神奈川県保険医協会とは
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2005/5/16 医療運動部会長談話「人道にもとる医療費の『総額管理』に断固抗議する」
人道にもとる医療費の「総額管理」に断固抗議する
神奈川県保険医協会
医療運動部会長 池川 明
5月7日、「医療費抑制へ新指標 膨らむ総額1割圧縮 厚労省方針」との報道(朝日新聞)がなされた。これは、4月27日の小泉首相の強い検討指示を受けたもので、医療費給付の伸び率管理のための新たな"指標"を設定し、給付費総額の1割程度を圧縮する。5ヵ年計画も作成し①長期入院の居住費、食費の給付外化、②保険免責制度の導入、③高齢者自己負担の2割化、④高額療養費制度の見直し-を盛り込むとしている。
この新たな計画は、医療現場を全く無視した暴挙であり、患者実態を鑑みる姿勢のかけらもない。われわれは、この計画に対し断固反対である。
これらは、経済財政諮問会議が唱えた、社会保障費の伸び率の管理を、名目GDPの伸び率を指標とするとの提案への対抗として考案されたものである。
厚労省は、この間、社会保障給付の総枠管理に反対し、3月18日の「社会保障のあり方に関する懇談会」では33頁にわたる資料で全面的な反論をおこなっていた。
とりわけ医療費については、対GDP比で2015年には現在のドイツ(10.8%)と同水準、2025年でも現在の米国(13.9%)より低い12.5%と、経済財政諮問会議の医療保険財政が破綻するとの主張を否定し、日本は先進29カ国中17位の医療費であるとの事実を提示。「一律枠の設定によるサービス制限は限界を超えた利用者負担や国民の健康水準の低下を招く」としている。更には、公的医療保障の対象を限定(高齢者と貧困層)し、大部分を民間保険で対応している米国の問題点―①高い医療費、②4,500万人の無保険者、③福利厚生で民間保険を提供する企業の保険料負担の増大、④公的保険の対象が高リスク層なため医療費が増大―の指摘さえもしている。
しかし、今回、報道された内容は、自らの反論を反故にする矛盾に満ちたものである。厚労省が反論したように、医療費の総枠管理をとったイギリスでは、100万人の入院待機者などの弊害が出て近年、医療予算の拡大に政策を転換した。また、フランスでは管理目標の超過分を開業医に返還させることに違憲判決が出され、事実上、機能していない。また、ドイツでは既にこの施策は破綻している。
今回の総枠管理で、厚労省は2025年に医療費給付を6.5兆円圧縮できるとし、経済財政諮問会議の求めた15兆円圧縮との綱引きの構図となる。これは、昨秋から年末にかけての混合診療をめぐり、全面解禁を求めた諮問会議と、ルールある解禁をと抵抗した厚労省との綱引きの構図と酷似している。しかも、首相の検討指示を発端としている点でもまさに同じである。
昨年末の決着は、事実上の"混合診療の解禁"合意で落ち着いた。今回の総枠管理も、管理指標の差異に耳目が集まり、医療費総枠の圧縮を前提とした議論であることが置き去りとなり、結果として数値をともなった総枠抑制のルール化となる危険性が極めて高い。
2001年に計画された総額管理は、目標超過分を医療機関に付け回す方法で、多くの反対で頓挫した。
しかし、昨年末の「基本合意」で混合診療の事実上の解禁に道筋をつけたことで、今度は超過分を、患者の側に付けまわす条件ができ、大胆にも、厚労省は総額管理に踏み切ることを決断しはじめた。医療課長の「混合診療の実質的解禁」「(患者徴収が可能な)新しい武器ができたと考えるべき」との公式発言が、そのことを如実に物語っている。
医療費抑制策の下、患者負担は1997年の健保本人2割以降、重くなり極端な受診抑制として現れ、2003年の健保3割で、更に受診抑制が激化している。つまり、医療に多くの国民がかかりにくくなっている。また、医療の高度化・複雑化、高まる国民の医療要求に反し、診療報酬が2回連続マイナス改定となり、第一線医療は、その質と量を維持していくことすら、困難になっている。つまり、医療の安全性や医療サービスや質の向上が、どんどん遠のいていっているのである。
今回、明らかとなった、厚労省の計画は、憲法第25条第2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」の精神に背馳する違憲行為である。つまりは、指示をした首相自らが憲法を蹂躙していることにほかならない。
経済再生のためにも、将来不安の解消、社会保障の拡充こそが喫緊禁の施策である。厚労省自ら言うように米国の愚を犯さないためにも、この反憲法的な方針の撤回を求めるものである。
2005年5月16日
人道にもとる医療費の「総額管理」に断固抗議する
神奈川県保険医協会
医療運動部会長 池川 明
5月7日、「医療費抑制へ新指標 膨らむ総額1割圧縮 厚労省方針」との報道(朝日新聞)がなされた。これは、4月27日の小泉首相の強い検討指示を受けたもので、医療費給付の伸び率管理のための新たな"指標"を設定し、給付費総額の1割程度を圧縮する。5ヵ年計画も作成し①長期入院の居住費、食費の給付外化、②保険免責制度の導入、③高齢者自己負担の2割化、④高額療養費制度の見直し-を盛り込むとしている。
この新たな計画は、医療現場を全く無視した暴挙であり、患者実態を鑑みる姿勢のかけらもない。われわれは、この計画に対し断固反対である。
これらは、経済財政諮問会議が唱えた、社会保障費の伸び率の管理を、名目GDPの伸び率を指標とするとの提案への対抗として考案されたものである。
厚労省は、この間、社会保障給付の総枠管理に反対し、3月18日の「社会保障のあり方に関する懇談会」では33頁にわたる資料で全面的な反論をおこなっていた。
とりわけ医療費については、対GDP比で2015年には現在のドイツ(10.8%)と同水準、2025年でも現在の米国(13.9%)より低い12.5%と、経済財政諮問会議の医療保険財政が破綻するとの主張を否定し、日本は先進29カ国中17位の医療費であるとの事実を提示。「一律枠の設定によるサービス制限は限界を超えた利用者負担や国民の健康水準の低下を招く」としている。更には、公的医療保障の対象を限定(高齢者と貧困層)し、大部分を民間保険で対応している米国の問題点―①高い医療費、②4,500万人の無保険者、③福利厚生で民間保険を提供する企業の保険料負担の増大、④公的保険の対象が高リスク層なため医療費が増大―の指摘さえもしている。
しかし、今回、報道された内容は、自らの反論を反故にする矛盾に満ちたものである。厚労省が反論したように、医療費の総枠管理をとったイギリスでは、100万人の入院待機者などの弊害が出て近年、医療予算の拡大に政策を転換した。また、フランスでは管理目標の超過分を開業医に返還させることに違憲判決が出され、事実上、機能していない。また、ドイツでは既にこの施策は破綻している。
今回の総枠管理で、厚労省は2025年に医療費給付を6.5兆円圧縮できるとし、経済財政諮問会議の求めた15兆円圧縮との綱引きの構図となる。これは、昨秋から年末にかけての混合診療をめぐり、全面解禁を求めた諮問会議と、ルールある解禁をと抵抗した厚労省との綱引きの構図と酷似している。しかも、首相の検討指示を発端としている点でもまさに同じである。
昨年末の決着は、事実上の"混合診療の解禁"合意で落ち着いた。今回の総枠管理も、管理指標の差異に耳目が集まり、医療費総枠の圧縮を前提とした議論であることが置き去りとなり、結果として数値をともなった総枠抑制のルール化となる危険性が極めて高い。
2001年に計画された総額管理は、目標超過分を医療機関に付け回す方法で、多くの反対で頓挫した。
しかし、昨年末の「基本合意」で混合診療の事実上の解禁に道筋をつけたことで、今度は超過分を、患者の側に付けまわす条件ができ、大胆にも、厚労省は総額管理に踏み切ることを決断しはじめた。医療課長の「混合診療の実質的解禁」「(患者徴収が可能な)新しい武器ができたと考えるべき」との公式発言が、そのことを如実に物語っている。
医療費抑制策の下、患者負担は1997年の健保本人2割以降、重くなり極端な受診抑制として現れ、2003年の健保3割で、更に受診抑制が激化している。つまり、医療に多くの国民がかかりにくくなっている。また、医療の高度化・複雑化、高まる国民の医療要求に反し、診療報酬が2回連続マイナス改定となり、第一線医療は、その質と量を維持していくことすら、困難になっている。つまり、医療の安全性や医療サービスや質の向上が、どんどん遠のいていっているのである。
今回、明らかとなった、厚労省の計画は、憲法第25条第2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」の精神に背馳する違憲行為である。つまりは、指示をした首相自らが憲法を蹂躙していることにほかならない。
経済再生のためにも、将来不安の解消、社会保障の拡充こそが喫緊禁の施策である。厚労省自ら言うように米国の愚を犯さないためにも、この反憲法的な方針の撤回を求めるものである。
2005年5月16日