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2005/10/4 提言「診療報酬体系・技術料」

診療報酬体系・技術料への提言

神奈川県保険医協会

診療報酬政策プロジェクト


■はじめに

 1981年より始まった医療費抑制策は、ついに政府が限界という「患者負担3割」となり、2回連続の診療報酬マイナス改定を実施するに及んだ。その上、医療保険の根幹を崩す混合診療を、現実にすべく具体化をはじめた。

 06年は医療の総合的な改革が準備され、診療報酬が焦点となる。日本の医療政策は診療報酬による"政策誘導"、つまりは価格政策を通じて実行されてきている。次期診療報酬改定も3回連続でマイナスの観測がなされ、混合診療のアイディアも提案が相次いでいる。

 われわれは、点数操作、算定制限で診療現場が縛られる本末転倒な現状と、給付の不十分性による患者・国民の不利益の改善のため、診療報酬体系の改善を提言する。

■診療報酬は医療水準を左右する

 診療報酬とは、医療保険による保険給付、すなわち医療行為等を単価10円で点数評価したものである。この点数表が規定する範囲・項目と、点数の多寡が、国民の受ける医療の給付範囲と質、医療水準を規定している。内視鏡やCTも診療報酬で点数化(=保険導入)されて医療保険で使えるようになったものであり、90年代に導入された、侵襲性の低い腹腔鏡下手術も同様である。

 また、皆保険下では、医療機関の経営原資の太宗を占めており、言い値の"自由診療"に依拠しておらず、医療機関の存亡に直結し、極端は地域からの病院の消失となる。

 この全国共通の公定価格が、「いつでも、どこでも、誰でも」医療にかかれる、日本の医療の特徴、皆保険体制を保障し、世界一の健康度(WHOの評価)を達成してきた。

■医療費抑制策の下での"歪み"と"犠牲"

 しかし、その陰で医療費抑制により、多くの"歪み"と"犠牲"を生じさせてきた。医療費抑制は、患者負担増による受診抑制と診療報酬の抑制・操作があり、前者は大幅な受診減少として理解される。

 診療報酬のそれは、①低点数の固定化と点数の引き下げ、②算定日数・回数・項目の制限、③個別評価の出来高制からパッケージ評価の包括性の導入、④算定要件の複雑化、⑤保険外し(点数評価を廃止する)―を手法としてきた。

 これは、治療制限、診療制限を意味し、腫瘍マーカー(ガンの検査)の回数限度、糖尿病の多項目検査が不可能、歯科のメタルボンドなど汎用性の高い材料での補綴治療ができない、長期入院が出来ない、狭い病室のほか、180日を超えた入院の差額徴収(混合診療)、過重な差額ベッド(混合診療)のような不利益が患者・国民に生じている。

 また、診察料など基礎的な技術料が欧米諸国に比して低く(特に無形技術に対する評価)、インフォームドコンセントに十分な時間の保証がされず患者の不満が助長されている。

 地域実情を無視した、機械的な機能分化や病院の外来分離(サテライト化)の誘導、一律的分業促進での不便、患者の翻弄などがある。

 より深刻なのは、低診療報酬政策の下、医療の高度化と過密労働が進行し、医療事故の多発となり、ひいては新卒医師の外科系の敬遠などが現実に起き始めていることである。 

 診療報酬で冷遇された小児科は、地域空白、夜間救急空白、小児科病棟閉鎖、過労死増加となっており、歯科は経営悪化の一途を辿り、7割が将来に希望なしとしている。

■新たな動きとその企図

 06年は医療保険法、医療法、医師法と一挙に制度改定がなされ、診療報酬と介護報酬の同時改定も行われる。具体的には、混合診療の法制度化、都道府県単位の医療保険再編、独立型の高齢者制度の創設と老健保健6事業の廃止、広告規制の大幅緩和、日常医療圏の設定、認定医療法人の創設、医師の再教育の義務化などを内容としている。

 厚労省の政策の柱は、生活習慣病対策と予防を表看板にしているが、概括的には、医療の地域保険化と医療機関数の統制、混合診療のシステム作りである。これにより、将来、診療報酬の地域単価制や公的医療保険の給付範囲への上乗せ、削減も可能になる。

 次年度は社会保障費2200億円の削減が方針化され、ほとんど医療で捻出となっており3回連続の診療報酬のマイナス改定が必至となっている。この間、医療費総額の管理指標の導入が取りざたされ、経済と連動した総枠抑制が基調となっている。また、大病院重視の点数改定が中医協改革との関連で濃厚となり、制限回数を超える医療行為の混合診療は検査・リハビリなど28項目が対象とされ検討中である。医療課長が、混合診療という「新たな患者徴収の武器」が出来たと公言してはばからず、特区での株式会社病院の第一号の神奈川県での実現も濃厚と、第一線医療への打撃と混乱が必至となっている。

 また、経団連から、外来受診回数の適正化、外来の疾病別・病態別包括化の提言や、診療報酬と結びついた専門医制の見直しに日医も踏み込む発言をしている。

 既に焦点の次期診療報酬改定に関し、検討項目とスケジュールが7月13日に提案され、初診・再診料の体系再編、時間概念の導入がいわれている。また、点数項目の大幅削減、大幅包括化、セカンドオピニオンの自由料金化(混合診療)、インターネット利用による再診回数・再診料の抑制、在宅自己注射指導管理料の廃止も医療課長から提案がなされている。更には、生活習慣病指導管理料の一部保険外し、健診事業の医療保険財源の活用なども提案され始めている。医科では学会ヒヤリングが終わり、歯科においても、か初診をはじめとした技術料評価が学会ルートで進められている。

 特に、政府税調で医療費の半分を占める人件費の見直し、開業医の生涯所得に切り込むことが、検討の俎上に上り、診療報酬での人件費の分離評価、技術の特定療養費化、償還払い、生活習慣病への自己責任概念導入と混合診療化、保健・予防分野への混合診療導入、外来受診回数の抑制が、議論に上った動きは刮目に値する。

 この夏の人事異動では、財務省と厚労省の人事交流がされたが、当初は、ガン検診未受診者への医療給付にペナルティーを課すことを提案した中村老健局長が、保険局長に就任とも伝えられていた。介護保険シフトで人材を集中させた老健局からは、昨年、麦谷課長が一足先に保険局医療課長に就き、今年は渡辺企画官が医薬食品局のトクホ(特定保健医療食品)担当に就くなど、06年に向けての動きも着々と進んでいる。

 これらは、混合診療を現実のものとし、公的保険での制限診療を国民と医療機関に強いる体制への転換である。

とりわけ、生活習慣病、高血圧症、肥満の自己責任論による給付外しと混合診療は問題が多い。これまでの動きを総合すると、健診事業を医療保険に取り入れ、健診項目を貧弱にしオプションは自由料金の混合診療。健診をせずに、疾病で医療機関の治療を受けた場合は給付をカット(低点数)ないしは、生活習慣病指導管理料の算定不可などのペナルティーを入れ、「患者の希望」で指導料は自由料金の混合診療という図式も、想像に難くない。06年の老人保健法廃止で行方が不透明だった健診事業は介護保険と見せかけ、医療保険に吸収。

 この自己責任論が導入されると、現在、給付されている歯科の歯冠修復・補綴治療の保険外しも現実となる。

■医療とは何か、診察、治療、指導とは何か

 医療そもそもへの、医療者の常識が、患者・国民、マスコミの常識になっていない点が、問題の溝を大きくしている。

 また、医師法第20条(診察なしでの診療行為の禁止)を狭義に解釈し、医療現場の診療実態にそぐわない、診療報酬点数表の解釈が、指導・監査で近年、まかり通っている。

 医療とは医学の社会的適用といわれる。日本は1962年に皆保険制度が発足し、現物給付を原則とした医療提供となっている。大多数の国民にとって医療とは保険医療である。

 また、一人の医師による医療提供(ソロプラクティス)の時代は過去となり、看護師、薬剤師、検査技師、事務職員による、医療機関単位による医療提供となっている。

 つまり、医師の診察、診断の下、診療計画が立てられ、治療や指導に、各々の職種が関わり医療を提供しているのである。ゆえに、診療報酬は、医療機関の診療行為への報酬として設計されており、医師個人への報酬(ドクターフィー)ではない。この点への誤解が患者・国民の間に根強くある。一方、コメディカルの技術・労働評価が個別になされておらず、診療報酬への反映は乏しく、不透明なものとなっている。

 そもそも、診察とは患者の容態の観察、問診、血圧測定など諸々の医師による行為を広く指す概念であり、基本診療料(初診、再診)が対象とする概念とイコールでないこと、かつては、個々に点数評価されていたこともあり、患者と医療者双方でこの部分での理解にも相異がある。

 いずれにせよ、わかりやすく合理的な体系が、今後の医療充実のために必要である。

■目標とする医療内容の充実

 低成長時代の下、医療の高度化、情報化が進行しているが、医療費政策は、際立った90年代の世界一の医療費抑制策を依然、踏襲するにすぎず、更に激化している。目指す医療は、人的サービスの充実、新薬や医学技術の進歩の医療保険への反映などを通じ、安全・安心の医療、インフォームド・コンセント(IC)、セカンドオピニオン(SO)、情報開示など患者要求の満足、医学進歩の迅速な提供、低い患者負担を目標とする。

<具体的な提言>

■ヨーロッパ水準の医療費総枠と損失復旧

 医療の高度化、年率4%の高齢化にもかかわらず、マイナス改定が連続し、厚労省も更にマイナス4%が土台といい、「プラス改定はしばらくなし」との認識に立っている。これを改め、欧米に比して対GDPの医療費水準は低く(7.8%)、公的医療保障が劣悪で日本以上に不平等な米国に比しても公費投入が低い現状を改め、欧米並みの医療費水準(10%)、約53兆円(国庫13.3兆円:5.8兆円増)へ総枠を拡大する。

 また、この10年間の損失(医療費ベースで7%)約2.1兆円(国庫5,000億円)を回復する。

■物価・賃金スライド制の復活、改定ルールの明確化

 74年に廃止した物価・人件費スライド方式を復活するとともに、原価プラス流通・管理費の最低保証、逆ザヤの解消など合理的論拠に基づくルールを法定化する。

■安心・納得の医療の実現

 国民に要求の多い、IC、SO、情報開示に関して時間に応じ点数化する。

■技術重視、出来高基本の体系へ

 高薬価、モノ偏重の報酬体系を是正し、技術・管理への配点を厚くする。また、医療機関の裁量性を担保するため出来高を基本とした体系へ重心をおく。

■医療労働の最適評価

 低診療報酬政策のもと十分な医療提供ができず、過密労働、教育・研修の不十分さなど医療事故を発生させる構造や、不採算による医療機能の縮小など地域の医療の継続性が危うくなっている。基礎的技術料の大幅引き上げにとともに、コメディカルを評価しスタッフ増を可能とする診療報酬とする。ゆとりある患者数での診療およびスタッフの研修教育を保証し、労働意欲の向上と医療事故の減少を図る。

 とりわけ外来および入院の看護師、看護職員の評価は人員に比例倍した点数化とする。

■歯科点数の底上げ 

 差額診療路線の下、技術進歩を医療保険に取り入れなかった弊害を是正し、診察料などの基礎的技術料を倍化する。またメタルボンドなど、補綴・歯冠修の復汎用技術を早急に保険導入する。その際、現在の実勢価格を踏まえた点数化を行う。

■制限回数の撤廃

 医学的根拠のない、回数制限(日数制限、項目制限、併算定禁止など)を撤廃し、保険審査で運用するように改める。

■混合診療の廃止と保険外負担の解消

 未承認薬、先進技術、制限回数を超える医療行為、差額ベッドなどの混合診療を廃止し、安全性・有効性の確立されたものは速やかに保険導入をする。療養上必要なサービスに関わる、過重な保険外負担を解消し、保険給付を厚くする。

■円表示とする

 経済指数としての単価、技術指数としての点数の意味合いがないので円表示に改める。

2005年10月4日

診療報酬体系・技術料への提言

神奈川県保険医協会

診療報酬政策プロジェクト


■はじめに

 1981年より始まった医療費抑制策は、ついに政府が限界という「患者負担3割」となり、2回連続の診療報酬マイナス改定を実施するに及んだ。その上、医療保険の根幹を崩す混合診療を、現実にすべく具体化をはじめた。

 06年は医療の総合的な改革が準備され、診療報酬が焦点となる。日本の医療政策は診療報酬による"政策誘導"、つまりは価格政策を通じて実行されてきている。次期診療報酬改定も3回連続でマイナスの観測がなされ、混合診療のアイディアも提案が相次いでいる。

 われわれは、点数操作、算定制限で診療現場が縛られる本末転倒な現状と、給付の不十分性による患者・国民の不利益の改善のため、診療報酬体系の改善を提言する。

■診療報酬は医療水準を左右する

 診療報酬とは、医療保険による保険給付、すなわち医療行為等を単価10円で点数評価したものである。この点数表が規定する範囲・項目と、点数の多寡が、国民の受ける医療の給付範囲と質、医療水準を規定している。内視鏡やCTも診療報酬で点数化(=保険導入)されて医療保険で使えるようになったものであり、90年代に導入された、侵襲性の低い腹腔鏡下手術も同様である。

 また、皆保険下では、医療機関の経営原資の太宗を占めており、言い値の"自由診療"に依拠しておらず、医療機関の存亡に直結し、極端は地域からの病院の消失となる。

 この全国共通の公定価格が、「いつでも、どこでも、誰でも」医療にかかれる、日本の医療の特徴、皆保険体制を保障し、世界一の健康度(WHOの評価)を達成してきた。

■医療費抑制策の下での"歪み"と"犠牲"

 しかし、その陰で医療費抑制により、多くの"歪み"と"犠牲"を生じさせてきた。医療費抑制は、患者負担増による受診抑制と診療報酬の抑制・操作があり、前者は大幅な受診減少として理解される。

 診療報酬のそれは、①低点数の固定化と点数の引き下げ、②算定日数・回数・項目の制限、③個別評価の出来高制からパッケージ評価の包括性の導入、④算定要件の複雑化、⑤保険外し(点数評価を廃止する)―を手法としてきた。

 これは、治療制限、診療制限を意味し、腫瘍マーカー(ガンの検査)の回数限度、糖尿病の多項目検査が不可能、歯科のメタルボンドなど汎用性の高い材料での補綴治療ができない、長期入院が出来ない、狭い病室のほか、180日を超えた入院の差額徴収(混合診療)、過重な差額ベッド(混合診療)のような不利益が患者・国民に生じている。

 また、診察料など基礎的な技術料が欧米諸国に比して低く(特に無形技術に対する評価)、インフォームドコンセントに十分な時間の保証がされず患者の不満が助長されている。

 地域実情を無視した、機械的な機能分化や病院の外来分離(サテライト化)の誘導、一律的分業促進での不便、患者の翻弄などがある。

 より深刻なのは、低診療報酬政策の下、医療の高度化と過密労働が進行し、医療事故の多発となり、ひいては新卒医師の外科系の敬遠などが現実に起き始めていることである。 

 診療報酬で冷遇された小児科は、地域空白、夜間救急空白、小児科病棟閉鎖、過労死増加となっており、歯科は経営悪化の一途を辿り、7割が将来に希望なしとしている。

■新たな動きとその企図

 06年は医療保険法、医療法、医師法と一挙に制度改定がなされ、診療報酬と介護報酬の同時改定も行われる。具体的には、混合診療の法制度化、都道府県単位の医療保険再編、独立型の高齢者制度の創設と老健保健6事業の廃止、広告規制の大幅緩和、日常医療圏の設定、認定医療法人の創設、医師の再教育の義務化などを内容としている。

 厚労省の政策の柱は、生活習慣病対策と予防を表看板にしているが、概括的には、医療の地域保険化と医療機関数の統制、混合診療のシステム作りである。これにより、将来、診療報酬の地域単価制や公的医療保険の給付範囲への上乗せ、削減も可能になる。

 次年度は社会保障費2200億円の削減が方針化され、ほとんど医療で捻出となっており3回連続の診療報酬のマイナス改定が必至となっている。この間、医療費総額の管理指標の導入が取りざたされ、経済と連動した総枠抑制が基調となっている。また、大病院重視の点数改定が中医協改革との関連で濃厚となり、制限回数を超える医療行為の混合診療は検査・リハビリなど28項目が対象とされ検討中である。医療課長が、混合診療という「新たな患者徴収の武器」が出来たと公言してはばからず、特区での株式会社病院の第一号の神奈川県での実現も濃厚と、第一線医療への打撃と混乱が必至となっている。

 また、経団連から、外来受診回数の適正化、外来の疾病別・病態別包括化の提言や、診療報酬と結びついた専門医制の見直しに日医も踏み込む発言をしている。

 既に焦点の次期診療報酬改定に関し、検討項目とスケジュールが7月13日に提案され、初診・再診料の体系再編、時間概念の導入がいわれている。また、点数項目の大幅削減、大幅包括化、セカンドオピニオンの自由料金化(混合診療)、インターネット利用による再診回数・再診料の抑制、在宅自己注射指導管理料の廃止も医療課長から提案がなされている。更には、生活習慣病指導管理料の一部保険外し、健診事業の医療保険財源の活用なども提案され始めている。医科では学会ヒヤリングが終わり、歯科においても、か初診をはじめとした技術料評価が学会ルートで進められている。

 特に、政府税調で医療費の半分を占める人件費の見直し、開業医の生涯所得に切り込むことが、検討の俎上に上り、診療報酬での人件費の分離評価、技術の特定療養費化、償還払い、生活習慣病への自己責任概念導入と混合診療化、保健・予防分野への混合診療導入、外来受診回数の抑制が、議論に上った動きは刮目に値する。

 この夏の人事異動では、財務省と厚労省の人事交流がされたが、当初は、ガン検診未受診者への医療給付にペナルティーを課すことを提案した中村老健局長が、保険局長に就任とも伝えられていた。介護保険シフトで人材を集中させた老健局からは、昨年、麦谷課長が一足先に保険局医療課長に就き、今年は渡辺企画官が医薬食品局のトクホ(特定保健医療食品)担当に就くなど、06年に向けての動きも着々と進んでいる。

 これらは、混合診療を現実のものとし、公的保険での制限診療を国民と医療機関に強いる体制への転換である。

とりわけ、生活習慣病、高血圧症、肥満の自己責任論による給付外しと混合診療は問題が多い。これまでの動きを総合すると、健診事業を医療保険に取り入れ、健診項目を貧弱にしオプションは自由料金の混合診療。健診をせずに、疾病で医療機関の治療を受けた場合は給付をカット(低点数)ないしは、生活習慣病指導管理料の算定不可などのペナルティーを入れ、「患者の希望」で指導料は自由料金の混合診療という図式も、想像に難くない。06年の老人保健法廃止で行方が不透明だった健診事業は介護保険と見せかけ、医療保険に吸収。

 この自己責任論が導入されると、現在、給付されている歯科の歯冠修復・補綴治療の保険外しも現実となる。

■医療とは何か、診察、治療、指導とは何か

 医療そもそもへの、医療者の常識が、患者・国民、マスコミの常識になっていない点が、問題の溝を大きくしている。

 また、医師法第20条(診察なしでの診療行為の禁止)を狭義に解釈し、医療現場の診療実態にそぐわない、診療報酬点数表の解釈が、指導・監査で近年、まかり通っている。

 医療とは医学の社会的適用といわれる。日本は1962年に皆保険制度が発足し、現物給付を原則とした医療提供となっている。大多数の国民にとって医療とは保険医療である。

 また、一人の医師による医療提供(ソロプラクティス)の時代は過去となり、看護師、薬剤師、検査技師、事務職員による、医療機関単位による医療提供となっている。

 つまり、医師の診察、診断の下、診療計画が立てられ、治療や指導に、各々の職種が関わり医療を提供しているのである。ゆえに、診療報酬は、医療機関の診療行為への報酬として設計されており、医師個人への報酬(ドクターフィー)ではない。この点への誤解が患者・国民の間に根強くある。一方、コメディカルの技術・労働評価が個別になされておらず、診療報酬への反映は乏しく、不透明なものとなっている。

 そもそも、診察とは患者の容態の観察、問診、血圧測定など諸々の医師による行為を広く指す概念であり、基本診療料(初診、再診)が対象とする概念とイコールでないこと、かつては、個々に点数評価されていたこともあり、患者と医療者双方でこの部分での理解にも相異がある。

 いずれにせよ、わかりやすく合理的な体系が、今後の医療充実のために必要である。

■目標とする医療内容の充実

 低成長時代の下、医療の高度化、情報化が進行しているが、医療費政策は、際立った90年代の世界一の医療費抑制策を依然、踏襲するにすぎず、更に激化している。目指す医療は、人的サービスの充実、新薬や医学技術の進歩の医療保険への反映などを通じ、安全・安心の医療、インフォームド・コンセント(IC)、セカンドオピニオン(SO)、情報開示など患者要求の満足、医学進歩の迅速な提供、低い患者負担を目標とする。

<具体的な提言>

■ヨーロッパ水準の医療費総枠と損失復旧

 医療の高度化、年率4%の高齢化にもかかわらず、マイナス改定が連続し、厚労省も更にマイナス4%が土台といい、「プラス改定はしばらくなし」との認識に立っている。これを改め、欧米に比して対GDPの医療費水準は低く(7.8%)、公的医療保障が劣悪で日本以上に不平等な米国に比しても公費投入が低い現状を改め、欧米並みの医療費水準(10%)、約53兆円(国庫13.3兆円:5.8兆円増)へ総枠を拡大する。

 また、この10年間の損失(医療費ベースで7%)約2.1兆円(国庫5,000億円)を回復する。

■物価・賃金スライド制の復活、改定ルールの明確化

 74年に廃止した物価・人件費スライド方式を復活するとともに、原価プラス流通・管理費の最低保証、逆ザヤの解消など合理的論拠に基づくルールを法定化する。

■安心・納得の医療の実現

 国民に要求の多い、IC、SO、情報開示に関して時間に応じ点数化する。

■技術重視、出来高基本の体系へ

 高薬価、モノ偏重の報酬体系を是正し、技術・管理への配点を厚くする。また、医療機関の裁量性を担保するため出来高を基本とした体系へ重心をおく。

■医療労働の最適評価

 低診療報酬政策のもと十分な医療提供ができず、過密労働、教育・研修の不十分さなど医療事故を発生させる構造や、不採算による医療機能の縮小など地域の医療の継続性が危うくなっている。基礎的技術料の大幅引き上げにとともに、コメディカルを評価しスタッフ増を可能とする診療報酬とする。ゆとりある患者数での診療およびスタッフの研修教育を保証し、労働意欲の向上と医療事故の減少を図る。

 とりわけ外来および入院の看護師、看護職員の評価は人員に比例倍した点数化とする。

■歯科点数の底上げ 

 差額診療路線の下、技術進歩を医療保険に取り入れなかった弊害を是正し、診察料などの基礎的技術料を倍化する。またメタルボンドなど、補綴・歯冠修の復汎用技術を早急に保険導入する。その際、現在の実勢価格を踏まえた点数化を行う。

■制限回数の撤廃

 医学的根拠のない、回数制限(日数制限、項目制限、併算定禁止など)を撤廃し、保険審査で運用するように改める。

■混合診療の廃止と保険外負担の解消

 未承認薬、先進技術、制限回数を超える医療行為、差額ベッドなどの混合診療を廃止し、安全性・有効性の確立されたものは速やかに保険導入をする。療養上必要なサービスに関わる、過重な保険外負担を解消し、保険給付を厚くする。

■円表示とする

 経済指数としての単価、技術指数としての点数の意味合いがないので円表示に改める。

2005年10月4日