりつけ医』と結合した『受診時定額負担』導入の"露払い"を警鐘する
大学病院の紹介率は既に8割 紹介状なし定額負担は機能分化とは無関係
「かかりつけ医」と結合した「受診時定額負担」導入の"露払い"を警鐘する
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
紹介状なしの大病院受診の定額負担に関する中医協議論が始まった。この方策は軽症患者の機能分担の有効打との巷の理解とは違い、「骨太方針2015」、「保健医療2035」で今後の焦点とされる「かかりつけ医」の普及と結んだ「受診時定額負担」導入の先鞭であり、「療養の給付」の瓦解に道を開くものとなる。われわれは改めてそのことを警鐘するとともに、定額負担の義務化の実施に強く反対する。
◆実質、義務化で大学病院は既に5,000円負担が大勢
紹介状なし受診の大病院の代表格、大学病院は既に紹介率が8割に上る。紹介状のない患者は2割(救急患者を除く)となるが、大病院の初診患者の数は全体の9.8%であり、紹介状のない患者は大学病院では2%に過ぎない。しかも、東京都下で9割、大都市圏で7割の大学病院は既に紹介状なし受診の定額負担は5,000円相当以上の金額を徴収しており、議論の想定水準での実質、義務化となっている。
つまり、現在、議論している紹介状なしの定額負担の義務化は、軽症患者の診療分担、機能分化や勤務医の過重負担の解消には作用するものではない。勤務医の過重負担は患者数の多さが要因であり軽症患者の集中にはない。過重負担解消には大病院の9割を超す再診患者の減少を図る逆紹介が必須だが、医学的理由や専門的な連携医療機関の不在などが隘路となっていると中医協調査で示されている。また、紹介率向上に定額負担は有効打になっておらず、地域での広報と関係医療機関との事前連携、HPでの情報提供が、軽症患者の診療分担に資するとの結果も同様に示されているのである。
◆健保法附則の3割負担限度を突破する荒技を駆使しスキームを創設
現在、200床以上の病院は、紹介状なし受診の際、「任意」で「料金設定を自由」に定額負担を追加で選定療養とし徴収している。今回の義務化の料金設定は「最低水準」を決めるもので、想定される5,000円をこれまでの徴収に追加するものではない。現在8,000円を徴収する病院は、これまでと何も変わらない。変化が予想されるのは大病院の初診料の引き下げであり、紹介率の低い500床以上大病院は一般より低い初診料が既に設定され、選定療養の定額負担で「補填」するよう誘導されている。
それ以上に問題は、本来、任意の選定療養に義務化のスキームを創設した点である。健康保険法に医療機関の「責務」規定を盛り込み、「紹介」「機能分担」、「業務連携」を義務づけ、その措置内容を「療養担当規則」に定め、それを欠く場合(紹介状のない受診)に、"定率負担の額を超える金額(選定療養に定めるもの)の支払いを受けるもの"とする。健保法附則が患者負担は3割限度と拡大を禁じており、これを突破する巧妙な荒技として創設した。この責務規定と絡めた義務化は、「定額負担(選定療養)」プラス「給付縮小(点数引き下げ)」の形をとった事実上の「受診時定額負担」である。当会が指摘し予見したとおり「かかりつけ医」の普及とセットで検討の俎上に上っている。「地域包括診療料」や「地域包括診療加算」算定の「かかりつけ医」以外の受診の際に、「受診時定額負担」を上乗せすることになる。受診抑制の手段とし乱用されてきた患者負担は、政策誘導の梃の役割も帯びることとなる。現実を踏まえれば、これが本丸である。
◆「療養の給付」の蹂躙、瓦解の危険性 患者を守るため患者負担解消が王道
先述のとおり、大病院の初診料は定額負担(選定療養)との補完・補填関係が先行実施されており、療養の給付の簒奪・侵害となっている。今回のスキームの実施・流通は早晩、診療所への波及、一般化へと連動する。選定療養への医療技術の追加導入が近々、中医協で検討予定である。保険外し・給付範囲縮小の動向を重ねれば意味深長でもある。
健保本人10割給付が崩され30年を経、受診抑制、受療行動変容の調整弁として患者負担へ医療界は一部で寛容になっている向きはないだろうか。
医療関連法案の参院厚労委員会での国会審議で、難病患者団体の代表は確定診断にたどり着くまで大学病院などの大病院を「自力」でいくつも訪ね歩く実情を切々と訴えている。厚労省調査で3カ所以上回った難病患者は全体の4割にも及び、中には10カ所回って診断がつく患者もいる。これら、毎回の紹介状を前提での上乗せの定額負担は非常に不合理、非人道的である。確定診断がついて初めて難病となるが、その過程で不安を抱える身に、高額な負担を課すことは、健保法の趣旨からも外れている。
米国を除く先進国の多くは、患者負担ゼロか低額・定額負担であり、受診時の経済的ハードルは低い。負担の公平は、受診以前の税・保険料で応能主義の徹底で図るべきある。これは社会保障の原理原則である。受療行動の変容は医療機関の患者教育を軸に、医療機関のかかり方を学校教育に組み込むことや厚労省の広報、ドラマ・小説などと協力した社会的啓発を通じて行うべきと考える。経済的ハードルで受診を左右する政策は愚策である(2014.5.16日弁連シンポ)。患者負担の拡大は、遂に療養の給付を突き破り、保険外の選定療養と相補関係を前提とした組み換えにまでいま突き進んでいる。
医療界は患者の代弁者としての役割も期待されており、その信頼があってこそ、医療政策の改善、診療報酬引き上げ・改善の要求が支持される。患者負担は医療界と患者を分断する「枷」であり、この患者負担の解消なくしては、診療報酬増と連動する患者負担増の二律背反関係は解消されない。
われわれは、法定化された紹介状なし受診の定額負担の「実施」の中止を改めて要求する。
2015年10月7日
大学病院の紹介率は既に8割 紹介状なし定額負担は機能分化とは無関係
「かかりつけ医」と結合した「受診時定額負担」導入の"露払い"を警鐘する
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
紹介状なしの大病院受診の定額負担に関する中医協議論が始まった。この方策は軽症患者の機能分担の有効打との巷の理解とは違い、「骨太方針2015」、「保健医療2035」で今後の焦点とされる「かかりつけ医」の普及と結んだ「受診時定額負担」導入の先鞭であり、「療養の給付」の瓦解に道を開くものとなる。われわれは改めてそのことを警鐘するとともに、定額負担の義務化の実施に強く反対する。
◆実質、義務化で大学病院は既に5,000円負担が大勢
紹介状なし受診の大病院の代表格、大学病院は既に紹介率が8割に上る。紹介状のない患者は2割(救急患者を除く)となるが、大病院の初診患者の数は全体の9.8%であり、紹介状のない患者は大学病院では2%に過ぎない。しかも、東京都下で9割、大都市圏で7割の大学病院は既に紹介状なし受診の定額負担は5,000円相当以上の金額を徴収しており、議論の想定水準での実質、義務化となっている。
つまり、現在、議論している紹介状なしの定額負担の義務化は、軽症患者の診療分担、機能分化や勤務医の過重負担の解消には作用するものではない。勤務医の過重負担は患者数の多さが要因であり軽症患者の集中にはない。過重負担解消には大病院の9割を超す再診患者の減少を図る逆紹介が必須だが、医学的理由や専門的な連携医療機関の不在などが隘路となっていると中医協調査で示されている。また、紹介率向上に定額負担は有効打になっておらず、地域での広報と関係医療機関との事前連携、HPでの情報提供が、軽症患者の診療分担に資するとの結果も同様に示されているのである。
◆健保法附則の3割負担限度を突破する荒技を駆使しスキームを創設
現在、200床以上の病院は、紹介状なし受診の際、「任意」で「料金設定を自由」に定額負担を追加で選定療養とし徴収している。今回の義務化の料金設定は「最低水準」を決めるもので、想定される5,000円をこれまでの徴収に追加するものではない。現在8,000円を徴収する病院は、これまでと何も変わらない。変化が予想されるのは大病院の初診料の引き下げであり、紹介率の低い500床以上大病院は一般より低い初診料が既に設定され、選定療養の定額負担で「補填」するよう誘導されている。
それ以上に問題は、本来、任意の選定療養に義務化のスキームを創設した点である。健康保険法に医療機関の「責務」規定を盛り込み、「紹介」「機能分担」、「業務連携」を義務づけ、その措置内容を「療養担当規則」に定め、それを欠く場合(紹介状のない受診)に、"定率負担の額を超える金額(選定療養に定めるもの)の支払いを受けるもの"とする。健保法附則が患者負担は3割限度と拡大を禁じており、これを突破する巧妙な荒技として創設した。この責務規定と絡めた義務化は、「定額負担(選定療養)」プラス「給付縮小(点数引き下げ)」の形をとった事実上の「受診時定額負担」である。当会が指摘し予見したとおり「かかりつけ医」の普及とセットで検討の俎上に上っている。「地域包括診療料」や「地域包括診療加算」算定の「かかりつけ医」以外の受診の際に、「受診時定額負担」を上乗せすることになる。受診抑制の手段とし乱用されてきた患者負担は、政策誘導の梃の役割も帯びることとなる。現実を踏まえれば、これが本丸である。
◆「療養の給付」の蹂躙、瓦解の危険性 患者を守るため患者負担解消が王道
先述のとおり、大病院の初診料は定額負担(選定療養)との補完・補填関係が先行実施されており、療養の給付の簒奪・侵害となっている。今回のスキームの実施・流通は早晩、診療所への波及、一般化へと連動する。選定療養への医療技術の追加導入が近々、中医協で検討予定である。保険外し・給付範囲縮小の動向を重ねれば意味深長でもある。
健保本人10割給付が崩され30年を経、受診抑制、受療行動変容の調整弁として患者負担へ医療界は一部で寛容になっている向きはないだろうか。
医療関連法案の参院厚労委員会での国会審議で、難病患者団体の代表は確定診断にたどり着くまで大学病院などの大病院を「自力」でいくつも訪ね歩く実情を切々と訴えている。厚労省調査で3カ所以上回った難病患者は全体の4割にも及び、中には10カ所回って診断がつく患者もいる。これら、毎回の紹介状を前提での上乗せの定額負担は非常に不合理、非人道的である。確定診断がついて初めて難病となるが、その過程で不安を抱える身に、高額な負担を課すことは、健保法の趣旨からも外れている。
米国を除く先進国の多くは、患者負担ゼロか低額・定額負担であり、受診時の経済的ハードルは低い。負担の公平は、受診以前の税・保険料で応能主義の徹底で図るべきある。これは社会保障の原理原則である。受療行動の変容は医療機関の患者教育を軸に、医療機関のかかり方を学校教育に組み込むことや厚労省の広報、ドラマ・小説などと協力した社会的啓発を通じて行うべきと考える。経済的ハードルで受診を左右する政策は愚策である(2014.5.16日弁連シンポ)。患者負担の拡大は、遂に療養の給付を突き破り、保険外の選定療養と相補関係を前提とした組み換えにまでいま突き進んでいる。
医療界は患者の代弁者としての役割も期待されており、その信頼があってこそ、医療政策の改善、診療報酬引き上げ・改善の要求が支持される。患者負担は医療界と患者を分断する「枷」であり、この患者負担の解消なくしては、診療報酬増と連動する患者負担増の二律背反関係は解消されない。
われわれは、法定化された紹介状なし受診の定額負担の「実施」の中止を改めて要求する。
2015年10月7日