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2016/11/8 地域医療対策部長談話 「在宅医療は『支える医療』、への理解を求める 『治す医療』が前面にはならない」
在宅医療は「支える医療」、への理解を求める
「治す医療」が前面にはならない
神奈川県保険医協会
地域医療対策部長 鈴木 悦朗
国策の地域包括ケアは「治し・支える医療」であり、中小の急性期病院を含んだ医療・介護のネットワークである。この多職種協同のネットワーク形成に関し、在宅医療とは何かについて、従前より24時間対応で実践し議論を重ねてきた立場から、改めて「支える医療」としての理解を広く求めるものである。
◆在宅医療の患者は、「支える医療」が圧倒的 病院医療の在宅版ではない意味
在宅医療の患者の多くは、加齢で通院できなくなった高齢患者やがんの終末期、障がい児者、神経難病患者である。その多くは病院で行っていた「医療」を在宅に持ってくるのではなく、在宅生活を支えるための「医療」となる。急性増悪への対応・治療も当然行うが、基礎疾患が「治る」わけではない。例えば誤嚥性肺炎などの急性症状への治療など一部で「治す医療」はあるが、根本的に嚥下障害が「治る」わけではない。
化学療法や血液透析、皮膚腫瘍摘出の小外科など、病院と同水準で医療機器を在宅に持ち込み、積極的な医療を展開する医療機関もあるが、主は「支える医療」となる。患者の最期まで、寄り添う医療である。
ハイテクの進展により、高カロリー輸液などのハイテク在宅も普及定着してきているが、これらも「支える医療」である。
障がい児者の在宅医療でも、胃瘻や気管カニューレ、人工呼吸器の管理などの医療的ケアや、地域の学校・施設との連携など「支える医療」が中心に座る。
患家は病院ではない。医療は知恵や工夫や情報共有などの努力を重ね、在宅医療での対応領域を広げてきたが、出来る治療には限界、限度がある。病院で治療すべき患者が在宅に移行しても、病院と同等の治療は行えないために結果として不十分な治療に終わり患者の為にはならない。
病院治療を終えて、在宅医療へ移行する際に、在宅医療を行う医療機関は、患者・家族へ急変・増悪時の対応や在宅医療の限界、家族の覚悟について説明をし、理解を得たうえで在宅医療がはじまる。しかし、末期状態の患者が急変(実際には自然経過である事が多い)すると医療者ではない一般の人々は、慌てて、救急車を呼び病院に搬送することが、しばしばみられる。既に死亡していたり、救急車の中で死亡することがあり、受入側の病院は特段なす術もなく、警察に通報となったりしている。警察が介入して、家族が嫌な目にあう事になる。
このような事態になるのは、医療者側の伝達表現や、患者・家族の心情への配慮など、不十分な面があるとの指摘もあるが、「死生観」、「在宅医療」、「地域包括ケア」が国民的にしっかりと定着する中での過渡的な課題だと考える。
そもそも病状、病態から判断し、病院治療の段階から在宅へと移行しているのであり、そこでの積極的治療の意味合いは医療者、患者・家族の間で改めて問い直す必要があると考える。
◆家族介護が「前提」の在宅医療の家族負担 独居での限界
在宅医療は在宅介護、家族介護が前提で成り立つ話であり、24時間対応の在宅医療であっても、患者の生活にピンポイントで入るに過ぎない。ほとんどの時間は、家族が対応することとなる。喀痰吸引や経管栄養、点滴の管理など、家族の過重負担を考慮せずには成り立たない。老老介護の共倒れを例に引くまでもなく、家族介護が破たんしては元も子もない。増加する独居での在宅医療・介護では当然、家族介護は存在しない。すべて、外部介護サービス導入の中での在宅医療となる。
「支える医療」とは、「何もしない医療」でも、「見殺しにする医療」でもない。患者・家族の理解と、多職種との共有理解のもと、在宅生活のQOLを高めるために「縁の下の力持ち」として、患者に寄り添い、治療の提供範囲と内容を見極め、見定め、実施される医療である。
在宅での生活に「医療」を持ち込む医療至上主義ではなく、生活重視で「医療」が、下支えとなる。
無論、病院治療が必要な患者が自宅へ戻るような例は、病態悪化で再入院となるだけであり、現実対応として療養病床や施設への入所となる。最近の診療報酬の誘導による在宅復帰率に左右される事態は是正されるべきものである。
24時間365日対応の在宅医療を先駆的に取り組み、診療報酬で事後的に評価された、在宅療養支援診療所が全国で1万余あるが、その全国連絡会も「治す医療」の対極にある (*1) ものとしている。
「在宅医療」について「支える医療」としての共有理解が社会的に醸成されないと、2025年問題は乗り切れないと考えている。
◆2025年問題へ、在宅医療に取り組む医療機関の新規参入の増加が鍵 「支える医療」の周知が大切
2025年問題―超高齢社会と高齢死亡者数の増加、認知症の増加、独居高齢世帯の急増―これらの中で在宅医療の比重が高まっていく。
当然、その担い手となる医師、医療機関を大幅に増やすことが喫緊の課題である。在宅医療に取り組む医療機関の裾野を広げるには、「医師一人で24時間365日対応の負担」からの解放や、「在宅医療への過度な期待感」の解消が不可欠となる。24時間対応のフルタイムでなくとも、日中の往診は応じるとか、午後の訪問診療だけ、準夜帯までカバーなど、医療機関の力量や関与度に応じ、在宅医療を一次・二次・三次 (*2) と重層的に展開できるような仕組みを取り入れたり、24時間365日を支える休日夜間診療所のような公的インフラの存在が、在宅医療の環境を変える鍵である。
勿論の事だが、これらの在宅医療機関を後方支援する公的病院、公的医療機関の整備が必要である。また、診療報酬上の施策、利益追求を主とする医療・介護事業者の参入抑制や排除の仕組みの導入など、われわれは折に触れ、これらの提言や発言を重ねている。
無論、「地域実情」に応じた、自主的・能動的な医療・介護関係者のネットワーク形成の取り組み、「顔の見える関係」構築を、「萌芽」の段階から地道に育んできたことは讃えられ、学ぶべきものである。例えば「在宅医ネットよこはま」や、「横須賀市在宅療養連携会議」のネットワークはじめ、全国各地の先駆的な取り組みは、当会でも講演やシンポジウム、取材記事など、あらゆる形で紹介応援し、在宅医療の浸透を図っている。
訪問診療など在宅医療に関わる診療所は20,597件、全国の診療所の22.4%である。そのうち24時間365日対応型の在宅療養支援診療所(支援診)は14,397件と7割強を占め、その多く75%は医師1人の「従来型」であり、医師3人以上の「強化型」は1.3%、複数医療機関で対応する「連携強化型」は23.7%に過ぎない。訪問診療は全国で645,992件(月)、その8割強を「支援診」が担い、中心は1人医師の「支援診」が地域をカバーする体制となっている (*3) (*4) 。これが、現状である。
いずれにしても、在宅医療を取り組んでいない医療者・医療機関も含んだ「医療界」と、「患者・家族・国民」の間での「在宅医療」像への、一定の共有理解の醸成がないと、新規の在宅医療への参入や患者・家族の「覚悟」と「最期へ至るまでの受容」などは今後、進んでいかない。相互理解の大幅な乖離や大きな齟齬があっては混乱をきたしていく。在宅医療は、一部に治す医療を抱えても主は「支える医療」である。
改めて、このことへの理解を広く求める。
2016年11月8日
(*1) (一社)全国在宅療養支援診療所連絡会HP 「在宅医療について」<現代の在宅医療>
(*2) 補足すると、一次在宅は夜間対応できないビル診や自宅が遠方の医師達で日中に寝たきり、認知症、在宅酸素の人達を診てもらう。二次は在宅療養支援診療所が担い、24時間対応の看取りまで行う医師たち。三次は二次の医師達が対応しにくい、小児の在宅や緊急時に待てずにすぐ来て欲しいタイプの患家、毎日来て欲しいタイプの患家までも対応する在宅専門診療所であり、この一次・二次・三次の在宅医療を組み上げ医師同士が連携すれば地域として安心して在宅できる環境になるということである。
在宅医療は「支える医療」、への理解を求める
「治す医療」が前面にはならない
神奈川県保険医協会
地域医療対策部長 鈴木 悦朗
国策の地域包括ケアは「治し・支える医療」であり、中小の急性期病院を含んだ医療・介護のネットワークである。この多職種協同のネットワーク形成に関し、在宅医療とは何かについて、従前より24時間対応で実践し議論を重ねてきた立場から、改めて「支える医療」としての理解を広く求めるものである。
◆在宅医療の患者は、「支える医療」が圧倒的 病院医療の在宅版ではない意味
在宅医療の患者の多くは、加齢で通院できなくなった高齢患者やがんの終末期、障がい児者、神経難病患者である。その多くは病院で行っていた「医療」を在宅に持ってくるのではなく、在宅生活を支えるための「医療」となる。急性増悪への対応・治療も当然行うが、基礎疾患が「治る」わけではない。例えば誤嚥性肺炎などの急性症状への治療など一部で「治す医療」はあるが、根本的に嚥下障害が「治る」わけではない。
化学療法や血液透析、皮膚腫瘍摘出の小外科など、病院と同水準で医療機器を在宅に持ち込み、積極的な医療を展開する医療機関もあるが、主は「支える医療」となる。患者の最期まで、寄り添う医療である。
ハイテクの進展により、高カロリー輸液などのハイテク在宅も普及定着してきているが、これらも「支える医療」である。
障がい児者の在宅医療でも、胃瘻や気管カニューレ、人工呼吸器の管理などの医療的ケアや、地域の学校・施設との連携など「支える医療」が中心に座る。
患家は病院ではない。医療は知恵や工夫や情報共有などの努力を重ね、在宅医療での対応領域を広げてきたが、出来る治療には限界、限度がある。病院で治療すべき患者が在宅に移行しても、病院と同等の治療は行えないために結果として不十分な治療に終わり患者の為にはならない。
病院治療を終えて、在宅医療へ移行する際に、在宅医療を行う医療機関は、患者・家族へ急変・増悪時の対応や在宅医療の限界、家族の覚悟について説明をし、理解を得たうえで在宅医療がはじまる。しかし、末期状態の患者が急変(実際には自然経過である事が多い)すると医療者ではない一般の人々は、慌てて、救急車を呼び病院に搬送することが、しばしばみられる。既に死亡していたり、救急車の中で死亡することがあり、受入側の病院は特段なす術もなく、警察に通報となったりしている。警察が介入して、家族が嫌な目にあう事になる。
このような事態になるのは、医療者側の伝達表現や、患者・家族の心情への配慮など、不十分な面があるとの指摘もあるが、「死生観」、「在宅医療」、「地域包括ケア」が国民的にしっかりと定着する中での過渡的な課題だと考える。
そもそも病状、病態から判断し、病院治療の段階から在宅へと移行しているのであり、そこでの積極的治療の意味合いは医療者、患者・家族の間で改めて問い直す必要があると考える。
◆家族介護が「前提」の在宅医療の家族負担 独居での限界
在宅医療は在宅介護、家族介護が前提で成り立つ話であり、24時間対応の在宅医療であっても、患者の生活にピンポイントで入るに過ぎない。ほとんどの時間は、家族が対応することとなる。喀痰吸引や経管栄養、点滴の管理など、家族の過重負担を考慮せずには成り立たない。老老介護の共倒れを例に引くまでもなく、家族介護が破たんしては元も子もない。増加する独居での在宅医療・介護では当然、家族介護は存在しない。すべて、外部介護サービス導入の中での在宅医療となる。
「支える医療」とは、「何もしない医療」でも、「見殺しにする医療」でもない。患者・家族の理解と、多職種との共有理解のもと、在宅生活のQOLを高めるために「縁の下の力持ち」として、患者に寄り添い、治療の提供範囲と内容を見極め、見定め、実施される医療である。
在宅での生活に「医療」を持ち込む医療至上主義ではなく、生活重視で「医療」が、下支えとなる。
無論、病院治療が必要な患者が自宅へ戻るような例は、病態悪化で再入院となるだけであり、現実対応として療養病床や施設への入所となる。最近の診療報酬の誘導による在宅復帰率に左右される事態は是正されるべきものである。
24時間365日対応の在宅医療を先駆的に取り組み、診療報酬で事後的に評価された、在宅療養支援診療所が全国で1万余あるが、その全国連絡会も「治す医療」の対極にある (*1) ものとしている。
「在宅医療」について「支える医療」としての共有理解が社会的に醸成されないと、2025年問題は乗り切れないと考えている。
◆2025年問題へ、在宅医療に取り組む医療機関の新規参入の増加が鍵 「支える医療」の周知が大切
2025年問題―超高齢社会と高齢死亡者数の増加、認知症の増加、独居高齢世帯の急増―これらの中で在宅医療の比重が高まっていく。
当然、その担い手となる医師、医療機関を大幅に増やすことが喫緊の課題である。在宅医療に取り組む医療機関の裾野を広げるには、「医師一人で24時間365日対応の負担」からの解放や、「在宅医療への過度な期待感」の解消が不可欠となる。24時間対応のフルタイムでなくとも、日中の往診は応じるとか、午後の訪問診療だけ、準夜帯までカバーなど、医療機関の力量や関与度に応じ、在宅医療を一次・二次・三次 (*2) と重層的に展開できるような仕組みを取り入れたり、24時間365日を支える休日夜間診療所のような公的インフラの存在が、在宅医療の環境を変える鍵である。
勿論の事だが、これらの在宅医療機関を後方支援する公的病院、公的医療機関の整備が必要である。また、診療報酬上の施策、利益追求を主とする医療・介護事業者の参入抑制や排除の仕組みの導入など、われわれは折に触れ、これらの提言や発言を重ねている。
無論、「地域実情」に応じた、自主的・能動的な医療・介護関係者のネットワーク形成の取り組み、「顔の見える関係」構築を、「萌芽」の段階から地道に育んできたことは讃えられ、学ぶべきものである。例えば「在宅医ネットよこはま」や、「横須賀市在宅療養連携会議」のネットワークはじめ、全国各地の先駆的な取り組みは、当会でも講演やシンポジウム、取材記事など、あらゆる形で紹介応援し、在宅医療の浸透を図っている。
訪問診療など在宅医療に関わる診療所は20,597件、全国の診療所の22.4%である。そのうち24時間365日対応型の在宅療養支援診療所(支援診)は14,397件と7割強を占め、その多く75%は医師1人の「従来型」であり、医師3人以上の「強化型」は1.3%、複数医療機関で対応する「連携強化型」は23.7%に過ぎない。訪問診療は全国で645,992件(月)、その8割強を「支援診」が担い、中心は1人医師の「支援診」が地域をカバーする体制となっている (*3) (*4) 。これが、現状である。
いずれにしても、在宅医療を取り組んでいない医療者・医療機関も含んだ「医療界」と、「患者・家族・国民」の間での「在宅医療」像への、一定の共有理解の醸成がないと、新規の在宅医療への参入や患者・家族の「覚悟」と「最期へ至るまでの受容」などは今後、進んでいかない。相互理解の大幅な乖離や大きな齟齬があっては混乱をきたしていく。在宅医療は、一部に治す医療を抱えても主は「支える医療」である。
改めて、このことへの理解を広く求める。
2016年11月8日
(*1) (一社)全国在宅療養支援診療所連絡会HP 「在宅医療について」<現代の在宅医療>
(*2) 補足すると、一次在宅は夜間対応できないビル診や自宅が遠方の医師達で日中に寝たきり、認知症、在宅酸素の人達を診てもらう。二次は在宅療養支援診療所が担い、24時間対応の看取りまで行う医師たち。三次は二次の医師達が対応しにくい、小児の在宅や緊急時に待てずにすぐ来て欲しいタイプの患家、毎日来て欲しいタイプの患家までも対応する在宅専門診療所であり、この一次・二次・三次の在宅医療を組み上げ医師同士が連携すれば地域として安心して在宅できる環境になるということである。