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2010/1/14 政策部長談話「診療所の再診料引き下げで、医療崩壊は加速する 医師不足問題の解決へ、根拠ある報道を強く望む」

診療所の再診料引き下げで、医療崩壊は加速する

医師不足問題の解決へ、根拠ある報道を強く望む

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2010年度診療報酬の改定へ向け、意図的な報道が繰り返されている。昨年末に共同通信の配信により、「診療所の再診料引き下げ、病院と650円統一」の記事が多くの地方紙で報道された。また、主要マスコミや地方紙の社説で、「配分改革」が一斉に唱えられた。知る範囲での例外は北日本新聞のみである。「談合」の感すらあるこの同一色の報道は、2年前の再現でありデジャブ(既視感)を覚える。

 診療所の再診料の引き下げは、不十分ながらもプラス改定で抱いた今後への淡い期待さえも砕き、第一線医療の士気を確実に挫く。つまり救急や産科、小児科、外科に続き、一般医療における地滑り的な医療崩壊を招く。われわれは第一線医療を崩壊に導く再診料引き下げの策動に反論するとともに、報道の是正を強く求めるものである。

 前回08年改定も年末に「診療所の再診料引き下げ方針化」の配信記事が地方紙に掲載。年始に主要マスコミで報道され、再診料(外来管理加算)の算定制限導入となっており構図は同じである。

 今回も多くの社説は医師不足への事実認識や診療報酬の仕組みや性格に関して理解を欠いており、根拠も論理展開も拙劣であり、医師不足問題を再診料問題に矮小化していることが特徴である。

 そもそも、勤務医の過重負担が問題となる、ICU(集中治療室)やCCU、救急科のある地域の中核的な病院の多くは200床以上の病院であり、これらは再診時に「再診料」600円の算定はできない。算定する診療報酬は「外来診療料」700円である。診療所の「再診料」710円と対比されている病院の再診料は病床数で「20床から199床」までの中小病院が算定するものであり、対象となる患者は病院外来の3割強にすぎない。つまり、再診料の引き上げは多くの中核病院には何の意味もないことであり、病院医療全体にとってこの「配分見直し」は影響度が低く、議論として成立しないのである。

 病院は入院機能、診療所は外来機能を中心にその役割に沿って経済評価がなされるのが本道であり、病院経営に梃入れするのなら「入院基本料」を重点的に引き上げるべきである。

 基本的な問題を整理したい。診療報酬は、全ての医療機関が診療のたびに算定する『基本診療料』と個別技術等の実施の際に算定する『特掲診療料』の組み合せで算定する仕組みをとっている。『基本診療料』には初診料、再診料、外来診療料や入院基本料などが該当し、これらは診察などの基礎的診療行為のほか実質上、外来看護師などの人件費や医療機関の施設管理、光熱費などをまとめて包括評価したものである。『特掲診療料』は、検査料、処置料、注射料、指導管理料、手術などである。つまり、初診料、再診料、外来診療料、入院基本料は医療機関の評価の「土台」であり、くわえて外来患者の8割が再診患者であることを考えれば、再診料は診療所にとって根幹ともいうべきものである。事実、外来での初・再診料の診療報酬に占める割合は診療所では22.8%と重く、病院の11.1%の倍以上ある。(「H19社会医療診療行為別調査」)

 診療所の再診料を引き下げるならば第一線医療に深刻な影響が出ることは火を見るより明らかである。中医協の医療経済実態調査でも診療所の2割は収支差額が「0円未満」、つまり赤字であり医療の再生産が保障されていないのである。

 「一物二価」の是正なども中医協で議論されているが、「再診料」は技術・労働評価のみならず施設体制などのキャピタルコストも込み込みで包括評価されており、役割の違う病院と診療所での同等評価は必ずしも理があるわけではない。病院は、医師数や看護師数が外来と入院の患者数に応じて医療法で配置義務が課され、それを人的・物的評価をあわせ「入院基本料」で代表的に評価する仕組みがとられている。一方、診療所は人的・物的評価は「再診料」に全て凝集されており、同じ「再診料」でも病院と診療所では意味合いが違うのである。医薬品や血糖検査とは次元が違い、これらのような「一物一価」論が通用しないのである。

 だからこそ、政策的に病院は入院、診療所は外来を重視して評価するため格差がつけられてきたのである。

 点数格差による、病院への患者集中も執拗に報じられているが、既に見た様に中核病院の「外来診療料」700円と診療所の「再診料」710円の差は10円であり、患者負担(3割)の差は3円にすぎない。病院の「再診料」600円と診療所「再診料」の差も110円で患者負担の差は僅か33円である。厚労省の医療課長も、昨秋の事業仕分けの席上で、この点は仕分け人に明確に反論し、受療行動に影響するだろうかと疑問を呈してさえいる。

 現実は、外来患者1人あたりの医療費(日)は病院が9,540円、診療所が5,785円であり、患者負担は病院が2,862円、診療所1,735円となり、病院が1,127円も高いのである(「H19社会医療行為別調査」)。医療機関選択の要因は交通アクセスなどの近接性や、医療機器・設備、病態・病状によるのであり、病院への患者集中は患者の病院志向によるものである。再診料の格差と比べものにならないほど医療費の高い病院を患者は選択しているのである。

 医師不足問題の顕在化の理由は、80年代以降の低医療費政策、とりわけ98年度改定以降のマイナス改定の連続(計▲8.4%=1カ月分の収入相当の消失)、97年の医学部定員削減の閣議決定、06年度導入の臨床研修制度の性急な実施、医療保険制度の書類義務付け、インフォームド・コンセント等患者要求の変化への対応に大きく因っている。そもそも、欧米水準の2/3程度の医師数でしかないにもかかわらず、医療者の献身と自己犠牲で何とか支えてきたものが、これらにより決壊、医師不足の現実が露見、悲劇として現れることになったのであり、それが不採算部門であり訴訟リスクの高い救急や産科、小児科で崩壊となったのである。

 勤務医の負担は、給与の待遇問題に矮小化し多くの報道が論じているが、勤務医の負担軽減で効果があるものは、「常勤医師・非常勤医師の増加」「連続当直を行わない勤務体制」「当直翌日の残業なし」「事務作業補助の配置」であり、一方、負担が重いと感じている業務は「診断書等の記載」「主治医意見書の記載」である。(中医協「病院勤務医の負担軽減の実態調査」H21.4.15)。つまりは交代勤務が出来る体制の確保が負担軽減の鍵であり、昨今の医療保険制度の書類実務の義務付けが負担感を確実に増加させていることに問題がある。

 診療所間の「配分論」も再燃されているが、厚労省が昨年11月27日に示したように、皮膚科、眼科、整形の医療費シェアは数%と僅少で限界がある。しかも1診療所単位でみると、ここ8年(01年~08年度)で▲5%前後(「医療費の動向」)と経営体力がなくなっている。

 事実に立脚しない荒唐無稽な議論や、情報の検証や吟味を欠いた報道は百害あって一利なしである。改定で肝要なのは、技術・労働とモノの峻別評価と、モノ偏重の評価の是正にある。見識有る報道と、良識有る改定を強く望むものである。

2010年1月14

 

診療所の再診料引き下げで、医療崩壊は加速する

医師不足問題の解決へ、根拠ある報道を強く望む

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2010年度診療報酬の改定へ向け、意図的な報道が繰り返されている。昨年末に共同通信の配信により、「診療所の再診料引き下げ、病院と650円統一」の記事が多くの地方紙で報道された。また、主要マスコミや地方紙の社説で、「配分改革」が一斉に唱えられた。知る範囲での例外は北日本新聞のみである。「談合」の感すらあるこの同一色の報道は、2年前の再現でありデジャブ(既視感)を覚える。

 診療所の再診料の引き下げは、不十分ながらもプラス改定で抱いた今後への淡い期待さえも砕き、第一線医療の士気を確実に挫く。つまり救急や産科、小児科、外科に続き、一般医療における地滑り的な医療崩壊を招く。われわれは第一線医療を崩壊に導く再診料引き下げの策動に反論するとともに、報道の是正を強く求めるものである。

 前回08年改定も年末に「診療所の再診料引き下げ方針化」の配信記事が地方紙に掲載。年始に主要マスコミで報道され、再診料(外来管理加算)の算定制限導入となっており構図は同じである。

 今回も多くの社説は医師不足への事実認識や診療報酬の仕組みや性格に関して理解を欠いており、根拠も論理展開も拙劣であり、医師不足問題を再診料問題に矮小化していることが特徴である。

 そもそも、勤務医の過重負担が問題となる、ICU(集中治療室)やCCU、救急科のある地域の中核的な病院の多くは200床以上の病院であり、これらは再診時に「再診料」600円の算定はできない。算定する診療報酬は「外来診療料」700円である。診療所の「再診料」710円と対比されている病院の再診料は病床数で「20床から199床」までの中小病院が算定するものであり、対象となる患者は病院外来の3割強にすぎない。つまり、再診料の引き上げは多くの中核病院には何の意味もないことであり、病院医療全体にとってこの「配分見直し」は影響度が低く、議論として成立しないのである。

 病院は入院機能、診療所は外来機能を中心にその役割に沿って経済評価がなされるのが本道であり、病院経営に梃入れするのなら「入院基本料」を重点的に引き上げるべきである。

 基本的な問題を整理したい。診療報酬は、全ての医療機関が診療のたびに算定する『基本診療料』と個別技術等の実施の際に算定する『特掲診療料』の組み合せで算定する仕組みをとっている。『基本診療料』には初診料、再診料、外来診療料や入院基本料などが該当し、これらは診察などの基礎的診療行為のほか実質上、外来看護師などの人件費や医療機関の施設管理、光熱費などをまとめて包括評価したものである。『特掲診療料』は、検査料、処置料、注射料、指導管理料、手術などである。つまり、初診料、再診料、外来診療料、入院基本料は医療機関の評価の「土台」であり、くわえて外来患者の8割が再診患者であることを考えれば、再診料は診療所にとって根幹ともいうべきものである。事実、外来での初・再診料の診療報酬に占める割合は診療所では22.8%と重く、病院の11.1%の倍以上ある。(「H19社会医療診療行為別調査」)

 診療所の再診料を引き下げるならば第一線医療に深刻な影響が出ることは火を見るより明らかである。中医協の医療経済実態調査でも診療所の2割は収支差額が「0円未満」、つまり赤字であり医療の再生産が保障されていないのである。

 「一物二価」の是正なども中医協で議論されているが、「再診料」は技術・労働評価のみならず施設体制などのキャピタルコストも込み込みで包括評価されており、役割の違う病院と診療所での同等評価は必ずしも理があるわけではない。病院は、医師数や看護師数が外来と入院の患者数に応じて医療法で配置義務が課され、それを人的・物的評価をあわせ「入院基本料」で代表的に評価する仕組みがとられている。一方、診療所は人的・物的評価は「再診料」に全て凝集されており、同じ「再診料」でも病院と診療所では意味合いが違うのである。医薬品や血糖検査とは次元が違い、これらのような「一物一価」論が通用しないのである。

 だからこそ、政策的に病院は入院、診療所は外来を重視して評価するため格差がつけられてきたのである。

 点数格差による、病院への患者集中も執拗に報じられているが、既に見た様に中核病院の「外来診療料」700円と診療所の「再診料」710円の差は10円であり、患者負担(3割)の差は3円にすぎない。病院の「再診料」600円と診療所「再診料」の差も110円で患者負担の差は僅か33円である。厚労省の医療課長も、昨秋の事業仕分けの席上で、この点は仕分け人に明確に反論し、受療行動に影響するだろうかと疑問を呈してさえいる。

 現実は、外来患者1人あたりの医療費(日)は病院が9,540円、診療所が5,785円であり、患者負担は病院が2,862円、診療所1,735円となり、病院が1,127円も高いのである(「H19社会医療行為別調査」)。医療機関選択の要因は交通アクセスなどの近接性や、医療機器・設備、病態・病状によるのであり、病院への患者集中は患者の病院志向によるものである。再診料の格差と比べものにならないほど医療費の高い病院を患者は選択しているのである。

 医師不足問題の顕在化の理由は、80年代以降の低医療費政策、とりわけ98年度改定以降のマイナス改定の連続(計▲8.4%=1カ月分の収入相当の消失)、97年の医学部定員削減の閣議決定、06年度導入の臨床研修制度の性急な実施、医療保険制度の書類義務付け、インフォームド・コンセント等患者要求の変化への対応に大きく因っている。そもそも、欧米水準の2/3程度の医師数でしかないにもかかわらず、医療者の献身と自己犠牲で何とか支えてきたものが、これらにより決壊、医師不足の現実が露見、悲劇として現れることになったのであり、それが不採算部門であり訴訟リスクの高い救急や産科、小児科で崩壊となったのである。

 勤務医の負担は、給与の待遇問題に矮小化し多くの報道が論じているが、勤務医の負担軽減で効果があるものは、「常勤医師・非常勤医師の増加」「連続当直を行わない勤務体制」「当直翌日の残業なし」「事務作業補助の配置」であり、一方、負担が重いと感じている業務は「診断書等の記載」「主治医意見書の記載」である。(中医協「病院勤務医の負担軽減の実態調査」H21.4.15)。つまりは交代勤務が出来る体制の確保が負担軽減の鍵であり、昨今の医療保険制度の書類実務の義務付けが負担感を確実に増加させていることに問題がある。

 診療所間の「配分論」も再燃されているが、厚労省が昨年11月27日に示したように、皮膚科、眼科、整形の医療費シェアは数%と僅少で限界がある。しかも1診療所単位でみると、ここ8年(01年~08年度)で▲5%前後(「医療費の動向」)と経営体力がなくなっている。

 事実に立脚しない荒唐無稽な議論や、情報の検証や吟味を欠いた報道は百害あって一利なしである。改定で肝要なのは、技術・労働とモノの峻別評価と、モノ偏重の評価の是正にある。見識有る報道と、良識有る改定を強く望むものである。

2010年1月14