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2012/4/25 政策部長談話「ガイドラインと機構評価の算定要件は管理医療の布石 自律的な質の向上とは別物 医療界の見識を示すとき」

ガイドラインと機構評価の算定要件は管理医療の布石

自律的な質の向上とは別物 医療界の見識を示すとき

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療に絶対はない。個別性、不確実性の強い医療は、日々、進歩を取り入れ、各専門学会は診療のガイドラインを策定し、その医療水準を自律的に向上・改善するよう努めている。巷で誤解があるがガイドラインは「指針」であり、患者の容態変化に臨機応変に対応する医療現場にとって墨守する性格のものではない。決してマニュアルではない。今次診療報酬改定で新設された外来放射線照射診療料の算定要件に、はじめてガイドラインの「遵守」が盛り込まれた。医療事故の補償制度が検討されはじめたいま、先行実施された産科医療補償制度との相似が透け危険を感じている。日本医療機能評価機構の評価認定や産科医療補償制度の民間制度が、公的保険の算定要件化される逸脱と、療養の給付、医師の裁量権の侵害、矮小化、歪曲化する流れは、「管理医療」に収斂していく。医療界への注意喚起とともに、これが当たり前、奔流となる前に、算定要件の解除・是正を強く求める。

 

 ガイドラインは08年改定で新設された後期高齢者診療料の算定要件で一般に登場する。そこでは生活機能の評価にあたりガイドラインに「十分留意」することとされた。以降、ガイドラインに関することを算定要件とする項目が拡大されてはいるが、「遵守」としたのは今次改定の外来放射線照射診療料が初めてである。既存の臓器移植の指針遵守と趣を異にする、この「遵守」は些細な相違が個別指導での行政官からの指摘につながり、自主返還の強要と、萎縮診療、裁量の侵害へと連動していく。

 また「遵守」ではないが、腹腔鏡下肝切除術などでは、算定要件(通知)より法的拘束力の高い、施設基準(告示)に「ガイドライン等を踏まえ」と強制力の弱い表現ながら位置付けられている。将来的に「遵守」との文言に変化することは想像に難くない。

 

 いま、産科の現場では、出産の際の脳性麻痺の救済で創設された制度が変容し、ガイドラインを金科玉条とした原因分析報告書がカルテを基に医療機能評価機構で作成されている。これにより紛争が助長される事態に陥り、産科現場は危機感を抱いている。

 この産科モデルを全科に適用させようと、厚労省の医療事故調検討部会が動き出している。医療事故補償は、ガイドラインとセットである。

 今次改定で変化のあった、放射線治療、腹腔鏡手術は医療事故の記憶が新しい。訴訟リスクの高い部門から、浸食されてきている。

 

 この動きは、これにとどまらない。産科の補償制度は医療機能評価機構という厚労省の外郭の民間団体が運営を担っている。この機構は、ほかにも病院機能評価事業という病院のランクづけも行っているが、この認定評価が、診療報酬の算定要件、施設基準となっているものが増殖している。健保法の定める「療養の給付」、医療機関による医療の現物給付への対価である診療報酬が民間の制度への関与を要件とし、本来のありかたから逸脱、歪曲しかけている。

 この民間団体の機構は、「中立的第三者機関」(機構ホームページ)をうたい、医療事故情報等収集事業、診療ガイドラインの提供などのEBM普及推進事業(厚労省委託事業)など多角的に展開。これらを俯瞰すれば、同一平面上の話となっている。

 行き着く先は、医師の裁量権を制限する、規制強化型の「管理医療」、訴訟リスクと背中合わせの保険医療である。防衛策は公的医療保険からのドロップアウト、自由診療となる。

 

 深謀遠慮のガイドライン「遵守」の算定要件化の撤回を改めて求める。

2012年4月25日

 

ガイドラインと機構評価の算定要件は管理医療の布石

自律的な質の向上とは別物 医療界の見識を示すとき

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療に絶対はない。個別性、不確実性の強い医療は、日々、進歩を取り入れ、各専門学会は診療のガイドラインを策定し、その医療水準を自律的に向上・改善するよう努めている。巷で誤解があるがガイドラインは「指針」であり、患者の容態変化に臨機応変に対応する医療現場にとって墨守する性格のものではない。決してマニュアルではない。今次診療報酬改定で新設された外来放射線照射診療料の算定要件に、はじめてガイドラインの「遵守」が盛り込まれた。医療事故の補償制度が検討されはじめたいま、先行実施された産科医療補償制度との相似が透け危険を感じている。日本医療機能評価機構の評価認定や産科医療補償制度の民間制度が、公的保険の算定要件化される逸脱と、療養の給付、医師の裁量権の侵害、矮小化、歪曲化する流れは、「管理医療」に収斂していく。医療界への注意喚起とともに、これが当たり前、奔流となる前に、算定要件の解除・是正を強く求める。

 

 ガイドラインは08年改定で新設された後期高齢者診療料の算定要件で一般に登場する。そこでは生活機能の評価にあたりガイドラインに「十分留意」することとされた。以降、ガイドラインに関することを算定要件とする項目が拡大されてはいるが、「遵守」としたのは今次改定の外来放射線照射診療料が初めてである。既存の臓器移植の指針遵守と趣を異にする、この「遵守」は些細な相違が個別指導での行政官からの指摘につながり、自主返還の強要と、萎縮診療、裁量の侵害へと連動していく。

 また「遵守」ではないが、腹腔鏡下肝切除術などでは、算定要件(通知)より法的拘束力の高い、施設基準(告示)に「ガイドライン等を踏まえ」と強制力の弱い表現ながら位置付けられている。将来的に「遵守」との文言に変化することは想像に難くない。

 

 いま、産科の現場では、出産の際の脳性麻痺の救済で創設された制度が変容し、ガイドラインを金科玉条とした原因分析報告書がカルテを基に医療機能評価機構で作成されている。これにより紛争が助長される事態に陥り、産科現場は危機感を抱いている。

 この産科モデルを全科に適用させようと、厚労省の医療事故調検討部会が動き出している。医療事故補償は、ガイドラインとセットである。

 今次改定で変化のあった、放射線治療、腹腔鏡手術は医療事故の記憶が新しい。訴訟リスクの高い部門から、浸食されてきている。

 

 この動きは、これにとどまらない。産科の補償制度は医療機能評価機構という厚労省の外郭の民間団体が運営を担っている。この機構は、ほかにも病院機能評価事業という病院のランクづけも行っているが、この認定評価が、診療報酬の算定要件、施設基準となっているものが増殖している。健保法の定める「療養の給付」、医療機関による医療の現物給付への対価である診療報酬が民間の制度への関与を要件とし、本来のありかたから逸脱、歪曲しかけている。

 この民間団体の機構は、「中立的第三者機関」(機構ホームページ)をうたい、医療事故情報等収集事業、診療ガイドラインの提供などのEBM普及推進事業(厚労省委託事業)など多角的に展開。これらを俯瞰すれば、同一平面上の話となっている。

 行き着く先は、医師の裁量権を制限する、規制強化型の「管理医療」、訴訟リスクと背中合わせの保険医療である。防衛策は公的医療保険からのドロップアウト、自由診療となる。

 

 深謀遠慮のガイドライン「遵守」の算定要件化の撤回を改めて求める。

2012年4月25日