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2017/12/6 政策部長談話 「医療の再生産と『質』の向上を保障する 診療報酬『全体』のプラス改定を求める

医療の再生産と「質」の向上を保障する

診療報酬「全体」のプラス改定を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 財政制度等審議会は11月29日、次年度予算編成等に関する建議を財務大臣に提出。診療報酬「本体」マイナス改定を盛り込んだ。その後、報道で、政府は「本体」部分を引き上げる方針を固めた(12/3朝日新聞)などと伝えられるが、診療報酬「全体」(ネット)はマイナス方針であり、社会保障費の自然増6,300億円を1,300億円削減し5,000億円増へと圧縮することに変わりはない。実勢価格との乖離の薬価引き下げ分で数千億円が捻出可能との話のようだが、薬価引き下げ分の本体への振り替え・充当は1972年の中医協「建議」での確認事項である。これを過去2回の改定では反故にしており、この当然視は許しがたい。経営努力による乖離分は医療機関経営に既に充てられており、フィクションなどではない。過日の中医協・医療経済実態調査や診療行為別統計の結果を踏まえれば、医療機関の経営基盤の確立と患者の受ける医療の質を維持・向上するために、診療報酬「全体」のプラス改定は必要である。われわれは、このことを強く求める。

医療機関の経営悪化は歴然

診療所は医科1/4、歯科1/8が赤字

 医療機関の収入の殆どを占める医療保険収入(医療費)の1施設の階級別分布はこの5年、総医療費増はありながらも大きな変化はないが、実は若干、二極化の様相を見せ始めている。2010年度と2015年度を比較してみると、医科診療所の最頻値は5,000万円で変わらないものの、平均値は9,883万円が1億349万円へ、中央値が7,364万円から7,516万円へと増加している。この間に診療所医療費は8兆3,952億円から8兆8,602億円へと4,750億円増となり、施設数も80,657から81,740(1,083施設増)となっているが、1施設単純平均で450万円増と計算上はなるものの最頻値には上乗せにはなっていない。

 歯科診療所も同様に2010年度と2015年度を比較で、最頻値は2,500万円で変わらないが、平均値は3,742万円が4,040万円、中央値は3,195万円が3,333万円へと増加。この間の歯科医療費は2兆6,020億円から2兆8,294億円へと2,274億円増で、施設数は64,238が65,098(860施設増)となっているが、こちらも1施設単純平均の300万円増は最頻値に上乗せになっていない。(以上「医療費の動向」)。これらは「全数調査」の実態値であり、この下で医療機関経営を行っている。

 医療機関の費用は人件費を中心に年々、増加傾向をとるが、費用の施設階級別分布に関する数値はない。経営指標をみる数値はサンプル調査だが中医協の医療経済実態調査となる。過日、発表された結果は、損益率がマイナス(赤字)となっている割合(2016年度)は、医科診療所で25.7%、歯科診療所で12.9%となり、各々4年前(2012年度)の18.1%、10.4%から増加している。対前年度比での悪化率は医科歯科ともに5割水準であり、公表数字がある2年前と比しても半数程度の悪化傾向は変わっていない。これでは地域医療を守る医療機関の存立、医療の再生産は覚束ない。

医療の質も危険 高齢患者の一人あたり医療費減少

赤字の病院6割の下で医療事故増

 この間の診療報酬マイナス改定による医療費抑制は高齢化の下での高齢者が受ける医療にも影を落としている。高齢者(後期高齢者)一人患者当たりの医療費は、医科外来で16,814円(月)(2010年)が16,694円(月)(2016年)へと▲0.7%下落。受診日数も患者負担増の影響で2.05日(月)が1.82日(月)へと▲11.2%落ちている。歯科では15,718円(月)(2010年)が14,207円(月)(2015年)へと▲9.6%、受診日数は2.26日が1.98日へと▲12.4%下落しているのである。

 つまり、従前の医療の質の確保を、医療従事者の献身で支えている構図となっており、マイナス改定は、これにさらに無理を強いることになる。

 医療の質、医療労働の過密化を測る指標に医療事故件数がある。日本医療機能評価機構への登録義務のある医療機関の集計分で、軽微なものを含めた事故件数は1病院3.7件(2182件/578医療機関)(2010年)から4.5件(3,374件/743医療機関)へと増加している。医療の安全も脅かされている。

 ちなみに、一般病院の損益率のマイナス(赤字)割合は58.1%(2016年度)と6割に迫り、4年前の36.8%(2012年度)から大幅に増加しており、経営難と過密労働が負のスパイラルとなっている。勤務医の過労死はあとを絶たない。

医療改善への現場努力の評価を

降圧目標達成58.2%に大きく前進 歯科8020運動達成50.2%

 1998年から続く診療報酬のマイナス改定基調の下、医療機関は医療の質の向上に地道に成果を上げてきたことは意外と評価されていない。一例を挙げる。医科では実地医家での高血圧患者の降圧目標達成率は2013年の58.2%へと、2002年の36.2%から大幅に改善を見せている(全国保険医団体連合会調査)。また歯科では80歳になっても自分の歯を20本保つ「8020運動」は、厚生省の提唱で推進されてきたが、現在は達成率が51.2%と半数を超え(「歯科疾患実態調査」)、1999年の15.3%から隔世の感がある。これらは、医療現場での患者教育をはじめとする、個別的な治療努力、医療提供による果実である。

 医療の質、安全を保障し、地域医療の基盤確立のためには、診療報酬「全体」のプラス改定は必須であり、医療費の総枠拡大が求められる。それは確かに保険料や国庫などの負担増を伴うが、これが医療の内容や水準を保障し規定する不可分の関係性にあり、ここから逃れようがない。そのことへの国民的な理解は必要である。ただ、負担増に際し病気で病む患者に患者負担の形でシワ寄せする医療保険制度の構造的問題の解消、窓口負担の解消を、米国以外の先進諸国並みに図らないと患者と医療者の間の矛盾、二律背反は拡大する。負担増は患者以外の皆で前払いの形で「分かち合う」、そして社会保障の原則、利用者負担は無償か低額の定額つまり「窓口負担ゼロ」を組み込むことも視野に考えないといけない。

 次年度の税収は91年度のバブル期に匹敵する27年ぶりの高水準と想定されている。

 われわれは、医療の質を守り、地域医療を守るため、診療報酬「全体」のプラス改定を強く求める。

2017年12月6日


<資料>

医科診療所(全体)

■ 1施設当たり医療費階級別施設数

20171205M-1.jpg

※「施設単位でみる医療費等の分布の状況」(医療費の動向 平成23年度版~27年度版)より作成

■ 損益率の分布

20171205M-2.jpg

※「第19回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 損益率対前年度増減

20171205M-3.jpg

※「第20回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 一般医療-後期医療別にみた入院外の1件当たり点数・1件当たり日数

20171205M-4.jpg

※「平成22年社会医療診療行為別調査結果」及び「平成28年社会医療診療行為別統計」より作成

歯科診療所(全体)

■ 1施設当たり医療費階級別施設数

20171205D-1.jpg

※「施設単位でみる医療費等の分布の状況」(医療費の動向 平成23年度版~27年度版)より作成

■ 損益率の分布

20171205D-2.jpg

※「第18回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 損益率対前年度増減

20171205D-3.jpg

※「第20回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 一般医療-後期医療別にみた1件当たり点数・1件当たり日数

20171205D-4.jpg

※「平成22年社会医療診療行為別調査結果」及び「平成28年社会医療診療行為別統計」より作成

医療の再生産と「質」の向上を保障する

診療報酬「全体」のプラス改定を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 財政制度等審議会は11月29日、次年度予算編成等に関する建議を財務大臣に提出。診療報酬「本体」マイナス改定を盛り込んだ。その後、報道で、政府は「本体」部分を引き上げる方針を固めた(12/3朝日新聞)などと伝えられるが、診療報酬「全体」(ネット)はマイナス方針であり、社会保障費の自然増6,300億円を1,300億円削減し5,000億円増へと圧縮することに変わりはない。実勢価格との乖離の薬価引き下げ分で数千億円が捻出可能との話のようだが、薬価引き下げ分の本体への振り替え・充当は1972年の中医協「建議」での確認事項である。これを過去2回の改定では反故にしており、この当然視は許しがたい。経営努力による乖離分は医療機関経営に既に充てられており、フィクションなどではない。過日の中医協・医療経済実態調査や診療行為別統計の結果を踏まえれば、医療機関の経営基盤の確立と患者の受ける医療の質を維持・向上するために、診療報酬「全体」のプラス改定は必要である。われわれは、このことを強く求める。

医療機関の経営悪化は歴然

診療所は医科1/4、歯科1/8が赤字

 医療機関の収入の殆どを占める医療保険収入(医療費)の1施設の階級別分布はこの5年、総医療費増はありながらも大きな変化はないが、実は若干、二極化の様相を見せ始めている。2010年度と2015年度を比較してみると、医科診療所の最頻値は5,000万円で変わらないものの、平均値は9,883万円が1億349万円へ、中央値が7,364万円から7,516万円へと増加している。この間に診療所医療費は8兆3,952億円から8兆8,602億円へと4,750億円増となり、施設数も80,657から81,740(1,083施設増)となっているが、1施設単純平均で450万円増と計算上はなるものの最頻値には上乗せにはなっていない。

 歯科診療所も同様に2010年度と2015年度を比較で、最頻値は2,500万円で変わらないが、平均値は3,742万円が4,040万円、中央値は3,195万円が3,333万円へと増加。この間の歯科医療費は2兆6,020億円から2兆8,294億円へと2,274億円増で、施設数は64,238が65,098(860施設増)となっているが、こちらも1施設単純平均の300万円増は最頻値に上乗せになっていない。(以上「医療費の動向」)。これらは「全数調査」の実態値であり、この下で医療機関経営を行っている。

 医療機関の費用は人件費を中心に年々、増加傾向をとるが、費用の施設階級別分布に関する数値はない。経営指標をみる数値はサンプル調査だが中医協の医療経済実態調査となる。過日、発表された結果は、損益率がマイナス(赤字)となっている割合(2016年度)は、医科診療所で25.7%、歯科診療所で12.9%となり、各々4年前(2012年度)の18.1%、10.4%から増加している。対前年度比での悪化率は医科歯科ともに5割水準であり、公表数字がある2年前と比しても半数程度の悪化傾向は変わっていない。これでは地域医療を守る医療機関の存立、医療の再生産は覚束ない。

医療の質も危険 高齢患者の一人あたり医療費減少

赤字の病院6割の下で医療事故増

 この間の診療報酬マイナス改定による医療費抑制は高齢化の下での高齢者が受ける医療にも影を落としている。高齢者(後期高齢者)一人患者当たりの医療費は、医科外来で16,814円(月)(2010年)が16,694円(月)(2016年)へと▲0.7%下落。受診日数も患者負担増の影響で2.05日(月)が1.82日(月)へと▲11.2%落ちている。歯科では15,718円(月)(2010年)が14,207円(月)(2015年)へと▲9.6%、受診日数は2.26日が1.98日へと▲12.4%下落しているのである。

 つまり、従前の医療の質の確保を、医療従事者の献身で支えている構図となっており、マイナス改定は、これにさらに無理を強いることになる。

 医療の質、医療労働の過密化を測る指標に医療事故件数がある。日本医療機能評価機構への登録義務のある医療機関の集計分で、軽微なものを含めた事故件数は1病院3.7件(2182件/578医療機関)(2010年)から4.5件(3,374件/743医療機関)へと増加している。医療の安全も脅かされている。

 ちなみに、一般病院の損益率のマイナス(赤字)割合は58.1%(2016年度)と6割に迫り、4年前の36.8%(2012年度)から大幅に増加しており、経営難と過密労働が負のスパイラルとなっている。勤務医の過労死はあとを絶たない。

医療改善への現場努力の評価を

降圧目標達成58.2%に大きく前進 歯科8020運動達成50.2%

 1998年から続く診療報酬のマイナス改定基調の下、医療機関は医療の質の向上に地道に成果を上げてきたことは意外と評価されていない。一例を挙げる。医科では実地医家での高血圧患者の降圧目標達成率は2013年の58.2%へと、2002年の36.2%から大幅に改善を見せている(全国保険医団体連合会調査)。また歯科では80歳になっても自分の歯を20本保つ「8020運動」は、厚生省の提唱で推進されてきたが、現在は達成率が51.2%と半数を超え(「歯科疾患実態調査」)、1999年の15.3%から隔世の感がある。これらは、医療現場での患者教育をはじめとする、個別的な治療努力、医療提供による果実である。

 医療の質、安全を保障し、地域医療の基盤確立のためには、診療報酬「全体」のプラス改定は必須であり、医療費の総枠拡大が求められる。それは確かに保険料や国庫などの負担増を伴うが、これが医療の内容や水準を保障し規定する不可分の関係性にあり、ここから逃れようがない。そのことへの国民的な理解は必要である。ただ、負担増に際し病気で病む患者に患者負担の形でシワ寄せする医療保険制度の構造的問題の解消、窓口負担の解消を、米国以外の先進諸国並みに図らないと患者と医療者の間の矛盾、二律背反は拡大する。負担増は患者以外の皆で前払いの形で「分かち合う」、そして社会保障の原則、利用者負担は無償か低額の定額つまり「窓口負担ゼロ」を組み込むことも視野に考えないといけない。

 次年度の税収は91年度のバブル期に匹敵する27年ぶりの高水準と想定されている。

 われわれは、医療の質を守り、地域医療を守るため、診療報酬「全体」のプラス改定を強く求める。

2017年12月6日


<資料>

医科診療所(全体)

■ 1施設当たり医療費階級別施設数

20171205M-1.jpg

※「施設単位でみる医療費等の分布の状況」(医療費の動向 平成23年度版~27年度版)より作成

■ 損益率の分布

20171205M-2.jpg

※「第19回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 損益率対前年度増減

20171205M-3.jpg

※「第20回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 一般医療-後期医療別にみた入院外の1件当たり点数・1件当たり日数

20171205M-4.jpg

※「平成22年社会医療診療行為別調査結果」及び「平成28年社会医療診療行為別統計」より作成

歯科診療所(全体)

■ 1施設当たり医療費階級別施設数

20171205D-1.jpg

※「施設単位でみる医療費等の分布の状況」(医療費の動向 平成23年度版~27年度版)より作成

■ 損益率の分布

20171205D-2.jpg

※「第18回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 損益率対前年度増減

20171205D-3.jpg

※「第20回医療経済実態調査」及び「第21回医療経済実態調査」より作成

■ 一般医療-後期医療別にみた1件当たり点数・1件当たり日数

20171205D-4.jpg

※「平成22年社会医療診療行為別調査結果」及び「平成28年社会医療診療行為別統計」より作成