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2017/9/29 政策部長談話 「『マイナンバーカード』の保険証の代替利用に反対する 無用な混乱を医療現場に招く」

「マイナンバーカード」の保険証の代替利用に反対する

無用な混乱を医療現場に招く

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島政臣


 医療現場では「マイナンバー」は利用しない。電磁的な識別符号の「医療等ID」で、診療情報連携を行う。「官民データ活用推進基本計画」が5月末に閣議決定となり、医療・健康分野が重点分野とされ、先の通常国会では医療情報の認定匿名加工機関が法制化された。個人情報保護法の改定により、医療情報は「要配慮個人情報」と位置づけられ、本人同意なしに第三者提供は禁じられることとなった。

 しかしながら、券面にマイナンバーが表示された「マイナンバーカード」を保険証とし代替利用する実証実験が前橋市で行われている。オンラインでの被保険者の資格確認のための利用でありそれ以上ではない。政府は2018年度より段階的に、全国的な代替利用とする方針である。われわれはこのマイナンバーカードの保険証としての代替利用は、医療現場に無用の混乱を持ち込むものと考えており、強く反対する。

◆医療情報への付番、情報連携は「極限定的」、が現状

 マイナンバーは個人識別のため個々人に1つの番号で、全国民に付番され、税・社会保障、災害で利用される。「行政機関等」が効率的な「情報管理」と迅速な「情報の授受」に用い、行政運営の効率化と国民の利便性の向上を図ることが目的とされている。

 しかし、実はマイナンバーの「利用範囲」と「利用機関」は法律でそれぞれ規定されている。つまり、個人のあらゆる情報がマイナンバーに紐付けられ、一網打尽で行政機関などの誰でもが、その情報にアクセスできるわけではない。

 医療においての利用範囲は、オンラインの保険資格確認のほかには、市町村保有の予防接種等の履歴と保険者保有の特定健診等のデータのみである。前者は、市町村間、自治体間での医療情報の授受となり、要配慮個人情報の第三者提供にあたらず本人同意が不要と法解釈上はなっている。

 また後者の特定健診、特定保健指導は、マイナンバー利用による特定健診データの管理はできるが、情報連携の対象ではない。よって、マイナンバー制度の情報提供ネットワークシステムを用いず、個別の照会ごとに保険者間で照会及び提供する仕組みとなっている。光デスク等や紙媒体での送付となる。

 ちなみに、特定健診等は「内臓脂肪の蓄積に起因して肥満、脂質異常、血糖高値、血圧高値から起きる虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病等の発症・重症化を予防し、医療費を適正化するため、高齢者医療確保法に基づき、保険者が共通に取り組む保健事業」である。そのため加入者が加入する保険者が変わっても、保険者が過去の健診結果等を活用して継続して適切に特定健診等ができるよう、現保険者が旧保険者に求めることができる。ただし、データ提供に関しては本人同意、書面同意が必須である。

 個人情報保護法はその他の特別法の規定が優先する弱い法律である。そのため、「法令に基づくもの」として除外条項の対象とすれば、要配慮個人情報であっても本人同意を不要とし、マイナンバーによる情報連携も建てつけとしては可能である。が、あえてその対象とはしていない。機微性に配慮した扱いとなっている。

◆マイナンバーカードの保険証代替利用の意味 カード普及の「梃」

 マイナンバーの社会的通用、社会的普及拡大に政府は躍起だが、思う通り進んでいない。しかし、マイナンバーカードを保険証として代替利用を可能とし、利便を謳うことで普及する皮算用が弾かれている。現在、保険証の発行枚数は8,700万枚であり、政府の「マイナンバー制度活用推進ロードマップ」で2019年3月末のマイナンバーカード発行目標は同じ8,700万枚、と当初からここが狙われてきている。

 マイナンバーカードの発行枚数は1,072万枚(17年3月8日現在)と当初目標の1/3の進捗で低調である。またマイナンバーの漏洩トラブル、国、自治体間の情報連携の事故など年間165件(2016年度)と2日に1件の割合で起き、制度開始当初から後を絶たず安定性を欠いている。全国8地裁で憲法13条(プライバシー権、自己情報コントロール権)侵害とする違憲訴訟も起きている。

 マイナンバーカードは、個人識別番号による公的個人認証、いわゆる本人確認、本人の真正性を証明する身分証明(国民ID)であり、それを「電子証明書」として「格納」するICチップを搭載する。このICチップにより基本4情報(氏名、性別、住所、生年月日)以外の情報やアプリも「格納」することが可能である。

 保険証の代替利用は、公的個人認証の機能を利用したものである。これは患者が提示したマイナンバーカードのICチップを端末で読み取り、「電子証明書」をオンラインで支払基金と国保中央会が共同運営する「資格確認サービス機関」に保険資格を確認するもので、マイナンバーと保険資格を管理する「保険者」から委託を受ける格好で運営される。この資格確認サービス機関から「公的個人認証サービス」(地方公共団体システム機構<J-LIS>)に本人の確認・照会がなされ、資格の有無を資格確認サービス機関から医療機関に回答されるという流れとなる。この流れの中で、資格確認サービス機関と公的個人認証サービスとの間のやりとりでは、患者のマイナンバーそのものは利用されず、マイナンバーから生成される機関別符号でのやりとりとなる。

 ただ、前橋市はICチップを利用し、他の病院が保有するCT画像を見ることも実証実験で行っている。これは、診療情報連携である。マイナンバーに診療情報は紐づいていないが、医師のHPKI(Healthcare Public Key Infrastructure:保健医療福祉分野の公開鍵基盤)での電子証明書と患者のマイナンバーカードのICチップに搭載されているJPKI(Japanese Public Key Infrastructure:公的個人認証)の電子証明書により、本人同意の下、群馬大学にある患者の画像データを引き出すことを可能としている。地域医療情報連携システムと、マイナンバーカードによる本人の真正性の確認で、診療情報の連携が可能となっている。

 ICチップを利用した診療情報連携は、医療機関や患者にとっては、診療情報の授受に関し光デスク(CD-ROM)による送付や手渡しに比し、手間が要らず利便が高い。これを梃に、マイナンバーカード普及を狙っている感が強い。

◆医療等IDは、個人情報保護に重きおき検討中 診療情報連携も保険証の工夫で可能

 診療情報は機微性が高い。よって、診療連携のためマイナンバーのインフラを活用し、目に見えない電磁的符号である「医療等ID」を医療現場で使うことになっている。現在、検討中、開発中だが、医療等IDは (1) 1人に対して利用目的別に患者同意を原則として付与、(2) 本人が医療等IDに付与した情報にアクセス可能、(3) 知られたくない、忘れたい情報の名寄せや検索が不能なように、医療等IDの変更、アクセスコントロール権の患者への付与、(4) 患者同意を原則として目的別に医療等ID付与の情報の突合が可能、(5) 個人情報保護法の特別法としての保護法制の整備を基本としており、地域医療連携の種類によって、受診する医療機関によって医療等IDは異なることになる。

 個人番号とJPKI(公的個人認証)を総務省は峻別して考えており、JPKI利用は民間のサービス利用に開放する方向にある。当会の照会に際し、診療情報の利用について、診療情報をシリアル番号に紐付け受診の際に利用される可能性があることの事前同意をとる形が考えられるとしている。また、シリアル番号は毎回変更されるので、名寄せはされないとし、巷の懸念は回避されるとしている。更には診療情報連携は、JPKIの利用のみに収斂されないとしている。

 先に見たように、特定健診等の情報連携はマイナンバーで行われていない。保険資格確認も公的個人認証と機関別符号により電子的に行うものであり、券面に明示されたマイナンバーカードを利用する理由もない。

 医療等IDは途上だが、力点は個人情報・医療情報の「保護」に置かれ、保険証との組みわせを含め検討されている。保険証の代替としてマイナンバーカードの普及、利用となると、リスクが大きく医療現場では無用の混乱を招来することは、火を見るより明らかである。地域医療の医療情報ネットワークは全国で約240あり、これを共通のネットワークとする検討が厚労省や日医サイドから始まっている。日医は診療連携に実際的な、「かかりつけ連携手帳」を提案してもいる。叡智を働かせるべきである。

 われわれは、改めてマイナンバーカードの保険証の代替利用に反対する。

2017年9月29日

<参 考>

◆マイナンバー(個人番号)カードの様式 (総務省資料より)

style of mynumber card.jpg

◆医療保険のオンライン資格確認の仕組み (医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書より)

Structure of the qualification confirmation.jpg

「マイナンバーカード」の保険証の代替利用に反対する

無用な混乱を医療現場に招く

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島政臣


 医療現場では「マイナンバー」は利用しない。電磁的な識別符号の「医療等ID」で、診療情報連携を行う。「官民データ活用推進基本計画」が5月末に閣議決定となり、医療・健康分野が重点分野とされ、先の通常国会では医療情報の認定匿名加工機関が法制化された。個人情報保護法の改定により、医療情報は「要配慮個人情報」と位置づけられ、本人同意なしに第三者提供は禁じられることとなった。

 しかしながら、券面にマイナンバーが表示された「マイナンバーカード」を保険証とし代替利用する実証実験が前橋市で行われている。オンラインでの被保険者の資格確認のための利用でありそれ以上ではない。政府は2018年度より段階的に、全国的な代替利用とする方針である。われわれはこのマイナンバーカードの保険証としての代替利用は、医療現場に無用の混乱を持ち込むものと考えており、強く反対する。

◆医療情報への付番、情報連携は「極限定的」、が現状

 マイナンバーは個人識別のため個々人に1つの番号で、全国民に付番され、税・社会保障、災害で利用される。「行政機関等」が効率的な「情報管理」と迅速な「情報の授受」に用い、行政運営の効率化と国民の利便性の向上を図ることが目的とされている。

 しかし、実はマイナンバーの「利用範囲」と「利用機関」は法律でそれぞれ規定されている。つまり、個人のあらゆる情報がマイナンバーに紐付けられ、一網打尽で行政機関などの誰でもが、その情報にアクセスできるわけではない。

 医療においての利用範囲は、オンラインの保険資格確認のほかには、市町村保有の予防接種等の履歴と保険者保有の特定健診等のデータのみである。前者は、市町村間、自治体間での医療情報の授受となり、要配慮個人情報の第三者提供にあたらず本人同意が不要と法解釈上はなっている。

 また後者の特定健診、特定保健指導は、マイナンバー利用による特定健診データの管理はできるが、情報連携の対象ではない。よって、マイナンバー制度の情報提供ネットワークシステムを用いず、個別の照会ごとに保険者間で照会及び提供する仕組みとなっている。光デスク等や紙媒体での送付となる。

 ちなみに、特定健診等は「内臓脂肪の蓄積に起因して肥満、脂質異常、血糖高値、血圧高値から起きる虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病等の発症・重症化を予防し、医療費を適正化するため、高齢者医療確保法に基づき、保険者が共通に取り組む保健事業」である。そのため加入者が加入する保険者が変わっても、保険者が過去の健診結果等を活用して継続して適切に特定健診等ができるよう、現保険者が旧保険者に求めることができる。ただし、データ提供に関しては本人同意、書面同意が必須である。

 個人情報保護法はその他の特別法の規定が優先する弱い法律である。そのため、「法令に基づくもの」として除外条項の対象とすれば、要配慮個人情報であっても本人同意を不要とし、マイナンバーによる情報連携も建てつけとしては可能である。が、あえてその対象とはしていない。機微性に配慮した扱いとなっている。

◆マイナンバーカードの保険証代替利用の意味 カード普及の「梃」

 マイナンバーの社会的通用、社会的普及拡大に政府は躍起だが、思う通り進んでいない。しかし、マイナンバーカードを保険証として代替利用を可能とし、利便を謳うことで普及する皮算用が弾かれている。現在、保険証の発行枚数は8,700万枚であり、政府の「マイナンバー制度活用推進ロードマップ」で2019年3月末のマイナンバーカード発行目標は同じ8,700万枚、と当初からここが狙われてきている。

 マイナンバーカードの発行枚数は1,072万枚(17年3月8日現在)と当初目標の1/3の進捗で低調である。またマイナンバーの漏洩トラブル、国、自治体間の情報連携の事故など年間165件(2016年度)と2日に1件の割合で起き、制度開始当初から後を絶たず安定性を欠いている。全国8地裁で憲法13条(プライバシー権、自己情報コントロール権)侵害とする違憲訴訟も起きている。

 マイナンバーカードは、個人識別番号による公的個人認証、いわゆる本人確認、本人の真正性を証明する身分証明(国民ID)であり、それを「電子証明書」として「格納」するICチップを搭載する。このICチップにより基本4情報(氏名、性別、住所、生年月日)以外の情報やアプリも「格納」することが可能である。

 保険証の代替利用は、公的個人認証の機能を利用したものである。これは患者が提示したマイナンバーカードのICチップを端末で読み取り、「電子証明書」をオンラインで支払基金と国保中央会が共同運営する「資格確認サービス機関」に保険資格を確認するもので、マイナンバーと保険資格を管理する「保険者」から委託を受ける格好で運営される。この資格確認サービス機関から「公的個人認証サービス」(地方公共団体システム機構<J-LIS>)に本人の確認・照会がなされ、資格の有無を資格確認サービス機関から医療機関に回答されるという流れとなる。この流れの中で、資格確認サービス機関と公的個人認証サービスとの間のやりとりでは、患者のマイナンバーそのものは利用されず、マイナンバーから生成される機関別符号でのやりとりとなる。

 ただ、前橋市はICチップを利用し、他の病院が保有するCT画像を見ることも実証実験で行っている。これは、診療情報連携である。マイナンバーに診療情報は紐づいていないが、医師のHPKI(Healthcare Public Key Infrastructure:保健医療福祉分野の公開鍵基盤)での電子証明書と患者のマイナンバーカードのICチップに搭載されているJPKI(Japanese Public Key Infrastructure:公的個人認証)の電子証明書により、本人同意の下、群馬大学にある患者の画像データを引き出すことを可能としている。地域医療情報連携システムと、マイナンバーカードによる本人の真正性の確認で、診療情報の連携が可能となっている。

 ICチップを利用した診療情報連携は、医療機関や患者にとっては、診療情報の授受に関し光デスク(CD-ROM)による送付や手渡しに比し、手間が要らず利便が高い。これを梃に、マイナンバーカード普及を狙っている感が強い。

◆医療等IDは、個人情報保護に重きおき検討中 診療情報連携も保険証の工夫で可能

 診療情報は機微性が高い。よって、診療連携のためマイナンバーのインフラを活用し、目に見えない電磁的符号である「医療等ID」を医療現場で使うことになっている。現在、検討中、開発中だが、医療等IDは (1) 1人に対して利用目的別に患者同意を原則として付与、(2) 本人が医療等IDに付与した情報にアクセス可能、(3) 知られたくない、忘れたい情報の名寄せや検索が不能なように、医療等IDの変更、アクセスコントロール権の患者への付与、(4) 患者同意を原則として目的別に医療等ID付与の情報の突合が可能、(5) 個人情報保護法の特別法としての保護法制の整備を基本としており、地域医療連携の種類によって、受診する医療機関によって医療等IDは異なることになる。

 個人番号とJPKI(公的個人認証)を総務省は峻別して考えており、JPKI利用は民間のサービス利用に開放する方向にある。当会の照会に際し、診療情報の利用について、診療情報をシリアル番号に紐付け受診の際に利用される可能性があることの事前同意をとる形が考えられるとしている。また、シリアル番号は毎回変更されるので、名寄せはされないとし、巷の懸念は回避されるとしている。更には診療情報連携は、JPKIの利用のみに収斂されないとしている。

 先に見たように、特定健診等の情報連携はマイナンバーで行われていない。保険資格確認も公的個人認証と機関別符号により電子的に行うものであり、券面に明示されたマイナンバーカードを利用する理由もない。

 医療等IDは途上だが、力点は個人情報・医療情報の「保護」に置かれ、保険証との組みわせを含め検討されている。保険証の代替としてマイナンバーカードの普及、利用となると、リスクが大きく医療現場では無用の混乱を招来することは、火を見るより明らかである。地域医療の医療情報ネットワークは全国で約240あり、これを共通のネットワークとする検討が厚労省や日医サイドから始まっている。日医は診療連携に実際的な、「かかりつけ連携手帳」を提案してもいる。叡智を働かせるべきである。

 われわれは、改めてマイナンバーカードの保険証の代替利用に反対する。

2017年9月29日

<参 考>

◆マイナンバー(個人番号)カードの様式 (総務省資料より)

style of mynumber card.jpg

◆医療保険のオンライン資格確認の仕組み (医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書より)

Structure of the qualification confirmation.jpg