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2009/3/10 保険診療対策部長談話「財界のお先棒を担ぐ日本経済新聞3月9日付 社説『レセプト完全電子化を後退させるな』は、社会の現実を知らない『構造改革主義者』の戯言」

財界のお先棒を担ぐ日本経済新聞3月9日付 社説『レセプト完全電子化を後退させるな』は、

社会の現実を知らない『構造改革主義者』の戯言

 

神奈川県保険医協会

保険診療対策部長  入澤 彰仁

(レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟原告団幹事長)


 日本経済新聞3月9日付社説に「レセプト完全電子化を後退させるな」が、掲載された。現在、医療界がこぞって反対している「レセプトオンライン請求義務化」という言葉は出てこず、代わりに「完全電子化」という言葉を用いて、「完全電子化」を医療団体の反対運動で自民党が「原則電子化」に変えようとしていると論じた。社説ではITによって暮らしが便利になっているが医療ではIT化が遅れているので、医療の質が向上しないとでも言うような文章にしており、「完全電子化」の言葉遣いには、論点を「請求方法」から「医療データの活用方法」へのすり替えが存在する。つまり、現在問題になっている「オンライン請求義務化」は請求方法の問題なので患者が享受する治療には直接関係無いことは自明の理である。にもかかわらず前述のような指摘をするのは、オンライン請求義務化撤回運動の盛り上がりを牽制するための論点を変えようという悪意が見受けられる。繰り返そう。我々、医療界が問題にしているのは請求方法であり、「オンライン請求義務化」撤回である。日本医師会をはじめとした三師会も「オンライン請求義務化」撤回で声明を出し、与党に働きかけをしていることが事実なのである。

 

 さて本当に医療のIT化は遅れているのだろうか。社説ではIT化が最も遅れている代表は「医療」だと断定しているが、患者の診療にかかわるさまざまな検査や画像診断にもITは活用されているのは周知の事実である。また、治験などの創薬事業に対してもIT技術が使われ、患者症例の情報が収集され、有効性を分析している。これは大学病院の話だけではない。一般開業医でも実施している。これらは患者の治療や国民医療の発展のために、それぞれの医療機関の規模や特性に応じて対応してきている。つまり、医療の質の向上に、ITを役立てているのである。

 しかし、患者国民が享受する医療の質の向上と「療養の給付」に対する費用の請求方法は、別物である。その意味で日本社会行われている取引の中で、一般個人商店が発行する請求書は、紙ベースになっているのが通例である。

 先に、我々は舛添厚生労働大臣の予算委員会での答弁がレセプトデータの記載内容への無理解であると指摘したが、どうやら「オンライン請求義務化推進派」は、国民がレセプトの記載内容を知らないことをいいことに、レセプトデータでは出来ないことを、さも国民のために出来るようになる口ぶりでごまかし始めていることが明らかとなってきた。「病気の種類ごとに治療方法を標準化する」とあるが、レセプトデータはあくまでも請求明細書なので、病気の種類ごとの"標準的な値段"の整理には役立つかもしれないが、治療方法のエビデンスを得るのは不可能といえる。つまり、社説では「請求事務効率化や人件費の圧縮」で医療費抑制を主張するが、実際には病気ごとの"標準的な値段"をコントロールすることにより医療費を抑制することを考えていることは火を見るより明らかといえよう。

 

 また、社説ではレセプトコンピューター等の導入の負担が重いことに対し対応できない医師がいることを、税制上の支援策や融資があることを理由に「電子化を忌避するための言い訳でないか」と指摘。厚生労働省の資料をそのまま転載したような書き方だ。少し頭を使えば誰でもおかしいことに気がつくはずだ。税法上の支援策といってもあくまで利益が出ているところは少し使えるということであり、現実的廃業の危機に立たされている開業医の仲間たちにとっては利用できないといっていい。融資についても、金利がある上、そもそも不要なものを負担させられることには変わりない。控除があろうが融資があろうが、実際には余裕が無い医療機関にとっては意味が無い。さらに電子化加算により診療報酬で評価したというが、初診患者に対して3点である。一月20日間の診療で新患10人で計算すると月6000円の収入になる。これを手書き請求行っている医療機関が対応するために必要な費用300万円を充当するには500ヶ月かかる。つまり40年以上かけないとその費用を確保することは出来ない。さらにこの電子化加算はオンライン請求義務化導入になると無くなる。現に昨年4月から400床以上のほとんどの医療機関がオンライン請求義務化になり、電子化加算が廃止された。これをもって診療報酬上で評価されているといえるだろうか。

 

 さらに社説で問題なのは、選挙の票取り込みに使われるという指摘だ。間違ったことがあれば正すことが政治であり、国民の声を聞くべきである。そもそもオンライン請求が決められた経緯を見れば、医療関係者の声を聞かず、規制改革会議の前身である規制改革・民間開放推進会議が旗振りをし、官邸主導で決めたことである。「小泉構造改革の負の側面」そのものなのだ。

 要は財界がこぞって医療を食い物にしようとした「レセプトオンライン請求義務化」に対し、我々が声を上げ、患者国民に実態を伝え、訴訟を起こし、世論が動き始め、与党が問題視したことにあせって、財界の代弁者である日本経済新聞の社説で論陣を張ったに過ぎないのだ。

 

 本来、新聞の使命は「ペンは剣よりも強し」ではないのか。日経新聞は医療者の声をしっかり聴いた上で社説の撤回を要求する。

2009年3月10日

 

財界のお先棒を担ぐ日本経済新聞3月9日付 社説『レセプト完全電子化を後退させるな』は、

社会の現実を知らない『構造改革主義者』の戯言

 

神奈川県保険医協会

保険診療対策部長  入澤 彰仁

(レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟原告団幹事長)


 日本経済新聞3月9日付社説に「レセプト完全電子化を後退させるな」が、掲載された。現在、医療界がこぞって反対している「レセプトオンライン請求義務化」という言葉は出てこず、代わりに「完全電子化」という言葉を用いて、「完全電子化」を医療団体の反対運動で自民党が「原則電子化」に変えようとしていると論じた。社説ではITによって暮らしが便利になっているが医療ではIT化が遅れているので、医療の質が向上しないとでも言うような文章にしており、「完全電子化」の言葉遣いには、論点を「請求方法」から「医療データの活用方法」へのすり替えが存在する。つまり、現在問題になっている「オンライン請求義務化」は請求方法の問題なので患者が享受する治療には直接関係無いことは自明の理である。にもかかわらず前述のような指摘をするのは、オンライン請求義務化撤回運動の盛り上がりを牽制するための論点を変えようという悪意が見受けられる。繰り返そう。我々、医療界が問題にしているのは請求方法であり、「オンライン請求義務化」撤回である。日本医師会をはじめとした三師会も「オンライン請求義務化」撤回で声明を出し、与党に働きかけをしていることが事実なのである。

 

 さて本当に医療のIT化は遅れているのだろうか。社説ではIT化が最も遅れている代表は「医療」だと断定しているが、患者の診療にかかわるさまざまな検査や画像診断にもITは活用されているのは周知の事実である。また、治験などの創薬事業に対してもIT技術が使われ、患者症例の情報が収集され、有効性を分析している。これは大学病院の話だけではない。一般開業医でも実施している。これらは患者の治療や国民医療の発展のために、それぞれの医療機関の規模や特性に応じて対応してきている。つまり、医療の質の向上に、ITを役立てているのである。

 しかし、患者国民が享受する医療の質の向上と「療養の給付」に対する費用の請求方法は、別物である。その意味で日本社会行われている取引の中で、一般個人商店が発行する請求書は、紙ベースになっているのが通例である。

 先に、我々は舛添厚生労働大臣の予算委員会での答弁がレセプトデータの記載内容への無理解であると指摘したが、どうやら「オンライン請求義務化推進派」は、国民がレセプトの記載内容を知らないことをいいことに、レセプトデータでは出来ないことを、さも国民のために出来るようになる口ぶりでごまかし始めていることが明らかとなってきた。「病気の種類ごとに治療方法を標準化する」とあるが、レセプトデータはあくまでも請求明細書なので、病気の種類ごとの"標準的な値段"の整理には役立つかもしれないが、治療方法のエビデンスを得るのは不可能といえる。つまり、社説では「請求事務効率化や人件費の圧縮」で医療費抑制を主張するが、実際には病気ごとの"標準的な値段"をコントロールすることにより医療費を抑制することを考えていることは火を見るより明らかといえよう。

 

 また、社説ではレセプトコンピューター等の導入の負担が重いことに対し対応できない医師がいることを、税制上の支援策や融資があることを理由に「電子化を忌避するための言い訳でないか」と指摘。厚生労働省の資料をそのまま転載したような書き方だ。少し頭を使えば誰でもおかしいことに気がつくはずだ。税法上の支援策といってもあくまで利益が出ているところは少し使えるということであり、現実的廃業の危機に立たされている開業医の仲間たちにとっては利用できないといっていい。融資についても、金利がある上、そもそも不要なものを負担させられることには変わりない。控除があろうが融資があろうが、実際には余裕が無い医療機関にとっては意味が無い。さらに電子化加算により診療報酬で評価したというが、初診患者に対して3点である。一月20日間の診療で新患10人で計算すると月6000円の収入になる。これを手書き請求行っている医療機関が対応するために必要な費用300万円を充当するには500ヶ月かかる。つまり40年以上かけないとその費用を確保することは出来ない。さらにこの電子化加算はオンライン請求義務化導入になると無くなる。現に昨年4月から400床以上のほとんどの医療機関がオンライン請求義務化になり、電子化加算が廃止された。これをもって診療報酬上で評価されているといえるだろうか。

 

 さらに社説で問題なのは、選挙の票取り込みに使われるという指摘だ。間違ったことがあれば正すことが政治であり、国民の声を聞くべきである。そもそもオンライン請求が決められた経緯を見れば、医療関係者の声を聞かず、規制改革会議の前身である規制改革・民間開放推進会議が旗振りをし、官邸主導で決めたことである。「小泉構造改革の負の側面」そのものなのだ。

 要は財界がこぞって医療を食い物にしようとした「レセプトオンライン請求義務化」に対し、我々が声を上げ、患者国民に実態を伝え、訴訟を起こし、世論が動き始め、与党が問題視したことにあせって、財界の代弁者である日本経済新聞の社説で論陣を張ったに過ぎないのだ。

 

 本来、新聞の使命は「ペンは剣よりも強し」ではないのか。日経新聞は医療者の声をしっかり聴いた上で社説の撤回を要求する。

2009年3月10日