保険医の生活と権利を守り、国民医療の
向上をめざす

神奈川県保険医協会とは

開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す

TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2012/4/27 政策部長談話「見識のない医学部新設と混合診療の自由化の枠組み 営利産業の草刈り場となる、神奈川の総合特区に断固反対する」

2012/4/27 政策部長談話「見識のない医学部新設と混合診療の自由化の枠組み 営利産業の草刈り場となる、神奈川の総合特区に断固反対する」

見識のない医学部新設と混合診療の自由化の枠組み

営利産業の草刈り場となる、神奈川の総合特区に断固反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 4月17日、黒岩神奈川県知事は、医学部新設を総合特区の枠組みで強行することを表明した。プロジェクトチームの結論を無視、反故とするこの暴挙に、県内の医療関係者は驚愕し強い憤りを感じている。人口減少を踏まえ、将来的な医師過剰の事態を見据えた、既設大学の医学部定員増での対応との県医師会の意見を尊重せず、医療ツーリズム、混合診療の自由化を狙う総合特区の枠組みで、これに資する人材育成を理由とし何が何でも医学部新設に拘泥するこの姿勢に呆れ果てている。

 営利産業の草刈り場となる、総合特区での医学部新設は医療秩序を壊し、皆保険瓦解の先鞭となる。われわれは、医学部新設と総合特区に断固反対する。

 

 この3月に発表された、県の「医療のグランドデザイン・最終報告」では医学部新設は、医学部の定員増との両論併記に落ち着き、医師養成増の方法については「更なる検討が必要」となっていた。これは、医療関係者が入った「医療のグランドデザイン策定プロジェクト」の委員の大半が医学部新設に反対を表明したにもかかわらず、これを無視した知事の医学部新設表明と国への5知事連名の要望書に、県医師会委員が抗議の辞任をする顛末に終止符を打つ形で、このまとめとなっていた。

 それにも拘わらず、これを反故にした知事の医学部新設表明は常軌を逸している。

 医学部新設にあたっては、(1)優秀な教員の確保により地域の医師不足を助長する、(2)財源問題、(3)効果の出現に一定程度の時間を要す、(4)医師過剰の際に医学部廃止は困難―との理由が指摘されている。これは医学部定員増の困難な理由として挙げられた、教員や施設の面(急な増員やハードの整備―医療課・和田氏)よりハードルが高い。プロジェクトの中では地域枠の拡充による過去最高の定員増に県が「何もしていない」との指摘がなされており、医学部新設は道理がない。

 

 医学部新設を巡り、知事は「ライフイノベーション国際戦略総合特区」の枠組みで図るとしている。この総合特区は神奈川県、横浜市、川崎市の連合による、医療ツーリズム、混合診療の自由化、臨床研究の規制緩和を図る拠点基地となる。医療、財政、税制、金融のあらゆる規制を緩和した集大成だ。

 県の保健医療部医療課は4月23日の当会の照会に、候補地、候補大学は未定としているが、特区申請をした政策局は昨年の特区申請の段階で、この枠組みでの医学部新設がアイディアとしてはあったとしている。実際は、国の指定を受けた「総合特区」のメニューには現在、盛り込まれてはいない。内閣官房は、メニューの追加はいつでも可能としており、大臣告示の規制緩和が焦点となっている。

 

 とき同じくして、川崎社会保険病院の民間譲渡、売却問題が浮上、4月5日に一般競争入札の公告が出されている。これは昨年12月21日の厚労大臣の売却指示に基づいているが、奇しくもその前日に先の5知事連名の要望書が出されている。地元では売却40億円の噂が早くから流れ、現在の高い譲渡条件はいずれ崩れ、安値で売却との見通しもされている。売却に地元住民の同意が必須であるが川崎市長が議会で「事前了承した経過はない」とするものの担当部局は容認姿勢と不可解さがぬぐえない。既に同病院の内覧会に医療ツーリズムを展開する桜十字グループ、国際医療福祉大学、板橋中央病院グループが足を運んだとの話もある。医学部新設に必置の研修病院の確保先ともなる。

 県のグランドデザイン策定プロジェクトには、国際医療福祉大学大学院長や同大学の非常勤講師が委員に就いており、知事は元この大学院の教授を務めていた。同大は医学部だけが無いだけに、知事が否定をしても疑念は免れない。

 

 記者会見で知事は、医師不足解消による県内医師の勤務環境改善をあげ、その一方で国際的な医療ツーリズムに資する医療人材育成をうたっており、矛盾している。

 日本の医師は皆保険、現物給付の医療を担い、国民の医療体制を支えている。自由診療を中心とした安全性・有効性が確立途中の開発的医療や外国患者を治療する医療ツーリズムを担う人材の育成は、本来の姿とはかけ離れている。救急現場や不採算な政策医療を必死で支える医師たちの勤務環境の改善には決してつながらない。

 そもそもこの総合特区は、混合診療の自由化、医療ツーリズム、研究開発の規制緩和と営利企業の草刈り場となる危険性が非常に高い。医療を市場開放するTPPも視野に入っている。

 

 知事は、プロジェクト会議の中で「日本の医療は規制が多いので、それを神奈川より変えたい」と語ったと伝えられており、特区での「開かれた医療」とは外国人患者の受け入れ促進、国際交流による外国人医師などの受け入れ、研究レベルでの交流―と、当会の質問に回答している。地に足をつけた議論とは到底思えない。

 

 百害あって一利なし。県医師会の反対をも押切り、いたずらに現場混乱を招来させ、県民医療の将来へ無責任な、医学部新設を撤回するよう強く要請する。

2012年4月27日

 

見識のない医学部新設と混合診療の自由化の枠組み

営利産業の草刈り場となる、神奈川の総合特区に断固反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 4月17日、黒岩神奈川県知事は、医学部新設を総合特区の枠組みで強行することを表明した。プロジェクトチームの結論を無視、反故とするこの暴挙に、県内の医療関係者は驚愕し強い憤りを感じている。人口減少を踏まえ、将来的な医師過剰の事態を見据えた、既設大学の医学部定員増での対応との県医師会の意見を尊重せず、医療ツーリズム、混合診療の自由化を狙う総合特区の枠組みで、これに資する人材育成を理由とし何が何でも医学部新設に拘泥するこの姿勢に呆れ果てている。

 営利産業の草刈り場となる、総合特区での医学部新設は医療秩序を壊し、皆保険瓦解の先鞭となる。われわれは、医学部新設と総合特区に断固反対する。

 

 この3月に発表された、県の「医療のグランドデザイン・最終報告」では医学部新設は、医学部の定員増との両論併記に落ち着き、医師養成増の方法については「更なる検討が必要」となっていた。これは、医療関係者が入った「医療のグランドデザイン策定プロジェクト」の委員の大半が医学部新設に反対を表明したにもかかわらず、これを無視した知事の医学部新設表明と国への5知事連名の要望書に、県医師会委員が抗議の辞任をする顛末に終止符を打つ形で、このまとめとなっていた。

 それにも拘わらず、これを反故にした知事の医学部新設表明は常軌を逸している。

 医学部新設にあたっては、(1)優秀な教員の確保により地域の医師不足を助長する、(2)財源問題、(3)効果の出現に一定程度の時間を要す、(4)医師過剰の際に医学部廃止は困難―との理由が指摘されている。これは医学部定員増の困難な理由として挙げられた、教員や施設の面(急な増員やハードの整備―医療課・和田氏)よりハードルが高い。プロジェクトの中では地域枠の拡充による過去最高の定員増に県が「何もしていない」との指摘がなされており、医学部新設は道理がない。

 

 医学部新設を巡り、知事は「ライフイノベーション国際戦略総合特区」の枠組みで図るとしている。この総合特区は神奈川県、横浜市、川崎市の連合による、医療ツーリズム、混合診療の自由化、臨床研究の規制緩和を図る拠点基地となる。医療、財政、税制、金融のあらゆる規制を緩和した集大成だ。

 県の保健医療部医療課は4月23日の当会の照会に、候補地、候補大学は未定としているが、特区申請をした政策局は昨年の特区申請の段階で、この枠組みでの医学部新設がアイディアとしてはあったとしている。実際は、国の指定を受けた「総合特区」のメニューには現在、盛り込まれてはいない。内閣官房は、メニューの追加はいつでも可能としており、大臣告示の規制緩和が焦点となっている。

 

 とき同じくして、川崎社会保険病院の民間譲渡、売却問題が浮上、4月5日に一般競争入札の公告が出されている。これは昨年12月21日の厚労大臣の売却指示に基づいているが、奇しくもその前日に先の5知事連名の要望書が出されている。地元では売却40億円の噂が早くから流れ、現在の高い譲渡条件はいずれ崩れ、安値で売却との見通しもされている。売却に地元住民の同意が必須であるが川崎市長が議会で「事前了承した経過はない」とするものの担当部局は容認姿勢と不可解さがぬぐえない。既に同病院の内覧会に医療ツーリズムを展開する桜十字グループ、国際医療福祉大学、板橋中央病院グループが足を運んだとの話もある。医学部新設に必置の研修病院の確保先ともなる。

 県のグランドデザイン策定プロジェクトには、国際医療福祉大学大学院長や同大学の非常勤講師が委員に就いており、知事は元この大学院の教授を務めていた。同大は医学部だけが無いだけに、知事が否定をしても疑念は免れない。

 

 記者会見で知事は、医師不足解消による県内医師の勤務環境改善をあげ、その一方で国際的な医療ツーリズムに資する医療人材育成をうたっており、矛盾している。

 日本の医師は皆保険、現物給付の医療を担い、国民の医療体制を支えている。自由診療を中心とした安全性・有効性が確立途中の開発的医療や外国患者を治療する医療ツーリズムを担う人材の育成は、本来の姿とはかけ離れている。救急現場や不採算な政策医療を必死で支える医師たちの勤務環境の改善には決してつながらない。

 そもそもこの総合特区は、混合診療の自由化、医療ツーリズム、研究開発の規制緩和と営利企業の草刈り場となる危険性が非常に高い。医療を市場開放するTPPも視野に入っている。

 

 知事は、プロジェクト会議の中で「日本の医療は規制が多いので、それを神奈川より変えたい」と語ったと伝えられており、特区での「開かれた医療」とは外国人患者の受け入れ促進、国際交流による外国人医師などの受け入れ、研究レベルでの交流―と、当会の質問に回答している。地に足をつけた議論とは到底思えない。

 

 百害あって一利なし。県医師会の反対をも押切り、いたずらに現場混乱を招来させ、県民医療の将来へ無責任な、医学部新設を撤回するよう強く要請する。

2012年4月27日