保険医の生活と権利を守り、国民医療の
向上をめざす

神奈川県保険医協会とは

開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す

TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 20020/6/3 政策部長談話 「日本の医療体制を守るため診療報酬の『単価補正』支払いを求める」

20020/6/3 政策部長談話 「日本の医療体制を守るため診療報酬の『単価補正』支払いを求める」

日本の医療体制を守るため

診療報酬の「単価補正」支払いを求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


機能麻痺と経営破綻の医療危機

 緊急事態宣言が5月25日、全面解除されたが、新型コロナウイルス感染症対応は依然と視界不良で秋冬への危機感が強い。感染爆発での「医療機能の麻痺」は、一時収束、小康状態にあるが、一方で大幅な受診減少により医療機関の全体的な「経営破綻」が日々、色濃くなっている。これは、患者に必要な治療がなされていないことを意味し、経営破綻は地域の医療拠点の消失に帰結していく。新型コロナ感染症の拡大の第二波以降への医療体制整備とともに、直面する通常医療の回復、維持へ、国民的な受診促進の広報と、現実性・実効性のある財政的措置の迅速な実現を強く求める。

慰労金、院内感染対策費は評価 まだ遠い経営打撃の減殺 

 閣議決定された第二次補正予算案31.9兆円は、厚労省分を約5兆円とし、その半分近く2兆2370億円を「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」の拡充にあてた。内容は感染症治療の最前線の医療機関のみならず、発熱患者・疑似症患者の対応に当たるなど、広く医療機関(医科・歯科)を対象に医療従事者・職員に慰労金(5万円~20万円)の支給や、院内感染対策への実費支給(無床診療所は上限100万円等)等となっている。これらは前進として、尽力を多としたい。

 ただ、医療機関の保険診療の4月診療分、5月診療分は前年比▲30%超の機関がかなりあり、小児科、眼科、耳鼻咽喉科などの専門科は▲50%超も少なくない。歯科診療所では任意月の事業収入▲50%要件の「持続化給付金」を既に申請したところもある。外来診療では患者の感染不安へ、長期投薬や電話再診で多くに応じ、通常の検査も激減している。表沙汰になってないが確実に深刻化している。

 大学病院や基幹病院の月数千万円~数億円単位の減収は、報道で世間の知るところと既になっている。緊急包括支援交付金の対応だけでは、まだまだ状況の回復や経営打撃の減殺には遠い状況にある。

自民党委員会の「医療版持続化給付金」は、医療者へ心を寄せたもの 

 今回の二次補正予算案に至るまで、自民党の「国民医療を守る議員の会」から5月19日に厚労大臣へ貴重な提言が、実はなされている。緊急包括支援交付金の大幅増額とともに、新型コロナ感染症患者「以外」を診療する地域医療の確保に向け、院内感染防止対策のために基本診療料の2割引き上げとともに、「医療版持続化給付金」を支給し減収額の8割を補填すべきとしたのである。

 日医の横倉会長は5月20日の会見で、「感染症の波が去った後、地域医療が崩壊してしまったという状況だけはつくってはいけない」と危機感を表明。患者数減少での収入影響に触れ、人件費等の固定費のカバーの成否が大きな課題とし、少なくとも通常の8割以上の収入確保が生命線とし、それを下回る医療機関には補填が必要と主張している。自民党の上記の提言はこれに沿った内容である。

 最終的な5月21日の自民党の政調提言では「収入が減少している医療機関・薬局が診療等を継続できるよう経営支援等」の表現に吸収されたが、田村対策本部長は、「コロナの患者を対応している医療機関も、それ以外の医療機関も、両方とも非常に疲弊している」、再流行に備え「しっかりと何があっても対応できる予算にしなければならない」と合同会議で強調しており、心はここにある。

 日医は通常医療確保支援(1.4兆円)や、減収幅の大きい専門科目支援(1.0兆円)など5項目4.8兆円の支援要請を政府にし、二次補正予算案を「主張してきたことがほぼ反映された」と評価した。これは形を変えて一部が実質実現、と解したと思われる。

 ただ、「4月、5月のレセプト状況を見た上で、必要に応じて診療報酬上のさらなる対応を求めたい」、「将来的には単価の引き上げを検討すべきだ」との見解も横倉会長は示しており、決して楽観はしていない。「医療危機的状況宣言」の解除にあたり、医療崩壊を防ぎ世界で稀なレベルで犠牲者を抑制できた要因に国民皆保険制度を挙げ、今後も守るべきと決意している。

診療報酬の一部前払いは一時的な急場しのぎ  

 二次補正対応で、医療機関の資金ショートを回避するため、5月診療分の診療報酬の一部前払いの措置が講じられた。これは、医療団体の要望を受けてのものだが、4月診療分を医療機関へ6月に支払うのに合わせ、一定の計算式で算出した額を、5月診療分の一部とみなして、4月診療分に抱き合わせ、通常の診療収入分程度の水準で支払うものである。算出額は具体的には昨年12月~今年2月の3か月分の平均額から4月診療分を引いた残余に100/80を積算したものとなる。

 ただ、これは急場しのぎであり、安定的な経営維持を保障せず、すぐに限界が来る。7月支払い分は受診回復がない5月診療分から先払い分が差し引かれるため、資金不足となり借入に左右される。

診療報酬の「単価・変動補正」導入で財政中立を

 診療報酬は、医療機関の医療提供の経済評価である。また、医療の質と、医療の再生産を保障する原資である。今年度は改定率▲0.46%(本体+0.55%、薬価等▲1.01%)で予算立てが既にされ必要額が保険者、国庫等で計上されている。ただ、新型コロナ感染症により、前年度2月3月は医療費減と観測され、今年度4月以降も対前年比で減額・減収は必至である。これでは、医療機関経営の継続が困難となることは明らかである。災害時に類する概算請求支払いは、地震や台風でのカルテ消失や請求機器損壊と状況が違うと厚労相が難色を示し、論理的にも実務的にも障壁は高く暗礁にある。

 当協会は、医療機関の経営原資の安定、減収分の補填方法とし、対前年比の減額分の逆数値補正の単価計算支払を方法論として提案した。診療報酬の請求金額の速報値・暫定値は診療翌月に判明する。

 前年の8/10へ減収となった場合は、診療報酬1点単価を10円×10/8=12.5円と補正するのである。2、3、4月の3か月平均での減収分の補正単価を、その後の3か月の単価に適用する。患者負担は1点10円のまま、医療機関への支払基金や国保連合会(審査・支払機関)からの支払い分に適用すればよい。患者負担への影響はなく、医療機関も請求は点数建てであり実務的な煩瑣もない。患者負担の医療費シェアは12.2%(H29年度)なので、その分の単価補正分は補填されないが医療機関収入の減額幅は数%程度に収まることになる。外形的に単価引き上げだが「時限的特例的」な措置とする。

 保険財政への影響も、医療体制・機能の維持を目的とした、従前程度の医療経営原資の保障であり、財政中立の範囲に収まることになる。診療側・保険者側の合意は可能と思われる。迅速対応が肝要だ。

患者の受診・治療は、医療体制が保全されてこそ 「機能麻痺」と「経営破綻」は阻止へ

 診療報酬は再診料73点、処方料42点など、公定価格を1点単価10円で計算し、医療保険に請求する。この点数の値は、診療項目を評価する「技術指数」、1点単価は「経済指数」とし解されている。減収分の逆数補正は、新型コロナウイルス感染症のような世界を震撼させる有事に発動する「係数」、つまり「有事指数」と解し適応することは方法である。平時は係数1で作動はしない。減収の度合い・推移や、全体か科目別か等により逆数値は変動するので、「変動補正単価」となる。

 今般の診療報酬の一部前払いは、保険収入が8/10に落ちた医療機関を例に、平均収入との差額を10/8の逆数補正し、一時的に従前分程度を支払うというアイディアである。

 自民党の「医療版持続化給付金」は減収分の8割補填であり、これに基本診療料2割増で減収幅の減殺を図る。日医は従前の8割の収入がデッドラインとする。超党派医系議員団も予算確保を訴えた。

 みな、医療体制を潰してはならぬとの思いは一つである。緊急事態宣言は医療崩壊の危機の回避が目的であり、いま医療体制が決壊しては元の木阿弥である。秋冬のインフルエンザの大流行との新型コロナ感染の拡大を、医療現場は非常に心配し戦々恐々である。その準備が急がれる。

 6月2日、唾液検体のPCR検査が保険適用となり光明が射し、実施施設の拡充が図られてもいる。緊急包括支援交付金も兆円規模が実現し、日々、着実に前進している。ただ、感染拡大への対応はまだ渦中である。余裕のあるICU整備や感染症病床の拡充と財政措置、保健所体制・業務への人員・財政の拡充、第一線医療のトリアージ体制など課題は山積である。必要な受診と治療を保障する患者負担問題や医学・医療的な受診不安の解消も、急務である。根底の財源問題も重要である。

 政治の真価がいまこそ、問われている。地域医療の破綻を招かないよう、診療報酬の変動補正単価支払いを強く求める。

2020年6月3日

日本の医療体制を守るため

診療報酬の「単価補正」支払いを求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


機能麻痺と経営破綻の医療危機

 緊急事態宣言が5月25日、全面解除されたが、新型コロナウイルス感染症対応は依然と視界不良で秋冬への危機感が強い。感染爆発での「医療機能の麻痺」は、一時収束、小康状態にあるが、一方で大幅な受診減少により医療機関の全体的な「経営破綻」が日々、色濃くなっている。これは、患者に必要な治療がなされていないことを意味し、経営破綻は地域の医療拠点の消失に帰結していく。新型コロナ感染症の拡大の第二波以降への医療体制整備とともに、直面する通常医療の回復、維持へ、国民的な受診促進の広報と、現実性・実効性のある財政的措置の迅速な実現を強く求める。

慰労金、院内感染対策費は評価 まだ遠い経営打撃の減殺 

 閣議決定された第二次補正予算案31.9兆円は、厚労省分を約5兆円とし、その半分近く2兆2370億円を「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」の拡充にあてた。内容は感染症治療の最前線の医療機関のみならず、発熱患者・疑似症患者の対応に当たるなど、広く医療機関(医科・歯科)を対象に医療従事者・職員に慰労金(5万円~20万円)の支給や、院内感染対策への実費支給(無床診療所は上限100万円等)等となっている。これらは前進として、尽力を多としたい。

 ただ、医療機関の保険診療の4月診療分、5月診療分は前年比▲30%超の機関がかなりあり、小児科、眼科、耳鼻咽喉科などの専門科は▲50%超も少なくない。歯科診療所では任意月の事業収入▲50%要件の「持続化給付金」を既に申請したところもある。外来診療では患者の感染不安へ、長期投薬や電話再診で多くに応じ、通常の検査も激減している。表沙汰になってないが確実に深刻化している。

 大学病院や基幹病院の月数千万円~数億円単位の減収は、報道で世間の知るところと既になっている。緊急包括支援交付金の対応だけでは、まだまだ状況の回復や経営打撃の減殺には遠い状況にある。

自民党委員会の「医療版持続化給付金」は、医療者へ心を寄せたもの 

 今回の二次補正予算案に至るまで、自民党の「国民医療を守る議員の会」から5月19日に厚労大臣へ貴重な提言が、実はなされている。緊急包括支援交付金の大幅増額とともに、新型コロナ感染症患者「以外」を診療する地域医療の確保に向け、院内感染防止対策のために基本診療料の2割引き上げとともに、「医療版持続化給付金」を支給し減収額の8割を補填すべきとしたのである。

 日医の横倉会長は5月20日の会見で、「感染症の波が去った後、地域医療が崩壊してしまったという状況だけはつくってはいけない」と危機感を表明。患者数減少での収入影響に触れ、人件費等の固定費のカバーの成否が大きな課題とし、少なくとも通常の8割以上の収入確保が生命線とし、それを下回る医療機関には補填が必要と主張している。自民党の上記の提言はこれに沿った内容である。

 最終的な5月21日の自民党の政調提言では「収入が減少している医療機関・薬局が診療等を継続できるよう経営支援等」の表現に吸収されたが、田村対策本部長は、「コロナの患者を対応している医療機関も、それ以外の医療機関も、両方とも非常に疲弊している」、再流行に備え「しっかりと何があっても対応できる予算にしなければならない」と合同会議で強調しており、心はここにある。

 日医は通常医療確保支援(1.4兆円)や、減収幅の大きい専門科目支援(1.0兆円)など5項目4.8兆円の支援要請を政府にし、二次補正予算案を「主張してきたことがほぼ反映された」と評価した。これは形を変えて一部が実質実現、と解したと思われる。

 ただ、「4月、5月のレセプト状況を見た上で、必要に応じて診療報酬上のさらなる対応を求めたい」、「将来的には単価の引き上げを検討すべきだ」との見解も横倉会長は示しており、決して楽観はしていない。「医療危機的状況宣言」の解除にあたり、医療崩壊を防ぎ世界で稀なレベルで犠牲者を抑制できた要因に国民皆保険制度を挙げ、今後も守るべきと決意している。

診療報酬の一部前払いは一時的な急場しのぎ  

 二次補正対応で、医療機関の資金ショートを回避するため、5月診療分の診療報酬の一部前払いの措置が講じられた。これは、医療団体の要望を受けてのものだが、4月診療分を医療機関へ6月に支払うのに合わせ、一定の計算式で算出した額を、5月診療分の一部とみなして、4月診療分に抱き合わせ、通常の診療収入分程度の水準で支払うものである。算出額は具体的には昨年12月~今年2月の3か月分の平均額から4月診療分を引いた残余に100/80を積算したものとなる。

 ただ、これは急場しのぎであり、安定的な経営維持を保障せず、すぐに限界が来る。7月支払い分は受診回復がない5月診療分から先払い分が差し引かれるため、資金不足となり借入に左右される。

診療報酬の「単価・変動補正」導入で財政中立を

 診療報酬は、医療機関の医療提供の経済評価である。また、医療の質と、医療の再生産を保障する原資である。今年度は改定率▲0.46%(本体+0.55%、薬価等▲1.01%)で予算立てが既にされ必要額が保険者、国庫等で計上されている。ただ、新型コロナ感染症により、前年度2月3月は医療費減と観測され、今年度4月以降も対前年比で減額・減収は必至である。これでは、医療機関経営の継続が困難となることは明らかである。災害時に類する概算請求支払いは、地震や台風でのカルテ消失や請求機器損壊と状況が違うと厚労相が難色を示し、論理的にも実務的にも障壁は高く暗礁にある。

 当協会は、医療機関の経営原資の安定、減収分の補填方法とし、対前年比の減額分の逆数値補正の単価計算支払を方法論として提案した。診療報酬の請求金額の速報値・暫定値は診療翌月に判明する。

 前年の8/10へ減収となった場合は、診療報酬1点単価を10円×10/8=12.5円と補正するのである。2、3、4月の3か月平均での減収分の補正単価を、その後の3か月の単価に適用する。患者負担は1点10円のまま、医療機関への支払基金や国保連合会(審査・支払機関)からの支払い分に適用すればよい。患者負担への影響はなく、医療機関も請求は点数建てであり実務的な煩瑣もない。患者負担の医療費シェアは12.2%(H29年度)なので、その分の単価補正分は補填されないが医療機関収入の減額幅は数%程度に収まることになる。外形的に単価引き上げだが「時限的特例的」な措置とする。

 保険財政への影響も、医療体制・機能の維持を目的とした、従前程度の医療経営原資の保障であり、財政中立の範囲に収まることになる。診療側・保険者側の合意は可能と思われる。迅速対応が肝要だ。

患者の受診・治療は、医療体制が保全されてこそ 「機能麻痺」と「経営破綻」は阻止へ

 診療報酬は再診料73点、処方料42点など、公定価格を1点単価10円で計算し、医療保険に請求する。この点数の値は、診療項目を評価する「技術指数」、1点単価は「経済指数」とし解されている。減収分の逆数補正は、新型コロナウイルス感染症のような世界を震撼させる有事に発動する「係数」、つまり「有事指数」と解し適応することは方法である。平時は係数1で作動はしない。減収の度合い・推移や、全体か科目別か等により逆数値は変動するので、「変動補正単価」となる。

 今般の診療報酬の一部前払いは、保険収入が8/10に落ちた医療機関を例に、平均収入との差額を10/8の逆数補正し、一時的に従前分程度を支払うというアイディアである。

 自民党の「医療版持続化給付金」は減収分の8割補填であり、これに基本診療料2割増で減収幅の減殺を図る。日医は従前の8割の収入がデッドラインとする。超党派医系議員団も予算確保を訴えた。

 みな、医療体制を潰してはならぬとの思いは一つである。緊急事態宣言は医療崩壊の危機の回避が目的であり、いま医療体制が決壊しては元の木阿弥である。秋冬のインフルエンザの大流行との新型コロナ感染の拡大を、医療現場は非常に心配し戦々恐々である。その準備が急がれる。

 6月2日、唾液検体のPCR検査が保険適用となり光明が射し、実施施設の拡充が図られてもいる。緊急包括支援交付金も兆円規模が実現し、日々、着実に前進している。ただ、感染拡大への対応はまだ渦中である。余裕のあるICU整備や感染症病床の拡充と財政措置、保健所体制・業務への人員・財政の拡充、第一線医療のトリアージ体制など課題は山積である。必要な受診と治療を保障する患者負担問題や医学・医療的な受診不安の解消も、急務である。根底の財源問題も重要である。

 政治の真価がいまこそ、問われている。地域医療の破綻を招かないよう、診療報酬の変動補正単価支払いを強く求める。

2020年6月3日