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2011/12/8 政策部長談話「大学病院、大病院の『初診料・再診料外し』が浮上!裏ワザ駆使し財源捻出する厚労省の失政を問う」

大学病院、大病院の「初診料・再診料外し」が浮上!

裏ワザ駆使し財源捻出する厚労省の失政を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 12月1日、社保審医療保険部会は社会保障改革のメニューのひとつ、受診時定額負担の導入に関し両論併記とし、民主党内部での導入断念の判断に抵抗を示した。しかも、11月30日の中医協には大学病院をはじめ500床以上の拠点病院の初診料・再診料を保険から外し自費で差額負担とする、新たな財源捻出方法を提案し用意周到さを見せた。受診時定額負担は患者負担の上限(=高額療養費制度)の適用水準引き下げの財源捻出策としてセットで提案されているが、黄信号が灯るや否や、両睨みの施策に転じる点では、ここに厚労省もタダでは起きない不屈さと狡知が見える。民主党の判断は、医療界に燎原の火のごとく広がった反対運動を反映したものであり、当会の「上乗せ免責制」との指摘をはじめ、「皆保険を壊す」との危機意識を踏まえた良識である。大病院の初診料、再診料の保険外しと受診時定額負担導入は幾重もの思惑がらみの施策であり、現物給付原則を形骸化させる梃子となっていく。われわれは、この企図の撤回を強く求める。

 

 受診時定額負担は高額療養費制度の適用水準引き下げとセットで「財政中立」の制約のもと検討されてきた感があるが、実は社保審医療保険部会では「外来診療の適正化」方策と抱きあわせで議論(9月16日)されてきてもいる。税・社会保障の一体改革(閣議報告)での「外来診療の適正化」とは外来患者の5%削減である。つまり医療費8,000億円削減が目標となっている。

 「外来診療の適正化」の文脈の議論では、受診時定額負担の代替として"大病院の外来受診時のみ定額負担"が提示されている。また具体策として、大病院の紹介状なしでの受診(初診・再診)の際に、患者が2,000円程度の自費料金の上乗せとなる現在の仕組み(=選定療養)を例に引き、これを改変し保険財政に資する仕組みとすることが提案されていた。

 

 11月30日の中医協では、患者紹介率の高い大学病院等(=特定機能病院)は、医師一人当たりの患者数が少ないとの資料を提示。論点として、「病院勤務医の負担軽減を図るために、紹介なしに地域の拠点病院を受診した患者」の「初診料、再診料(外来診療料)を適正な評価」へ点数を引き下げ、引き下げた分の「費用を患者から(医療機関が)徴収する」ことが提案されている。究極の適正評価は0円、つまりは保険外しであり、初診料・再診料の自費化となる。よって、紹介なしで拠点病院(500床以上)に受診した際に、初診時に患者は5,000円程度の自費負担が3割負担にプラスとなる。月単位でみれば、実質6割近い負担となり事実上、外来受診の断念となる。

 入院・外来の病診での完全な機能分担は、厚労省の宿願であり、12月1日の厚労省と当会・保団連との交渉の席上、初診料、再診料の保険外しの企図について官僚は完全には否定していない。

 

 中医協資料がいう一人当たりの初診患者数が少ないということは、勤務医の労働時間が短いことや労働密度が低いことを意味してはいない。人数が単に少ないというだけである。

 500床以上の拠点病院は全国で426(H20年医療施設調査)あり、年間に算定する初診料・再診料(外来診療料金)は合計で400億円(診療行為別調査)である。長瀬式で6割負担の場合の受診率は32.8%、大学病院等の「紹介なし」患者は外来で56%、500床以上の病院の外来医療費は1.2兆円なので、受診抑制等による医療費削減は5千億円(≒1.2兆円×0.56×(1-0.328)+0.04兆円)となる。

 医療は、現物給付であり、初再診からはじまる一連の医療を診療報酬で対価評価している。初再診料の保険外しは、現物給付の根本を崩す。またこの大病院での外来の受診規制が一旦導入されると、初診料・再診料の算定操作が診療所まで波及拡大し、これを軸に紹介・逆紹介を要件とした系列化が進展する危険性が非常に高い。

 

 医療界の怨嗟の的、受診時定額負担は「上乗せ免責制」であり、3割を限度とした健保法附則違反、、負担増の「打ち出の小槌」、番号制を通じた定率負担の事後精算や死後精算(リバースモゲージ)も見え隠れする代物である。高額療養費の見直しの必要額は当初2,600億円であり、これが4,100億円(うち公費1,300億円)へと変転を重ね、財源手当てとされた受診時定額負担は受診抑制による2,000億円削減をあてこんでいる。

 

 高額療養費の適用水準(=患者負担上限)の引き下げ、患者救済が問題となるのは、3割負担が過重だからであり、いわば構造的な問題である。既に、患者調査(05年→08年)で外来23万人、入院7万人が減少、社会保障・人口問題基本調査(07年)でも病気で受診出来なかった世帯が全世帯の2%、実に105万世帯252万人に上ったことが明らかになっている。ここに「重荷」を乗せても患者は救済されない。患者負担の引き下げが道理であり、日医も「窓口負担はないほうがいい」と主張し、「医療費の窓口負担ゼロの会」が脚光を浴びる時代情況となっているのである。

 受診時定額負担にこだわり、大病院の初診料・再診料の保険外しも企図する、厚労省の姿勢は患者によりそっているとは到底思えない。高額療養費は口実に利用されているとの疑念さえ抱く。

 

 受診抑制・治療中断は、病状の悪化、重症化となり、結果的に医療費は嵩むこととなる。米国以外に先進国に類例のない過重な3割負担は、「社会保障」とは相容れず、明らかに失政である。このまま突き進めば、医療も「商品化」が先鋭化し、公的保険の民間保険による補完、公的保険と民間保険の共存となり、いずれTPPで日本の社会保障の土台が揺るがされることとなる。

 

 改めるにしかず。愚を重ねることなく、厚生労働の名にふさわしい獅子奮迅を期待する。

2011年12月8日

<参考> 2011年9月16日 社会保障審議会医療保険部会資料

2011年9月16日 社会保障審議会医療保険部会資料

大学病院、大病院の「初診料・再診料外し」が浮上!

裏ワザ駆使し財源捻出する厚労省の失政を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 12月1日、社保審医療保険部会は社会保障改革のメニューのひとつ、受診時定額負担の導入に関し両論併記とし、民主党内部での導入断念の判断に抵抗を示した。しかも、11月30日の中医協には大学病院をはじめ500床以上の拠点病院の初診料・再診料を保険から外し自費で差額負担とする、新たな財源捻出方法を提案し用意周到さを見せた。受診時定額負担は患者負担の上限(=高額療養費制度)の適用水準引き下げの財源捻出策としてセットで提案されているが、黄信号が灯るや否や、両睨みの施策に転じる点では、ここに厚労省もタダでは起きない不屈さと狡知が見える。民主党の判断は、医療界に燎原の火のごとく広がった反対運動を反映したものであり、当会の「上乗せ免責制」との指摘をはじめ、「皆保険を壊す」との危機意識を踏まえた良識である。大病院の初診料、再診料の保険外しと受診時定額負担導入は幾重もの思惑がらみの施策であり、現物給付原則を形骸化させる梃子となっていく。われわれは、この企図の撤回を強く求める。

 

 受診時定額負担は高額療養費制度の適用水準引き下げとセットで「財政中立」の制約のもと検討されてきた感があるが、実は社保審医療保険部会では「外来診療の適正化」方策と抱きあわせで議論(9月16日)されてきてもいる。税・社会保障の一体改革(閣議報告)での「外来診療の適正化」とは外来患者の5%削減である。つまり医療費8,000億円削減が目標となっている。

 「外来診療の適正化」の文脈の議論では、受診時定額負担の代替として"大病院の外来受診時のみ定額負担"が提示されている。また具体策として、大病院の紹介状なしでの受診(初診・再診)の際に、患者が2,000円程度の自費料金の上乗せとなる現在の仕組み(=選定療養)を例に引き、これを改変し保険財政に資する仕組みとすることが提案されていた。

 

 11月30日の中医協では、患者紹介率の高い大学病院等(=特定機能病院)は、医師一人当たりの患者数が少ないとの資料を提示。論点として、「病院勤務医の負担軽減を図るために、紹介なしに地域の拠点病院を受診した患者」の「初診料、再診料(外来診療料)を適正な評価」へ点数を引き下げ、引き下げた分の「費用を患者から(医療機関が)徴収する」ことが提案されている。究極の適正評価は0円、つまりは保険外しであり、初診料・再診料の自費化となる。よって、紹介なしで拠点病院(500床以上)に受診した際に、初診時に患者は5,000円程度の自費負担が3割負担にプラスとなる。月単位でみれば、実質6割近い負担となり事実上、外来受診の断念となる。

 入院・外来の病診での完全な機能分担は、厚労省の宿願であり、12月1日の厚労省と当会・保団連との交渉の席上、初診料、再診料の保険外しの企図について官僚は完全には否定していない。

 

 中医協資料がいう一人当たりの初診患者数が少ないということは、勤務医の労働時間が短いことや労働密度が低いことを意味してはいない。人数が単に少ないというだけである。

 500床以上の拠点病院は全国で426(H20年医療施設調査)あり、年間に算定する初診料・再診料(外来診療料金)は合計で400億円(診療行為別調査)である。長瀬式で6割負担の場合の受診率は32.8%、大学病院等の「紹介なし」患者は外来で56%、500床以上の病院の外来医療費は1.2兆円なので、受診抑制等による医療費削減は5千億円(≒1.2兆円×0.56×(1-0.328)+0.04兆円)となる。

 医療は、現物給付であり、初再診からはじまる一連の医療を診療報酬で対価評価している。初再診料の保険外しは、現物給付の根本を崩す。またこの大病院での外来の受診規制が一旦導入されると、初診料・再診料の算定操作が診療所まで波及拡大し、これを軸に紹介・逆紹介を要件とした系列化が進展する危険性が非常に高い。

 

 医療界の怨嗟の的、受診時定額負担は「上乗せ免責制」であり、3割を限度とした健保法附則違反、、負担増の「打ち出の小槌」、番号制を通じた定率負担の事後精算や死後精算(リバースモゲージ)も見え隠れする代物である。高額療養費の見直しの必要額は当初2,600億円であり、これが4,100億円(うち公費1,300億円)へと変転を重ね、財源手当てとされた受診時定額負担は受診抑制による2,000億円削減をあてこんでいる。

 

 高額療養費の適用水準(=患者負担上限)の引き下げ、患者救済が問題となるのは、3割負担が過重だからであり、いわば構造的な問題である。既に、患者調査(05年→08年)で外来23万人、入院7万人が減少、社会保障・人口問題基本調査(07年)でも病気で受診出来なかった世帯が全世帯の2%、実に105万世帯252万人に上ったことが明らかになっている。ここに「重荷」を乗せても患者は救済されない。患者負担の引き下げが道理であり、日医も「窓口負担はないほうがいい」と主張し、「医療費の窓口負担ゼロの会」が脚光を浴びる時代情況となっているのである。

 受診時定額負担にこだわり、大病院の初診料・再診料の保険外しも企図する、厚労省の姿勢は患者によりそっているとは到底思えない。高額療養費は口実に利用されているとの疑念さえ抱く。

 

 受診抑制・治療中断は、病状の悪化、重症化となり、結果的に医療費は嵩むこととなる。米国以外に先進国に類例のない過重な3割負担は、「社会保障」とは相容れず、明らかに失政である。このまま突き進めば、医療も「商品化」が先鋭化し、公的保険の民間保険による補完、公的保険と民間保険の共存となり、いずれTPPで日本の社会保障の土台が揺るがされることとなる。

 

 改めるにしかず。愚を重ねることなく、厚生労働の名にふさわしい獅子奮迅を期待する。

2011年12月8日

<参考> 2011年9月16日 社会保障審議会医療保険部会資料

2011年9月16日 社会保障審議会医療保険部会資料