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2007/6/8 地域医療対策部長談話「介護・福祉分野への市場原理の導入が招来したコムスン問題の本質的解決を求める」

 介護・福祉分野への市場原理の導入が招来した

コムスン問題の本質的解決を求める

 

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  桑島 政臣


 厚労省が6月6日、コムスンの不正を悪質と判断し、今後4年半すべての介護事業所の新規指定、指定更新を認めないと通知した問題は、日々刻々変転を続け、親会社グッドウィル・グループの介護事業からの全面撤廃と譲渡先選びの段となっている。しかしながら、会長会見で「本社を含め法令順守が徹底してなかった」とするグループが、社内に第三者機関を設置し、譲渡先の法令順守をチェックし譲渡先を選定するという事態は笑止千万である。しかも譲渡希望が企業、異業種参入と相次ぎ"顧客争奪戦"の様相を呈している。

 これら一連の事態は要介護者・家族の困惑と不安を招いており、コムスンおよびグループの責任を問うとともに、一企業の不祥事との表層的な問題に終わらせず、この根本には制度設計やその後の対応も含めた厚労省の責任が非常に重いことを厳しく指摘したい。

 

 コムスンはこれまで全国の数事業所でヘルパー数を水増し申請していた不正行為が発覚、指定取り消し処分直前に廃止届を出し "処分逃れ"をしてきた。神奈川県内でも、横浜市と相模原市の2事業所で虚偽申請が行われ、今年3月までに、合計1億円以上の介護報酬の不正請求が判明。全国7都県で2億9千万円と桁はずれの不正が発覚している。

 

 コムスンは当初、グループ内企業に事業譲渡する方針を表明し厚労省はこれを黙認。さすがに"処分骨抜き"批判を浴び180度方針を転換、譲渡凍結の行政指導とした。今また譲渡先にはワタミ、ニチイ学館を始めとする30社以上の企業が名乗りを上げているが、厚労省はコムスン主導の企業選定を等閑視。これだけの不祥事の後始末が、譲渡という形で安易に済まされようとしている。折りしも介護事業大手、ニチイ学館はコムスン同様、人員水増しによる不正請求が発覚し、介護報酬の返還を都から指導を受けた前歴が発覚。しかしながら厚労省は、「過去のことにはこだわらない」と容認している。6万人ともいわれる介護難民発生が懸念される中、迅速な救済措置をとの世論に与した姿勢であろうが、指定更新拒否は来年4月であり、この不祥事の本質の解明と本質的解決へ向けた検討と対応が喫緊である。

 

 介護保険制度は、2000年、「介護の社会化」というキャッチフレーズのもと鳴り物入りで導入された。税金による福祉制度からリスク分散の保険方式に切り替え、社会保障制度としては異例の保険と自費の混合介護と、福祉事業への企業参入を認めた。建設、警備、医療事務や、異業種からも訪問介護事業、有料老人ホーム経営へ次々参入、"介護バブル"現象を引き起こした。とりわけ制度実施早々、コムスンは全国に拠点展開をし「顧客」獲得に走るも、不採算地域から一挙に撤退し、企業体質を露呈して社会的に問題視された。

 

 そもそも、「老い」という不可避・不可逆的な人間のありように対して、保険方式を導入するという制度設計に無理がある。高齢社会の進展に伴い、介護サービス費は年率10%で増加の一途を辿る。利潤を追求する企業が参入すれば過剰な供給を生み、介護サービス費は膨れ上がり、制度がいずれ破綻するのは目に見えている。保険料に負うこの制度は市町村財政を圧迫し、介護報酬全体は抑制策が必然と取られる。事実介護報酬は03年、06年とマイナス改定であり一度もプラス改定はない。この総枠抑制と無審査のコンピュータ請求が不正の温床となったのである。

 

 利潤追求が目的の企業と、従来非営利で行ってきた福祉分野はそもそも相容れない。医療分野もしかりである。企業の目的合理性と医療・福祉の倫理観は決定的に違う。企業参入が今回のコムスンのような問題を惹起することは当初から、各方面で指摘がなされていた。低水準の介護報酬の下で利益を生み出さなければならない状況でコムスンは、現場責任者に利用者数や介護報酬の確保について「月に4名の増加」、「一人あたり単価1万8000円」など厳しいノルマを課し、ケアマネージャーへ施設利用者「獲得」に対する報奨金制度を敷くなど、企業論理で運営をしていた。医療・福祉は憲法25条の生存権保障に基づく国民の「権利」であり、決して「商品」ではない。市場原理を導入すべき分野ではなく、株式市場での資金調達も論外である。この根本のはきちがえによる制度設計と運営を、厚労省は猛省すべきである。

 

 現在、来年度から実施される特定健診・特定保健指導に向け、介護保険制度導入前夜と同じ現象がおこっている。健康関連企業は国民の健康志向をあおり、さまざまな健康グッズ、生活習慣改善プログラム等の開発に色めき立っている。特定健診・特定保健指導の財源は医療保険料であり、総枠は限度がある。企業が利潤を追い求めて「必要でないときに」「必要以上の」供給をしようとすれば、給付縮小策が講じられ、医療があおりを受ける。そうなれば本末転倒である。「総費用の高騰」を理由に、公的医療給付の切り下げと、混合診療部分の大幅拡充による市場の創出の深謀遠慮さえ見てとれる。

 医療・福祉分野へ参入した企業から見れば、採算が取れない顧客(=富裕層でなく、健康でない患者)は、利益に繋がらない。市場原理に従うならば、企業は不採算分野からは手を引く。結果、その層はサービスから零れ落ちることになるのである。

 

 コムスン問題は、根が深い。社会保障費の5年間での1.1兆円削減の準備、情報操作のきらいもある。単に一企業の不祥事で終わらせてはならない。厚労省は今こそ社会保障の原理・原則に立ち返り、制度設計及び医療・福祉分野の事業実施主体の非営利性担保など、早急に見直しを図るべきである。また懸念される6万人の要介護者については、市町村が自ら事業者となる、あるいは福祉法人など非営利の事業所への事業譲渡など、財源措置も含め積極的に介入をすべきである。

2007年6月18日

 

 介護・福祉分野への市場原理の導入が招来した

コムスン問題の本質的解決を求める

 

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  桑島 政臣


 厚労省が6月6日、コムスンの不正を悪質と判断し、今後4年半すべての介護事業所の新規指定、指定更新を認めないと通知した問題は、日々刻々変転を続け、親会社グッドウィル・グループの介護事業からの全面撤廃と譲渡先選びの段となっている。しかしながら、会長会見で「本社を含め法令順守が徹底してなかった」とするグループが、社内に第三者機関を設置し、譲渡先の法令順守をチェックし譲渡先を選定するという事態は笑止千万である。しかも譲渡希望が企業、異業種参入と相次ぎ"顧客争奪戦"の様相を呈している。

 これら一連の事態は要介護者・家族の困惑と不安を招いており、コムスンおよびグループの責任を問うとともに、一企業の不祥事との表層的な問題に終わらせず、この根本には制度設計やその後の対応も含めた厚労省の責任が非常に重いことを厳しく指摘したい。

 

 コムスンはこれまで全国の数事業所でヘルパー数を水増し申請していた不正行為が発覚、指定取り消し処分直前に廃止届を出し "処分逃れ"をしてきた。神奈川県内でも、横浜市と相模原市の2事業所で虚偽申請が行われ、今年3月までに、合計1億円以上の介護報酬の不正請求が判明。全国7都県で2億9千万円と桁はずれの不正が発覚している。

 

 コムスンは当初、グループ内企業に事業譲渡する方針を表明し厚労省はこれを黙認。さすがに"処分骨抜き"批判を浴び180度方針を転換、譲渡凍結の行政指導とした。今また譲渡先にはワタミ、ニチイ学館を始めとする30社以上の企業が名乗りを上げているが、厚労省はコムスン主導の企業選定を等閑視。これだけの不祥事の後始末が、譲渡という形で安易に済まされようとしている。折りしも介護事業大手、ニチイ学館はコムスン同様、人員水増しによる不正請求が発覚し、介護報酬の返還を都から指導を受けた前歴が発覚。しかしながら厚労省は、「過去のことにはこだわらない」と容認している。6万人ともいわれる介護難民発生が懸念される中、迅速な救済措置をとの世論に与した姿勢であろうが、指定更新拒否は来年4月であり、この不祥事の本質の解明と本質的解決へ向けた検討と対応が喫緊である。

 

 介護保険制度は、2000年、「介護の社会化」というキャッチフレーズのもと鳴り物入りで導入された。税金による福祉制度からリスク分散の保険方式に切り替え、社会保障制度としては異例の保険と自費の混合介護と、福祉事業への企業参入を認めた。建設、警備、医療事務や、異業種からも訪問介護事業、有料老人ホーム経営へ次々参入、"介護バブル"現象を引き起こした。とりわけ制度実施早々、コムスンは全国に拠点展開をし「顧客」獲得に走るも、不採算地域から一挙に撤退し、企業体質を露呈して社会的に問題視された。

 

 そもそも、「老い」という不可避・不可逆的な人間のありように対して、保険方式を導入するという制度設計に無理がある。高齢社会の進展に伴い、介護サービス費は年率10%で増加の一途を辿る。利潤を追求する企業が参入すれば過剰な供給を生み、介護サービス費は膨れ上がり、制度がいずれ破綻するのは目に見えている。保険料に負うこの制度は市町村財政を圧迫し、介護報酬全体は抑制策が必然と取られる。事実介護報酬は03年、06年とマイナス改定であり一度もプラス改定はない。この総枠抑制と無審査のコンピュータ請求が不正の温床となったのである。

 

 利潤追求が目的の企業と、従来非営利で行ってきた福祉分野はそもそも相容れない。医療分野もしかりである。企業の目的合理性と医療・福祉の倫理観は決定的に違う。企業参入が今回のコムスンのような問題を惹起することは当初から、各方面で指摘がなされていた。低水準の介護報酬の下で利益を生み出さなければならない状況でコムスンは、現場責任者に利用者数や介護報酬の確保について「月に4名の増加」、「一人あたり単価1万8000円」など厳しいノルマを課し、ケアマネージャーへ施設利用者「獲得」に対する報奨金制度を敷くなど、企業論理で運営をしていた。医療・福祉は憲法25条の生存権保障に基づく国民の「権利」であり、決して「商品」ではない。市場原理を導入すべき分野ではなく、株式市場での資金調達も論外である。この根本のはきちがえによる制度設計と運営を、厚労省は猛省すべきである。

 

 現在、来年度から実施される特定健診・特定保健指導に向け、介護保険制度導入前夜と同じ現象がおこっている。健康関連企業は国民の健康志向をあおり、さまざまな健康グッズ、生活習慣改善プログラム等の開発に色めき立っている。特定健診・特定保健指導の財源は医療保険料であり、総枠は限度がある。企業が利潤を追い求めて「必要でないときに」「必要以上の」供給をしようとすれば、給付縮小策が講じられ、医療があおりを受ける。そうなれば本末転倒である。「総費用の高騰」を理由に、公的医療給付の切り下げと、混合診療部分の大幅拡充による市場の創出の深謀遠慮さえ見てとれる。

 医療・福祉分野へ参入した企業から見れば、採算が取れない顧客(=富裕層でなく、健康でない患者)は、利益に繋がらない。市場原理に従うならば、企業は不採算分野からは手を引く。結果、その層はサービスから零れ落ちることになるのである。

 

 コムスン問題は、根が深い。社会保障費の5年間での1.1兆円削減の準備、情報操作のきらいもある。単に一企業の不祥事で終わらせてはならない。厚労省は今こそ社会保障の原理・原則に立ち返り、制度設計及び医療・福祉分野の事業実施主体の非営利性担保など、早急に見直しを図るべきである。また懸念される6万人の要介護者については、市町村が自ら事業者となる、あるいは福祉法人など非営利の事業所への事業譲渡など、財源措置も含め積極的に介入をすべきである。

2007年6月18日