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2015/10/8 政策部長談話 「医療倫理を蹂躙する患者申出療養に改めて反対する 倫理指針を逸脱する「実施計画」と施設基準度外視は危険」

医療倫理を蹂躙する患者申出療養に改めて反対する

倫理指針を逸脱する「実施計画」と施設基準度外視は危険

                           神奈川県保険医協会

                                政策部長 桑島 政臣


 患者申出療養の制度骨格が中医協でこのほど概ね了承された(9月30日)。混合診療の全面解禁や有害事象への対応が取り沙汰され、釘を刺す文言が確認されたが、制度の本質的問題は衝かれることなく過ぎている。重大な問題は、臨床研究の「実施計画」の適格基準外への実施や、実施計画が作成不能な臨床研究の実施を国が認める点にある。これは倫理指針を完全に逸脱しており、倫理指針遵守を求める制度趣旨と矛盾している。われわれは医療倫理を蹂躙する、患者申出療養に改めて反対する。

◆臨床研究計画を含まない「実施計画」という詐術を弄し制度化

 混合診療(保険外併用療養)は「臨床研究」の範疇で、未承認の医薬品や医療機器の使用、これらを伴う医療技術の実施を認めている。つまり、安全性・有効性を国が担保する薬事承認に必須の治験(臨床試験)を経ずに、便法を駆使し「臨床研究の倫理指針」に基づき「実施計画(プロトコル)」の作成で、過渡的に保険診療との併用を認めている。これは、通常の医療、診療ではなく臨床研究である。外形的には臨床研究と保険診療の併用だが、実質は研究への保険診療からの財源補填となる。

 混合診療(保険外併用療養)は、薬事承認を経た保険収載に至る前の医薬品、医療機器の使用や医療技術と保険診療との混合(併用)との大方の理解と違う制度に2008年を境に実は変質している。

 患者申出療養は、「実施計画(プロトコル)」の適格基準から外れる被験者(患者)への実施を想定し、法案が策定された。参院審議の終盤、川田龍平議員の指摘に対し厚労相は、適格基準外へは個別に実施計画を作成するもののプロトコルを含まないと答弁(2015.5.26)。中医協ではこれを踏襲し「臨床研究計画を含まない実施計画」の作成で実施との詐術を弄し、異論が挟まれずに終結した。つまり、プロトコルを作成しない、被験者保護を欠く、症例データの科学的統計的検証に意味がない、倫理指針を逸脱する医療の枠組みができることになる。制度骨格では倫理指針の遵守を求めており、完全に自家撞着している。患者申出「臨床研究」どころか、医療倫理蹂躙の患者申出「実験医療」である。

◆「先進医療」の「患者申出療養」へのスイッチは、保険収載を遠ざける

 また、施設基準を満たした医療機関で実施されている「先進医療」も、患者申出療養として患者の身近で実施できるとされた。能力・人員・施設設備の「要件」を満たさない医療機関での実施は、当然ながら危険を伴うものとなる。先進医療は、薬事承認された医薬品・機器を使用する類型と上記の臨床研究の範疇の類型と2タイプを含んでおり、施設基準を欠く実施は問題が多く、保険収載に繋いでいく先進医療の「融解」が懸念される。薬事承認の治験や、医療技術の安全性・有効性の確立はエビデンスの集積が肝要であり、それがあって初めて保険収載となる。これでは逆コースである。

◆日本の臨床研究の信頼回復にも逆行 実効にも疑問 

 さすがに、患者の申し出の際に臨床研究中核病院が、「安全性・有効性等のエビデンスが不足している場合は、患者にその旨を説明する」と中医協ではしているが、「例外」としてプロトコル不在の臨床研究逸脱にお墨付きを与えたことは非常に重い。患者申出療養と臨床研究中核病院は不可分の関係である。不祥事の反省を踏まえ、ハードルの高い能力要件・施設要件・人員要件を定め法定化した臨床研究中核病院は、承認は未だ4つと日本の臨床研究の信頼回復、再出発へ慎重に歩みだしたが、これへ冷や水を浴びせるものとなる。われわれは患者申出療養の制度化に改めて強く反対する。

2015年10月8日

医療倫理を蹂躙する患者申出療養に改めて反対する

倫理指針を逸脱する「実施計画」と施設基準度外視は危険

                           神奈川県保険医協会

                                政策部長 桑島 政臣


 患者申出療養の制度骨格が中医協でこのほど概ね了承された(9月30日)。混合診療の全面解禁や有害事象への対応が取り沙汰され、釘を刺す文言が確認されたが、制度の本質的問題は衝かれることなく過ぎている。重大な問題は、臨床研究の「実施計画」の適格基準外への実施や、実施計画が作成不能な臨床研究の実施を国が認める点にある。これは倫理指針を完全に逸脱しており、倫理指針遵守を求める制度趣旨と矛盾している。われわれは医療倫理を蹂躙する、患者申出療養に改めて反対する。

◆臨床研究計画を含まない「実施計画」という詐術を弄し制度化

 混合診療(保険外併用療養)は「臨床研究」の範疇で、未承認の医薬品や医療機器の使用、これらを伴う医療技術の実施を認めている。つまり、安全性・有効性を国が担保する薬事承認に必須の治験(臨床試験)を経ずに、便法を駆使し「臨床研究の倫理指針」に基づき「実施計画(プロトコル)」の作成で、過渡的に保険診療との併用を認めている。これは、通常の医療、診療ではなく臨床研究である。外形的には臨床研究と保険診療の併用だが、実質は研究への保険診療からの財源補填となる。

 混合診療(保険外併用療養)は、薬事承認を経た保険収載に至る前の医薬品、医療機器の使用や医療技術と保険診療との混合(併用)との大方の理解と違う制度に2008年を境に実は変質している。

 患者申出療養は、「実施計画(プロトコル)」の適格基準から外れる被験者(患者)への実施を想定し、法案が策定された。参院審議の終盤、川田龍平議員の指摘に対し厚労相は、適格基準外へは個別に実施計画を作成するもののプロトコルを含まないと答弁(2015.5.26)。中医協ではこれを踏襲し「臨床研究計画を含まない実施計画」の作成で実施との詐術を弄し、異論が挟まれずに終結した。つまり、プロトコルを作成しない、被験者保護を欠く、症例データの科学的統計的検証に意味がない、倫理指針を逸脱する医療の枠組みができることになる。制度骨格では倫理指針の遵守を求めており、完全に自家撞着している。患者申出「臨床研究」どころか、医療倫理蹂躙の患者申出「実験医療」である。

◆「先進医療」の「患者申出療養」へのスイッチは、保険収載を遠ざける

 また、施設基準を満たした医療機関で実施されている「先進医療」も、患者申出療養として患者の身近で実施できるとされた。能力・人員・施設設備の「要件」を満たさない医療機関での実施は、当然ながら危険を伴うものとなる。先進医療は、薬事承認された医薬品・機器を使用する類型と上記の臨床研究の範疇の類型と2タイプを含んでおり、施設基準を欠く実施は問題が多く、保険収載に繋いでいく先進医療の「融解」が懸念される。薬事承認の治験や、医療技術の安全性・有効性の確立はエビデンスの集積が肝要であり、それがあって初めて保険収載となる。これでは逆コースである。

◆日本の臨床研究の信頼回復にも逆行 実効にも疑問 

 さすがに、患者の申し出の際に臨床研究中核病院が、「安全性・有効性等のエビデンスが不足している場合は、患者にその旨を説明する」と中医協ではしているが、「例外」としてプロトコル不在の臨床研究逸脱にお墨付きを与えたことは非常に重い。患者申出療養と臨床研究中核病院は不可分の関係である。不祥事の反省を踏まえ、ハードルの高い能力要件・施設要件・人員要件を定め法定化した臨床研究中核病院は、承認は未だ4つと日本の臨床研究の信頼回復、再出発へ慎重に歩みだしたが、これへ冷や水を浴びせるものとなる。われわれは患者申出療養の制度化に改めて強く反対する。

2015年10月8日