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2008/2/28 理事会声明「医療現場に無知な、羊頭狗肉の机上プラン 後期高齢者診療料(=登録医制)に抗す」

 医療現場に無知な、羊頭狗肉の机上プラン

後期高齢者診療料(=登録医制)に抗す

 

神奈川県保険医協会 理事会


 今次診療報酬改定で「後期高齢者診療料」が導入される。4月発足の後期高齢者医療制度の実質をなすこの給付は、"後期高齢者を総合的に診る"点数との美名のもと国民に流布されはじめている。この後期高齢者診療料は、粗診粗療と差別医療を強要する梃子であり、登録医制の緩やかな導入である。高齢者医療イコール症状安定医療との誤解、無理解、無知にもとづく低廉な定額払い点数は、現場混乱と高齢者に不幸を確実に招来させる。われわれは後期高齢者診療料に毅然と対処することを宣するとともに、"姥捨て山"政策のこの点数の採用を医療機関に望まぬよう、心から患者・国民に呼びかける。

 

 この「後期高齢者診療料」は「慢性疾患を総合的、継続的に主治医が診るための報酬」で、「1ヶ月に何回受診しても負担は変わらない」、「どんなに検査や処置を受けても負担は月600円で変わらない」と、非常によいもののように報道されている。しかし、内実は全く違っている。

 「後期高齢者診療料」は主病の1医療機関管理、年間診療計画の作成、医師の4日間の研修を要件に月6,000円と設定された。これは医学管理、検査、処置、画像診断の費用を包括したものである。

 4月実施の新医療制度、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度は06年度の老人医療費を基準に設計されている。それに照らすと、包括項目の医療費合計は7,716円(平成18年社会医療診療行為別調査)であり、6,000円は▲27%ととても低い水準である。しかも、この7,716円は平均像であり、肺炎など急性疾患や糖尿病の服薬管理の患者は、検査・レントゲンなど平均水準以上の医療費を実際に要しており、6,000円は極めて低い水準である。

 厚労省は昨夏以降、後期高齢者の外来診療のイメージとして年2回の血液検査、年1回のレントゲンと、非常に手薄な医療モデルを提示し議論を主導、診療計画書もこの医療内容で例示がなされてきた。この内容で試算をすると4,449円となり、多少、色をつけて6,000円となる。急性増悪の際に5,500円以上の検査・処置は別に算定できるとしたが汎用項目に該当はほとんどなく、超音波検査(5,300円)も別には算定できない。つまり医療内容軽視の報酬が実態なのである。

 採算割れのこの報酬に、既に医療現場では疑問と疑念が渦巻いている。

 

 そもそも、後期高齢者医療制度は、その医療給付である診療報酬は別建ての独立したものが検討されてきた。そして、それは制度の草案当初から「終末期に向かうための医療」の口実のもと、低廉で低額な包括報酬と観測され、報酬水準の低さが非常に心配されてきた。事実、06年の国会でこの問題が取り上げられ、厚労省は否定に躍起となっている。結局、路線転換が図られ一般の報酬の中での設定とされたが、制度創設の本願が高齢者医療の抑制であり、保険料滞納者の保険証返還(10割負担)と同様、"姥捨て山"政策は「後期高齢者診療料」にも貫徹されたのである。

 

 これら一連の後期高齢者政策の根底には高齢者医療への厚労省の無知、無理解が厳然とあり、演出される情報操作とあいまって犯罪的である。

 根本的問題として、年齢による医療内容の区分には理由がない。75歳を境に突然、病態が変化するのではない。高齢者は血管病変を特徴としており、脳血管疾患、心臓病、腎臓病と複数疾患を併発する。よって主病をひとつとし1医療機関で一元管理をするのには無理がある。

 また老人患者すべてが慢性疾患ではない。ガンの6割は65歳以上であり、その半分は75歳以上が占め、脳血管疾患の8割は65歳以上であり、その7割が75歳以上(医療費ベース:厚労省資料)である。急性疾患は多くあり、手薄い医療モデルは実態を歪曲している。

 しかも、後期高齢者は急変、急性症状を繰り返しやすく、予見不能であり年間の診療計画は無意味である。更には無熱性肺炎や無痛性心筋梗塞など、後期高齢者は症状や訴えが乏しいため診察・診断が難しいという医療の特性があり適正な診療報酬での評価は必須である。

 その上、糖尿病、循環器と医療機関が専門分化している現状を踏まえず、一元管理をする医療機関に向けた後期高齢者の心身特性や診療計画作成のため4日間の研修を行うとしているが、実効性や研修効果が非常に疑問である。

 

 この「後期高齢者診療料」は、一昨年の国保中央会の登録医制導入の提案と軌を一にして具体化がはかられてきた。最終的に「総合医」や「高齢者担当医」など登録医を連想させる名称使用は断念したが、実質はとった格好となっている。国保中央会は、法制化を先頃、唱え始めてもいる。

 厚労省医療課との懇談・交渉では、再三再四、「患者が選ぶ」と官僚諸氏は強調した。マスコミを通じ、主治医を決めると執拗に流されてきた。患者と医療機関を「1対1」の関係性に縛り一元管理としフリーアクセスを奪っていく企図は透けている。「後期高齢者医療診療報酬Q&A」を急遽出し、フリーアクセスを否定するものではないと周知した厚労省の姿は、その証左でもある。

 「後期高齢者診療料」の医療機関は、ほかの医療機関との連携調整をし重複投薬の是正も役割として担わされるが、手間ひまの問題から実質的には他科の薬剤も当該医療機関で処方するようになる可能性が高い。一元管理の仕組みは織り込み済みなのである。

 

 以上にみるように「後期高齢者診療料」は総合的に診るとの美名のもと、患者に大いなる幻想と誤解を抱かせ、医療現場には粗診粗療を強要する、欺瞞に満ちた「偽装」制度である。よって「後期高齢者診療料」の医療機関での採用や患者からの希望は、現場混乱と現場矛盾を悲惨なものにしていくことは火を見るより明らかである。

 当会の会員調査では既に県内の8割の開業医が反対を表明している。

 

 われわれは、高齢者がいつでも、どこでも、誰でもが医療機関にかかれ、われわれも治療に最善をつくせるよう、この「後期高齢者診療料」に眩惑されず、出来高報酬を堅持していくことを改めて表明する。

2008年2月28日

 

 医療現場に無知な、羊頭狗肉の机上プラン

後期高齢者診療料(=登録医制)に抗す

 

神奈川県保険医協会 理事会


 今次診療報酬改定で「後期高齢者診療料」が導入される。4月発足の後期高齢者医療制度の実質をなすこの給付は、"後期高齢者を総合的に診る"点数との美名のもと国民に流布されはじめている。この後期高齢者診療料は、粗診粗療と差別医療を強要する梃子であり、登録医制の緩やかな導入である。高齢者医療イコール症状安定医療との誤解、無理解、無知にもとづく低廉な定額払い点数は、現場混乱と高齢者に不幸を確実に招来させる。われわれは後期高齢者診療料に毅然と対処することを宣するとともに、"姥捨て山"政策のこの点数の採用を医療機関に望まぬよう、心から患者・国民に呼びかける。

 

 この「後期高齢者診療料」は「慢性疾患を総合的、継続的に主治医が診るための報酬」で、「1ヶ月に何回受診しても負担は変わらない」、「どんなに検査や処置を受けても負担は月600円で変わらない」と、非常によいもののように報道されている。しかし、内実は全く違っている。

 「後期高齢者診療料」は主病の1医療機関管理、年間診療計画の作成、医師の4日間の研修を要件に月6,000円と設定された。これは医学管理、検査、処置、画像診断の費用を包括したものである。

 4月実施の新医療制度、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度は06年度の老人医療費を基準に設計されている。それに照らすと、包括項目の医療費合計は7,716円(平成18年社会医療診療行為別調査)であり、6,000円は▲27%ととても低い水準である。しかも、この7,716円は平均像であり、肺炎など急性疾患や糖尿病の服薬管理の患者は、検査・レントゲンなど平均水準以上の医療費を実際に要しており、6,000円は極めて低い水準である。

 厚労省は昨夏以降、後期高齢者の外来診療のイメージとして年2回の血液検査、年1回のレントゲンと、非常に手薄な医療モデルを提示し議論を主導、診療計画書もこの医療内容で例示がなされてきた。この内容で試算をすると4,449円となり、多少、色をつけて6,000円となる。急性増悪の際に5,500円以上の検査・処置は別に算定できるとしたが汎用項目に該当はほとんどなく、超音波検査(5,300円)も別には算定できない。つまり医療内容軽視の報酬が実態なのである。

 採算割れのこの報酬に、既に医療現場では疑問と疑念が渦巻いている。

 

 そもそも、後期高齢者医療制度は、その医療給付である診療報酬は別建ての独立したものが検討されてきた。そして、それは制度の草案当初から「終末期に向かうための医療」の口実のもと、低廉で低額な包括報酬と観測され、報酬水準の低さが非常に心配されてきた。事実、06年の国会でこの問題が取り上げられ、厚労省は否定に躍起となっている。結局、路線転換が図られ一般の報酬の中での設定とされたが、制度創設の本願が高齢者医療の抑制であり、保険料滞納者の保険証返還(10割負担)と同様、"姥捨て山"政策は「後期高齢者診療料」にも貫徹されたのである。

 

 これら一連の後期高齢者政策の根底には高齢者医療への厚労省の無知、無理解が厳然とあり、演出される情報操作とあいまって犯罪的である。

 根本的問題として、年齢による医療内容の区分には理由がない。75歳を境に突然、病態が変化するのではない。高齢者は血管病変を特徴としており、脳血管疾患、心臓病、腎臓病と複数疾患を併発する。よって主病をひとつとし1医療機関で一元管理をするのには無理がある。

 また老人患者すべてが慢性疾患ではない。ガンの6割は65歳以上であり、その半分は75歳以上が占め、脳血管疾患の8割は65歳以上であり、その7割が75歳以上(医療費ベース:厚労省資料)である。急性疾患は多くあり、手薄い医療モデルは実態を歪曲している。

 しかも、後期高齢者は急変、急性症状を繰り返しやすく、予見不能であり年間の診療計画は無意味である。更には無熱性肺炎や無痛性心筋梗塞など、後期高齢者は症状や訴えが乏しいため診察・診断が難しいという医療の特性があり適正な診療報酬での評価は必須である。

 その上、糖尿病、循環器と医療機関が専門分化している現状を踏まえず、一元管理をする医療機関に向けた後期高齢者の心身特性や診療計画作成のため4日間の研修を行うとしているが、実効性や研修効果が非常に疑問である。

 

 この「後期高齢者診療料」は、一昨年の国保中央会の登録医制導入の提案と軌を一にして具体化がはかられてきた。最終的に「総合医」や「高齢者担当医」など登録医を連想させる名称使用は断念したが、実質はとった格好となっている。国保中央会は、法制化を先頃、唱え始めてもいる。

 厚労省医療課との懇談・交渉では、再三再四、「患者が選ぶ」と官僚諸氏は強調した。マスコミを通じ、主治医を決めると執拗に流されてきた。患者と医療機関を「1対1」の関係性に縛り一元管理としフリーアクセスを奪っていく企図は透けている。「後期高齢者医療診療報酬Q&A」を急遽出し、フリーアクセスを否定するものではないと周知した厚労省の姿は、その証左でもある。

 「後期高齢者診療料」の医療機関は、ほかの医療機関との連携調整をし重複投薬の是正も役割として担わされるが、手間ひまの問題から実質的には他科の薬剤も当該医療機関で処方するようになる可能性が高い。一元管理の仕組みは織り込み済みなのである。

 

 以上にみるように「後期高齢者診療料」は総合的に診るとの美名のもと、患者に大いなる幻想と誤解を抱かせ、医療現場には粗診粗療を強要する、欺瞞に満ちた「偽装」制度である。よって「後期高齢者診療料」の医療機関での採用や患者からの希望は、現場混乱と現場矛盾を悲惨なものにしていくことは火を見るより明らかである。

 当会の会員調査では既に県内の8割の開業医が反対を表明している。

 

 われわれは、高齢者がいつでも、どこでも、誰でもが医療機関にかかれ、われわれも治療に最善をつくせるよう、この「後期高齢者診療料」に眩惑されず、出来高報酬を堅持していくことを改めて表明する。

2008年2月28日