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2005/11/9 医療運動部会長「診療報酬引き下げに根拠なし 保険診療収入は連続マイナスが実態  情報操作で開業医潰し狙う策動に反対する」

診療報酬引き下げに根拠なし 保険診療収入は連続マイナスが実態

情報操作で開業医潰し狙う策動に反対する

                             神奈川県保険医協会

                             医療運動部会長  池川 明


 厚労省は11月2日、医療経済実態調査(速報値)を公表した。この調査は次期診療報酬改定の改定幅の参考資料となるものだが、例年に比べ1ヶ月近くも早く公表された。しかも、飛び石連休の前日発表と、各団体の見解表明が難しい、"絶妙のタイミング"で公表された。

 報道各紙は翌日、個人立の診療所の収支差額に着目し「開業医黒字228万円、前回調査よりも0.9%の増加」などと、この調査数値に不理解な見出しをうち、開業医の診療報酬の引き下げが必至と報道。続く11月5日には日本経済新聞が「診療報酬下げ『最大5.3%』 開業医向け見直し 病院との格差是正」と報じ、診療報酬引き下げと開業医向け診療報酬の圧縮が、規定路線のように印象づけている。しかしながら、今回の調査結果の物語る内実は報道されていることと全く別物である。

 まず、収支差額とは事業所(医療機関)として得た収入から支出を差し引いた額、事業所収益である。この収支差額から、従業員の退職金の引き当てや借入金の元本返済、医療機器の更新費用などが計上され、最終的に院長の個人所得となる。収支差額イコール院長所得でないことは、調査結果の表の見方に、きちんと明示がなされてもいる。一時、是正されたものの、この中医協実態調査の公表たびに、この誤報は繰り返されており、実に遺憾である。

 しかも、10月2日の中医協の席上、支払側の対馬委員は開業医が「月収220万円と高いレベルにある」と発言しており、不理解による発言であれ、意図的な発言であれ、委員としてその資格が厳しく問われるものである。と同時に同席した厚労官僚は訂正もしておらず、責任は重いと考える。

 その上、今回調査は平日の日数が前回より4日多い22日にもかかわらず、補正はおろか明示すらもしていない。かつて99年調査で問題にされた際は、明示だけはしており作為を感じざるを得ない。

 固定費の多い支出に比べ、日数増は医業収入の増に結びつき、収支差額も高めに出ることになる。診療実日数の資料が公表されていないので、平日日数で機械的補正(21/22)をすると、収支差額はマイナス12%と大幅に逆転する。

 補正されない今回の調査結果を見ると、医業収入が医科マイナス19万5千円、歯科マイナス15万6千円と、ともにマイナスとなっており、太宗を占める保険診療収入は無床診療所、有床診療所、歯科診療所と全てマイナスで、医科で25万7千円、歯科で20万3千円の減額である。一方、支出である医業費用は医科は21万4千円、歯科は27万2千円の減額と医業収入の減額を上回っている。

 つまり、収支差額0.9%増は、徹底した支出の切り詰めー医薬品の値引き交渉や光熱費・消耗品の圧縮、人員削減・パート化など-により産み出されたものである。収支差額がマイナスでは、医療機関の"持続可能性"がほとんどなくなり閉院となる。この傾向は99年調査から一貫しており、医業収入の増加による収支差額の増では決してない。このことは、医療現場からゆとりをなくし、安全性や質に問題をきたす危険性をはらんでいる。

 医療法人などを含んだ診療所全体でみれば(現在、個人立と医療法人立の診療所は2:1の割合)、この傾向は更に顕著であり、医業費用の切り詰めも限界に来ており、収支差額は3.6%のマイナスとなっている。とりわけ院内処方の診療所は12.9%マイナスと、より深刻である。

 財務省は99年を起点にとり05年までに、人事院勧告・消費者物価指数が4.7%減少、診療報酬改定率の累計が0.6%増とし、その乖離幅5.3%のマイナス改定を11月4日、財政審議会で求めている。しかし、1981年以降、改定は物価スライド制を廃止し、80年代、90年代と経済との連動はさせてきていない。しかも、前回04年改定は、収支差額が医科診療所・個人立でマイナス8.9%(医科診療所・全体はマイナス14.4%)、歯科診療所・個人でマイナス3.6%だったにもかかわらず、診療報酬はマイナス1.05%と2回連続のマイナス改定が断行された。

 財務省の出す数字は単なるご都合主義でしかない。また無用に病院との違いを強調し、対立・分断を作り上げる財務省筋の発言も問題が多い。

 イギリスは数十年来の医療費抑制策で、医師の士気は壊滅的に崩壊し、ブレアが政策転換をし、医療への予算を拡大しても元には戻らなかった(「ランセット」)。このイギリスの「愚」を繰り返さず、安心・安全の医療の実現のため、診療報酬の改善を強く求めるものである。

2005年11月9日

■中医協・医療経済実態調査(速報値) (2005.6.1実施)<公表資料より作成>

(表1)一般診療所(個人立)                                      (伸び率:%、伸び幅:千円)

無床診療所 有床診療所 全体
金額の伸び率 金額の伸び幅 金額の伸び率 金額の伸び幅 金額の伸び率 金額の伸び幅
Ⅰ医業収入 -2.0 -122 0.3 34 -2.9 -195
 1保険診療収入 -2.9 -166 -3.8 -341 -4.1 -257
 (再掲)入院収入 1.4 22 -12.5 -29
 (再掲)外来収入 -2.9 -166 -4.8 -363 -3.8 -228
 2公害その他診療収入 82.9 29 304.3 143 118.9 44
 3その他医業収入 27.6 40 19.3 249 13.8 44
 4その他の医業収入 -18.0 -25 -7.3 -17 -17.0 -26
Ⅱ医業費用 -5.1 -197 4.0 314 -4.8 -214
 1給与費 1.4 19 14.0 429 2.3 36
 2医薬品費 -4.1 -51 -12.7 -243 -6.7 -90
 3材料費 7.7 7 68.5 213 24.8 28
 4委託費 -5.2 -10 6.5 33 -4.2 -10
 5減価償却費 23.7 42 -4.0 -15 14.4 30
 (再掲)建物減価償却費 19.2 14 10.5 17 15.1 13
 (再掲)医療機器減価償却費 84.6 33 -2.0 -2 58.3 28
 6その他の医業費用 -22.9 -201 -5.9 -104 -20.5 -207
Ⅲ収支差額(Ⅰ-Ⅱ) 3.4 75 -10.6 280 0.9 20

(表2)歯科診療所(個人立)       (伸び率:%、伸び幅:千円)

歯科診療所
金額の伸び率 金額の伸び幅
Ⅰ医業収入 -4.2 -156
 1保険診療収入 -6.2 -203
 2労災その他診療収入 0.0 0
 3その他の診療収入 -2.1 -8
 4その他の医業収入 168.8 54
Ⅱ介護収入 300.0 3
Ⅲ医業費用 -11.0 -272
 1給与費 -3.6 -37
 2医薬品費 -6.7 -3
 3歯科材料費 -12.1 -27
 4委託費 -16.4 -68
 5減価償却費 -1.3 -2
 (再掲)建物減価償却費 -3.8 -2
 (再掲)医療機器減価償却費 0.0 0
 6その他の医業費用 -22.3 -136
Ⅳ収支差額(Ⅰ+Ⅱ-Ⅲ) 9.6 118

診療報酬引き下げに根拠なし 保険診療収入は連続マイナスが実態

情報操作で開業医潰し狙う策動に反対する

                             神奈川県保険医協会

                             医療運動部会長  池川 明


 厚労省は11月2日、医療経済実態調査(速報値)を公表した。この調査は次期診療報酬改定の改定幅の参考資料となるものだが、例年に比べ1ヶ月近くも早く公表された。しかも、飛び石連休の前日発表と、各団体の見解表明が難しい、"絶妙のタイミング"で公表された。

 報道各紙は翌日、個人立の診療所の収支差額に着目し「開業医黒字228万円、前回調査よりも0.9%の増加」などと、この調査数値に不理解な見出しをうち、開業医の診療報酬の引き下げが必至と報道。続く11月5日には日本経済新聞が「診療報酬下げ『最大5.3%』 開業医向け見直し 病院との格差是正」と報じ、診療報酬引き下げと開業医向け診療報酬の圧縮が、規定路線のように印象づけている。しかしながら、今回の調査結果の物語る内実は報道されていることと全く別物である。

 まず、収支差額とは事業所(医療機関)として得た収入から支出を差し引いた額、事業所収益である。この収支差額から、従業員の退職金の引き当てや借入金の元本返済、医療機器の更新費用などが計上され、最終的に院長の個人所得となる。収支差額イコール院長所得でないことは、調査結果の表の見方に、きちんと明示がなされてもいる。一時、是正されたものの、この中医協実態調査の公表たびに、この誤報は繰り返されており、実に遺憾である。

 しかも、10月2日の中医協の席上、支払側の対馬委員は開業医が「月収220万円と高いレベルにある」と発言しており、不理解による発言であれ、意図的な発言であれ、委員としてその資格が厳しく問われるものである。と同時に同席した厚労官僚は訂正もしておらず、責任は重いと考える。

 その上、今回調査は平日の日数が前回より4日多い22日にもかかわらず、補正はおろか明示すらもしていない。かつて99年調査で問題にされた際は、明示だけはしており作為を感じざるを得ない。

 固定費の多い支出に比べ、日数増は医業収入の増に結びつき、収支差額も高めに出ることになる。診療実日数の資料が公表されていないので、平日日数で機械的補正(21/22)をすると、収支差額はマイナス12%と大幅に逆転する。

 補正されない今回の調査結果を見ると、医業収入が医科マイナス19万5千円、歯科マイナス15万6千円と、ともにマイナスとなっており、太宗を占める保険診療収入は無床診療所、有床診療所、歯科診療所と全てマイナスで、医科で25万7千円、歯科で20万3千円の減額である。一方、支出である医業費用は医科は21万4千円、歯科は27万2千円の減額と医業収入の減額を上回っている。

 つまり、収支差額0.9%増は、徹底した支出の切り詰めー医薬品の値引き交渉や光熱費・消耗品の圧縮、人員削減・パート化など-により産み出されたものである。収支差額がマイナスでは、医療機関の"持続可能性"がほとんどなくなり閉院となる。この傾向は99年調査から一貫しており、医業収入の増加による収支差額の増では決してない。このことは、医療現場からゆとりをなくし、安全性や質に問題をきたす危険性をはらんでいる。

 医療法人などを含んだ診療所全体でみれば(現在、個人立と医療法人立の診療所は2:1の割合)、この傾向は更に顕著であり、医業費用の切り詰めも限界に来ており、収支差額は3.6%のマイナスとなっている。とりわけ院内処方の診療所は12.9%マイナスと、より深刻である。

 財務省は99年を起点にとり05年までに、人事院勧告・消費者物価指数が4.7%減少、診療報酬改定率の累計が0.6%増とし、その乖離幅5.3%のマイナス改定を11月4日、財政審議会で求めている。しかし、1981年以降、改定は物価スライド制を廃止し、80年代、90年代と経済との連動はさせてきていない。しかも、前回04年改定は、収支差額が医科診療所・個人立でマイナス8.9%(医科診療所・全体はマイナス14.4%)、歯科診療所・個人でマイナス3.6%だったにもかかわらず、診療報酬はマイナス1.05%と2回連続のマイナス改定が断行された。

 財務省の出す数字は単なるご都合主義でしかない。また無用に病院との違いを強調し、対立・分断を作り上げる財務省筋の発言も問題が多い。

 イギリスは数十年来の医療費抑制策で、医師の士気は壊滅的に崩壊し、ブレアが政策転換をし、医療への予算を拡大しても元には戻らなかった(「ランセット」)。このイギリスの「愚」を繰り返さず、安心・安全の医療の実現のため、診療報酬の改善を強く求めるものである。

2005年11月9日

■中医協・医療経済実態調査(速報値) (2005.6.1実施)<公表資料より作成>

(表1)一般診療所(個人立)                                      (伸び率:%、伸び幅:千円)

無床診療所 有床診療所 全体
金額の伸び率 金額の伸び幅 金額の伸び率 金額の伸び幅 金額の伸び率 金額の伸び幅
Ⅰ医業収入 -2.0 -122 0.3 34 -2.9 -195
 1保険診療収入 -2.9 -166 -3.8 -341 -4.1 -257
 (再掲)入院収入 1.4 22 -12.5 -29
 (再掲)外来収入 -2.9 -166 -4.8 -363 -3.8 -228
 2公害その他診療収入 82.9 29 304.3 143 118.9 44
 3その他医業収入 27.6 40 19.3 249 13.8 44
 4その他の医業収入 -18.0 -25 -7.3 -17 -17.0 -26
Ⅱ医業費用 -5.1 -197 4.0 314 -4.8 -214
 1給与費 1.4 19 14.0 429 2.3 36
 2医薬品費 -4.1 -51 -12.7 -243 -6.7 -90
 3材料費 7.7 7 68.5 213 24.8 28
 4委託費 -5.2 -10 6.5 33 -4.2 -10
 5減価償却費 23.7 42 -4.0 -15 14.4 30
 (再掲)建物減価償却費 19.2 14 10.5 17 15.1 13
 (再掲)医療機器減価償却費 84.6 33 -2.0 -2 58.3 28
 6その他の医業費用 -22.9 -201 -5.9 -104 -20.5 -207
Ⅲ収支差額(Ⅰ-Ⅱ) 3.4 75 -10.6 280 0.9 20

(表2)歯科診療所(個人立)       (伸び率:%、伸び幅:千円)

歯科診療所
金額の伸び率 金額の伸び幅
Ⅰ医業収入 -4.2 -156
 1保険診療収入 -6.2 -203
 2労災その他診療収入 0.0 0
 3その他の診療収入 -2.1 -8
 4その他の医業収入 168.8 54
Ⅱ介護収入 300.0 3
Ⅲ医業費用 -11.0 -272
 1給与費 -3.6 -37
 2医薬品費 -6.7 -3
 3歯科材料費 -12.1 -27
 4委託費 -16.4 -68
 5減価償却費 -1.3 -2
 (再掲)建物減価償却費 -3.8 -2
 (再掲)医療機器減価償却費 0.0 0
 6その他の医業費用 -22.3 -136
Ⅳ収支差額(Ⅰ+Ⅱ-Ⅲ) 9.6 118