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2012/7/30 政策部長談話「本質は"現物給付"の否定 安定財源確保や機能強化はどこに? 国民皆保険を壊す『社会保障制度改革推進法』の廃案を求める」

本質は"現物給付"の否定 安定財源確保や機能強化はどこに?

国民皆保険を壊す「社会保障制度改革推進法」の廃案を求める

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 「社会保障制度改革推進法案」が消費増税法案とともに参議院特別委員会で審議されている。民主・自民・公明の三党合意で6月26日に衆院可決したこの新たな法案は、将来の医療の方向性に投網をかけたもので、国民皆保険を堅持することを捨て、「原則」加入とし「例外」を容認することとしている。われわれは医療者として絶対に看過できないこの法案の撤回、廃案を強く求める。

 

 法案は、医療保険制度に関し、第六条で「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」とし、「皆保険」の「原則」化を初めてうたった。原則は「例外」が前提であり、大転換である。

 しかも「保険給付の対象となる療養の範囲の適正化」も盛られ、医療などの社会保障を"商品と代金"の関係に切り替える、「受益者負担」の徹底の色濃いものとなっている。

 この「社会保障制度改革推進法」は、これまでの審議会の報告書や、医療費適正化指針などと性格が決定的に違う。これは法律である。

 

 療養の範囲の適正化とは、医療保険の利く範囲の縮小である。これに関連し既に、医薬品の参照価格制導入が小宮山厚労大臣の肝いりで検討が始まっている。この制度は医薬品の保険給付に上限を設け、超過分は患者負担となる"薬価差額"の仕組みである。7月6日に厚労省版「提言仕分け」で後発医薬品の使用促進のために指示されており、後発医薬品の薬価が給付上限となる。先発品の投与は差額負担が患者に発生するため、医療機関は後発医薬品が必然的に第一選択となる。

 

 この制度を敷くとなると現物給付の原則を「療養費」構成へと根本的に改めることが不可欠となる。医療を購入した代金を補填する「療養費」を事後に支給することとなる。当面、「現物給付」運用は継続されるだろうが、つまりは、医薬品代の金銭支給の制度に変質する。よって、医療保険は医療技術を除き混合診療の自由化が前提の制度となる。早晩、医療技術にも波及しドミノ倒しとなる。

 

 焦眉のTPPで米国が医薬品分野で求めているのがこの参照価格制であり、先発品はメーカーの言い値で販売でき、患者の特定階層を市場として見込める算段がある。事実、TPP加盟国のオーストラリアでは参照価格制により薬価が高騰する憂き目を見ている。これにより日本の皆保険は瓦解する。

 

 療養の範囲の縮小は、参照価格制が喫緊の問題というのが事実である。「上乗せ免責制」は運動により当座は撤回させた。混合診療は保険外併用療養として制度化され、医薬品・医療機器に関し、治験終了品、治験途上品、臨床研究段階品と対象範囲が順次拡大している。医療への経済格差の導入問題から、安全性・有効性の度外視へと問題が膨れ、ルールの形骸化が深刻になっている。混合診療は観念的な拡大懸念ではなく、内実をみた批判が肝要である。お題目では医療保険の浸食はとまらない。

 

 三党合意の消費税修正法案は増税で生まれる財源を「成長戦略」に重点配分する条文が附則に盛り込まれた。これを巡り、社会保障の安定財源確保の空文化、社会保障の機能強化の放棄が国会論戦で指摘されているが、この新「成長戦略」を背景とした金融業界の策動も進展している。

 

 それは民間医療保険の現物給付型商品の開発である。08年に一時浮上し、当会の指摘で頓挫したものだが、これが再燃し既に6月7日より金融審議会・金融分科会のワーキンググループで検討が始まっている。これは保険会社の定額給付(保険金)を、被保険者(患者)ではなく医療機関に支払うもので、療養費の「現物給付」運用である。お手本は、悪名高い米国のHMO(管理医療)である。具体的なスキームは明治安田生命から提案されており、共通番号制を活用した診療情報の連携をも組み込んでいる。介護・保育での同様の商品開発も想定している。「公的保険制度を補完する医療保障」、「『公助』中心から『私助と公助が共働・連携』する社会へ」「医療・介護等の分野では、公私連携・対話が市場育成の鍵」などのキーワードが、政府の会議の資料に堂々と登場している。

 

 民間保険の現物給付商品が誕生すれば、公的医療保険との取り扱いの混乱もさることながら、商品としての優劣比較、価格・内容競争に否応なくさらされる。皆保険からの離脱や形骸化が激しくなる。

 

 改めて問う。日本の医療保障は、医療そのものの「現物給付」を特色とし、ゆえにWHOの健康度世界一を達成した。この現物給付の存在は、金銭支給の介護保険制度を「現物給付」運用とさせるなど、社会保障全体に大きな影響を与えている。この現物給付の否定は、社会保障全体の瓦解に通底し、理念の変質を伴う。

 われわれは、この根幹を揺るがす「社会保障制度改革推進法」の廃案を強く求めるとともに、その結果に対し、来るべき総選挙で厳しく審判を下す決意である。

2012年7月30日

 

本質は"現物給付"の否定 安定財源確保や機能強化はどこに?

国民皆保険を壊す「社会保障制度改革推進法」の廃案を求める

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 「社会保障制度改革推進法案」が消費増税法案とともに参議院特別委員会で審議されている。民主・自民・公明の三党合意で6月26日に衆院可決したこの新たな法案は、将来の医療の方向性に投網をかけたもので、国民皆保険を堅持することを捨て、「原則」加入とし「例外」を容認することとしている。われわれは医療者として絶対に看過できないこの法案の撤回、廃案を強く求める。

 

 法案は、医療保険制度に関し、第六条で「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」とし、「皆保険」の「原則」化を初めてうたった。原則は「例外」が前提であり、大転換である。

 しかも「保険給付の対象となる療養の範囲の適正化」も盛られ、医療などの社会保障を"商品と代金"の関係に切り替える、「受益者負担」の徹底の色濃いものとなっている。

 この「社会保障制度改革推進法」は、これまでの審議会の報告書や、医療費適正化指針などと性格が決定的に違う。これは法律である。

 

 療養の範囲の適正化とは、医療保険の利く範囲の縮小である。これに関連し既に、医薬品の参照価格制導入が小宮山厚労大臣の肝いりで検討が始まっている。この制度は医薬品の保険給付に上限を設け、超過分は患者負担となる"薬価差額"の仕組みである。7月6日に厚労省版「提言仕分け」で後発医薬品の使用促進のために指示されており、後発医薬品の薬価が給付上限となる。先発品の投与は差額負担が患者に発生するため、医療機関は後発医薬品が必然的に第一選択となる。

 

 この制度を敷くとなると現物給付の原則を「療養費」構成へと根本的に改めることが不可欠となる。医療を購入した代金を補填する「療養費」を事後に支給することとなる。当面、「現物給付」運用は継続されるだろうが、つまりは、医薬品代の金銭支給の制度に変質する。よって、医療保険は医療技術を除き混合診療の自由化が前提の制度となる。早晩、医療技術にも波及しドミノ倒しとなる。

 

 焦眉のTPPで米国が医薬品分野で求めているのがこの参照価格制であり、先発品はメーカーの言い値で販売でき、患者の特定階層を市場として見込める算段がある。事実、TPP加盟国のオーストラリアでは参照価格制により薬価が高騰する憂き目を見ている。これにより日本の皆保険は瓦解する。

 

 療養の範囲の縮小は、参照価格制が喫緊の問題というのが事実である。「上乗せ免責制」は運動により当座は撤回させた。混合診療は保険外併用療養として制度化され、医薬品・医療機器に関し、治験終了品、治験途上品、臨床研究段階品と対象範囲が順次拡大している。医療への経済格差の導入問題から、安全性・有効性の度外視へと問題が膨れ、ルールの形骸化が深刻になっている。混合診療は観念的な拡大懸念ではなく、内実をみた批判が肝要である。お題目では医療保険の浸食はとまらない。

 

 三党合意の消費税修正法案は増税で生まれる財源を「成長戦略」に重点配分する条文が附則に盛り込まれた。これを巡り、社会保障の安定財源確保の空文化、社会保障の機能強化の放棄が国会論戦で指摘されているが、この新「成長戦略」を背景とした金融業界の策動も進展している。

 

 それは民間医療保険の現物給付型商品の開発である。08年に一時浮上し、当会の指摘で頓挫したものだが、これが再燃し既に6月7日より金融審議会・金融分科会のワーキンググループで検討が始まっている。これは保険会社の定額給付(保険金)を、被保険者(患者)ではなく医療機関に支払うもので、療養費の「現物給付」運用である。お手本は、悪名高い米国のHMO(管理医療)である。具体的なスキームは明治安田生命から提案されており、共通番号制を活用した診療情報の連携をも組み込んでいる。介護・保育での同様の商品開発も想定している。「公的保険制度を補完する医療保障」、「『公助』中心から『私助と公助が共働・連携』する社会へ」「医療・介護等の分野では、公私連携・対話が市場育成の鍵」などのキーワードが、政府の会議の資料に堂々と登場している。

 

 民間保険の現物給付商品が誕生すれば、公的医療保険との取り扱いの混乱もさることながら、商品としての優劣比較、価格・内容競争に否応なくさらされる。皆保険からの離脱や形骸化が激しくなる。

 

 改めて問う。日本の医療保障は、医療そのものの「現物給付」を特色とし、ゆえにWHOの健康度世界一を達成した。この現物給付の存在は、金銭支給の介護保険制度を「現物給付」運用とさせるなど、社会保障全体に大きな影響を与えている。この現物給付の否定は、社会保障全体の瓦解に通底し、理念の変質を伴う。

 われわれは、この根幹を揺るがす「社会保障制度改革推進法」の廃案を強く求めるとともに、その結果に対し、来るべき総選挙で厳しく審判を下す決意である。

2012年7月30日