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2013/3/15 政策部長談話「米国型『健康保険』商品と薬の差額負担制が危険 皆保険制度の破壊にトドメさすTPP参加に断固反対する」

米国型「健康保険」商品と薬の差額負担制が危険

皆保険制度の破壊にトドメさすTPP参加に断固反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 TPP交渉参加の首相判断が大詰めを迎えている。皆保険は交渉の対象外などを理由に楽観論があるが危険である。TPPは貿易と投資の協定であり、21分野の交渉で公的医療保険が対象とならないのは当たり前である。問題は、金融分野の保険、医療機器・医薬品、知的財産(特許)、ISD条項(投資家・国家間紛争)である。いま、この成長と跋扈を許す施策が国内では検討されており、日米の財界による"合同作戦"の感もある。皆保険との競合、そして駆逐、破壊へと連動が懸念されるTPPへの交渉参加にわれわれは、国民の健康と医療、「国益」を守る立場から断固反対する。

 日米の財界はTPP交渉への日本の早期参加を求め共同声明を早くから発表し、米国政府も日本政府へ秋波を送ってきたことは周知である。このTPPを米国で推進する中心にはUSTR(米国通商代表部)と米国商工会議所がすわり、世界的に有名な保険会社や製薬企業が数多く顔を揃えている。ビジネスチャンスに期待を膨らませての話である。

 保険分野で日本ではいま、物・サービスを提供する「現物給付型」の保険商品が金融審議会で検討されている。病気の際の保険金支給に代えて、医療そのものの提供となる。これが認可された場合、いわば民間版の「健康保険」商品の誕生となる。皆保険がない米国の医療は、この保険会社が運営の「健康保険」で提供されている。商品プランや販路拡大のノウハウは豊富にある。日本の保険業界も契約保有高に歩留まり感がある中、この商品開発は悲願であり、日米の利害が一致している。誕生のあかつきには、公的医療保険との競合は明白である。ISD条項を行使するのは企業である。

 米国財界は、この間、世界最大の収入20兆円の「かんぽ」を「制度共済」とともに標的とし、金融庁監督下の外国保険会社ならびに国内保険会社との競争条件の平等化、かんぽの新商品開発禁止をGATS(サービス貿易に関する一般協定)違反を盾に日本に突きつけてきた。そしてまた確定拠出年金へも老後生活改善をいい介入し始めた。

 TPP参加となれば、37兆円の公的医療保険との「平等な競争条件」は、非関税障壁として取り上げられる。その廃止まではいわなくとも、皆保険から離脱する選択の自由、公的医療保険と民間版「健康保険」を併用できる条件整備は容易に想定できる。後者は、一般的な治療での混合診療の合法化であり、制度的には現物給付原則を、療養費支給(治療費の支給)に転換し、療養担当規則18条(特殊療法の禁止)を解除することであり、介護保険の仕組みと揃えることである。

 重粒子線治療314万円をはじめ先進医療や研究段階の「がんペプチドワクチン」など、際限なく広がる「評価療養」(合法的混合診療)と、それを補完する先進医療保険商品の開発は過去の話であり、市場は形成されている。TPPでは医療技術の特許保護が問題となる。

 薬価に関し、財政制度等審議会は独仏を例に、ジェネリックを給付上限とする参照価格制の導入を繰り返し主張している。これは先発品の医薬品の差額負担を認めるもので、メーカーの「言い値」で先発品を医療現場が使用することとなる。これにTPPが重なると、自由価格制、医薬品の10割負担医療へ拍車がかかる。日本より長期間の米国の特許保護が優先し暴利が保障され汎用化が遅くなる。

 それにも増して、経団連が提言した公的医療保険の総額管理は財政審分科会長も口にしており、看過できない。保険組合への事前払いによる公費の圧縮、保険給付の徹底した削減となる。09年の財政審「建議」では保険医の定数制と民間保険の育成に早くも触れており、フリーアクセスの制限、登録医制が様々な思惑で各種審議会で語られる昨今、公的医療保険を扱う「保険医」以外は"腕"に応じ民間保険で、が透けて見える。この4月から保険医登録等の際、健保法関係法令遵守の「誓約書」を行政庁が求めるとしたのは、保険ルールの不理解への強権発動、定数制の布石として意味深長である。

 新成長戦略の一環として政府が最近、言いだした皆保険の海外への売り込みは、制度設計の実地援助やノウハウ提供などその姿ははっきりしないが、日本の生損保業界の海外での事業展開に向けた、他国での先行的インフラ整備、公私の医療保険の共存による新市場開拓の感も拭えない。TPPへの日米の財界の思惑は幾層にも重なっている。

 民間医療保険は、経済力がなければ購入できず、経済力の格差が、受ける医療の格差となっていく。皆保険制度の崩壊の意味するところである。

 これらは杞憂ではない。国内の策動と相まって、TPPで皆保険は確実に浸食される。交渉参加の撤回を断固求める。

2013年3月15日

 

米国型「健康保険」商品と薬の差額負担制が危険

皆保険制度の破壊にトドメさすTPP参加に断固反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 TPP交渉参加の首相判断が大詰めを迎えている。皆保険は交渉の対象外などを理由に楽観論があるが危険である。TPPは貿易と投資の協定であり、21分野の交渉で公的医療保険が対象とならないのは当たり前である。問題は、金融分野の保険、医療機器・医薬品、知的財産(特許)、ISD条項(投資家・国家間紛争)である。いま、この成長と跋扈を許す施策が国内では検討されており、日米の財界による"合同作戦"の感もある。皆保険との競合、そして駆逐、破壊へと連動が懸念されるTPPへの交渉参加にわれわれは、国民の健康と医療、「国益」を守る立場から断固反対する。

 日米の財界はTPP交渉への日本の早期参加を求め共同声明を早くから発表し、米国政府も日本政府へ秋波を送ってきたことは周知である。このTPPを米国で推進する中心にはUSTR(米国通商代表部)と米国商工会議所がすわり、世界的に有名な保険会社や製薬企業が数多く顔を揃えている。ビジネスチャンスに期待を膨らませての話である。

 保険分野で日本ではいま、物・サービスを提供する「現物給付型」の保険商品が金融審議会で検討されている。病気の際の保険金支給に代えて、医療そのものの提供となる。これが認可された場合、いわば民間版の「健康保険」商品の誕生となる。皆保険がない米国の医療は、この保険会社が運営の「健康保険」で提供されている。商品プランや販路拡大のノウハウは豊富にある。日本の保険業界も契約保有高に歩留まり感がある中、この商品開発は悲願であり、日米の利害が一致している。誕生のあかつきには、公的医療保険との競合は明白である。ISD条項を行使するのは企業である。

 米国財界は、この間、世界最大の収入20兆円の「かんぽ」を「制度共済」とともに標的とし、金融庁監督下の外国保険会社ならびに国内保険会社との競争条件の平等化、かんぽの新商品開発禁止をGATS(サービス貿易に関する一般協定)違反を盾に日本に突きつけてきた。そしてまた確定拠出年金へも老後生活改善をいい介入し始めた。

 TPP参加となれば、37兆円の公的医療保険との「平等な競争条件」は、非関税障壁として取り上げられる。その廃止まではいわなくとも、皆保険から離脱する選択の自由、公的医療保険と民間版「健康保険」を併用できる条件整備は容易に想定できる。後者は、一般的な治療での混合診療の合法化であり、制度的には現物給付原則を、療養費支給(治療費の支給)に転換し、療養担当規則18条(特殊療法の禁止)を解除することであり、介護保険の仕組みと揃えることである。

 重粒子線治療314万円をはじめ先進医療や研究段階の「がんペプチドワクチン」など、際限なく広がる「評価療養」(合法的混合診療)と、それを補完する先進医療保険商品の開発は過去の話であり、市場は形成されている。TPPでは医療技術の特許保護が問題となる。

 薬価に関し、財政制度等審議会は独仏を例に、ジェネリックを給付上限とする参照価格制の導入を繰り返し主張している。これは先発品の医薬品の差額負担を認めるもので、メーカーの「言い値」で先発品を医療現場が使用することとなる。これにTPPが重なると、自由価格制、医薬品の10割負担医療へ拍車がかかる。日本より長期間の米国の特許保護が優先し暴利が保障され汎用化が遅くなる。

 それにも増して、経団連が提言した公的医療保険の総額管理は財政審分科会長も口にしており、看過できない。保険組合への事前払いによる公費の圧縮、保険給付の徹底した削減となる。09年の財政審「建議」では保険医の定数制と民間保険の育成に早くも触れており、フリーアクセスの制限、登録医制が様々な思惑で各種審議会で語られる昨今、公的医療保険を扱う「保険医」以外は"腕"に応じ民間保険で、が透けて見える。この4月から保険医登録等の際、健保法関係法令遵守の「誓約書」を行政庁が求めるとしたのは、保険ルールの不理解への強権発動、定数制の布石として意味深長である。

 新成長戦略の一環として政府が最近、言いだした皆保険の海外への売り込みは、制度設計の実地援助やノウハウ提供などその姿ははっきりしないが、日本の生損保業界の海外での事業展開に向けた、他国での先行的インフラ整備、公私の医療保険の共存による新市場開拓の感も拭えない。TPPへの日米の財界の思惑は幾層にも重なっている。

 民間医療保険は、経済力がなければ購入できず、経済力の格差が、受ける医療の格差となっていく。皆保険制度の崩壊の意味するところである。

 これらは杞憂ではない。国内の策動と相まって、TPPで皆保険は確実に浸食される。交渉参加の撤回を断固求める。

2013年3月15日