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2011/11/1 政策部長談話「医療保険制度崩壊の引き金となるTPP交渉参加に反対する 薬価制度の改変、健康情報の産業化を狙う米国の思うツボ」

医療保険制度崩壊の引き金となるTPP交渉参加に反対する

薬価制度の改変、健康情報の産業化を狙う米国の思うツボ

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に関し11月12日のAPECまでに野田首相が態度表明をする。推進派は交渉からの途中離脱をカードに慎重派・反対派の懐柔に躍起だが、玄葉外相は10月25日、交渉参加後の「撤退は困難」との見方を示している。外務省は交渉21分野に医療が含まれておらず、混合診療や医療への企業参入は議論の対象外と説くが、(1)医薬品・医療機器は「物品市場アクセス」、(2)ICT活用による疾病・健康情報は「電子商取引」「電気通信サービス」、(3)総合特区(医療特区)は「制度的事項」、の各分野で対象となる。TPPは関税とともに非関税障壁は原則撤廃である。

 われわれは、TPPにより薬価制度の改変、疾病・健康情報のビジネス利用、医療経営への企業進出が進み、いずれ、いま進行している歯止めなき保険外併用療養費制度(混合診療)の無原則化が加速し、医療保険制度が崩壊していくと考えている。50周年を迎えた皆保険制度は、大震災の被災者を医療面で支えている。国家百年の計を誤らないよう、われわれはTPP交渉参加に断固反対する。

 

 TPPは初の「21世紀型」通商協定であり、物品、サービス、農業など対象が包括的で、関税に加え、米国流に言えば"ビジネス活動への妨げが顕著となっている「国境内に存在する」非関税障壁"も網羅した、貿易および投資の自由化について高水準な合意を目指すものである。

 このTPPは、日本の参加が前提の枠組みであり、そのことが日々、多くの目にはっきりとしてきている。10月26日、これを主導する米通商代表部(USTR)のカーク代表は、最終合意に向けた交渉に「今後12カ月かける」「日本の決断を待っている」と、APECまでの日本の参加へ秋波を送った。また10月7日には、ズムワルト首席公使が都内の日米財界人のシンポジウムで日米のパートナーシップの強化と日本のTPPへの決断に期待を表明している。

 

 そもそもTPPは、APECを舞台に仕組まれた米国主導による出来レースである。2009年の日本の政権交代前に同年7月、経団連と在日米国商工会議所(ACCJ)が共同声明を発表。日米の経済競争力の強化のため包括的でハイレベルな経済連携協定(EPA)の追求、ならびに2010年と2011年に日米各々が務めるAPECの議長国としての役割を利用した新たな貿易・経済の枠組み構築とリーダーシップの発揮を表明。同年にオバマ政権はP4参加国(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール)およびオーストラリア、ペルー、ベトナムとともにTPP交渉に入ることを決断し、アジア太平洋地域での指導的役割を確立するのである。

 そして翌2010年10月8日には日米財界人会議がアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けて、日本のTPP交渉への早期参加求める共同声明を発表。

 更には今年に入り過日、10月7日、米国財界による米日経済協議会が白書『TPPへの日本参加に向けて』を発表。大震災に触れながらも、日本の早急な決断が国益に適うと強調し、(1)日本の経済・貿易規模の大きさ、(2)日米ビジネス環境の改善、(3)対中国との関係でのアジア地域での指導的立場の復権の3つの理由をあげ、重要な追加参加国としている。また参加に際し(1)例外措置を要求せず、他国と同じ条件、高水準かつ包括的な要件を満たす準備、(2)交渉の足かせや範囲・目標の矮小化ではなく交渉促進にプラスの役割を果たすこと、を条件に課している。

 TPP参加交渉中の9カ国に日本を加えると、その中で日米のGDPが占める割合は9割を超える。事実上、日米協定である。二国間FTA(自由貿易協定)とは各段に違い、関税・非関税障壁は非常に低いものとなる。

 

 翻って、日米の経済関係についてみると、有名になった「日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく米国政府の年次改革要望書」(『要望書』)により電気通信、情報技術、法律、金融、医療など米国から多岐にわたる要望が長年なされてきた。医療においてはその多くは医薬品・医療機器、医療のIT化に関するものだ。この『要望書』に対応する『報告書』でその実現が確認できるが、主なものを上げれば(1)レセプトオンライン化、(2)海外臨床データの受け入れ、(3)株式会社による医療経営(医療特区)、(4)DPC、DRG(疾病別包括支払)議論への関係者の参加、(5)薬価算定改革―などである。

 今年発表された米国の「外国貿易障壁報告書」(2011)では各国別にページを割いているが、TPP交渉参加国のブルネイ、シンガポール、ニュージーランドなど5カ国は僅か3ページ、多いベトナム、マレーシアでも6ページである。対して日本は18ページと格段に多く、中国に次いで最も多い。この「障壁」がTPP参加で雲散霧消する。この18ページの1/3は保険商品と医薬品・医療機器、医療ITに割かれている。

 いま年次改革『要望書』は「日米経済調和対話」(2011)にとってかわり、このなかで(1)ドラッグラグ解消のための東アジア諸国の臨床データ受け入れ、(2)新薬創出加算(高薬価維持政策)の恒久化、(3)外国平均薬価との乖離調整ルールの改定、(4)医薬品の14日処方ルールの日数緩和など、医薬品承認、薬価決定により具体的な注文付けを米国が日本にしてきている。

 

 先に触れた白書『TPPへの日本参加に向けて』は「TPPのための米国ビジネス連合」がTPP成功に必要な15の基本原則を日本に当てはめ越えるべきハードルを検証している。このビジネス連合にはインテルや米国商工会議所など108の企業、業界団体が名を連ねる。医療関連では、世界の製薬市場の4割を占めるファイザーをはじめアボット、メルク、イーライリリー、グラクソなどの製薬メーカーや先進医療技術協会のほか、保険業ではACEグループ、CVスター、アメリカ生保会議が、情報通信ではIBM、マグロウヒル、AT&Tが並んでいる。

 この白書では、「基本原則6:規制の一貫性を高める協定」の項で、加盟各国での透明性・実効性・拘束力を備えた一貫性のある規制体系の維持を求め、わざわざ例として米国で利用が認められている医薬品、医療機器の日本での利用承認の遅れを指摘。日本の規制、価格設定、臨床実験環境を問題視している。

 米通商代表部が9月12日発表したホワイトペーパー「医薬品へのアクセス向上のTPP貿易の目標」(「TTP Trade Goals to Enhance Access to Medicines」)では、医薬品の非関税障壁削減、医薬品の政府の医療保険償還価格の見直しが盛られており、10月27日の日本の国会で明るみになったとおり、外務省の資料「TPP協定交渉の分野別状況」でも「物品市場アクセス」の分野で豪州、韓国の状況に触れ、TPP交渉参加にあたっての考慮すべき点としている。外務省のいう医療保険制度は対象外というのは詭弁にすぎない。既に中医協の専門委員に先進医療技術協会と緊密関係の米国医療機器・IVD工業会顧問が入っている。TPP交渉参加国で公的医療保険制度が完備されているのは豪州とニュージーランドだけである。

 

 医薬品を巡っては米豪のFTAで医薬品給付制度(PBS)をめぐり米国有利の薬価吊上げの事態が起きているほか、韓国のTPP参加を想定した米韓FTAでは民間医療保険商品の許可制への緩和、米国の輸出に規制がかけられない医薬品医療機器委員会の設置など米国有利に事が運んでいる。

 

 日本でかつて導入が頓挫した参照価格制とは医療保険で薬価の給付上限を決め、超えた部分を全額患者負担とする、いわば"医薬品差額"である。これにより、「言い値」で医薬品の販売が可能となる。すでに未承認薬は臨床試験や臨床研究の段階にあっても、「保険外併用療養」と詐称して、医療保険財源の投入が可能となり、国内臨床例が1例もなくても医療保険との併用ができるまでになってしまった。安全性・有効性の担保は完全に反故にされている。これからは、承認された医薬品の価格制度が焦点となっていく。

 

 医療ITに関しても、前出の「白書」や「対話」にも盛られているほか、在日米国商工会議所の意見書は更に詳しい。国民ID(個人識別番号)の整備のための共通番号制の早期導入、カルテの電子化とデータの二次利用のための医療用語・コード体系の標準化、ウェブカメラの遠隔診療促進のための法律改正、レセプトオンライン実装のための財政ペナルティーなど、医療ITとメディカルツーリズム振興の基盤整備と位置付け、医療改革を迫っている。

 

 企業に病院経営をさせる医療特区は、2004年の「年次改革要望書」で米国から要望され、同年、横浜市で計画が登場した。いま、税制・金融・財政から医療まで複合的な規制緩和の政策パッケージ「総合特区(ライフサイエンス)」が誕生し、海外患者受け入れの医療ツーリズム、医療産業化の拠点ができているが、TPPでより一層の展開の危険性が高くなる。

 

 10月7日、日米の財界人によるシンポジウムではFTAAP(アジア太平洋地域自由貿易圏)構想が語られ、日本のTPP交渉への早期参加が強調された。前日6日、米倉経団連会長は成長戦略実現のため実質年率2%の成長を目標にすえ、成長分野に医療、介護、観光、環境、農業などをあげイノベーションの加速を強調した。医療の産業化、社会保障財源の完全な消費税化を強力に進めようとしている。

 

 国内経済は、国民の所得向上がなければ再生しない。人々の生産活動は医療や社会保障制度の下支えがあってこそ可能である。

 ちなみに、医療界の反対を押し切り強行した、医療の産業化のトップランナー、医療特区での企業経営診療所(セルポートクリニック)は今年6月から昨日まで休院中であった。

 

 覆水盆に返らず。戦後築き上げてきた、国民皆保険制度は、世界一の健康度、最高ランクの医療技術を支えてきた。いま医師不足、過重な患者負担、財源調達での不合意により、医療崩壊がいわれるようになっているが、TPP交渉参加は、これにとどめを刺す。

 

 政治は、よくそのことを考えるべきである。医療界はかならず審判を下すだろう。

2011年11月1日

 

医療保険制度崩壊の引き金となるTPP交渉参加に反対する

薬価制度の改変、健康情報の産業化を狙う米国の思うツボ

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に関し11月12日のAPECまでに野田首相が態度表明をする。推進派は交渉からの途中離脱をカードに慎重派・反対派の懐柔に躍起だが、玄葉外相は10月25日、交渉参加後の「撤退は困難」との見方を示している。外務省は交渉21分野に医療が含まれておらず、混合診療や医療への企業参入は議論の対象外と説くが、(1)医薬品・医療機器は「物品市場アクセス」、(2)ICT活用による疾病・健康情報は「電子商取引」「電気通信サービス」、(3)総合特区(医療特区)は「制度的事項」、の各分野で対象となる。TPPは関税とともに非関税障壁は原則撤廃である。

 われわれは、TPPにより薬価制度の改変、疾病・健康情報のビジネス利用、医療経営への企業進出が進み、いずれ、いま進行している歯止めなき保険外併用療養費制度(混合診療)の無原則化が加速し、医療保険制度が崩壊していくと考えている。50周年を迎えた皆保険制度は、大震災の被災者を医療面で支えている。国家百年の計を誤らないよう、われわれはTPP交渉参加に断固反対する。

 

 TPPは初の「21世紀型」通商協定であり、物品、サービス、農業など対象が包括的で、関税に加え、米国流に言えば"ビジネス活動への妨げが顕著となっている「国境内に存在する」非関税障壁"も網羅した、貿易および投資の自由化について高水準な合意を目指すものである。

 このTPPは、日本の参加が前提の枠組みであり、そのことが日々、多くの目にはっきりとしてきている。10月26日、これを主導する米通商代表部(USTR)のカーク代表は、最終合意に向けた交渉に「今後12カ月かける」「日本の決断を待っている」と、APECまでの日本の参加へ秋波を送った。また10月7日には、ズムワルト首席公使が都内の日米財界人のシンポジウムで日米のパートナーシップの強化と日本のTPPへの決断に期待を表明している。

 

 そもそもTPPは、APECを舞台に仕組まれた米国主導による出来レースである。2009年の日本の政権交代前に同年7月、経団連と在日米国商工会議所(ACCJ)が共同声明を発表。日米の経済競争力の強化のため包括的でハイレベルな経済連携協定(EPA)の追求、ならびに2010年と2011年に日米各々が務めるAPECの議長国としての役割を利用した新たな貿易・経済の枠組み構築とリーダーシップの発揮を表明。同年にオバマ政権はP4参加国(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール)およびオーストラリア、ペルー、ベトナムとともにTPP交渉に入ることを決断し、アジア太平洋地域での指導的役割を確立するのである。

 そして翌2010年10月8日には日米財界人会議がアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けて、日本のTPP交渉への早期参加求める共同声明を発表。

 更には今年に入り過日、10月7日、米国財界による米日経済協議会が白書『TPPへの日本参加に向けて』を発表。大震災に触れながらも、日本の早急な決断が国益に適うと強調し、(1)日本の経済・貿易規模の大きさ、(2)日米ビジネス環境の改善、(3)対中国との関係でのアジア地域での指導的立場の復権の3つの理由をあげ、重要な追加参加国としている。また参加に際し(1)例外措置を要求せず、他国と同じ条件、高水準かつ包括的な要件を満たす準備、(2)交渉の足かせや範囲・目標の矮小化ではなく交渉促進にプラスの役割を果たすこと、を条件に課している。

 TPP参加交渉中の9カ国に日本を加えると、その中で日米のGDPが占める割合は9割を超える。事実上、日米協定である。二国間FTA(自由貿易協定)とは各段に違い、関税・非関税障壁は非常に低いものとなる。

 

 翻って、日米の経済関係についてみると、有名になった「日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく米国政府の年次改革要望書」(『要望書』)により電気通信、情報技術、法律、金融、医療など米国から多岐にわたる要望が長年なされてきた。医療においてはその多くは医薬品・医療機器、医療のIT化に関するものだ。この『要望書』に対応する『報告書』でその実現が確認できるが、主なものを上げれば(1)レセプトオンライン化、(2)海外臨床データの受け入れ、(3)株式会社による医療経営(医療特区)、(4)DPC、DRG(疾病別包括支払)議論への関係者の参加、(5)薬価算定改革―などである。

 今年発表された米国の「外国貿易障壁報告書」(2011)では各国別にページを割いているが、TPP交渉参加国のブルネイ、シンガポール、ニュージーランドなど5カ国は僅か3ページ、多いベトナム、マレーシアでも6ページである。対して日本は18ページと格段に多く、中国に次いで最も多い。この「障壁」がTPP参加で雲散霧消する。この18ページの1/3は保険商品と医薬品・医療機器、医療ITに割かれている。

 いま年次改革『要望書』は「日米経済調和対話」(2011)にとってかわり、このなかで(1)ドラッグラグ解消のための東アジア諸国の臨床データ受け入れ、(2)新薬創出加算(高薬価維持政策)の恒久化、(3)外国平均薬価との乖離調整ルールの改定、(4)医薬品の14日処方ルールの日数緩和など、医薬品承認、薬価決定により具体的な注文付けを米国が日本にしてきている。

 

 先に触れた白書『TPPへの日本参加に向けて』は「TPPのための米国ビジネス連合」がTPP成功に必要な15の基本原則を日本に当てはめ越えるべきハードルを検証している。このビジネス連合にはインテルや米国商工会議所など108の企業、業界団体が名を連ねる。医療関連では、世界の製薬市場の4割を占めるファイザーをはじめアボット、メルク、イーライリリー、グラクソなどの製薬メーカーや先進医療技術協会のほか、保険業ではACEグループ、CVスター、アメリカ生保会議が、情報通信ではIBM、マグロウヒル、AT&Tが並んでいる。

 この白書では、「基本原則6:規制の一貫性を高める協定」の項で、加盟各国での透明性・実効性・拘束力を備えた一貫性のある規制体系の維持を求め、わざわざ例として米国で利用が認められている医薬品、医療機器の日本での利用承認の遅れを指摘。日本の規制、価格設定、臨床実験環境を問題視している。

 米通商代表部が9月12日発表したホワイトペーパー「医薬品へのアクセス向上のTPP貿易の目標」(「TTP Trade Goals to Enhance Access to Medicines」)では、医薬品の非関税障壁削減、医薬品の政府の医療保険償還価格の見直しが盛られており、10月27日の日本の国会で明るみになったとおり、外務省の資料「TPP協定交渉の分野別状況」でも「物品市場アクセス」の分野で豪州、韓国の状況に触れ、TPP交渉参加にあたっての考慮すべき点としている。外務省のいう医療保険制度は対象外というのは詭弁にすぎない。既に中医協の専門委員に先進医療技術協会と緊密関係の米国医療機器・IVD工業会顧問が入っている。TPP交渉参加国で公的医療保険制度が完備されているのは豪州とニュージーランドだけである。

 

 医薬品を巡っては米豪のFTAで医薬品給付制度(PBS)をめぐり米国有利の薬価吊上げの事態が起きているほか、韓国のTPP参加を想定した米韓FTAでは民間医療保険商品の許可制への緩和、米国の輸出に規制がかけられない医薬品医療機器委員会の設置など米国有利に事が運んでいる。

 

 日本でかつて導入が頓挫した参照価格制とは医療保険で薬価の給付上限を決め、超えた部分を全額患者負担とする、いわば"医薬品差額"である。これにより、「言い値」で医薬品の販売が可能となる。すでに未承認薬は臨床試験や臨床研究の段階にあっても、「保険外併用療養」と詐称して、医療保険財源の投入が可能となり、国内臨床例が1例もなくても医療保険との併用ができるまでになってしまった。安全性・有効性の担保は完全に反故にされている。これからは、承認された医薬品の価格制度が焦点となっていく。

 

 医療ITに関しても、前出の「白書」や「対話」にも盛られているほか、在日米国商工会議所の意見書は更に詳しい。国民ID(個人識別番号)の整備のための共通番号制の早期導入、カルテの電子化とデータの二次利用のための医療用語・コード体系の標準化、ウェブカメラの遠隔診療促進のための法律改正、レセプトオンライン実装のための財政ペナルティーなど、医療ITとメディカルツーリズム振興の基盤整備と位置付け、医療改革を迫っている。

 

 企業に病院経営をさせる医療特区は、2004年の「年次改革要望書」で米国から要望され、同年、横浜市で計画が登場した。いま、税制・金融・財政から医療まで複合的な規制緩和の政策パッケージ「総合特区(ライフサイエンス)」が誕生し、海外患者受け入れの医療ツーリズム、医療産業化の拠点ができているが、TPPでより一層の展開の危険性が高くなる。

 

 10月7日、日米の財界人によるシンポジウムではFTAAP(アジア太平洋地域自由貿易圏)構想が語られ、日本のTPP交渉への早期参加が強調された。前日6日、米倉経団連会長は成長戦略実現のため実質年率2%の成長を目標にすえ、成長分野に医療、介護、観光、環境、農業などをあげイノベーションの加速を強調した。医療の産業化、社会保障財源の完全な消費税化を強力に進めようとしている。

 

 国内経済は、国民の所得向上がなければ再生しない。人々の生産活動は医療や社会保障制度の下支えがあってこそ可能である。

 ちなみに、医療界の反対を押し切り強行した、医療の産業化のトップランナー、医療特区での企業経営診療所(セルポートクリニック)は今年6月から昨日まで休院中であった。

 

 覆水盆に返らず。戦後築き上げてきた、国民皆保険制度は、世界一の健康度、最高ランクの医療技術を支えてきた。いま医師不足、過重な患者負担、財源調達での不合意により、医療崩壊がいわれるようになっているが、TPP交渉参加は、これにとどめを刺す。

 

 政治は、よくそのことを考えるべきである。医療界はかならず審判を下すだろう。

2011年11月1日