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2009/10/16 医療情報部長談話「鳩山新政権に求む 社会保障カードやレセプトオンライン請求義務化を基盤とする『医療費抑制』『医療の市場化』目的の『医療IT化戦略』の見直しを」

鳩山新政権に求む

社会保障カードやレセプトオンライン請求義務化を基盤とする

「医療費抑制」「医療の市場化」目的の『医療IT化戦略』の見直しを

神奈川県保険医協会

医療情報部長 田辺 由紀夫


 総務省が2009年4月7日に発表した「2008年通信利用動向調査」では、国内のインターネットの利用者数は9091万人、人口普及率は75.3%と、IT(Information Technology)は国民生活に不可欠なツールとして、その地位を確立している。

 こうした時代の趨勢を追い風に、政府は内閣府の「IT戦略本部」を司令塔とし、ITを活用した「高度情報通信ネットワーク社会の形成」を錦の御旗に掲げ、各分野でのIT化を推進。その中でも医療、社会保障分野は重点課題と位置付け、その先陣として「社会保障カード」「レセプトオンライン請求の義務化」の2011年4月の実施を急いている。

 この間、全国の保険医協会や全国保険医団体連合会、日本医師会など全ての医療団体は、保険医の診療報酬請求権、閉院を余儀なくされる地域の医療機関を守るため、レセプトオンライン請求の義務化に反対の立場を表明した。また、神奈川県保険医協会と大阪府保険医協会が中心となり、全国の保険医約2200名の原告団を形成し、「義務化撤回」を求めて国を相手に裁判を起こしている。

 これら医療側の要求に対し、医業に関わりのない方は、IT化は効率化やコスト削減など多様なメリットがあり、導入時のコスト面や手間など「医療側の都合」によって反対していると思われるかも知れない。

 

 しかしIT化とは、即ち「情報のデータ化」である。データ化された医療情報は個人が所有するのではなく、国や保険者が所有・管理することとなる。つまりは、個人の意思に関わらず、国民の医療情報が国や保険者によって使われる可能性が高く、また民間での活用も議論されている。これらの情報管理が行き過ぎた場合、国民に降りかかる負担・損失・危険は計り知れない。

 

 IT戦略本部の発表した戦略プラン、また専門調査会の議事録や関連資料などを紐解くと、医療IT化の裏側にはデータ化された国民の医療・健康情報の管理や分析により、医療費・医療給付などをコントロールし、最終的には個人の医療機関へのアクセス制限、医療サービスの制限など、米国のマネージドケアと同様の「管理医療制度」構築という、医療費抑制を最大の目的とした一大プロジェクトへのシナリオが見え隠れする。

 また、経済財政諮問会議や規制改革会議は、医療分野に止まらず、年金・介護など社会保障全体の総額管理、費用抑制を目的とした「社会保障個人会計」の導入を主張。骨太方針2006にも盛り込まれている。さらには、社会保障分野に「競争原理の導入」「民間分野の拡大」を主張し、とりわけ医療分野では「混合診療の解禁」「株式会社による病院運営の容認」を一貫して要求し続けている。要は、医療費抑制によって公的医療給付からはみ出た医療は自費診療に流し、そこに市場原理による競争を生み出そうとしている。いわば「医療の市場化」を狙っているのである。これらの目的達成のためには、IT化による国民一人ひとりの情報収集、情報管理が必要不可欠だ。そのため、政府は情報収集、情報管理のシステム構築の基盤として「社会保障カード」や「レセプトオンライン請求の義務化」を進めているのである。これが政府の医療IT戦略の狙いである。

 

 これら医療費抑制政策が実施された場合、公的医療給付の範囲が狭まり、必要な医療が受けられない"医療難民"がこれまで以上に増加する可能性は高い。また、所得による医療の格差を引き起こし、最終的には国民皆保険の崩壊を招く恐れさえある。

 経済危機や雇用・生活破壊、格差社会が深刻な社会問題となっている現在、いつでも誰もが平等に医療を受けられるセーフティネットとしての医療保障は、国民誰もが望む制度である。われわれは、生存権保障の「憲法25条」の理念に立脚した医療の堅持、拡充を推進するためにも、医療費抑制、医療の市場化を目的とした医療IT戦略、特に医療IT戦略の基盤となる「社会保障カード」「レセプトオンライン請求の義務化」に断固反対する。

 

 新政権の中心を担う民主党は、マニフェスト(インデックス)のなかで「税と社会保障制度共通の番号制度」の導入を盛り込んでいる。年金制度改革などの実現には政府が個人所得を把握する必要があると主張しているが、これが社会保障カード構想などと結びつき、保険料の支払い状況や納税状況と連動させ、個々の公的医療給付に制限をかけるなど、医療格差が生じる事態を招くことは断じてあってはならない。

 マニフェストの冒頭に記された「ひとつひとつの生命を大切にする」を偽りのものとせず、国民との対話のなかで最善の医療・社会保障制度のあり方を探り、国民の健康と幸福に寄与し、国民・医療者双方が納得できる「真の医療IT化」の実現に向けて国民的議論を深めるよう、新政権の真摯な対応を強く要望する。

2009年10月16日

 

鳩山新政権に求む

社会保障カードやレセプトオンライン請求義務化を基盤とする

「医療費抑制」「医療の市場化」目的の『医療IT化戦略』の見直しを

神奈川県保険医協会

医療情報部長 田辺 由紀夫


 総務省が2009年4月7日に発表した「2008年通信利用動向調査」では、国内のインターネットの利用者数は9091万人、人口普及率は75.3%と、IT(Information Technology)は国民生活に不可欠なツールとして、その地位を確立している。

 こうした時代の趨勢を追い風に、政府は内閣府の「IT戦略本部」を司令塔とし、ITを活用した「高度情報通信ネットワーク社会の形成」を錦の御旗に掲げ、各分野でのIT化を推進。その中でも医療、社会保障分野は重点課題と位置付け、その先陣として「社会保障カード」「レセプトオンライン請求の義務化」の2011年4月の実施を急いている。

 この間、全国の保険医協会や全国保険医団体連合会、日本医師会など全ての医療団体は、保険医の診療報酬請求権、閉院を余儀なくされる地域の医療機関を守るため、レセプトオンライン請求の義務化に反対の立場を表明した。また、神奈川県保険医協会と大阪府保険医協会が中心となり、全国の保険医約2200名の原告団を形成し、「義務化撤回」を求めて国を相手に裁判を起こしている。

 これら医療側の要求に対し、医業に関わりのない方は、IT化は効率化やコスト削減など多様なメリットがあり、導入時のコスト面や手間など「医療側の都合」によって反対していると思われるかも知れない。

 

 しかしIT化とは、即ち「情報のデータ化」である。データ化された医療情報は個人が所有するのではなく、国や保険者が所有・管理することとなる。つまりは、個人の意思に関わらず、国民の医療情報が国や保険者によって使われる可能性が高く、また民間での活用も議論されている。これらの情報管理が行き過ぎた場合、国民に降りかかる負担・損失・危険は計り知れない。

 

 IT戦略本部の発表した戦略プラン、また専門調査会の議事録や関連資料などを紐解くと、医療IT化の裏側にはデータ化された国民の医療・健康情報の管理や分析により、医療費・医療給付などをコントロールし、最終的には個人の医療機関へのアクセス制限、医療サービスの制限など、米国のマネージドケアと同様の「管理医療制度」構築という、医療費抑制を最大の目的とした一大プロジェクトへのシナリオが見え隠れする。

 また、経済財政諮問会議や規制改革会議は、医療分野に止まらず、年金・介護など社会保障全体の総額管理、費用抑制を目的とした「社会保障個人会計」の導入を主張。骨太方針2006にも盛り込まれている。さらには、社会保障分野に「競争原理の導入」「民間分野の拡大」を主張し、とりわけ医療分野では「混合診療の解禁」「株式会社による病院運営の容認」を一貫して要求し続けている。要は、医療費抑制によって公的医療給付からはみ出た医療は自費診療に流し、そこに市場原理による競争を生み出そうとしている。いわば「医療の市場化」を狙っているのである。これらの目的達成のためには、IT化による国民一人ひとりの情報収集、情報管理が必要不可欠だ。そのため、政府は情報収集、情報管理のシステム構築の基盤として「社会保障カード」や「レセプトオンライン請求の義務化」を進めているのである。これが政府の医療IT戦略の狙いである。

 

 これら医療費抑制政策が実施された場合、公的医療給付の範囲が狭まり、必要な医療が受けられない"医療難民"がこれまで以上に増加する可能性は高い。また、所得による医療の格差を引き起こし、最終的には国民皆保険の崩壊を招く恐れさえある。

 経済危機や雇用・生活破壊、格差社会が深刻な社会問題となっている現在、いつでも誰もが平等に医療を受けられるセーフティネットとしての医療保障は、国民誰もが望む制度である。われわれは、生存権保障の「憲法25条」の理念に立脚した医療の堅持、拡充を推進するためにも、医療費抑制、医療の市場化を目的とした医療IT戦略、特に医療IT戦略の基盤となる「社会保障カード」「レセプトオンライン請求の義務化」に断固反対する。

 

 新政権の中心を担う民主党は、マニフェスト(インデックス)のなかで「税と社会保障制度共通の番号制度」の導入を盛り込んでいる。年金制度改革などの実現には政府が個人所得を把握する必要があると主張しているが、これが社会保障カード構想などと結びつき、保険料の支払い状況や納税状況と連動させ、個々の公的医療給付に制限をかけるなど、医療格差が生じる事態を招くことは断じてあってはならない。

 マニフェストの冒頭に記された「ひとつひとつの生命を大切にする」を偽りのものとせず、国民との対話のなかで最善の医療・社会保障制度のあり方を探り、国民の健康と幸福に寄与し、国民・医療者双方が納得できる「真の医療IT化」の実現に向けて国民的議論を深めるよう、新政権の真摯な対応を強く要望する。

2009年10月16日