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2020/7/15 政策部長談話 「皆保険制度を守るため診療報酬の『単価補正』支払いの実現を」

皆保険制度を守るため

診療報酬の「単価補正」支払いの実現を

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


第二波に向け医療体制の強化・維持の支援は喫緊

 新型コロナ感染拡大の増加傾向が首都圏で顕著となり、空気感染の可能性など新たな医学的知見も示されている。専門家会議の指摘どおり当初より長期戦は必至である。「医療機能麻痺」による医療崩壊は脱したものの、「経営破綻」による地域医療崩壊の危険は深刻になっている。医療機関の経営体力と、ワクチン・治療薬の開発や国民の免疫獲得との間での、「時間との勝負」の様相を呈している。

 この間、国民皆保険制度の優位性が広く国民に浸透し、医療者の献身へ理解が深まり、政治の側もその意識を強くしている。第二波の到来が確実視されるなか、医療提供体制の盤石化が喫緊である。われわれは、診療報酬の単価補正支払いへの、具体的方法論や疑問に答え、その実現を強く求める。

減収分を「逆数値補正」した単価支払い、患者負担は不変

既存システムで「迅速」

 二木立・日本福祉大学名誉教授が雑誌やWEBジャーナルで紹介したこともあり、「単価補正支払い」へ広く関心が示され、照会や質問なども寄せられているのでそれらを踏まえ再度触れたい。

当協会が提案した「単価補正支払い」は、医療機関の経営原資の安定への減収分の補填方法である。診療報酬の対前年比の減額分の逆数値補正で単価計算をし、医療保険からの支払いをするものである。

 診療報酬の請求金額の速報値・暫定値は診療翌月には判明する。前年の8/10へ減収となった場合は、診療報酬1点単価を10円×10/8=12.5円と補正するのである。患者負担は1点10円のまま、医療機関への審査支払機関(支払基金や国保連合会)からの支払い分に適用すればよい。患者負担への影響はなく、医療機関も請求は点数建てであり実務的な煩瑣もない。患者負担の部分は単価補正されないが、これにより医療機関収入の減額幅は数%程度に収まることになる。これをコロナ感染症の収束までの「時限的特例的」な措置とすればよい。―というのが提案の基本的考えである。

 医療費総枠の範囲内での単価操作であり、税金での事業と異なり、減収機関すべてに「確実」に補填される。既存の審査・支払システムの利用で実行でき、迅速さが格段に違うものとなる。

9割の医療機関は減収 3カ月連続▲30%で1カ月分の保険収入が消失

医療経営は「薄氷」状態

 これをどのように適用するか、試論として考えを進めたい。コロナ禍による受診への影響は3月頃から出始め、政府の「緊急事態宣言」での外出自粛要請や、医療機関の「感染リスク」報道の影響で、4月、5月に深刻化した。5月診療分は当協会調査で9割の医療機関が減収で、対前年同月比の平均は▲35%であり、全国的な保団連調査(対象29都府県)も9割が減収で平均は▲20%強である。当協会調査で減収群は3月、4月には県内医療機関で8割あり、平均はいずれも▲30%強である。これはひと月分の保険収入が消えた((30%+33%+35%)/12ヵ月=8.1%≒1/12=1カ月)に等しく、医療機関の多くは経常利益が2%以下のため薄氷を踏むような経営状況となっている。

 つまり、この9割の医療機関の経営支援・救済を図る施策をとらないと、いまの医療提供体制に綻びが生じ、地域医療は守れないことになっていく。

全国の保険収入の医療機関別分布・波形は、ここ数年大きな変動はない(「医療費の動向・施設単位でみる医療費等の分布の状況」)。医科、歯科ともに各医療機関とも大きく増えも減りもしておらず、これはその保険収入の規模で一定数の患者を診、医療機能や役割を発揮していることを意味する。この保険収入での医療事業を保障できないと地域医療に支障を来たすことになる。

単価補正は減収機関ごとの適用を軸に

「合意」の範囲で全国一律や科目・都道府県調整も選択肢

 「単価補正支払い」の適用方法は、技術的・制度的な可能性範囲と政治的合意形成の度合いによって決まってくるが、基本は「減収医療機関」を対象とし、「個々の医療機関ごと」の適用となる。これは技術的には可能だと思われる。既にコロナ禍での影響があった3、4、5月の3カ月の減収分は、補正単価分を「加算」するか、収束後も「該当月数分を適用」する等の工夫の余地はいくらでもある。

 これで合意が取れない場合に、全国一律での統一で単価補正をし、適用とすることも一方ではある。全国の支払金額合計の前年比の逆数値を使えばできるが、この間の各医療団体の調査で、眼科・耳鼻咽喉科・小児科の落ち込みは平均以上に深刻であることから、これら専門科目については、「差異を係数化」し補正することは最低限、必要である。更には、全ての都道府県で減収となっているが、人口対比のコロナ感染患者数の多寡と減収幅との相関傾向もみられ、都道府県ごとの「重みづけ」等は考慮しないと、所期する9割の減収医療機関の支援の目的は達せられないことになる。

 この一律の補正単価は、減収医療機関への適用であり、増収や維持の医療機関には適用しない。

 今年度の新規開業者の場合は、前年の新規開業者の「集団」の平均の保険請求額を「基準」にとればよく、技術的には算出は可能である。開設者が病気や特別事情で前年が大幅減収であれば、「前々年」を「基準」にすればよく、厚労行政の制度的技術として実務場面でとりいれられている方法である。

 また、自民党のコロナ対策医療系議員団本部の提案、医療機関の減収を月▲30%で6カ月見込み、その8割を補填するという案に、減収補填の堅守すべき「最低ライン」の引き方を学ぶべきと考える。

 当協会の単価補正支払いに賛意と照会を寄せた全国展開する医療法人の役員が、自民党のこの案への納得感、妥当性に触れ、精緻な計算の跡が見えるとした。計算の仔細は表になっていないが、中医協の医療経済実態調査を踏まえると、給与や減価償却費などの「固定費」分を保障し、医薬品費や材料費などの「変動費」分を一部のみ保障とし算出し、8割補填としたと推論される。

従来の医療費抑制を超越した事態への事実認識を

奈良県の地域別報酬の再燃は「お門違い」

 実は、この単価補正は、医療保険の支払い分に適用するので、前年の保険収入を丸々、保障はしない。患者負担分を補正はしないので、保険収入が「保険支払い」と「患者負担」が「70:30」の場合に、保険収入が80/100に減収となった際は、減収▲20%は大きく減殺されるが、▲6%が限度となる。

 ちなみに災害時の「概算請求」の援用だと、前年の1日単位診療費の実日数請求で、①患者負担の実診療での徴収、②患者負担免除でその分も支払機関に請求、③患者負担は未徴収など、現実適応での齟齬や政策判断が、もう一段乗ることになる。

 ただ、いくつかの異論や疑問がでているので応えたい。地域別診療報酬の先鞭との誤解がある。「単価補正」はコロナ禍収束迄の時限的措置であり、地域限定ではなく全国に一律的に適用する。一方、6年単位の医療費適正化計画の実績と連動する地域別診療報酬は、保険者協議会の論議を経て都道府県が国に具申し、国は中医協に諮り設定する。稼働の障壁が高く、単価減額に限定されず逓減制の急傾斜化、項目包括、項目削除など一様ではない。そもそも、実行のための仔細の定めがなく、別物である。現状は前年度の医療費水準を下回る可能性が高く、国費千数百億円の圧縮のために現行の水準にプラスとなる医療費の「伸び」を抑制してきた「医療費適正化」と、局面が180度違ってくる。

「民間」が主力で担う「公的」医療保険と、営利事業との峻別理解を

 一般企業や一般事業所と比較、同列視した議論も見受けられるが、日本の医療の特殊性への理解を欠いている。殆ど全ての医療機関が、国民皆保険下、公的医療保険で医療提供をしており、営利市場での価格決定権をもった自由診療では、医業を成立させてはいない。

 公定価格の公定ルールの下、公的サービスを、主に民間セクターの医療機関が担っている。保険医登録と保険医療機関の指定により、医療機関は保険者と準委任契約を結び医療提供をし、その対価として診療報酬が支払われる構図となっている。医業収入の9割は保険診療収入であり、その他は健診や予防注射など保健事業等の収入である。自己資金、多額の借入金で医療機関の設立をし、診療報酬で返済や医療人材雇用、医療機器の設備投資をし、「医療の再生産」を図っている。診療報酬は診療行為の純粋対価ではなく、医療機関体制の維持の観点から企画立案されている。それは医療費43兆円の世界であり、これが揺らぐことは、皆保険が綻び、患者・国民の十分な医療が受けられなくなることを意味する。医療提供体制と患者受診は、この保険財政規模で保障されている。それでも診療報酬はその水準の不十分性ゆえに、医療界から2年に一度の改定時にプラス改定が求められてきている。

 43兆円を賄う、保険財政は予算措置ずみであり、これは皆保険の医療提供体制を担う、社会システムの費用として、国、医療保険者で、社会的に合意をされたものである。単価補正支払いは、この上に立った「財政中立」の方法であり、追加の国費・公費、保険料の負担は必要がない。

健保連の新会長も国民皆保険制度の優位性を強調

医療側と保険者側の合意に期待

 「単価補正支払い」の実現には保険者との合意、納得が鍵となる。確かに、医療保険者は黒字の組合と赤字の組合があるが、既にふれたように今年度の医療費は全体的には「合意」のもと各組合で財政運営が計画されている。

 ちなみに、健保組合では黒字は69.6%(968組合)、赤字は30.4%(423組合)で赤字組合は前年から157組合減少で、全体では 3,048 億円の黒字(平成30年度)、市町村国保は黒字79.3%(1,361保険者)、赤字20.7%(355保険者)で赤字保険者は118保険者減少、全体の単年度収支差引額は 1,302 億円の黒字(平成29年度)、協会けんぽは5,948億円の過去最高の黒字(平成30年度)である。

 仮に、今年度の医療費が前年度▲20%となり、保険財政が楽になると欣喜雀躍しても、逆に医療機関が地域から「消失」し、「保険あって医療なし」となる。保険者の責務に反し、健保法の理念、「国民が受ける医療の質の向上」にも悖る事態となる。一度、診療所や病院、歯科診療所や小児科・眼科・耳鼻咽喉科などの消失、空白となれば医療提供体制の創設、復元は簡単ではない。このような事態は保険者とて本意ではなく、百も承知であり、近視眼的な考えには堕してはいないと思われる。

 この4月に健保連の新会長に就いた宮永俊一氏(三菱重工業取締役会長)は、新型コロナの世界の感染爆発をリアルタイムで知り、「改めて国民の誰もが安心して質の高い医療に不公平なくアクセスできるわが国の国民皆保険制度の素晴らしさを、一層強く認識した」と重要性に言及している。

 来年度以降、経済状況の悪化での保険財政の悪化となった際は、各種別制度内での組合間の連帯による、組合財政の再分配や、一時的な国庫負担増額も視野に入るが、当座・喫緊の対応とは別である。

出現しだした医療機関経営の綻び 「覆水盆に返らず」 一刻も早い実現を

 支払基金の4月診療分の確定金額は、4月診療分は医科外来で▲16.0%、歯科も▲12.7%で、神奈川県は医科外来が▲20.4%、歯科は▲20.0%と、東京(医科外来▲23.1%、歯科▲25.8%)と、同様に深刻である。5月診療分の数字はより悪いことは各団体調査から推察される。6月診療分は回復基調にあるものの4割強の医療機関は前月水準に至っていない(日経メディカル「いまだに46.5%で患者減、60%が減少の診療科も」2020.7.9記事)。

 このような中、東京女子医大病院で賞与支給ができない事態となり400名の看護師が退職を希望、との衝撃的報道がなされている。開業医も47.6%が職員の6月給与カット(ⅿ3.com「開業医47.6%が職員6月給与カット30.4%は夏季ボーナスカット」医師調査 2020.7.8)と切実な事態にある。

 11月以降の第2波は確実視されており(既に第2波到来との専門家の意見もあり)、春まで続くとなると、5カ月近くの受診減、保険収入減が折り重なることとなるが、それを前にして医療機関経営の維持が出来ないところが次々と出てくる。

 資金調達が困難な医療機関への特例的な診療報酬の概算前払いの利用(支払基金分)は全国で医科は100病院515診療所で計47億円、歯科は15病院372診療所で計2億円であり、任意月の事業収入の▲50%要件の「持続化給付金」を「申請」した開業医は13.7(ⅿ3.com「持続化給付金「申請」13.7%、「対象になるか不明」23.7%」医師調査 2020.7.12)に上っている。新規開業や開設主体変更継承は利用できない問題もあり、日々、事態は深刻になってきている。

 臨床医学に基づく専門家と一般人とでは、病気や症状の認識や軽重判断に格差があり、我慢や軽視での受診抑制は、国民の健康に深刻な影響を与える。この面での施策も急ぐ必要があり、日医は患者負担増の公費支援を提案した。その前提として医療機関の体制強化が急がれる。

 補正予算での緊急包括支援交付金の施策・事業は、コロナ禍の「突然の事態・出費」への税金対応である。診療報酬もコロナ患者、疑似症のトリアージにスポット的配点がなされた迄で、不十分である。医療は「面で支えており」(中川俊男・日医会長)、診療報酬での解決が本筋である。コロナ禍の背後で通常の病気が消えるわけではない。そこを支える医療機関があって初めてコロナ対策ができる。

 われわれは改めて診療報酬の「単価補正支払い」の実現を強く求める。

2020年7月15日

OVID-19の人口10万人あたり発生数と2020年4月診療分支払基金の

支部別確定「金額」対前年同月比の増減率

* 神奈川県保険医協会政策部作成

* グラフ画像をクリックすると拡大表示

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* 社会保険診療報酬支払基金 統計月報(令和2年4月診療分)、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月4日)より

皆保険制度を守るため

診療報酬の「単価補正」支払いの実現を

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


第二波に向け医療体制の強化・維持の支援は喫緊

 新型コロナ感染拡大の増加傾向が首都圏で顕著となり、空気感染の可能性など新たな医学的知見も示されている。専門家会議の指摘どおり当初より長期戦は必至である。「医療機能麻痺」による医療崩壊は脱したものの、「経営破綻」による地域医療崩壊の危険は深刻になっている。医療機関の経営体力と、ワクチン・治療薬の開発や国民の免疫獲得との間での、「時間との勝負」の様相を呈している。

 この間、国民皆保険制度の優位性が広く国民に浸透し、医療者の献身へ理解が深まり、政治の側もその意識を強くしている。第二波の到来が確実視されるなか、医療提供体制の盤石化が喫緊である。われわれは、診療報酬の単価補正支払いへの、具体的方法論や疑問に答え、その実現を強く求める。

減収分を「逆数値補正」した単価支払い、患者負担は不変

既存システムで「迅速」

 二木立・日本福祉大学名誉教授が雑誌やWEBジャーナルで紹介したこともあり、「単価補正支払い」へ広く関心が示され、照会や質問なども寄せられているのでそれらを踏まえ再度触れたい。

当協会が提案した「単価補正支払い」は、医療機関の経営原資の安定への減収分の補填方法である。診療報酬の対前年比の減額分の逆数値補正で単価計算をし、医療保険からの支払いをするものである。

 診療報酬の請求金額の速報値・暫定値は診療翌月には判明する。前年の8/10へ減収となった場合は、診療報酬1点単価を10円×10/8=12.5円と補正するのである。患者負担は1点10円のまま、医療機関への審査支払機関(支払基金や国保連合会)からの支払い分に適用すればよい。患者負担への影響はなく、医療機関も請求は点数建てであり実務的な煩瑣もない。患者負担の部分は単価補正されないが、これにより医療機関収入の減額幅は数%程度に収まることになる。これをコロナ感染症の収束までの「時限的特例的」な措置とすればよい。―というのが提案の基本的考えである。

 医療費総枠の範囲内での単価操作であり、税金での事業と異なり、減収機関すべてに「確実」に補填される。既存の審査・支払システムの利用で実行でき、迅速さが格段に違うものとなる。

9割の医療機関は減収 3カ月連続▲30%で1カ月分の保険収入が消失

医療経営は「薄氷」状態

 これをどのように適用するか、試論として考えを進めたい。コロナ禍による受診への影響は3月頃から出始め、政府の「緊急事態宣言」での外出自粛要請や、医療機関の「感染リスク」報道の影響で、4月、5月に深刻化した。5月診療分は当協会調査で9割の医療機関が減収で、対前年同月比の平均は▲35%であり、全国的な保団連調査(対象29都府県)も9割が減収で平均は▲20%強である。当協会調査で減収群は3月、4月には県内医療機関で8割あり、平均はいずれも▲30%強である。これはひと月分の保険収入が消えた((30%+33%+35%)/12ヵ月=8.1%≒1/12=1カ月)に等しく、医療機関の多くは経常利益が2%以下のため薄氷を踏むような経営状況となっている。

 つまり、この9割の医療機関の経営支援・救済を図る施策をとらないと、いまの医療提供体制に綻びが生じ、地域医療は守れないことになっていく。

全国の保険収入の医療機関別分布・波形は、ここ数年大きな変動はない(「医療費の動向・施設単位でみる医療費等の分布の状況」)。医科、歯科ともに各医療機関とも大きく増えも減りもしておらず、これはその保険収入の規模で一定数の患者を診、医療機能や役割を発揮していることを意味する。この保険収入での医療事業を保障できないと地域医療に支障を来たすことになる。

単価補正は減収機関ごとの適用を軸に

「合意」の範囲で全国一律や科目・都道府県調整も選択肢

 「単価補正支払い」の適用方法は、技術的・制度的な可能性範囲と政治的合意形成の度合いによって決まってくるが、基本は「減収医療機関」を対象とし、「個々の医療機関ごと」の適用となる。これは技術的には可能だと思われる。既にコロナ禍での影響があった3、4、5月の3カ月の減収分は、補正単価分を「加算」するか、収束後も「該当月数分を適用」する等の工夫の余地はいくらでもある。

 これで合意が取れない場合に、全国一律での統一で単価補正をし、適用とすることも一方ではある。全国の支払金額合計の前年比の逆数値を使えばできるが、この間の各医療団体の調査で、眼科・耳鼻咽喉科・小児科の落ち込みは平均以上に深刻であることから、これら専門科目については、「差異を係数化」し補正することは最低限、必要である。更には、全ての都道府県で減収となっているが、人口対比のコロナ感染患者数の多寡と減収幅との相関傾向もみられ、都道府県ごとの「重みづけ」等は考慮しないと、所期する9割の減収医療機関の支援の目的は達せられないことになる。

 この一律の補正単価は、減収医療機関への適用であり、増収や維持の医療機関には適用しない。

 今年度の新規開業者の場合は、前年の新規開業者の「集団」の平均の保険請求額を「基準」にとればよく、技術的には算出は可能である。開設者が病気や特別事情で前年が大幅減収であれば、「前々年」を「基準」にすればよく、厚労行政の制度的技術として実務場面でとりいれられている方法である。

 また、自民党のコロナ対策医療系議員団本部の提案、医療機関の減収を月▲30%で6カ月見込み、その8割を補填するという案に、減収補填の堅守すべき「最低ライン」の引き方を学ぶべきと考える。

 当協会の単価補正支払いに賛意と照会を寄せた全国展開する医療法人の役員が、自民党のこの案への納得感、妥当性に触れ、精緻な計算の跡が見えるとした。計算の仔細は表になっていないが、中医協の医療経済実態調査を踏まえると、給与や減価償却費などの「固定費」分を保障し、医薬品費や材料費などの「変動費」分を一部のみ保障とし算出し、8割補填としたと推論される。

従来の医療費抑制を超越した事態への事実認識を

奈良県の地域別報酬の再燃は「お門違い」

 実は、この単価補正は、医療保険の支払い分に適用するので、前年の保険収入を丸々、保障はしない。患者負担分を補正はしないので、保険収入が「保険支払い」と「患者負担」が「70:30」の場合に、保険収入が80/100に減収となった際は、減収▲20%は大きく減殺されるが、▲6%が限度となる。

 ちなみに災害時の「概算請求」の援用だと、前年の1日単位診療費の実日数請求で、①患者負担の実診療での徴収、②患者負担免除でその分も支払機関に請求、③患者負担は未徴収など、現実適応での齟齬や政策判断が、もう一段乗ることになる。

 ただ、いくつかの異論や疑問がでているので応えたい。地域別診療報酬の先鞭との誤解がある。「単価補正」はコロナ禍収束迄の時限的措置であり、地域限定ではなく全国に一律的に適用する。一方、6年単位の医療費適正化計画の実績と連動する地域別診療報酬は、保険者協議会の論議を経て都道府県が国に具申し、国は中医協に諮り設定する。稼働の障壁が高く、単価減額に限定されず逓減制の急傾斜化、項目包括、項目削除など一様ではない。そもそも、実行のための仔細の定めがなく、別物である。現状は前年度の医療費水準を下回る可能性が高く、国費千数百億円の圧縮のために現行の水準にプラスとなる医療費の「伸び」を抑制してきた「医療費適正化」と、局面が180度違ってくる。

「民間」が主力で担う「公的」医療保険と、営利事業との峻別理解を

 一般企業や一般事業所と比較、同列視した議論も見受けられるが、日本の医療の特殊性への理解を欠いている。殆ど全ての医療機関が、国民皆保険下、公的医療保険で医療提供をしており、営利市場での価格決定権をもった自由診療では、医業を成立させてはいない。

 公定価格の公定ルールの下、公的サービスを、主に民間セクターの医療機関が担っている。保険医登録と保険医療機関の指定により、医療機関は保険者と準委任契約を結び医療提供をし、その対価として診療報酬が支払われる構図となっている。医業収入の9割は保険診療収入であり、その他は健診や予防注射など保健事業等の収入である。自己資金、多額の借入金で医療機関の設立をし、診療報酬で返済や医療人材雇用、医療機器の設備投資をし、「医療の再生産」を図っている。診療報酬は診療行為の純粋対価ではなく、医療機関体制の維持の観点から企画立案されている。それは医療費43兆円の世界であり、これが揺らぐことは、皆保険が綻び、患者・国民の十分な医療が受けられなくなることを意味する。医療提供体制と患者受診は、この保険財政規模で保障されている。それでも診療報酬はその水準の不十分性ゆえに、医療界から2年に一度の改定時にプラス改定が求められてきている。

 43兆円を賄う、保険財政は予算措置ずみであり、これは皆保険の医療提供体制を担う、社会システムの費用として、国、医療保険者で、社会的に合意をされたものである。単価補正支払いは、この上に立った「財政中立」の方法であり、追加の国費・公費、保険料の負担は必要がない。

健保連の新会長も国民皆保険制度の優位性を強調

医療側と保険者側の合意に期待

 「単価補正支払い」の実現には保険者との合意、納得が鍵となる。確かに、医療保険者は黒字の組合と赤字の組合があるが、既にふれたように今年度の医療費は全体的には「合意」のもと各組合で財政運営が計画されている。

 ちなみに、健保組合では黒字は69.6%(968組合)、赤字は30.4%(423組合)で赤字組合は前年から157組合減少で、全体では 3,048 億円の黒字(平成30年度)、市町村国保は黒字79.3%(1,361保険者)、赤字20.7%(355保険者)で赤字保険者は118保険者減少、全体の単年度収支差引額は 1,302 億円の黒字(平成29年度)、協会けんぽは5,948億円の過去最高の黒字(平成30年度)である。

 仮に、今年度の医療費が前年度▲20%となり、保険財政が楽になると欣喜雀躍しても、逆に医療機関が地域から「消失」し、「保険あって医療なし」となる。保険者の責務に反し、健保法の理念、「国民が受ける医療の質の向上」にも悖る事態となる。一度、診療所や病院、歯科診療所や小児科・眼科・耳鼻咽喉科などの消失、空白となれば医療提供体制の創設、復元は簡単ではない。このような事態は保険者とて本意ではなく、百も承知であり、近視眼的な考えには堕してはいないと思われる。

 この4月に健保連の新会長に就いた宮永俊一氏(三菱重工業取締役会長)は、新型コロナの世界の感染爆発をリアルタイムで知り、「改めて国民の誰もが安心して質の高い医療に不公平なくアクセスできるわが国の国民皆保険制度の素晴らしさを、一層強く認識した」と重要性に言及している。

 来年度以降、経済状況の悪化での保険財政の悪化となった際は、各種別制度内での組合間の連帯による、組合財政の再分配や、一時的な国庫負担増額も視野に入るが、当座・喫緊の対応とは別である。

出現しだした医療機関経営の綻び 「覆水盆に返らず」 一刻も早い実現を

 支払基金の4月診療分の確定金額は、4月診療分は医科外来で▲16.0%、歯科も▲12.7%で、神奈川県は医科外来が▲20.4%、歯科は▲20.0%と、東京(医科外来▲23.1%、歯科▲25.8%)と、同様に深刻である。5月診療分の数字はより悪いことは各団体調査から推察される。6月診療分は回復基調にあるものの4割強の医療機関は前月水準に至っていない(日経メディカル「いまだに46.5%で患者減、60%が減少の診療科も」2020.7.9記事)。

 このような中、東京女子医大病院で賞与支給ができない事態となり400名の看護師が退職を希望、との衝撃的報道がなされている。開業医も47.6%が職員の6月給与カット(ⅿ3.com「開業医47.6%が職員6月給与カット30.4%は夏季ボーナスカット」医師調査 2020.7.8)と切実な事態にある。

 11月以降の第2波は確実視されており(既に第2波到来との専門家の意見もあり)、春まで続くとなると、5カ月近くの受診減、保険収入減が折り重なることとなるが、それを前にして医療機関経営の維持が出来ないところが次々と出てくる。

 資金調達が困難な医療機関への特例的な診療報酬の概算前払いの利用(支払基金分)は全国で医科は100病院515診療所で計47億円、歯科は15病院372診療所で計2億円であり、任意月の事業収入の▲50%要件の「持続化給付金」を「申請」した開業医は13.7(ⅿ3.com「持続化給付金「申請」13.7%、「対象になるか不明」23.7%」医師調査 2020.7.12)に上っている。新規開業や開設主体変更継承は利用できない問題もあり、日々、事態は深刻になってきている。

 臨床医学に基づく専門家と一般人とでは、病気や症状の認識や軽重判断に格差があり、我慢や軽視での受診抑制は、国民の健康に深刻な影響を与える。この面での施策も急ぐ必要があり、日医は患者負担増の公費支援を提案した。その前提として医療機関の体制強化が急がれる。

 補正予算での緊急包括支援交付金の施策・事業は、コロナ禍の「突然の事態・出費」への税金対応である。診療報酬もコロナ患者、疑似症のトリアージにスポット的配点がなされた迄で、不十分である。医療は「面で支えており」(中川俊男・日医会長)、診療報酬での解決が本筋である。コロナ禍の背後で通常の病気が消えるわけではない。そこを支える医療機関があって初めてコロナ対策ができる。

 われわれは改めて診療報酬の「単価補正支払い」の実現を強く求める。

2020年7月15日

OVID-19の人口10万人あたり発生数と2020年4月診療分支払基金の

支部別確定「金額」対前年同月比の増減率

* 神奈川県保険医協会政策部作成

* グラフ画像をクリックすると拡大表示

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* 社会保険診療報酬支払基金 統計月報(令和2年4月診療分)、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月4日)より