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2018/12/3 政策部長談話 「自由診療ツーリズム病院に改めて反対する 海外での営利企業展開に疑念 違法の全国波及の危険を警鐘する」
自由診療ツーリズム病院に改めて反対する
海外での営利企業展開に疑念 違法の全国波及の危険を警鐘する
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
◆ 病床規制突破の裏ワザ、自由診療病院の全国波及、皆保険の空洞化の先鞭の危険
川崎市の病床過剰圏での、医療法人社団・葵会による自由診療の外国人専用医療ツーリズム病院の開設計画は、地元ならび県下の医師会、病院協会の反対の中、関係審議会で議論がなされている。この問題は、①外国人専用の病院の誕生、②自由診療病院の出現、③病床規制の裏ワザ的突破、とその法的根拠の欠如・簒奪や法治の底なしの融解、利益相反の影をも含み、全国への波及・悪影響が非常に懸念されている。それは自由診療への依存の傾斜を強め、皆保険の空洞化への先鞭となる。加えて葵会グループの中国での企業展開と営利性への疑問も明るみになっており、医療法人のあり様も問題視されている。われわれは、改めて外国人向け医療ツーリズムの自由診療病院の開設に強く反対する。
◆ 医療法第1条「目的」は、「国民」の健康の保持への寄与 「外国人専用」は論外
法律は第1条の「目的」のもとに体系化されている。病院の開設許可申請に際し、営利目的の場合を除き、構造設備・人員要件に適合すれば許可を知事(指定都市の市長)が与えなければならないとする医療法第7条も、第1条のもとにあり単独で存在するのではない。
その第1条は、良質で適切な効率的な医療提供体制の確保等により、「国民の健康の保持に寄与すること」である。よって、葵会が計画中の日本人を全く診ない「外国人専用病院」は法の趣旨に完全に外れている。逆に、もし外国人専用病院が認められるとなれば、法的根拠は医療提供施設を定めているこの医療法となり、倒錯した事態となり、法治が揺らぐ。
医療法規は概ねすべて第1条でその目的を、「国民の健康な生活を確保するもの」(医師法・歯科医師法)、「国民の生活の安定と福祉の向上に寄与」(健康保険法)、「国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図る」(高齢者医療確保法)としており、対象は「国民」である。そして、これらの法的基礎は生存権保障と国の責務を定めた憲法第25条にある。
◆ 「自由診療」病院の出現は皆保険崩す蟻の一穴 営利性は収益構造で判断を
葵会の新病院は、「自由診療」病院である。自由診療の収入が100%の病院となる。保険診療の1点単価10円を20円とし、100床で急性期一般入院料5を参考単価とし、35億4千万円の収益と弾いている。中医協の医療経済実態調査報告(H29年度)で同程度の体制・規模の病院の2倍となる。
営利企業との間の支配・従属関係や配当禁止がクリアされている、非営利事業体の医療法人であれば営利性は問われず、病院開設は可能と医政局平成5年通知を盾に解する向きもあるが異を唱えたい。
中医協の医療経済実態調査報告(H29年度)で、一般病院(医療法人100床)の差額ベッド、自費診療、健康診断など保健予防活動など、保険診療以外の自費が全体の医業収益に占める割合は6.4%に過ぎない。
また、渡航者治療や医療目的の医療ツーリズムで、保険診療単価20円相当で実施している病院もあるが、年間の外国人治療の多くは20人以下であり、最多でも100人規模である(厚労省資料)。年間数万単位にのぼる各病院の患者数に占める割合は極少である。医療ツーリズムによる収益が全体に占める比率も極めて少ないのである。
つまり、100%自由診療収益の「経営構造」で、しかも保険診療を「指標」とすれば、2倍、200%の「価格帯」の医療提供は、「営利性」が高いといわざるを得ない。オリンピック開催を当て込み、国家特区の枠組みでは時間がかかりすぎるとこれを嫌い、間に合うように通常ルートで無理筋を通そうという動機、姿勢そのものが営利的である。しかも新病院は人工関節置換術や開頭クリッピング、心臓カテーテルなどを実施する高機能病院であり、医療人材・医療資源を多く必要とすることとなる。
今回、葵会の新病院が出現すると、異常に高い収益性に着目し、医療ツーリズムとは別に、がんの先進医療や特殊治療などの「特色」を看板とした自由診療病院、救急医療など「不採算」性を踏まえた自由診療病院などが出現、後続することが容易に想像される。医療人材や、患者の受診機会、医療内容に「格差」が生じ、保険診療の病院が煽りを食う形となる。「いつでも、どこでも、だれでも」の皆保険を崩し、空洞化させていく。葵会の新病院は、その蟻の一穴であり、全国的問題である。
◆ 病床規制からの逸脱手法は全国に飛び火する パンドラの箱の規制を
いま、地域の医療需要を鑑み、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の病床機能に応じ、限られた医療資源、病院病床を統御する「地域医療構想」の調整協議に、医療界で関係者が尽力している。
葵会の新病院は、これに水を差し、医療人材の確保競合・流入、日本人向けの保険病床の減少などの地域医療の混乱や、一群の患者・家族の来訪による治安問題など地域社会の不安をもたらす。
「過剰病床圏域」で病院の新規開設は、知事の勧告と保険医療機関の指定拒否により事実上、規制されている。これを①保険診療をしない、②外国人のみを診るとし、③医療法7条のみを根拠に、「病床」獲得、「病院」新設を図ることを狙ったのが葵会の新病院の開設計画である。保険診療費、保険給付に影響を与えないことで逸脱が可能と踏んだ感があるが、すでに見たように保険診療、皆保険へ悪影響を与える。これがまかり通れば、全国各地の過剰病床圏に飛び火する。無論、「病床不足圏域」でも、この手法が可能となり、パンドラの箱が開く。想定外の事態への、規制・ルールが必須となる。
◆ 葵会親族の大臣政務官の利益相反の監視を 疑念深まる中国・成都での営利企業の事業展開
実は葵会・理事長の次男の衆議院議員が奇しくも秋の組閣(10月4日)で、厚生労働大臣政務官に就いている。開設の許認可権限をもつ川崎市は10月中旬に厚労省に赴き、照会をしているが、この開設計画の発覚、川崎市への葵会の相談は6月末で、川崎市医師会、川崎市病院協会に話があったのが8月初旬である。厚労省は利益相反、利益誘導の誹りを受けぬよう、監督官庁としての道理ある対応が強く望まれる。
また葵会だが、10月30日の川崎市地域医療審議会に7名が説明のため出席し、席上、AOI国際病院の事務局長が、委員より勝算を問われた際、「葵会は成都に関連会社を作って事業展開している」として、北京、上海以外の中国全土はまだまだ需要があるとの手応えを語っていた。この医療法人による「会社」運営について、11月19日の県の川崎地域地域医療構想調整会議で座長より葵会が問われ、葵会は医療法人とは別で作っていると返答。これへ収益を医療法人内の医療・介護事業に還流させていないかと、座長に畳みかけられたものの、葵会は一切ない、と否定している。
中国の『人民網』(『人民日報』のネット版)は、4月19日に四川の年金の会社(有限公司)と日本葵会グループと一緒に合弁会社の新葵国際健康管理会社を設立した(「四川慈度昔在养老产业有限公司与日本葵会集团共同成立成都慈度新葵国际健康管理有限公司(中日合资),」)と報じている。国内でも岡山のホテルが葵会グループとなっており、資本関係は不明だが疑念は深まっている。
◆ 県・構想調整会議では猛批判 皆保険医療を守るため全国から注視を
11月19日の川崎地域地域医療構想調整会議では、医療ツーリズムは国策とする葵会に、自由診療の外国人専用病院の新設までは、経産省、厚労省とどこでも想定していない、地域医療に影響を及ぼさない範囲だ、「国策を語って地域医療で無茶をする理由にはならない」と、何人もの委員が厳しく指弾。「地域」の理解を得てと説く葵会に対し、「地域」とは「地元」の合意ではなく、「地域医療調整会議」での理解、合意と、行政・葵会・委員との間で同意されている。また想定外の事態に、国の審議会での議論を促すことも視野に、今回の案件に関しルール等を作るワーキング・グループの設置を決め近く議論の予定となっている。
企業54社による医療ツーリムズムの中核組織、(一社)Medical Excellence JAPANが推奨する「ジャパン・インターナショナル・ホスピタル(JIH)」は渡航受診者の受け入れ体制を評価したものだが、公募概要では「国民への医療提供体制の維持と向上を前提として」となっている。厚労省の「外国人患者受入れ医療機関認証制度」(JMIP)」も「国民に対する医療の確保が阻害されることがないことを前提」としている。葵会の主張や開設計画は、医療法上も医療ツーリズムの範疇でも破綻している。
われわれは、地域医療に混乱を招く、外国人専用医療ツーリズム病院に改めて強く反対する。
2018年12月3日
※ 参考資料(pdfファイル)
自由診療ツーリズム病院に改めて反対する
海外での営利企業展開に疑念 違法の全国波及の危険を警鐘する
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
◆ 病床規制突破の裏ワザ、自由診療病院の全国波及、皆保険の空洞化の先鞭の危険
川崎市の病床過剰圏での、医療法人社団・葵会による自由診療の外国人専用医療ツーリズム病院の開設計画は、地元ならび県下の医師会、病院協会の反対の中、関係審議会で議論がなされている。この問題は、①外国人専用の病院の誕生、②自由診療病院の出現、③病床規制の裏ワザ的突破、とその法的根拠の欠如・簒奪や法治の底なしの融解、利益相反の影をも含み、全国への波及・悪影響が非常に懸念されている。それは自由診療への依存の傾斜を強め、皆保険の空洞化への先鞭となる。加えて葵会グループの中国での企業展開と営利性への疑問も明るみになっており、医療法人のあり様も問題視されている。われわれは、改めて外国人向け医療ツーリズムの自由診療病院の開設に強く反対する。
◆ 医療法第1条「目的」は、「国民」の健康の保持への寄与 「外国人専用」は論外
法律は第1条の「目的」のもとに体系化されている。病院の開設許可申請に際し、営利目的の場合を除き、構造設備・人員要件に適合すれば許可を知事(指定都市の市長)が与えなければならないとする医療法第7条も、第1条のもとにあり単独で存在するのではない。
その第1条は、良質で適切な効率的な医療提供体制の確保等により、「国民の健康の保持に寄与すること」である。よって、葵会が計画中の日本人を全く診ない「外国人専用病院」は法の趣旨に完全に外れている。逆に、もし外国人専用病院が認められるとなれば、法的根拠は医療提供施設を定めているこの医療法となり、倒錯した事態となり、法治が揺らぐ。
医療法規は概ねすべて第1条でその目的を、「国民の健康な生活を確保するもの」(医師法・歯科医師法)、「国民の生活の安定と福祉の向上に寄与」(健康保険法)、「国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図る」(高齢者医療確保法)としており、対象は「国民」である。そして、これらの法的基礎は生存権保障と国の責務を定めた憲法第25条にある。
◆ 「自由診療」病院の出現は皆保険崩す蟻の一穴 営利性は収益構造で判断を
葵会の新病院は、「自由診療」病院である。自由診療の収入が100%の病院となる。保険診療の1点単価10円を20円とし、100床で急性期一般入院料5を参考単価とし、35億4千万円の収益と弾いている。中医協の医療経済実態調査報告(H29年度)で同程度の体制・規模の病院の2倍となる。
営利企業との間の支配・従属関係や配当禁止がクリアされている、非営利事業体の医療法人であれば営利性は問われず、病院開設は可能と医政局平成5年通知を盾に解する向きもあるが異を唱えたい。
中医協の医療経済実態調査報告(H29年度)で、一般病院(医療法人100床)の差額ベッド、自費診療、健康診断など保健予防活動など、保険診療以外の自費が全体の医業収益に占める割合は6.4%に過ぎない。
また、渡航者治療や医療目的の医療ツーリズムで、保険診療単価20円相当で実施している病院もあるが、年間の外国人治療の多くは20人以下であり、最多でも100人規模である(厚労省資料)。年間数万単位にのぼる各病院の患者数に占める割合は極少である。医療ツーリズムによる収益が全体に占める比率も極めて少ないのである。
つまり、100%自由診療収益の「経営構造」で、しかも保険診療を「指標」とすれば、2倍、200%の「価格帯」の医療提供は、「営利性」が高いといわざるを得ない。オリンピック開催を当て込み、国家特区の枠組みでは時間がかかりすぎるとこれを嫌い、間に合うように通常ルートで無理筋を通そうという動機、姿勢そのものが営利的である。しかも新病院は人工関節置換術や開頭クリッピング、心臓カテーテルなどを実施する高機能病院であり、医療人材・医療資源を多く必要とすることとなる。
今回、葵会の新病院が出現すると、異常に高い収益性に着目し、医療ツーリズムとは別に、がんの先進医療や特殊治療などの「特色」を看板とした自由診療病院、救急医療など「不採算」性を踏まえた自由診療病院などが出現、後続することが容易に想像される。医療人材や、患者の受診機会、医療内容に「格差」が生じ、保険診療の病院が煽りを食う形となる。「いつでも、どこでも、だれでも」の皆保険を崩し、空洞化させていく。葵会の新病院は、その蟻の一穴であり、全国的問題である。
◆ 病床規制からの逸脱手法は全国に飛び火する パンドラの箱の規制を
いま、地域の医療需要を鑑み、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の病床機能に応じ、限られた医療資源、病院病床を統御する「地域医療構想」の調整協議に、医療界で関係者が尽力している。
葵会の新病院は、これに水を差し、医療人材の確保競合・流入、日本人向けの保険病床の減少などの地域医療の混乱や、一群の患者・家族の来訪による治安問題など地域社会の不安をもたらす。
「過剰病床圏域」で病院の新規開設は、知事の勧告と保険医療機関の指定拒否により事実上、規制されている。これを①保険診療をしない、②外国人のみを診るとし、③医療法7条のみを根拠に、「病床」獲得、「病院」新設を図ることを狙ったのが葵会の新病院の開設計画である。保険診療費、保険給付に影響を与えないことで逸脱が可能と踏んだ感があるが、すでに見たように保険診療、皆保険へ悪影響を与える。これがまかり通れば、全国各地の過剰病床圏に飛び火する。無論、「病床不足圏域」でも、この手法が可能となり、パンドラの箱が開く。想定外の事態への、規制・ルールが必須となる。
◆ 葵会親族の大臣政務官の利益相反の監視を 疑念深まる中国・成都での営利企業の事業展開
実は葵会・理事長の次男の衆議院議員が奇しくも秋の組閣(10月4日)で、厚生労働大臣政務官に就いている。開設の許認可権限をもつ川崎市は10月中旬に厚労省に赴き、照会をしているが、この開設計画の発覚、川崎市への葵会の相談は6月末で、川崎市医師会、川崎市病院協会に話があったのが8月初旬である。厚労省は利益相反、利益誘導の誹りを受けぬよう、監督官庁としての道理ある対応が強く望まれる。
また葵会だが、10月30日の川崎市地域医療審議会に7名が説明のため出席し、席上、AOI国際病院の事務局長が、委員より勝算を問われた際、「葵会は成都に関連会社を作って事業展開している」として、北京、上海以外の中国全土はまだまだ需要があるとの手応えを語っていた。この医療法人による「会社」運営について、11月19日の県の川崎地域地域医療構想調整会議で座長より葵会が問われ、葵会は医療法人とは別で作っていると返答。これへ収益を医療法人内の医療・介護事業に還流させていないかと、座長に畳みかけられたものの、葵会は一切ない、と否定している。
中国の『人民網』(『人民日報』のネット版)は、4月19日に四川の年金の会社(有限公司)と日本葵会グループと一緒に合弁会社の新葵国際健康管理会社を設立した(「四川慈度昔在养老产业有限公司与日本葵会集团共同成立成都慈度新葵国际健康管理有限公司(中日合资),」)と報じている。国内でも岡山のホテルが葵会グループとなっており、資本関係は不明だが疑念は深まっている。
◆ 県・構想調整会議では猛批判 皆保険医療を守るため全国から注視を
11月19日の川崎地域地域医療構想調整会議では、医療ツーリズムは国策とする葵会に、自由診療の外国人専用病院の新設までは、経産省、厚労省とどこでも想定していない、地域医療に影響を及ぼさない範囲だ、「国策を語って地域医療で無茶をする理由にはならない」と、何人もの委員が厳しく指弾。「地域」の理解を得てと説く葵会に対し、「地域」とは「地元」の合意ではなく、「地域医療調整会議」での理解、合意と、行政・葵会・委員との間で同意されている。また想定外の事態に、国の審議会での議論を促すことも視野に、今回の案件に関しルール等を作るワーキング・グループの設置を決め近く議論の予定となっている。
企業54社による医療ツーリムズムの中核組織、(一社)Medical Excellence JAPANが推奨する「ジャパン・インターナショナル・ホスピタル(JIH)」は渡航受診者の受け入れ体制を評価したものだが、公募概要では「国民への医療提供体制の維持と向上を前提として」となっている。厚労省の「外国人患者受入れ医療機関認証制度」(JMIP)」も「国民に対する医療の確保が阻害されることがないことを前提」としている。葵会の主張や開設計画は、医療法上も医療ツーリズムの範疇でも破綻している。
われわれは、地域医療に混乱を招く、外国人専用医療ツーリズム病院に改めて強く反対する。
2018年12月3日
※ 参考資料(pdfファイル)