神奈川県保険医協会とは
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2023/4/14 理事長声明「レセプトオンライン請求『強制』計画の撤回を求める」
レセプトオンライン請求「強制」計画の撤回を求める
神奈川県保険医協会
理事長 田辺 由紀夫
厚労省の社会保障審議会・医療保険部会は3月23日、診療報酬を光ディスク等の送付で請求する医療機関に対して、原則2024年9月末までにオンライン請求に移行することを強制する計画案(ロードマップ案)を示した。紙レセプトでの請求者に対しても、2024年4月以降は新規適用を終了し、既存の適用者には改めて届出を提出するよう求めるとしている。この実行のため2023年度中に請求省令を改定し、期限を区切って実施を迫るものとなっている。
現状、光ディスク請求を選択している6割の歯科診療所では影響が大きいことが予想され、歯科診療の安定確保さえ危惧される。医科も18,000医療機関に影響が及ぶ。紙レセプト請求する多くの高齢医師・歯科医師等についても、「紙レセプトは経過的な取り扱いであることを法令上明確化」した上、改めて届出を求めるなど負担を課すものとなっている。
このように、ロードマップ案はオンライン資格確認システム導入の義務化に便乗して、医療機関にさらなる負担と混乱を持ち込むものであり、強い憤りを覚える。また法的根拠にも大いに疑問が残り、政策の進め方として問題が多すぎる。過去には、厚労省はレセプトオンライン請求義務化を請求省令によって規定したが、全国2,000名超の保険医が起こした義務不存在の確認の集団訴訟によって撤回した経緯がある。
我々は医療機関に更なる負担と混乱をもたらすレセプトオンライン請求の強制策に対し抗議するとともに、政府・厚労省には過去の過ちを繰り返さないよう、同計画の撤回を強く求める。
■ 省令(法律の委任命令)による人権制限は違憲
健康保険法76条および国民健康保険法45条は、保険医療機関等の診療報酬請求権について、その基本的な制度を定めている。それぞれの第1項で、保険者に療養の給付に関する費用を保険医療機関に支払うべき公法上の義務を課しており、保険医療機関等の診療報酬請求権の保障を定めた原則的規定となっている。その上で、健康保険法76条6項および国民健康保険法第45条8項では、請求に関する必要事項を、厚労省令(請求省令)で定めるとしている。省令(委任命令)とは法律を補充するために内閣が独自に意思表示をするものであり、その内容は法律の委任の範囲内に限られる(日本国憲法第73条6号)。
今回の厚労省のロードマップ案は、健康保険法等が診療報酬の請求権を保障しているにも関わらず、その法律の委任命令である請求省令が国民の権利(ここでは保険医療機関等の診療報酬請求権)に新たな制限(請求方法の限定)を課すような内容である。これは明らかに法律の委任の範囲を逸脱しており、違憲無効だと言わざるを得ない。
また、国民の権利に対する新たな制限等は、法律による行政の原理(憲法第41 条)に基づき、国会の議決による法律によって定められるべきものある。よって、このロードマップ案に示された請求省令の改正内容は、明らかに法律の委任の趣旨を逸脱している。
更には、診療報酬の請求方法が限定されることによって、それに対応できない(対応が困難な)保険医の医業の継続を妨げる可能性もある。これは当該保険医の営業の自由(憲法第22条)を侵害するばかりか、当該保険医を受診する患者の生存権(憲法第25条)を侵害する深刻な問題である。
■ 過去にはオンライン請求を義務化した省令の撤回も
今回のロードマップ案は「オンライン請求の割合を100%に近づける」とし、保険医療機関等に対しオンライン請求の義務を課すまでの計画とはなっていない。しかし、期限を区切ってオンライン請求の実施を迫るものであり、実質「強制」である。強制力は往々にして人権の著しい制限、侵害に繋がる。「義務」と「強制」の違いはあるが、ロードマップ案で示された計画(請求省令の改定)は、レセプトオンライン請求を義務化した請求省令(2006年4月、厚生労働省令第111号)が公布された当時の状況とほぼ同じである。
2009年1月、全国の保険医約2,200名が国に対してレセプト請求の義務化撤回を求める集団訴訟を起こした。この訴訟を軸とした全国の保険医による「レセプトオンライン請求義務化撤回運動」により、厚労省は2度の請求省令の改定を余儀なくされ、同年11月25日に公布した厚労省令第151号によってオンライン請求の義務化を撤回した経緯がある。政府、厚労省は過去と同じ轍を踏むべきではない。
■ デジタル化の強制策で医療現場はすでに混乱状態
政府・厚労省はこの間、医療DXの実現に向けて、オンライン資格確認の原則義務化による医療機関のデジタル化、オンライン化を急速に推し進めた。しかしその結果、医療機関は煩雑な対応を余儀なくされたばかりか、▼システム事業者の工期の大幅な遅れ、▼猶予措置の届出に対する受理・不受理の通知の大幅な遅れ、▼通信障害やシステムトラブル等の発生、▼相談窓口であるコールセンターの不通―など、医療現場に多大な混乱が生じている。また、昨今頻発する医療機関を狙ったサイバー攻撃への脅威なども重なり、医療機関のデジタル化に不安を抱く医療者は少なくない。
正確かつ迅速な診療情報の連携、新薬や新たな治療法の開発など、医療情報が医療・医学の発展、患者の健康・幸福に寄与することに異論はない。しかし一方で、医療情報はプライバシー性が高くセンシティブな個人情報である。ひとたび漏洩・流出し悪用された場合、その後の生活に多大な支障が生じる。
日頃から徹底した医療情報の管理、保護に努めている立場から、医療者の理解や納得のない強引な医療機関のデジタル化、オンライン化の強制策を容認することはできない。医療のデジタル化にあたっては、利点の追求ではなく個人情報保護に比重を置いた冷静な検討が必要である。
以上の観点から、医療機関にレセプトオンライン請求を強制する厚労省のロードマップ案に対し抗議するとともに、ロードマップ案の撤回を強く求める。
以上
レセプトオンライン請求「強制」計画の撤回を求める
神奈川県保険医協会
理事長 田辺 由紀夫
厚労省の社会保障審議会・医療保険部会は3月23日、診療報酬を光ディスク等の送付で請求する医療機関に対して、原則2024年9月末までにオンライン請求に移行することを強制する計画案(ロードマップ案)を示した。紙レセプトでの請求者に対しても、2024年4月以降は新規適用を終了し、既存の適用者には改めて届出を提出するよう求めるとしている。この実行のため2023年度中に請求省令を改定し、期限を区切って実施を迫るものとなっている。
現状、光ディスク請求を選択している6割の歯科診療所では影響が大きいことが予想され、歯科診療の安定確保さえ危惧される。医科も18,000医療機関に影響が及ぶ。紙レセプト請求する多くの高齢医師・歯科医師等についても、「紙レセプトは経過的な取り扱いであることを法令上明確化」した上、改めて届出を求めるなど負担を課すものとなっている。
このように、ロードマップ案はオンライン資格確認システム導入の義務化に便乗して、医療機関にさらなる負担と混乱を持ち込むものであり、強い憤りを覚える。また法的根拠にも大いに疑問が残り、政策の進め方として問題が多すぎる。過去には、厚労省はレセプトオンライン請求義務化を請求省令によって規定したが、全国2,000名超の保険医が起こした義務不存在の確認の集団訴訟によって撤回した経緯がある。
我々は医療機関に更なる負担と混乱をもたらすレセプトオンライン請求の強制策に対し抗議するとともに、政府・厚労省には過去の過ちを繰り返さないよう、同計画の撤回を強く求める。
■ 省令(法律の委任命令)による人権制限は違憲
健康保険法76条および国民健康保険法45条は、保険医療機関等の診療報酬請求権について、その基本的な制度を定めている。それぞれの第1項で、保険者に療養の給付に関する費用を保険医療機関に支払うべき公法上の義務を課しており、保険医療機関等の診療報酬請求権の保障を定めた原則的規定となっている。その上で、健康保険法76条6項および国民健康保険法第45条8項では、請求に関する必要事項を、厚労省令(請求省令)で定めるとしている。省令(委任命令)とは法律を補充するために内閣が独自に意思表示をするものであり、その内容は法律の委任の範囲内に限られる(日本国憲法第73条6号)。
今回の厚労省のロードマップ案は、健康保険法等が診療報酬の請求権を保障しているにも関わらず、その法律の委任命令である請求省令が国民の権利(ここでは保険医療機関等の診療報酬請求権)に新たな制限(請求方法の限定)を課すような内容である。これは明らかに法律の委任の範囲を逸脱しており、違憲無効だと言わざるを得ない。
また、国民の権利に対する新たな制限等は、法律による行政の原理(憲法第41 条)に基づき、国会の議決による法律によって定められるべきものある。よって、このロードマップ案に示された請求省令の改正内容は、明らかに法律の委任の趣旨を逸脱している。
更には、診療報酬の請求方法が限定されることによって、それに対応できない(対応が困難な)保険医の医業の継続を妨げる可能性もある。これは当該保険医の営業の自由(憲法第22条)を侵害するばかりか、当該保険医を受診する患者の生存権(憲法第25条)を侵害する深刻な問題である。
■ 過去にはオンライン請求を義務化した省令の撤回も
今回のロードマップ案は「オンライン請求の割合を100%に近づける」とし、保険医療機関等に対しオンライン請求の義務を課すまでの計画とはなっていない。しかし、期限を区切ってオンライン請求の実施を迫るものであり、実質「強制」である。強制力は往々にして人権の著しい制限、侵害に繋がる。「義務」と「強制」の違いはあるが、ロードマップ案で示された計画(請求省令の改定)は、レセプトオンライン請求を義務化した請求省令(2006年4月、厚生労働省令第111号)が公布された当時の状況とほぼ同じである。
2009年1月、全国の保険医約2,200名が国に対してレセプト請求の義務化撤回を求める集団訴訟を起こした。この訴訟を軸とした全国の保険医による「レセプトオンライン請求義務化撤回運動」により、厚労省は2度の請求省令の改定を余儀なくされ、同年11月25日に公布した厚労省令第151号によってオンライン請求の義務化を撤回した経緯がある。政府、厚労省は過去と同じ轍を踏むべきではない。
■ デジタル化の強制策で医療現場はすでに混乱状態
政府・厚労省はこの間、医療DXの実現に向けて、オンライン資格確認の原則義務化による医療機関のデジタル化、オンライン化を急速に推し進めた。しかしその結果、医療機関は煩雑な対応を余儀なくされたばかりか、▼システム事業者の工期の大幅な遅れ、▼猶予措置の届出に対する受理・不受理の通知の大幅な遅れ、▼通信障害やシステムトラブル等の発生、▼相談窓口であるコールセンターの不通―など、医療現場に多大な混乱が生じている。また、昨今頻発する医療機関を狙ったサイバー攻撃への脅威なども重なり、医療機関のデジタル化に不安を抱く医療者は少なくない。
正確かつ迅速な診療情報の連携、新薬や新たな治療法の開発など、医療情報が医療・医学の発展、患者の健康・幸福に寄与することに異論はない。しかし一方で、医療情報はプライバシー性が高くセンシティブな個人情報である。ひとたび漏洩・流出し悪用された場合、その後の生活に多大な支障が生じる。
日頃から徹底した医療情報の管理、保護に努めている立場から、医療者の理解や納得のない強引な医療機関のデジタル化、オンライン化の強制策を容認することはできない。医療のデジタル化にあたっては、利点の追求ではなく個人情報保護に比重を置いた冷静な検討が必要である。
以上の観点から、医療機関にレセプトオンライン請求を強制する厚労省のロードマップ案に対し抗議するとともに、ロードマップ案の撤回を強く求める。
以上