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2011/6/15 政策部長談話「公的責任否定と機能弱体化につながる社会保障改革案に反対する」

公的責任否定と機能弱体化につながる社会保障改革案に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 政府は税と社会保障の一体改革の成案の6月20日発表に向け検討を重ねている。6月2日に公表された「集中検討会議」の「社会保障改革案」を基に議論されているが、これは社会保障の変質・矮小化を策し、そのもとでの医療保険の形骸化と混合診療の拡大、税と社会保障の共通番号制導入による制度横断の利用者負担の総合合算制、すなわち社会保障個人会計制導入による、給付外サービスの商品化、医療・社会保障の産業化、市場創出を企図している。また、消費税の社会保障財源化による公費調達も機能強化分(制度改革)は1%でしかなく、税率アップ分の国と地方の按分も不明なままであり、大方は財政再建に3%をあてる構図となっている。

 われわれは、社会保障の機能強化とは名ばかりの、新成長戦略を強力に推進する、この一体改革案の問題点を指摘し、関係者による軌道修正を強く望むものである。

 

 いま「政府・与党社会保障改革検討本部」が、「集中検討会議」の改革案をもとに、"社会保障改革の必要財源の安定的確保"と"財政健全化"を同時に達成するため、成案のまとめをしている。

 この改革案の最大の問題は、「社会保障の原点に立ち返り、その本源的機能の復元と強化を図る」とうたいながら、「自立・自助を国民相互の共助・連帯で支援することを基本とする制度構築」をするとし、社会保障における公助を完全に消し去ったことである。つまりは「原点」である社会保障制度審議会「50年勧告」の否定にほかならない。

 

 5月12日の厚労省案では、自助を基本に、国民の間の共助で補完し、これで対応できない困窮者に「一定の受給要件の下」で公助を行うものと社会保障を定義。東日本大震災を引き合いに出し、ボランティアによる「共助」が社会保障の本来目指すべき姿とすり替え、社会保障の機能強化は「給付の重点化」「選択と集中」「優先順位の明確化」の課題をクリアすることで達成できると、社会保障理念の歪曲、矮小化を図った。6月2日の改革案は、"それでは生ぬるい"とばかりに、更にその上をいき、「真に必要な給付を確実に確保しつつ負担の最適化を図る」「世代間のみならず世代内の給付と負担の公平を図る」「負担と給付の関係が明確な社会保険(=共助・連帯)の枠組みの強化による機能強化を基本とする」と、給付縮小と保険原理の純化を色濃くした。

 

 改革メニューは、一般に報道されている以上に振るっている。医療での「3割+定額負担」導入は事実上の「上乗せ免責制」であり、4割負担に接近し病人の半分もの受診が不可能となり医療保険が瓦解する。これは「集中検討会議」では免責制の代替として具体的に提案されたものであり、協会けんぽでは昨年11月に4割負担が議論されてさえいる。外来患者23万人減、受診不可能250万人という実態を完全に無視している。

 

 しかも、高額療養費の80,100円を44,400円への引き下げ(所要額2,600億円)とセットで提案され患者救済策の装いをまとっているが、そもそも窓口負担を2割から3割に引き上げた際に、件数、金額が急増したのであり、本筋の救済は窓口負担の引き下げである。また難治性疾患の救済と絡めて報道されたが、難病公費医療(270億円)の適用疾病を拡大すればよい話である。改革案の試算では100円の定額負担で1300億円と修正されており、この金額では当初額2600億円と均衡せず、高額療養費の引き下げ水準を見直すのか、はたまた定額200円負担とするのか不透明である。

 

 患者負担増では70歳から74歳の高齢者の1割から2割の引き上げ、既定路線の医療保険再編のための国保の都道府県化、国保への市町村財源繰り入れの禁止も初期予定どおり、織り込まれている。

 

 このほか、一般急性期病床の在院日数を現在の20日から9日へと半減する。医療資源の集中で実現するとしているが、現実的には診療報酬による点数誘導となり、5年前に起きた7:1入院基本料での看護師引き抜き、引きはがしが再燃し、医療現場が混乱する。人員増が不可能な病床は看護師比率を上げるため病床削減が起きる。病床数は現行水準とされており、団塊の世代の高齢化に対応した病床数は確保されない。よって「在宅」にいるしかなくなる。

 

 外来患者も5%削減とされているが、現在の患者数減少が長期処方の普及が要因として論じられており過重な患者負担は一顧だにされていない。この方法論の明示はないが、ICT利用による重複受診の削減が挙げられており、疾病の異なる医学管理に関し、医学管理料の1医療機関算定の実効化が想定される。診療所にとって、これは診療報酬の▲5%削減となり、経営への打撃が大きい。裏を返すと保険医の定数制に他ならない。

 

 更にはジェネリック推進がはかばかしくないことから、医薬品については負担率を変更する。医薬品の種類に応じた変動給付率の導入も示唆されている。

 

 医療以外にも介護における要介護認定者の3%切り捨てや、生活保護の医療扶助の患者負担新設、見せかけの就労支援などが並んでいる。

 

 これらの「改革」の環として、共通番号制の早期導入が強調されている。メリットとしている各制度横断の利用者負担の総合合算制は、「社会保障個人会計」そのものである。なぜなら、利用者負担は各制度の給付申請がなされて逆算で計算され、通算されるのであり、これで社会保障給付が完全に個人会計化される。税金と保険料データも一元管理されるので、1970年代からの政府の悲願が達成する。すでに年代、収入、家族構成での40類型のモデルを作り、世帯類型別の受益と負担の会計計算が詳細に会議資料として提示されている。例えば、40歳夫婦で子ども1人、年収650万円の場合に、「負担」(所得税+住民税+消費税+保険料+自己負担額)は180万円に対し、「受益」(医療・介護・教育等+年金・手当等+集合消費+公共事業等)が285万円で、「ネット受益額」が105万円という具合で、ネット受益額の順番にランキングされている。

 

 これらが意味するところは、"負担の範囲内に給付を制限する"ということであり、範囲を超えた社会保障サービスは自前で購入、つまり社会保障のサービス商品化、産業化、市場化となる。これは昨年出された経産省の医療産業研究会報告書や新成長戦略路線そのものである。

 

 改革案の財政試算は複雑でわかりにくい。社会保障の機能強化で2.7兆円と文書で示されているが、これは狭義の数字であり、図示ではこの「制度改革」分と、「高齢化」分、「年金の安定財源」分の3つが広義の「機能強化」分として、消費税3%相当とされている。また「税率アップに伴う社会保障支出増」で消費税1%相当、「機能維持」で1%相当となっており、これで計5%。ただし、「高齢化」「年金の安定財源」「機能維持」分の3%は「プライマリーバランスの改善」とされており、これまでの一般財源からの公費を消費税に代替するということである。しかも、これにより財政再建の「一里塚が築かれる」としており、財政健全化のためには消費税率は確実にアップすることとなり、いずれ社会保障4経費(医療・介護・年金・子育て)の公費水準を天井に上げられていく。

 

 社会保障の公費負担の調達財源として消費税を区分経理し、高齢者3経費を社会保障4経費にあて社会保障財源化を図るとしたが、消費税の5%=12.5兆円は機能強化にはほとんど回らない。

 また「制度として確立した」年金、医療、介護など使途の限定は、地方自治体の医療費助成などの単独事業をどこまで範囲に入れるのかの線引きが不明であり、税率アップした消費税の国と地方の分配もいまだ不透明である。更には、社会保障全体の公費増に伴う各制度の保険料、自己負担のアップもきちんとは提示されていない。

 つまり、社会保障の充実のための消費税率アップは仕方がないとの国民的気分とは裏腹に、機能強化は有名無実であり、効率化・重点化により受診者・利用者、提供者の負担だけが増えていく。非常に悲惨な話となる。

 政府は本当に社会保障の機能強化となる将来図を描き、必要な財政規模と調達財源の選択肢を、平易・簡明に国民議論に託すべきである。

 朝三暮四的な、この社会保障改革案の見直しを強く求める。

2011年6月15日

 

公的責任否定と機能弱体化につながる社会保障改革案に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 政府は税と社会保障の一体改革の成案の6月20日発表に向け検討を重ねている。6月2日に公表された「集中検討会議」の「社会保障改革案」を基に議論されているが、これは社会保障の変質・矮小化を策し、そのもとでの医療保険の形骸化と混合診療の拡大、税と社会保障の共通番号制導入による制度横断の利用者負担の総合合算制、すなわち社会保障個人会計制導入による、給付外サービスの商品化、医療・社会保障の産業化、市場創出を企図している。また、消費税の社会保障財源化による公費調達も機能強化分(制度改革)は1%でしかなく、税率アップ分の国と地方の按分も不明なままであり、大方は財政再建に3%をあてる構図となっている。

 われわれは、社会保障の機能強化とは名ばかりの、新成長戦略を強力に推進する、この一体改革案の問題点を指摘し、関係者による軌道修正を強く望むものである。

 

 いま「政府・与党社会保障改革検討本部」が、「集中検討会議」の改革案をもとに、"社会保障改革の必要財源の安定的確保"と"財政健全化"を同時に達成するため、成案のまとめをしている。

 この改革案の最大の問題は、「社会保障の原点に立ち返り、その本源的機能の復元と強化を図る」とうたいながら、「自立・自助を国民相互の共助・連帯で支援することを基本とする制度構築」をするとし、社会保障における公助を完全に消し去ったことである。つまりは「原点」である社会保障制度審議会「50年勧告」の否定にほかならない。

 

 5月12日の厚労省案では、自助を基本に、国民の間の共助で補完し、これで対応できない困窮者に「一定の受給要件の下」で公助を行うものと社会保障を定義。東日本大震災を引き合いに出し、ボランティアによる「共助」が社会保障の本来目指すべき姿とすり替え、社会保障の機能強化は「給付の重点化」「選択と集中」「優先順位の明確化」の課題をクリアすることで達成できると、社会保障理念の歪曲、矮小化を図った。6月2日の改革案は、"それでは生ぬるい"とばかりに、更にその上をいき、「真に必要な給付を確実に確保しつつ負担の最適化を図る」「世代間のみならず世代内の給付と負担の公平を図る」「負担と給付の関係が明確な社会保険(=共助・連帯)の枠組みの強化による機能強化を基本とする」と、給付縮小と保険原理の純化を色濃くした。

 

 改革メニューは、一般に報道されている以上に振るっている。医療での「3割+定額負担」導入は事実上の「上乗せ免責制」であり、4割負担に接近し病人の半分もの受診が不可能となり医療保険が瓦解する。これは「集中検討会議」では免責制の代替として具体的に提案されたものであり、協会けんぽでは昨年11月に4割負担が議論されてさえいる。外来患者23万人減、受診不可能250万人という実態を完全に無視している。

 

 しかも、高額療養費の80,100円を44,400円への引き下げ(所要額2,600億円)とセットで提案され患者救済策の装いをまとっているが、そもそも窓口負担を2割から3割に引き上げた際に、件数、金額が急増したのであり、本筋の救済は窓口負担の引き下げである。また難治性疾患の救済と絡めて報道されたが、難病公費医療(270億円)の適用疾病を拡大すればよい話である。改革案の試算では100円の定額負担で1300億円と修正されており、この金額では当初額2600億円と均衡せず、高額療養費の引き下げ水準を見直すのか、はたまた定額200円負担とするのか不透明である。

 

 患者負担増では70歳から74歳の高齢者の1割から2割の引き上げ、既定路線の医療保険再編のための国保の都道府県化、国保への市町村財源繰り入れの禁止も初期予定どおり、織り込まれている。

 

 このほか、一般急性期病床の在院日数を現在の20日から9日へと半減する。医療資源の集中で実現するとしているが、現実的には診療報酬による点数誘導となり、5年前に起きた7:1入院基本料での看護師引き抜き、引きはがしが再燃し、医療現場が混乱する。人員増が不可能な病床は看護師比率を上げるため病床削減が起きる。病床数は現行水準とされており、団塊の世代の高齢化に対応した病床数は確保されない。よって「在宅」にいるしかなくなる。

 

 外来患者も5%削減とされているが、現在の患者数減少が長期処方の普及が要因として論じられており過重な患者負担は一顧だにされていない。この方法論の明示はないが、ICT利用による重複受診の削減が挙げられており、疾病の異なる医学管理に関し、医学管理料の1医療機関算定の実効化が想定される。診療所にとって、これは診療報酬の▲5%削減となり、経営への打撃が大きい。裏を返すと保険医の定数制に他ならない。

 

 更にはジェネリック推進がはかばかしくないことから、医薬品については負担率を変更する。医薬品の種類に応じた変動給付率の導入も示唆されている。

 

 医療以外にも介護における要介護認定者の3%切り捨てや、生活保護の医療扶助の患者負担新設、見せかけの就労支援などが並んでいる。

 

 これらの「改革」の環として、共通番号制の早期導入が強調されている。メリットとしている各制度横断の利用者負担の総合合算制は、「社会保障個人会計」そのものである。なぜなら、利用者負担は各制度の給付申請がなされて逆算で計算され、通算されるのであり、これで社会保障給付が完全に個人会計化される。税金と保険料データも一元管理されるので、1970年代からの政府の悲願が達成する。すでに年代、収入、家族構成での40類型のモデルを作り、世帯類型別の受益と負担の会計計算が詳細に会議資料として提示されている。例えば、40歳夫婦で子ども1人、年収650万円の場合に、「負担」(所得税+住民税+消費税+保険料+自己負担額)は180万円に対し、「受益」(医療・介護・教育等+年金・手当等+集合消費+公共事業等)が285万円で、「ネット受益額」が105万円という具合で、ネット受益額の順番にランキングされている。

 

 これらが意味するところは、"負担の範囲内に給付を制限する"ということであり、範囲を超えた社会保障サービスは自前で購入、つまり社会保障のサービス商品化、産業化、市場化となる。これは昨年出された経産省の医療産業研究会報告書や新成長戦略路線そのものである。

 

 改革案の財政試算は複雑でわかりにくい。社会保障の機能強化で2.7兆円と文書で示されているが、これは狭義の数字であり、図示ではこの「制度改革」分と、「高齢化」分、「年金の安定財源」分の3つが広義の「機能強化」分として、消費税3%相当とされている。また「税率アップに伴う社会保障支出増」で消費税1%相当、「機能維持」で1%相当となっており、これで計5%。ただし、「高齢化」「年金の安定財源」「機能維持」分の3%は「プライマリーバランスの改善」とされており、これまでの一般財源からの公費を消費税に代替するということである。しかも、これにより財政再建の「一里塚が築かれる」としており、財政健全化のためには消費税率は確実にアップすることとなり、いずれ社会保障4経費(医療・介護・年金・子育て)の公費水準を天井に上げられていく。

 

 社会保障の公費負担の調達財源として消費税を区分経理し、高齢者3経費を社会保障4経費にあて社会保障財源化を図るとしたが、消費税の5%=12.5兆円は機能強化にはほとんど回らない。

 また「制度として確立した」年金、医療、介護など使途の限定は、地方自治体の医療費助成などの単独事業をどこまで範囲に入れるのかの線引きが不明であり、税率アップした消費税の国と地方の分配もいまだ不透明である。更には、社会保障全体の公費増に伴う各制度の保険料、自己負担のアップもきちんとは提示されていない。

 つまり、社会保障の充実のための消費税率アップは仕方がないとの国民的気分とは裏腹に、機能強化は有名無実であり、効率化・重点化により受診者・利用者、提供者の負担だけが増えていく。非常に悲惨な話となる。

 政府は本当に社会保障の機能強化となる将来図を描き、必要な財政規模と調達財源の選択肢を、平易・簡明に国民議論に託すべきである。

 朝三暮四的な、この社会保障改革案の見直しを強く求める。

2011年6月15日