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2019/11/6 政策部長談話 「医務技監が言及、『保険外併用療養の拡大』に注意 貧すれば鈍す、差額徴収・混合診療への自制を」
医務技監が言及、「保険外併用療養の拡大」に注意
貧すれば鈍す、差額徴収・混合診療への自制を
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
10月11日、鈴木康裕医務技監は都内で開かれたシンポジウムで、保険外併用療養について「拡大していくことは絶対必要」と発言した。現役技官官僚のトップの言だけに看過できないものであり、選定療養への導入要望事例が今年度は倍加し、財政審分科会の提案もあり強い危惧の念を抱いている。国民皆保険の充実に逆行する方向性が、奔流とならぬよう、医療界への警戒と自制を強く呼びかける。
◆ 財務官僚の「拡大余地」発言に呼応 保険外併用療養は合法的混合診療
保険外併用療養は、「合法的な混合診療」であり、主に①評価療養(医療技術・医薬品)、②選定療養(差額ベッドなど)に大別される。評価療養は将来的な保険導入の方向性をもち、選定療養は保険導入を前提としない。他にも患者申出療養はあるが評価療養の範疇外で保険導入の遠方にある。
問題のシンポジウムは日経BP主催「クロスヘルスEXPO2019」で行われ、「社会保障改革の課題と限界―持続可能な医療・介護のあり方とは」がテーマ。登壇者は日医の横倉義武会長、財務省主計局の宇波弘貴次長、厚労省の鈴木康裕医務技監、経産省の江崎禎英政策統括調整官、(医)鉄祐会理事長の武藤真祐氏の5名である。論点は「給付・負担の在り方」、「公的保険と民間活力の組み合わせ」、「効率的な医療提供のための仕組み」などで、各々意見交換がなされている。
この中で、財務省の宇波次長は後発医薬品がある医薬品の参照価格制度を例に挙げ、「保険外併用療養の分野について拡大の余地があるのではないか」と問題提起。公的保険と民間サービスを組み合わせて行く余地はあるのではないかとの認識も示し、「プライベート(民間)の方だけでも収益が成り立つような制度設計をしていくことが非常に大事」と発言した。
これに続き、鈴木医務技監が、保険外併用療養に関し、「拡大していくことは絶対必要」と言及。その一方で無制限な拡大は牽制し、歯止めのない状態では投入する公費の拡大のおそれがあり、患者の視点から見ても制度がわかりにくくなると指摘した。
この公費拡大は少し説明が必要となる。医療保険制度では混合診療が禁止(最高裁で決着済み)されており、保険外の自由診療を組み合わせた場合は土台から自由診療となる。その例外が保険外併用療養であり、保険外を医療保険と併用する療養が合法となる。仕組みは、先進的な医療技術や未承認の医薬品を使う自由診療が、新たに保険外併用療養の対象となると、それまで全額自由料金だった自費診療での、基礎的な医療部分が医療保険で賄われる(=「保険外併用療養」費が支給)ことになる。つまり外形的には、医療保険と自費料金部分の診療の「併用」、「上乗せ」に見えるが、本質の構図は自費診療への医療保険の補填である。全額自費料金では少数の需要層が、保険外の自費料金部分を負担できる余裕のある層へと需要が広がり、公費投入の増加となることを懸念した、ということである。
◆ 給付縮小で現場不都合が生じないよう、混合診療で対応準備
つまり財務官僚は、①保険給付の縮小、限定化を図り、保険適用となっている医薬品や医療技術を保険から外し、保険外となったものを、保険外併用療養の形で合法的に利用できるよう組みかえていく方向性と、②保険適用されていない医療技術や医薬品などの医療サービスだけで採算がとれ、しかも医療保険との併用が可能となる方向性の二つを示したのである。
後者が成立するためには、保険外の医療サービスの「普及性」、「有効性」、「安全性」、「技術的成熟度」の4つが必要であり、これを裏支えする民間医療保険商品の存在が不可欠となる。ちなみに、先の4要因に「効率性」(既存技術より費用対効果が高いこと)、「社会的妥当性」の2要因を加えた観点から、先進医療は保険導入するかどうかの技術評価がなされている。
敷衍すれば、1)給付縮小で保険外しや一部給付制限したものを医療現場に不都合が生じないよう合法的な混合診療で利用できるようにし、2)汎用性の高い医療技術等を保険導入しない「留め置き」状態のままにし、民間保険にカバーさせるということになる。
厚労官僚は、野放図な、保険外併用療養の拡大は牽制したものの、拡大の方向性に賛意を示したということである。このことの意味は、等閑視できるものではない。
◆ 選定療養の導入項目要望の倍加と中医協議論での火種
中医協で現在、次期診療報酬改定の内容を巡り議論が重ねられており10月25日は、保険導入を前提としない「選定療養」の拡大について議論となっている。
選定療養は規制改革会議の意向により、毎回、「選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集」が広くなされ、検討の"篩(ふるい)"にかけることとなっており、その募集結果が7月17日に報告されている。現在は差額ベッドや予約診療、金属床総義歯など10類型が定められている。
公募で提案された新たな事案は105件で、前回の倍に上る。内訳は医科24件、歯科50件、全般およびその他31件。既存のメニューの見直し提案は44件。
具体的には医科関係では、「患者や家族への時間外の病状説明」、「医師が必要と判断しない患者・家族の希望による入院」、「患者の希望による検査の実施(悪性腫瘍疑い患者へのPET-CTや規定回数を超えるリンパ浮腫指導管理料など)」、「院内処方(院外に比した利便性等を理由にした実費徴収)」、「施設基準に満たない間の検査・手術」などのほか、医師の働き方改革に関連した時間外労働規制の特例水準(年1860時間)の対象医療機関での時間外診療の「上乗せ定額徴収」の義務化、紹介状なし初診患者の「上乗せ定額料金」の引き上げ、湿布薬の処方制限を超える患者希望の枚数や、抗インフルエンザ薬の予防投与などもあがっている。
歯科では唾液検査、高齢者のう蝕指導管理、オーラルフレイルの指導相談、歯科金属アレルギー患者への前歯部に対するオールセラミック冠による歯冠修復、同患者へのCAD/CAM を用いたセラミックブリッジによる欠損補綴など、広く多項目にわたっている。
10月25日の中医協では、これらについての対応方針が示され、①「選定療養の対象範囲の見直し」として「患者や患者家族への時間外の病状説明」が次回以降の検討対象とされ、②「療養の給付と直接関係ないサービス等に追加するもの」とし、患者要望による保険薬局による調剤医薬品の「配送料」を追加・明確化を図ることとした。これ以外は、対応しないとされた。
ただ、先進医療会議から提案のあった保険適用の医療技術等の再評価を目的とした臨床研究で一部に保険適用外の検査等を含むものは、保険導入を目指す評価療養(先進医療)にも、保険導入を前提とせず患者の自由な選択の同意による選定療養(制限回数を超える医療行為)のいずれの性格・趣旨にも合致せず、法改正を含め保険導入前提の評価療養の見直しを検討と出され、意味深長である。
◆ UHCのお手本、国民皆保険の形骸化をさせてはいけない
国民皆保険制度の下、医療医学の進歩を医療保険は取り入れ、標準治療とし医療機関は患者に提供し、国民はその治療水準を享受してきた。これがWHOが認める世界一の健康度を保障し、「ランセット」が特集を組むほど高い評価を得てきた。世界的にいまSDGs(持続可能な開発目標)や、WHOのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が課題とされ注目されている。日本の皆保険制度、保険給付範囲の広さは、その実現の「お手本」である。10月のシンポジウムで日医の横倉会長は、「基本的には国民皆保険の中では公平性が求められる」と、保険外併用療養の拡大に釘をさし、「国民皆保険制度が無かった時代をよく知っている。医療を受けたくても受けられない時代に戻ってはいけない」と強調している。まさに面目躍如である。11月1日に財制度等審議会財政制度分科会が「保険給付範囲の在り方の見直し」で保険外併用療養制度の更なる活用を提案しただけに、その意義は大きい。
われわれは、医療内容への大きな貧富の格差を持ち込む、保険外併用療養の拡大に強く反対する。併せて、差額徴収、混合診療に与する、医療界の一部に自制を求めたい。目指す方向は、医療保険、保険給付の充実・拡大であり、その実現へ財源や負担の問題へも向き合い、国民的理解と合意を形成へ不断の努力を重ねていくことである。
2019年11月6日
医務技監が言及、「保険外併用療養の拡大」に注意
貧すれば鈍す、差額徴収・混合診療への自制を
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
10月11日、鈴木康裕医務技監は都内で開かれたシンポジウムで、保険外併用療養について「拡大していくことは絶対必要」と発言した。現役技官官僚のトップの言だけに看過できないものであり、選定療養への導入要望事例が今年度は倍加し、財政審分科会の提案もあり強い危惧の念を抱いている。国民皆保険の充実に逆行する方向性が、奔流とならぬよう、医療界への警戒と自制を強く呼びかける。
◆ 財務官僚の「拡大余地」発言に呼応 保険外併用療養は合法的混合診療
保険外併用療養は、「合法的な混合診療」であり、主に①評価療養(医療技術・医薬品)、②選定療養(差額ベッドなど)に大別される。評価療養は将来的な保険導入の方向性をもち、選定療養は保険導入を前提としない。他にも患者申出療養はあるが評価療養の範疇外で保険導入の遠方にある。
問題のシンポジウムは日経BP主催「クロスヘルスEXPO2019」で行われ、「社会保障改革の課題と限界―持続可能な医療・介護のあり方とは」がテーマ。登壇者は日医の横倉義武会長、財務省主計局の宇波弘貴次長、厚労省の鈴木康裕医務技監、経産省の江崎禎英政策統括調整官、(医)鉄祐会理事長の武藤真祐氏の5名である。論点は「給付・負担の在り方」、「公的保険と民間活力の組み合わせ」、「効率的な医療提供のための仕組み」などで、各々意見交換がなされている。
この中で、財務省の宇波次長は後発医薬品がある医薬品の参照価格制度を例に挙げ、「保険外併用療養の分野について拡大の余地があるのではないか」と問題提起。公的保険と民間サービスを組み合わせて行く余地はあるのではないかとの認識も示し、「プライベート(民間)の方だけでも収益が成り立つような制度設計をしていくことが非常に大事」と発言した。
これに続き、鈴木医務技監が、保険外併用療養に関し、「拡大していくことは絶対必要」と言及。その一方で無制限な拡大は牽制し、歯止めのない状態では投入する公費の拡大のおそれがあり、患者の視点から見ても制度がわかりにくくなると指摘した。
この公費拡大は少し説明が必要となる。医療保険制度では混合診療が禁止(最高裁で決着済み)されており、保険外の自由診療を組み合わせた場合は土台から自由診療となる。その例外が保険外併用療養であり、保険外を医療保険と併用する療養が合法となる。仕組みは、先進的な医療技術や未承認の医薬品を使う自由診療が、新たに保険外併用療養の対象となると、それまで全額自由料金だった自費診療での、基礎的な医療部分が医療保険で賄われる(=「保険外併用療養」費が支給)ことになる。つまり外形的には、医療保険と自費料金部分の診療の「併用」、「上乗せ」に見えるが、本質の構図は自費診療への医療保険の補填である。全額自費料金では少数の需要層が、保険外の自費料金部分を負担できる余裕のある層へと需要が広がり、公費投入の増加となることを懸念した、ということである。
◆ 給付縮小で現場不都合が生じないよう、混合診療で対応準備
つまり財務官僚は、①保険給付の縮小、限定化を図り、保険適用となっている医薬品や医療技術を保険から外し、保険外となったものを、保険外併用療養の形で合法的に利用できるよう組みかえていく方向性と、②保険適用されていない医療技術や医薬品などの医療サービスだけで採算がとれ、しかも医療保険との併用が可能となる方向性の二つを示したのである。
後者が成立するためには、保険外の医療サービスの「普及性」、「有効性」、「安全性」、「技術的成熟度」の4つが必要であり、これを裏支えする民間医療保険商品の存在が不可欠となる。ちなみに、先の4要因に「効率性」(既存技術より費用対効果が高いこと)、「社会的妥当性」の2要因を加えた観点から、先進医療は保険導入するかどうかの技術評価がなされている。
敷衍すれば、1)給付縮小で保険外しや一部給付制限したものを医療現場に不都合が生じないよう合法的な混合診療で利用できるようにし、2)汎用性の高い医療技術等を保険導入しない「留め置き」状態のままにし、民間保険にカバーさせるということになる。
厚労官僚は、野放図な、保険外併用療養の拡大は牽制したものの、拡大の方向性に賛意を示したということである。このことの意味は、等閑視できるものではない。
◆ 選定療養の導入項目要望の倍加と中医協議論での火種
中医協で現在、次期診療報酬改定の内容を巡り議論が重ねられており10月25日は、保険導入を前提としない「選定療養」の拡大について議論となっている。
選定療養は規制改革会議の意向により、毎回、「選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集」が広くなされ、検討の"篩(ふるい)"にかけることとなっており、その募集結果が7月17日に報告されている。現在は差額ベッドや予約診療、金属床総義歯など10類型が定められている。
公募で提案された新たな事案は105件で、前回の倍に上る。内訳は医科24件、歯科50件、全般およびその他31件。既存のメニューの見直し提案は44件。
具体的には医科関係では、「患者や家族への時間外の病状説明」、「医師が必要と判断しない患者・家族の希望による入院」、「患者の希望による検査の実施(悪性腫瘍疑い患者へのPET-CTや規定回数を超えるリンパ浮腫指導管理料など)」、「院内処方(院外に比した利便性等を理由にした実費徴収)」、「施設基準に満たない間の検査・手術」などのほか、医師の働き方改革に関連した時間外労働規制の特例水準(年1860時間)の対象医療機関での時間外診療の「上乗せ定額徴収」の義務化、紹介状なし初診患者の「上乗せ定額料金」の引き上げ、湿布薬の処方制限を超える患者希望の枚数や、抗インフルエンザ薬の予防投与などもあがっている。
歯科では唾液検査、高齢者のう蝕指導管理、オーラルフレイルの指導相談、歯科金属アレルギー患者への前歯部に対するオールセラミック冠による歯冠修復、同患者へのCAD/CAM を用いたセラミックブリッジによる欠損補綴など、広く多項目にわたっている。
10月25日の中医協では、これらについての対応方針が示され、①「選定療養の対象範囲の見直し」として「患者や患者家族への時間外の病状説明」が次回以降の検討対象とされ、②「療養の給付と直接関係ないサービス等に追加するもの」とし、患者要望による保険薬局による調剤医薬品の「配送料」を追加・明確化を図ることとした。これ以外は、対応しないとされた。
ただ、先進医療会議から提案のあった保険適用の医療技術等の再評価を目的とした臨床研究で一部に保険適用外の検査等を含むものは、保険導入を目指す評価療養(先進医療)にも、保険導入を前提とせず患者の自由な選択の同意による選定療養(制限回数を超える医療行為)のいずれの性格・趣旨にも合致せず、法改正を含め保険導入前提の評価療養の見直しを検討と出され、意味深長である。
◆ UHCのお手本、国民皆保険の形骸化をさせてはいけない
国民皆保険制度の下、医療医学の進歩を医療保険は取り入れ、標準治療とし医療機関は患者に提供し、国民はその治療水準を享受してきた。これがWHOが認める世界一の健康度を保障し、「ランセット」が特集を組むほど高い評価を得てきた。世界的にいまSDGs(持続可能な開発目標)や、WHOのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が課題とされ注目されている。日本の皆保険制度、保険給付範囲の広さは、その実現の「お手本」である。10月のシンポジウムで日医の横倉会長は、「基本的には国民皆保険の中では公平性が求められる」と、保険外併用療養の拡大に釘をさし、「国民皆保険制度が無かった時代をよく知っている。医療を受けたくても受けられない時代に戻ってはいけない」と強調している。まさに面目躍如である。11月1日に財制度等審議会財政制度分科会が「保険給付範囲の在り方の見直し」で保険外併用療養制度の更なる活用を提案しただけに、その意義は大きい。
われわれは、医療内容への大きな貧富の格差を持ち込む、保険外併用療養の拡大に強く反対する。併せて、差額徴収、混合診療に与する、医療界の一部に自制を求めたい。目指す方向は、医療保険、保険給付の充実・拡大であり、その実現へ財源や負担の問題へも向き合い、国民的理解と合意を形成へ不断の努力を重ねていくことである。
2019年11月6日