神奈川県保険医協会とは
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2023/6/2 理事長声明「番号法等改定法案の採決強行・成立に強く抗議する」
番号法等改定法案の採決強行・成立に強く抗議する
神奈川県保険医協会
理事長 田辺 由紀夫
健康保険証を廃止しマイナンバーカードと一本化することを盛り込んだ番号法等改定法案が5月31日、参議院・地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会で採決強行・可決され、本日の参議院本会議で与党の賛成多数により可決・成立となった。同カードやマイナンバーをめぐっては、数々の問題が日を追うごとに浮き彫りになり、国民の不信が広がっている。その中での強引な法案採決は、国民の声を無視した暴挙だと言わざるを得ない。我々は同法案の採決強行・成立に強く抗議するとともに、同法の廃止を求める。
マイナカードの相次ぐ問題 国民の不安・怒りは拡大
別人の医療情報の誤登録、別人の住民票の誤発行、古い印鑑証明書の誤交付、別人へのマイナポイントの誤付与、別人の銀行口座情報の誤登録......。マイナンバーカードやマイナンバー制度をめぐる問題が相次ぎ、制度やシステムに対する信頼は地に落ちている。
直近の共同通信社の世論調査では、マイナンバーの活用拡大に不安を感じているとの回答が70%に上った。また、保険証廃止に反対するネット署名は30万筆超を集約し、今もなお増え続けている。この他、ネット上ではSNSを中心に保険証廃止への怒りとともに番号法等改定法案の審議中止、廃案を求める声が広がっている。このように、多くの国民がマイナンバーカード、マイナンバー制度に否定的な印象や感情を抱いていることは明白な事実である。
週明けの6月5日にはマイナンバーカードをめぐる問題について、国会での集中審議を行うとしているが、法案成立後のそれに何の意味があるのか。国民の個人情報に関わるインフラやシステム等に重大な問題が発覚したのであれば、▽システム運用の一時停止、▽原因究明と国民への説明、▽問題解決、▽再発防止策やシステム・制度の見直しの検討―といったプロセスこそ最優先されるべきである。解決を見ないまま、問題のあるシステムの利活用拡大を含む法案の採決・成立を優先させるなどもっての外である。
保険証廃止は患者・医療機関のトラブルの種に
別人の医療情報の誤登録をはじめ、マイナ保険証による医療現場でのトラブルが連日のように報じられている。
当会が直近に実施した会員調査においても、約7割がオンライン資格確認で「トラブルがあった」と回答している。具体的には、▽資格があるにもかかわらず「該当資格なし」と表示される、▽顔認証ができない、▽カードの読み取りに時間がかかり患者からクレームを言われた―等である。全国的にも今年4月以降、本来は有効にもかかわらず登録データの不備等が理由で保険資格が「無効」とされたケースが1,575件あり、初診でマイナ保険証のみ持参した患者に対し「無効」を理由に一旦10割負担を求めたケースが少なくとも545件あったことが、全国保険医団体連合会(以下:保団連)の調査で明らかになった。
現在は保険証の券面の記載情報を優先して確認する取り扱いが認められているが、保険証が廃止となれば医療機関は一旦「無保険」扱いとして10割負担を求める対応を余儀なくされる。そうなれば、患者の受療権を侵害するばかりでなく、患者と医療機関の間での深刻なトラブルや信頼関係の喪失という事態に発展しかねない。
医療情報の誤登録は患者の生命に関わる大問題
また、この間の国会審議では、オンライン資格確認時に表示された投薬履歴(別人の処方歴)に疑問を覚えた薬剤師が、患者に再三確認して取り違えが発覚したケースが報告された。このケースでは、幸いにも薬剤師の危機察知が働いたおかげで大事に至らなかったが、すべてのケースで誤りを見つけることは無理難題だと言わざるを得ない。
薬剤情報をはじめ医療情報の誤登録はアナフィラキシーや疾病の急性増悪など、患者の生命に関わる重大な医療事故につながりかねない。患者・地域住民の健康を預かる医療機関に対して、正確性と信頼性が損なわれたオンライン資格確認システムの利用を省令で"義務化"するという不合理を政府はどのように考えているのか。
保団連の調査では、マイナ保険証に別人の情報が紐づけられていた件数が、全国で63件あったことが明らかになった。この件数が氷山の一角であろうことは想像に難くない。厚労省は現在、全ての保険者に対して登録データの点検を求めているが、少なくともその期間は医療情報の閲覧(マイナポータル含む)を含めたシステムの運用を全面的に中止すべきである。正確性、信頼性を損ねたシステムの利活用を強制する法案の採決・成立を優先させるなどもっての他である。
マイナンバーの利用拡大、合憲性に疑問
この間の報道等では、2024年秋の保険証廃止(マイナ保険証への一本化)に注目が集められているが、同法案は▽マイナンバーの利用範囲の拡大推進、▽各種国家資格とマイナンバーの紐づけ、▽公金口座とマイナンバーの自動紐づけ(オプトアウト方式)―など、国民生活への影響度が高い内容を一括した「束ね法案」として審議されていた。特にマイナンバーの利用範囲については、これまで社会保障・税・災害対策の3分野に限定し、利用・提供等を厳格にしていたが、法案では3分野以外の行政事務での利用推進を明記。省令改定により国会審議を経ず、行政判断で事務利用の拡大を可能にするとしている。
しかし、3月9日のマイナンバー違憲訴訟(九州・仙台・名古屋訴訟)の最高裁判決では、不当なデータマッチング等により個人情報がみだりに第三者に開示・公表される具体的な危険が生じ得ることを明記。その上で、番号法が利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野に限定し、利用・提供等を厳格に規定していることを合憲理由の一つとしている。
この最高裁判決と照らし合せた場合、マイナンバーの利用範囲の拡大推進や省令による利用拡大を盛り込んだ本法案の合憲性については、大いに疑問が残る。
以上の点から、欠陥だらけのマイナ保険証の運用は一旦停止するとともに、国会での法案審議も白紙に戻し、原因究明と問題解決に注力することが政府の正しい姿勢だと考える。地域の患者・住民の健康とプライバシーを守り続けている開業保険医の立場から、改めて同法案の採決強行・成立に強く抗議するとともに、同法の廃止を求める。
2023年6月2日
番号法等改定法案の採決強行・成立に強く抗議する
神奈川県保険医協会
理事長 田辺 由紀夫
健康保険証を廃止しマイナンバーカードと一本化することを盛り込んだ番号法等改定法案が5月31日、参議院・地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会で採決強行・可決され、本日の参議院本会議で与党の賛成多数により可決・成立となった。同カードやマイナンバーをめぐっては、数々の問題が日を追うごとに浮き彫りになり、国民の不信が広がっている。その中での強引な法案採決は、国民の声を無視した暴挙だと言わざるを得ない。我々は同法案の採決強行・成立に強く抗議するとともに、同法の廃止を求める。
マイナカードの相次ぐ問題 国民の不安・怒りは拡大
別人の医療情報の誤登録、別人の住民票の誤発行、古い印鑑証明書の誤交付、別人へのマイナポイントの誤付与、別人の銀行口座情報の誤登録......。マイナンバーカードやマイナンバー制度をめぐる問題が相次ぎ、制度やシステムに対する信頼は地に落ちている。
直近の共同通信社の世論調査では、マイナンバーの活用拡大に不安を感じているとの回答が70%に上った。また、保険証廃止に反対するネット署名は30万筆超を集約し、今もなお増え続けている。この他、ネット上ではSNSを中心に保険証廃止への怒りとともに番号法等改定法案の審議中止、廃案を求める声が広がっている。このように、多くの国民がマイナンバーカード、マイナンバー制度に否定的な印象や感情を抱いていることは明白な事実である。
週明けの6月5日にはマイナンバーカードをめぐる問題について、国会での集中審議を行うとしているが、法案成立後のそれに何の意味があるのか。国民の個人情報に関わるインフラやシステム等に重大な問題が発覚したのであれば、▽システム運用の一時停止、▽原因究明と国民への説明、▽問題解決、▽再発防止策やシステム・制度の見直しの検討―といったプロセスこそ最優先されるべきである。解決を見ないまま、問題のあるシステムの利活用拡大を含む法案の採決・成立を優先させるなどもっての外である。
保険証廃止は患者・医療機関のトラブルの種に
別人の医療情報の誤登録をはじめ、マイナ保険証による医療現場でのトラブルが連日のように報じられている。
当会が直近に実施した会員調査においても、約7割がオンライン資格確認で「トラブルがあった」と回答している。具体的には、▽資格があるにもかかわらず「該当資格なし」と表示される、▽顔認証ができない、▽カードの読み取りに時間がかかり患者からクレームを言われた―等である。全国的にも今年4月以降、本来は有効にもかかわらず登録データの不備等が理由で保険資格が「無効」とされたケースが1,575件あり、初診でマイナ保険証のみ持参した患者に対し「無効」を理由に一旦10割負担を求めたケースが少なくとも545件あったことが、全国保険医団体連合会(以下:保団連)の調査で明らかになった。
現在は保険証の券面の記載情報を優先して確認する取り扱いが認められているが、保険証が廃止となれば医療機関は一旦「無保険」扱いとして10割負担を求める対応を余儀なくされる。そうなれば、患者の受療権を侵害するばかりでなく、患者と医療機関の間での深刻なトラブルや信頼関係の喪失という事態に発展しかねない。
医療情報の誤登録は患者の生命に関わる大問題
また、この間の国会審議では、オンライン資格確認時に表示された投薬履歴(別人の処方歴)に疑問を覚えた薬剤師が、患者に再三確認して取り違えが発覚したケースが報告された。このケースでは、幸いにも薬剤師の危機察知が働いたおかげで大事に至らなかったが、すべてのケースで誤りを見つけることは無理難題だと言わざるを得ない。
薬剤情報をはじめ医療情報の誤登録はアナフィラキシーや疾病の急性増悪など、患者の生命に関わる重大な医療事故につながりかねない。患者・地域住民の健康を預かる医療機関に対して、正確性と信頼性が損なわれたオンライン資格確認システムの利用を省令で"義務化"するという不合理を政府はどのように考えているのか。
保団連の調査では、マイナ保険証に別人の情報が紐づけられていた件数が、全国で63件あったことが明らかになった。この件数が氷山の一角であろうことは想像に難くない。厚労省は現在、全ての保険者に対して登録データの点検を求めているが、少なくともその期間は医療情報の閲覧(マイナポータル含む)を含めたシステムの運用を全面的に中止すべきである。正確性、信頼性を損ねたシステムの利活用を強制する法案の採決・成立を優先させるなどもっての他である。
マイナンバーの利用拡大、合憲性に疑問
この間の報道等では、2024年秋の保険証廃止(マイナ保険証への一本化)に注目が集められているが、同法案は▽マイナンバーの利用範囲の拡大推進、▽各種国家資格とマイナンバーの紐づけ、▽公金口座とマイナンバーの自動紐づけ(オプトアウト方式)―など、国民生活への影響度が高い内容を一括した「束ね法案」として審議されていた。特にマイナンバーの利用範囲については、これまで社会保障・税・災害対策の3分野に限定し、利用・提供等を厳格にしていたが、法案では3分野以外の行政事務での利用推進を明記。省令改定により国会審議を経ず、行政判断で事務利用の拡大を可能にするとしている。
しかし、3月9日のマイナンバー違憲訴訟(九州・仙台・名古屋訴訟)の最高裁判決では、不当なデータマッチング等により個人情報がみだりに第三者に開示・公表される具体的な危険が生じ得ることを明記。その上で、番号法が利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野に限定し、利用・提供等を厳格に規定していることを合憲理由の一つとしている。
この最高裁判決と照らし合せた場合、マイナンバーの利用範囲の拡大推進や省令による利用拡大を盛り込んだ本法案の合憲性については、大いに疑問が残る。
以上の点から、欠陥だらけのマイナ保険証の運用は一旦停止するとともに、国会での法案審議も白紙に戻し、原因究明と問題解決に注力することが政府の正しい姿勢だと考える。地域の患者・住民の健康とプライバシーを守り続けている開業保険医の立場から、改めて同法案の採決強行・成立に強く抗議するとともに、同法の廃止を求める。
2023年6月2日