神奈川県保険医協会とは
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2010/5/21 政策部長談話「保険外併用療養費の拡大は、混合診療の解禁ということ 皆保険を崩し、医療の安全を損なう規制改革の撤回を求む」
保険外併用療養費の拡大は、混合診療の解禁ということ
皆保険を崩し、医療の安全を損なう規制改革の撤回を求む
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
政府の行政刷新会議の規制改革ワーキンググループ(WG)は、報告書の6月発表に向け、保険外併用療養費の拡大を提案する方向で議論を進めている。おりしも民主党の「地域主権・規制改革研究会」は保険外併用療養の拡大を素案としてまとめ、参院選挙のマニフェストへ盛り込むか否かを検討する段階にある。
保険外併用療養費とは、04年秋の混合診療騒動の末に法制化された、混合診療の枠組みであり、この適用範囲拡大は、混合診療の全面解禁へ大きく歩を進めることになる。われわれは皆保険を守るとした政権公約に沿い、医療や安全への規制緩和を見直すことを約し、保険外併用療養費の拡大を撤回するよう求める。
混合診療とは、保険外と保険診療の併用であり、法的には現物給付の「療養の給付」を金銭支給の「療養費」構成に転換し、療養担当規則第18条の特殊療法の禁止などを解除することである。
現在、04年の騒動を経て、今後生じる混合診療の具体的要求すべてに対応する枠組みとして、療養費構成の「保険外併用療養費」が06年の医療改革で法制化されている。そして併用する保険外は、保険導入の検討対象とする「評価療養」と、検討対象としない「選定療養」に大別され、前者は先進医療、未承認の医薬品や医療機器、後者は差額ベッド、180日超入院などが該当している。
つまり、先進医療や医薬品は、厚労省の管理下で既に混合診療が認められている。しかも先進医療は従来、技術と実施医療機関を1対1の関係性で大臣承認していたものを、05年以降は技術ごとに施設基準(医師の経験年数や数、施設規模・設備など)を要件化し、満たした医療機関が都道府県の社会保険事務局(現在は地方厚生局)に届出すれば実施可能と、大幅に緩和した。また未承認の医薬品は治験実施中から治験終了・薬事承認申請、薬事承認、保険適用までのすべての段階・期間を一気通貫で、保険外併用が可能とした。適用外使用にいたっては薬務局の二課長通知(文献的に効能効果が公知)により治験省略で併用可能となっている。
これら、保険外の先進医療や未承認薬の併用は、施設基準や治験(新GCP)など、少なくとも有効性・安全性の担保が条件となっている。
しかし、事態は大きく変化し、この逸脱が既に始まっている。08年4月に高度医療評価制度が作られ、法令に則らずに、治験未実施の医薬品・医療機器を使用した先進医療を大学病院等で展開できる仕組みができ、「第3項先進医療」として保険外併用療養費の対象となった。また同年3月には「人道的使用」(コンパッショネート・ユース)の美名の下、治験未実施の未承認薬の使用を医師の自己責任で生活保護患者への実施を認める通知が援護局からだされ制度化されている。
治験とは厳格な新GCP(治験実施基準:法令)に則り被験者同意、被害や副作用の際の補償など人権に配慮し、データ集積とともに有効性と安全性を確認する臨床試験である。また民族差による医薬品の吸収・分解・効果・効能などの相違を踏まえ、日本人による国内治験は未承認薬の承認に必須となっている。ちなみに高度医療評価制度の蓄積データは、治験データに使用できないことは厚労省さえ認めている。つまり安全性・有効性を度外視した制度がスタートし、着実に進展している。
4月末の行政刷新会議の規制・制度改革分科会の中間とりまとめでは、保険外併用療養の範囲の拡大をするとし、(1)IRB(治験審査委員会)の構成要件を満たす倫理審査委員会を設置している医療機関で、同委員会が認めた技術、(2)未承認薬のコンパッショネート・ユースが挙げられている。
前者はいわゆる「医療機関特区」である。これは現行の先進医療専門家会議での「施設基準」の設定というフィルターをかけずに、しかも第三者ではない医療機関内部の倫理審査委員会がOKを出せば保険診療との併用ができるということである。いわば「お手盛り」で混合診療が可能となる。
倫理審査委員会は指針はあるものの法令による定めはなく千差万別であり、近年も東大医科研で研究論文の倫理審査委員会の無審査・虚偽記載が明らかになっており、「お手盛り」懸念は払拭されない。
コンパッショネート・ユースも07年7月に「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」(医薬食品局管轄)が欧米にならい制度化を提唱したものの放置されていた代物である。これは未承認薬の海外からの輸入・国内での販売などの供給体制、医薬品の品質管理、被害・副作用の際の補償など、制度化にあたり解決すべき問題が多岐にわたり、単純に保険外併用のメニューに加えればよいという話ではない。「人道的使用」の美名で、保険診療の制度を侵食しようとしている感が非常に強い。
上記、いずれも安全性・有効性のない医薬品・医療機器の使用が、大学病院から市中の医療機関に広がっていく。この集積データは治験には繋がらず、未承認の医薬品・医療機器は放置され、当然保険診療に導入されずに、保険外=自由料金のままとなる。
有効性と安全性を担保していた混合診療は、それすらない混合診療に大きく変貌する。
混合診療は、患者の家計状況による治療内容の格差、いわゆる階層消費や保険給付の縮小・除外の調整弁の問題もさることながら、本来、保険外の自由診療に医療保険財源を補填する、つまり自由料金の値引き材料に使われるという制度公平を欠く問題がある。有効性・安全性の確認がされていない治療であれば不当性は更に強い。
患者と医師の情報・知識の非対称性の高い医療だからこそ、安全性と有効性が確認された医薬品・医療機器、医療技術を公的な保険診療で保障する医療制度を日本は築いてきた。それが健康達成度ばかりか医療水準でも世界一というWHOの評価に結実している。有効性・安全性を欠いた保険外併用療養の拡大は、自由料金の価格の妥当性どころか、医療内容の真贋の判断が難しい患者ではなおさら混乱をきたす。まがいものの医療やまじないの類の医療現場への侵入をたやすくする。
04年の混合診療の大臣合意に、「10兆円級の神風」とビジネスレポートが出され、サプリメント会社、健康食品会社などが代替医療の「混合診療解禁前夜」と色めきたっていた。つまり、保険外併用と看板を替えているが、範囲拡大は混合診療の全面解禁である。
参院選挙を前に、自民党も保険外併用療養の「規制の合理化」(=範囲拡大)を政策集に盛り込み、経済産業省は脱・公的保険依存を唱え保険外拡大の「産業構造ビジョン」を発表した。さながら各政党、省庁あげての保険外併用=混合診療の拡大「合戦」の様相を呈してきている。
以上にみるように、いま検討中の保険外併用の範囲拡大は、保険診療、「いつでも、どこでも、誰でも」の皆保険を崩す『パンドラの箱』となる。いま一度、冷静な議論と注意喚起が望まれる。
国民の健康や安全を損なわない、人命尊重の政治、制度への卓見を求めたい。
2010年5月21日
保険外併用療養費の拡大は、混合診療の解禁ということ
皆保険を崩し、医療の安全を損なう規制改革の撤回を求む
神奈川県保険医協会
政策部長 桑島 政臣
政府の行政刷新会議の規制改革ワーキンググループ(WG)は、報告書の6月発表に向け、保険外併用療養費の拡大を提案する方向で議論を進めている。おりしも民主党の「地域主権・規制改革研究会」は保険外併用療養の拡大を素案としてまとめ、参院選挙のマニフェストへ盛り込むか否かを検討する段階にある。
保険外併用療養費とは、04年秋の混合診療騒動の末に法制化された、混合診療の枠組みであり、この適用範囲拡大は、混合診療の全面解禁へ大きく歩を進めることになる。われわれは皆保険を守るとした政権公約に沿い、医療や安全への規制緩和を見直すことを約し、保険外併用療養費の拡大を撤回するよう求める。
混合診療とは、保険外と保険診療の併用であり、法的には現物給付の「療養の給付」を金銭支給の「療養費」構成に転換し、療養担当規則第18条の特殊療法の禁止などを解除することである。
現在、04年の騒動を経て、今後生じる混合診療の具体的要求すべてに対応する枠組みとして、療養費構成の「保険外併用療養費」が06年の医療改革で法制化されている。そして併用する保険外は、保険導入の検討対象とする「評価療養」と、検討対象としない「選定療養」に大別され、前者は先進医療、未承認の医薬品や医療機器、後者は差額ベッド、180日超入院などが該当している。
つまり、先進医療や医薬品は、厚労省の管理下で既に混合診療が認められている。しかも先進医療は従来、技術と実施医療機関を1対1の関係性で大臣承認していたものを、05年以降は技術ごとに施設基準(医師の経験年数や数、施設規模・設備など)を要件化し、満たした医療機関が都道府県の社会保険事務局(現在は地方厚生局)に届出すれば実施可能と、大幅に緩和した。また未承認の医薬品は治験実施中から治験終了・薬事承認申請、薬事承認、保険適用までのすべての段階・期間を一気通貫で、保険外併用が可能とした。適用外使用にいたっては薬務局の二課長通知(文献的に効能効果が公知)により治験省略で併用可能となっている。
これら、保険外の先進医療や未承認薬の併用は、施設基準や治験(新GCP)など、少なくとも有効性・安全性の担保が条件となっている。
しかし、事態は大きく変化し、この逸脱が既に始まっている。08年4月に高度医療評価制度が作られ、法令に則らずに、治験未実施の医薬品・医療機器を使用した先進医療を大学病院等で展開できる仕組みができ、「第3項先進医療」として保険外併用療養費の対象となった。また同年3月には「人道的使用」(コンパッショネート・ユース)の美名の下、治験未実施の未承認薬の使用を医師の自己責任で生活保護患者への実施を認める通知が援護局からだされ制度化されている。
治験とは厳格な新GCP(治験実施基準:法令)に則り被験者同意、被害や副作用の際の補償など人権に配慮し、データ集積とともに有効性と安全性を確認する臨床試験である。また民族差による医薬品の吸収・分解・効果・効能などの相違を踏まえ、日本人による国内治験は未承認薬の承認に必須となっている。ちなみに高度医療評価制度の蓄積データは、治験データに使用できないことは厚労省さえ認めている。つまり安全性・有効性を度外視した制度がスタートし、着実に進展している。
4月末の行政刷新会議の規制・制度改革分科会の中間とりまとめでは、保険外併用療養の範囲の拡大をするとし、(1)IRB(治験審査委員会)の構成要件を満たす倫理審査委員会を設置している医療機関で、同委員会が認めた技術、(2)未承認薬のコンパッショネート・ユースが挙げられている。
前者はいわゆる「医療機関特区」である。これは現行の先進医療専門家会議での「施設基準」の設定というフィルターをかけずに、しかも第三者ではない医療機関内部の倫理審査委員会がOKを出せば保険診療との併用ができるということである。いわば「お手盛り」で混合診療が可能となる。
倫理審査委員会は指針はあるものの法令による定めはなく千差万別であり、近年も東大医科研で研究論文の倫理審査委員会の無審査・虚偽記載が明らかになっており、「お手盛り」懸念は払拭されない。
コンパッショネート・ユースも07年7月に「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」(医薬食品局管轄)が欧米にならい制度化を提唱したものの放置されていた代物である。これは未承認薬の海外からの輸入・国内での販売などの供給体制、医薬品の品質管理、被害・副作用の際の補償など、制度化にあたり解決すべき問題が多岐にわたり、単純に保険外併用のメニューに加えればよいという話ではない。「人道的使用」の美名で、保険診療の制度を侵食しようとしている感が非常に強い。
上記、いずれも安全性・有効性のない医薬品・医療機器の使用が、大学病院から市中の医療機関に広がっていく。この集積データは治験には繋がらず、未承認の医薬品・医療機器は放置され、当然保険診療に導入されずに、保険外=自由料金のままとなる。
有効性と安全性を担保していた混合診療は、それすらない混合診療に大きく変貌する。
混合診療は、患者の家計状況による治療内容の格差、いわゆる階層消費や保険給付の縮小・除外の調整弁の問題もさることながら、本来、保険外の自由診療に医療保険財源を補填する、つまり自由料金の値引き材料に使われるという制度公平を欠く問題がある。有効性・安全性の確認がされていない治療であれば不当性は更に強い。
患者と医師の情報・知識の非対称性の高い医療だからこそ、安全性と有効性が確認された医薬品・医療機器、医療技術を公的な保険診療で保障する医療制度を日本は築いてきた。それが健康達成度ばかりか医療水準でも世界一というWHOの評価に結実している。有効性・安全性を欠いた保険外併用療養の拡大は、自由料金の価格の妥当性どころか、医療内容の真贋の判断が難しい患者ではなおさら混乱をきたす。まがいものの医療やまじないの類の医療現場への侵入をたやすくする。
04年の混合診療の大臣合意に、「10兆円級の神風」とビジネスレポートが出され、サプリメント会社、健康食品会社などが代替医療の「混合診療解禁前夜」と色めきたっていた。つまり、保険外併用と看板を替えているが、範囲拡大は混合診療の全面解禁である。
参院選挙を前に、自民党も保険外併用療養の「規制の合理化」(=範囲拡大)を政策集に盛り込み、経済産業省は脱・公的保険依存を唱え保険外拡大の「産業構造ビジョン」を発表した。さながら各政党、省庁あげての保険外併用=混合診療の拡大「合戦」の様相を呈してきている。
以上にみるように、いま検討中の保険外併用の範囲拡大は、保険診療、「いつでも、どこでも、誰でも」の皆保険を崩す『パンドラの箱』となる。いま一度、冷静な議論と注意喚起が望まれる。
国民の健康や安全を損なわない、人命尊重の政治、制度への卓見を求めたい。
2010年5月21日