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2006/4/10 政策部長談話「世界一の医療を破壊し、医療機関のリストラ・再編を図る『医療改革』に抗議し、改善の補正予算化を強く求める」

世界一の医療を破壊し、医療機関のリストラ・再編を図る「医療改革」に抗議し、

改善の補正予算化を強く求める

神奈川県保険医協会

政策部長  森 壽生


 4月実施の診療報酬改定は、医療機関のリストラ、再編の色彩が濃く、国会審議入りした医療制度「改革」法案を先取りした医療費抑制を主眼としたものとなった。

 療養病床23万床削減のため、療養病床の点数を低く抑え、老人保健施設(1人の医師が100人を診る)や医師の配置義務のない有料老人ホームへの点数誘導を敷いたことは周知であるが、1人で48人を診る療養病床を終末期医療の場と位置づけ、抗がん剤使用などで誘導した。

 一方、知られていないが一般病床90万床を42万床へと、48万床削減のための施策も盛り込まれた。具体的には正看護師比率が40%かつ看護職複数夜勤を満たせない病院は入院料が算定できないとされた。精神病床も同様の措置が取られ、看護師不足の下、早くも現場で混乱が起きている。

 また診療所においても、一律的な長期処方への誘導と汎用検査の引下げをはじめ、在宅で24時間患家へ自在性のある対応していた診療所を往診の義務化で篩(ふる)い落とし、労基法無視のオンコールを強要。24時間"臨戦体制"の在宅療養支援診療所を核としたグループ化、サポートする企業の系列化を図ろうとしている。

 歯科では外科的治療の現場に対して、治療の全ての段階で文書発行を義務付ける歯周疾患総合管理料など治療するより文書を書くことに時間を費やされる、本末転倒の政策誘導が行われた。

 更には、リハビリを疾患別に再編し、脳血管疾患リハビリの180日を最長とし、日数制限が導入されたため、廃用症候群への対応や維持期リハビリも実質的に不可能となったほか、人工透析患者の腎性貧血の改善薬エリスポリチンが点数包括で実質点数の引下げとなるなど、治療に直接的な影響のでる施策も断行されている。

 法的認知が予定されている有床診療所も、大半は、1週間以上の入院は点数が引き下げられるなど、内科・整形有床診などの実態を無視し、また院内感染対策を入院料算定の前提条件とするなど産科・眼科有床診の実態と乖離した措置も講じられている。

 部門別明細つきの領収書発行義務化により診療を休止した診療所も出始め、この義務化の影に隠れた感のある2012年のオンライン電子請求義務化はパソコンに適応できない医療機関の淘汰策の最たるものとなっている。

 これら、"患者の視点の重視"とは名ばかりの改定であり、入院病床がなくなり、地域からの医療機関の消失が促進されることとなる。簡単に医療機関にかかれない、イギリス型医療に近くなる。

これは大げさな話ではない。青森県十和田町には既に産婦人科が1軒もなく、北海道では一般病床がない地域が多数ある。類する話は全国にたくさんある。

 今次改定の打撃は数字的にも明確である。改定幅▲3.16%は、医科・歯科ともに本体▲1.5%、薬価等▲1.8%の▲3.3%が実質の数字であるが、在宅や病院の小児・産科など重点評価がされなかった多くの医療機関にとって医科は本体▲1.8%(厚労省公表数値)と薬価等1.8%の計▲3.6%、歯科は本体▲2.0%(マスコミ報道より試算)、薬価等▲1.8%の計▲3.8%である。 この数字の意味は小さくない。営業利益率5%(金利分を除く経利益率4%)、医薬品・材料などの売上原価30%、人件費・物件費の一般管理費を65%とした場合、医科では経常利益の半分が失われ、経常利益率は1.5%となり、利益が62.5%も消え去ることを意味する。実際には経常利益率が3%以下のところが大半であり、マイナス幅の大きい歯科は本当に深刻である。

 今次改定で3回連続のマイナス改定であり、経営体力は脆弱になっている。医療経済実態調査でも明らかになったように、支出の切り詰めも限界水準にある。とりわけ、最小限の人員で経営している歯科診療所は、人件費・物件費の削減はもはや不可能であり、今次改定に対し保険診療へのモチベーションの減退すら出始めている。一方、厚労省は今次「改革」を医療資源の再配分と豪語している。

 この窮状に追い討ちをかけるように、金融市場は量的緩和解除の観測の下、金利の上昇傾向にある。当然、真っ先に貸し出し金利が上げられることとなる。このことは、医療機器・建物など借入金を抱える多くの医療機関にとって、経常利益の大幅損失に加え大打撃となっていく。経営体力のない零細医療機関の淘汰は想像に難くない。

 以上にみるように、今回の診療報酬改定は、給付の限定化と医療機関の総量規制の本格導入となっている。医療「改革」法案では、保険外併用療養費の新設―いわゆる混合診療の本格的法制化や保健指導の企業委託、医療法人の収益事業の拡大も盛られ、企業のビジネスチャンスのための私費医療の拡大が透けている。私費医療を選択・拡大した米国は、結局、医療は高い買い物となっている。企業の病院経営参入も、時おり喧伝されるタイの企業病院の医療水準は日本の保険医療と変わらないのが実態であり、この分野の先進国、米国の企業病院は不正請求事件で有名である。日本の介護保険で目にする不正請求が企業によるものである点は教訓的でさえある。

 そもそも日本では医療・社会保障はビジネスや商品ではなく、医療者らの高い倫理性と献身に支えられた国民固有の生存権保障の権利なのである。このことから、国家が医師・歯科医師養成に国費をつぎ込み、皆保険の下、保険診療の充実を図り世界一の医療制度を築いてきたのである。機械的で智慧のない医療費抑制策は国家の大計を過つ、愚の骨頂でしかない。

 このように世界一の医療制度を破壊する、厚労省の「改革」に抗議するともに、地道に日本医療を支えている多くの医療機関が報われ、患者・国民が安心・安全・納得の医療を受けられるよう、緊急の是正措置と、改善措置のための補正予算化を強く求めるものである。

 

2006年4月10日

 

世界一の医療を破壊し、医療機関のリストラ・再編を図る「医療改革」に抗議し、

改善の補正予算化を強く求める

神奈川県保険医協会

政策部長  森 壽生


 4月実施の診療報酬改定は、医療機関のリストラ、再編の色彩が濃く、国会審議入りした医療制度「改革」法案を先取りした医療費抑制を主眼としたものとなった。

 療養病床23万床削減のため、療養病床の点数を低く抑え、老人保健施設(1人の医師が100人を診る)や医師の配置義務のない有料老人ホームへの点数誘導を敷いたことは周知であるが、1人で48人を診る療養病床を終末期医療の場と位置づけ、抗がん剤使用などで誘導した。

 一方、知られていないが一般病床90万床を42万床へと、48万床削減のための施策も盛り込まれた。具体的には正看護師比率が40%かつ看護職複数夜勤を満たせない病院は入院料が算定できないとされた。精神病床も同様の措置が取られ、看護師不足の下、早くも現場で混乱が起きている。

 また診療所においても、一律的な長期処方への誘導と汎用検査の引下げをはじめ、在宅で24時間患家へ自在性のある対応していた診療所を往診の義務化で篩(ふる)い落とし、労基法無視のオンコールを強要。24時間"臨戦体制"の在宅療養支援診療所を核としたグループ化、サポートする企業の系列化を図ろうとしている。

 歯科では外科的治療の現場に対して、治療の全ての段階で文書発行を義務付ける歯周疾患総合管理料など治療するより文書を書くことに時間を費やされる、本末転倒の政策誘導が行われた。

 更には、リハビリを疾患別に再編し、脳血管疾患リハビリの180日を最長とし、日数制限が導入されたため、廃用症候群への対応や維持期リハビリも実質的に不可能となったほか、人工透析患者の腎性貧血の改善薬エリスポリチンが点数包括で実質点数の引下げとなるなど、治療に直接的な影響のでる施策も断行されている。

 法的認知が予定されている有床診療所も、大半は、1週間以上の入院は点数が引き下げられるなど、内科・整形有床診などの実態を無視し、また院内感染対策を入院料算定の前提条件とするなど産科・眼科有床診の実態と乖離した措置も講じられている。

 部門別明細つきの領収書発行義務化により診療を休止した診療所も出始め、この義務化の影に隠れた感のある2012年のオンライン電子請求義務化はパソコンに適応できない医療機関の淘汰策の最たるものとなっている。

 これら、"患者の視点の重視"とは名ばかりの改定であり、入院病床がなくなり、地域からの医療機関の消失が促進されることとなる。簡単に医療機関にかかれない、イギリス型医療に近くなる。

これは大げさな話ではない。青森県十和田町には既に産婦人科が1軒もなく、北海道では一般病床がない地域が多数ある。類する話は全国にたくさんある。

 今次改定の打撃は数字的にも明確である。改定幅▲3.16%は、医科・歯科ともに本体▲1.5%、薬価等▲1.8%の▲3.3%が実質の数字であるが、在宅や病院の小児・産科など重点評価がされなかった多くの医療機関にとって医科は本体▲1.8%(厚労省公表数値)と薬価等1.8%の計▲3.6%、歯科は本体▲2.0%(マスコミ報道より試算)、薬価等▲1.8%の計▲3.8%である。 この数字の意味は小さくない。営業利益率5%(金利分を除く経利益率4%)、医薬品・材料などの売上原価30%、人件費・物件費の一般管理費を65%とした場合、医科では経常利益の半分が失われ、経常利益率は1.5%となり、利益が62.5%も消え去ることを意味する。実際には経常利益率が3%以下のところが大半であり、マイナス幅の大きい歯科は本当に深刻である。

 今次改定で3回連続のマイナス改定であり、経営体力は脆弱になっている。医療経済実態調査でも明らかになったように、支出の切り詰めも限界水準にある。とりわけ、最小限の人員で経営している歯科診療所は、人件費・物件費の削減はもはや不可能であり、今次改定に対し保険診療へのモチベーションの減退すら出始めている。一方、厚労省は今次「改革」を医療資源の再配分と豪語している。

 この窮状に追い討ちをかけるように、金融市場は量的緩和解除の観測の下、金利の上昇傾向にある。当然、真っ先に貸し出し金利が上げられることとなる。このことは、医療機器・建物など借入金を抱える多くの医療機関にとって、経常利益の大幅損失に加え大打撃となっていく。経営体力のない零細医療機関の淘汰は想像に難くない。

 以上にみるように、今回の診療報酬改定は、給付の限定化と医療機関の総量規制の本格導入となっている。医療「改革」法案では、保険外併用療養費の新設―いわゆる混合診療の本格的法制化や保健指導の企業委託、医療法人の収益事業の拡大も盛られ、企業のビジネスチャンスのための私費医療の拡大が透けている。私費医療を選択・拡大した米国は、結局、医療は高い買い物となっている。企業の病院経営参入も、時おり喧伝されるタイの企業病院の医療水準は日本の保険医療と変わらないのが実態であり、この分野の先進国、米国の企業病院は不正請求事件で有名である。日本の介護保険で目にする不正請求が企業によるものである点は教訓的でさえある。

 そもそも日本では医療・社会保障はビジネスや商品ではなく、医療者らの高い倫理性と献身に支えられた国民固有の生存権保障の権利なのである。このことから、国家が医師・歯科医師養成に国費をつぎ込み、皆保険の下、保険診療の充実を図り世界一の医療制度を築いてきたのである。機械的で智慧のない医療費抑制策は国家の大計を過つ、愚の骨頂でしかない。

 このように世界一の医療制度を破壊する、厚労省の「改革」に抗議するともに、地道に日本医療を支えている多くの医療機関が報われ、患者・国民が安心・安全・納得の医療を受けられるよう、緊急の是正措置と、改善措置のための補正予算化を強く求めるものである。

 

2006年4月10日