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2010/2/10 政策部長談話「第一線医療の軽視 道理のない診療所再診料▲3%に抗議する 検査・処置▲400億円 診療所の選別・淘汰改定」

第一線医療の軽視 道理のない診療所再診料▲3%に抗議する

検査・処置▲400億円 診療所の選別・淘汰改定

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 中医協は2010年2月10日、公益裁定で再診料を病診とも690円統一とし、診療所の再診料710円を20円下げることとした。改定率、実質0.03%、医科外来は▲1.22%の下、更に再診料を▲2.7%(▲200億円)と下げた。これ以外も既に、検体検査・処置で▲400億円と示されているほか、外来管理加算の完全復元と「5分ルール」過剰削減額2,000億円の精算が反故とされており、第一線医療を担う診療所の経営基盤を確実に崩す改定となった。われわれは、医療再建への見識と構想力を欠いたこの改定に強く抗議する。

 

 既に再三指摘したが、そもそも診療所は外来、病院は入院、とその機能に応じ、前者は初診料・再診料、後者は入院基本料の評価を重点に置くべきものであり、診療所が下げられる道理は全くない。しかも、中小病院の再診料を引き上げて診療所に合せるのに要す220億円は今次改定の外来財源400億円で十分賄うことが可能であった。支払側が主張し続けた「一物二価」是正も、大病院の再診料(=外来診療料)に無理解な牽強付会にすぎなかったのである。

 当初再診料は650円統一が報道で流れ、当会はその際に新たに500億円が浮くことを指摘し、政務官の口にした外来の化学療法は必要規模が小さいことを指摘した。

 

 2月5日の中医協で配布された資料「外来に関する財源」(厚労省ホームページに未掲載)では、新たに外来で評価するものは「地域連携夜間・休日診療料」などで必要額650億円とされ、改定財源400億円では足りず、新たに検体検査・処置の「適正化」(▲400億円の引下げ)で400億円を捻出、合計800億円で650億円を賄い、残150億円とされた。この時点で、710円統一に70億円足りないものの、診療所を下げずに中小病院の再診料を700円とし大病院の再診料700円と揃えることは可能だった。

 それにもかかわらず、診療所を下げた。下げ幅▲20円は、▲2.7%と改定率より落ち込みも大きく、財源規模も▲200億円と大きい。診療所の医師の精神的・心理的なダメージは計り知れない。

 しかも、この690円統一により新たに20億円が浮き、先の残り150億円とあわせ170億円の財源が「使途不明金」となっている。

 

 また新たな評価(650億円)として盛られた項目はこの必要額の規模が怪しい。既存項目で上げられている小児救急外来、往診は現在の規模が各々220億円、70億円であり10%増としても必要額はたかが知れている。新設の「地域連携夜間・休日診療料」は中小病院を念頭にしているが15:1入院基本料の引下げで実効性と規模が不確かだ。このほか在宅・訪問看護関係、新規技術、検査と並んでいるが不透明感は拭えない。

 

 「選択と集中」は、2003年の患者負担3割導入以降の一貫した財務省・厚労省の方針であり、今次改定も社保審方針に同様に掲げられ、大病院・急性期入院偏重が強化されている。90年代からの中小病院の再編整理により、この間、多くの中小病院が倒産・閉院した。当然、これまで入院していた患者が在宅に追い出されたということであり、急変時は救急車が呼ばれ救急患者となって病院に向かうのは必然である。病院病床の削減と救急患者の増加は逆相関傾向もみられ、救急患者の半数は高齢者である。

 

 在宅重視、休日・夜間も、医療機関の経営体力がなければ画餅である。都市圏での土地高騰は、かつての医療機関の職住一体を不可能にし、職住分離が大半となった現実や、既に多くの診療所の医師が地域の夜間休日急患診療所に出動している事実を理解する必要がある。在宅医療も家族介護を前提にした体制であり限界がある。

 

 今次改定は、官僚の描く診療連携や系列化、地域包括化、診療ガイドライン化、他院受診入院患者の給付限定化など、診療所の再編淘汰や裁量権否定、給付の一元管理が随所に見られる。また、法律改定抜きの薬局への処方権付与、明細書発行義務化による窓口混乱化と、医療再建とは逆行している。

 

 病気が減らなければ医療費は本当の意味で適正化しない。患者を病院から自宅に移動させ、保険給付を絞り、公的保険で診る領域を縮小することでは、医療再建は成しえない。資源の集中でも解決しない。

 まずは、低医療費政策を抜本的に改めることである。また、厚労省に集積されている健康づくり、糖尿病や循環器疾患の二次予防のための多くの医療実践やモデル事業の成功例を、真摯に分析し活かすことである。

 医療費水準は診療の内容と質と安全を保障するものでなければならない。

 

 労働集約性の高い医療は医療者の士気・意欲が何よりも大事である。中小病院淘汰の愚に続き、診療所淘汰に走った政策は、いずれ大きなしっぺ返しを伴う。いまなら、まだ間に合う。政治の力を信じたい。

2010年2月10日

 

第一線医療の軽視 道理のない診療所再診料▲3%に抗議する

検査・処置▲400億円 診療所の選別・淘汰改定

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 中医協は2010年2月10日、公益裁定で再診料を病診とも690円統一とし、診療所の再診料710円を20円下げることとした。改定率、実質0.03%、医科外来は▲1.22%の下、更に再診料を▲2.7%(▲200億円)と下げた。これ以外も既に、検体検査・処置で▲400億円と示されているほか、外来管理加算の完全復元と「5分ルール」過剰削減額2,000億円の精算が反故とされており、第一線医療を担う診療所の経営基盤を確実に崩す改定となった。われわれは、医療再建への見識と構想力を欠いたこの改定に強く抗議する。

 

 既に再三指摘したが、そもそも診療所は外来、病院は入院、とその機能に応じ、前者は初診料・再診料、後者は入院基本料の評価を重点に置くべきものであり、診療所が下げられる道理は全くない。しかも、中小病院の再診料を引き上げて診療所に合せるのに要す220億円は今次改定の外来財源400億円で十分賄うことが可能であった。支払側が主張し続けた「一物二価」是正も、大病院の再診料(=外来診療料)に無理解な牽強付会にすぎなかったのである。

 当初再診料は650円統一が報道で流れ、当会はその際に新たに500億円が浮くことを指摘し、政務官の口にした外来の化学療法は必要規模が小さいことを指摘した。

 

 2月5日の中医協で配布された資料「外来に関する財源」(厚労省ホームページに未掲載)では、新たに外来で評価するものは「地域連携夜間・休日診療料」などで必要額650億円とされ、改定財源400億円では足りず、新たに検体検査・処置の「適正化」(▲400億円の引下げ)で400億円を捻出、合計800億円で650億円を賄い、残150億円とされた。この時点で、710円統一に70億円足りないものの、診療所を下げずに中小病院の再診料を700円とし大病院の再診料700円と揃えることは可能だった。

 それにもかかわらず、診療所を下げた。下げ幅▲20円は、▲2.7%と改定率より落ち込みも大きく、財源規模も▲200億円と大きい。診療所の医師の精神的・心理的なダメージは計り知れない。

 しかも、この690円統一により新たに20億円が浮き、先の残り150億円とあわせ170億円の財源が「使途不明金」となっている。

 

 また新たな評価(650億円)として盛られた項目はこの必要額の規模が怪しい。既存項目で上げられている小児救急外来、往診は現在の規模が各々220億円、70億円であり10%増としても必要額はたかが知れている。新設の「地域連携夜間・休日診療料」は中小病院を念頭にしているが15:1入院基本料の引下げで実効性と規模が不確かだ。このほか在宅・訪問看護関係、新規技術、検査と並んでいるが不透明感は拭えない。

 

 「選択と集中」は、2003年の患者負担3割導入以降の一貫した財務省・厚労省の方針であり、今次改定も社保審方針に同様に掲げられ、大病院・急性期入院偏重が強化されている。90年代からの中小病院の再編整理により、この間、多くの中小病院が倒産・閉院した。当然、これまで入院していた患者が在宅に追い出されたということであり、急変時は救急車が呼ばれ救急患者となって病院に向かうのは必然である。病院病床の削減と救急患者の増加は逆相関傾向もみられ、救急患者の半数は高齢者である。

 

 在宅重視、休日・夜間も、医療機関の経営体力がなければ画餅である。都市圏での土地高騰は、かつての医療機関の職住一体を不可能にし、職住分離が大半となった現実や、既に多くの診療所の医師が地域の夜間休日急患診療所に出動している事実を理解する必要がある。在宅医療も家族介護を前提にした体制であり限界がある。

 

 今次改定は、官僚の描く診療連携や系列化、地域包括化、診療ガイドライン化、他院受診入院患者の給付限定化など、診療所の再編淘汰や裁量権否定、給付の一元管理が随所に見られる。また、法律改定抜きの薬局への処方権付与、明細書発行義務化による窓口混乱化と、医療再建とは逆行している。

 

 病気が減らなければ医療費は本当の意味で適正化しない。患者を病院から自宅に移動させ、保険給付を絞り、公的保険で診る領域を縮小することでは、医療再建は成しえない。資源の集中でも解決しない。

 まずは、低医療費政策を抜本的に改めることである。また、厚労省に集積されている健康づくり、糖尿病や循環器疾患の二次予防のための多くの医療実践やモデル事業の成功例を、真摯に分析し活かすことである。

 医療費水準は診療の内容と質と安全を保障するものでなければならない。

 

 労働集約性の高い医療は医療者の士気・意欲が何よりも大事である。中小病院淘汰の愚に続き、診療所淘汰に走った政策は、いずれ大きなしっぺ返しを伴う。いまなら、まだ間に合う。政治の力を信じたい。

2010年2月10日