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2014/10/8 政策部長談話「保険外併用療養の『乱用』に反対する 保険診療を壊す国家戦略特区の『戦略』は、亡国の道」

保険外併用療養の「乱用」に反対する

保険診療を壊す国家戦略特区の「戦略」は、亡国の道

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 政府が主導する国家戦略特区の「東京圏」(東京都・神奈川県・成田市)の関係会議が10月1日、開催され特区の具体的「計画」の素案が提示された。メニューには外国医師による全ての外国人の診療や病床規制の特例とならび、保険外併用療養(混合診療)の更なる緩和が盛り込まれている。既に政府「認定」された「関西圏」の計画とも軌を一にするこの策動は、健保法改定による患者申出療養の創設に先行する内容となっている。大学病院等での「治験」未実施、「治験」を度外視した未承認等の医薬品使用の拡大、そのための「スピード」化と、保険外併用療養を"隠れ蓑"に、医療倫理を欠いた実験医療へのお墨付きを求めている。しかも、この実験医療へ、健康保険の財源を横流しし、流用にさらに拍車をかけるものとなる。われわれは、健康保険、保険診療を潜脱し、保険診療を壊す、この国家戦略特区の計画を厳しく指弾し、警鐘をする。

◆先進医療の混合診療は審査6カ月、未承認の抗がん剤使用は3ヵ月のスピード審査

 保険外併用療養は、合法的な混合診療として制度化されており、医療技術・医薬品は保険診療への導入の篩に定期的にかける「評価療養」として認められている。ただ、未承認薬・適用外の医薬品・医療機器を用いた医療、いわば「臨床研究」が保険外併用療養の対象とされ、厚労省への実施計画の届け出や、実績報告(有害事象など含む)を義務づけて「先進医療B」として実施が容認されている。この実施に際して、厚労省の審査は6カ月となっている。

 これを先般、骨抜きにする事実上の全面解禁、「選択療養」が規制改革会議により提唱され、寸でのところで事前審査と臨床研究中核病院の介在を組み込んだ「患者申出療養」の閣議決定とし、首の皮一枚で何とかつながったかのようにみえている。今後、法改定に向けた制度骨格が焦点となるが、実施計画が出され1カ月半の国の審査で実施が認められ「前例」さえできれば、あとは臨床研究中核病院による2週間の実施体制審査で、市中の基幹病院や一般病院でもそのブランチ、共同研究機関として実施が可能で、広く適用されていくだけに、憂慮はつきない。

 これとは別に、成長戦略の一環で「最先端医療迅速評価制度」が設けられ、未承認・適用外の抗がん剤は国から外部委託された国立がん研究センターによる技術評価により、「3ヵ月」のスピード審査で、混合診療(保険外併用療養)が「特例」として認められている。この実施は臨床研究中核病院(15カ所)、がん診療連携拠点病院(407カ所)、特定機能病院(大学病院とナショナルセンター等)(86カ所)に限定されている。この迅速評価制度は、再生医療、医療機器も対象となるが、これらいずれも「先進医療B」の範疇であり、その中での運用の「複線化」となる。

◆大学病院に「全て」の未承認薬を3ヵ月審査での使用求める、国家戦略特区提案

 今回の「東京圏」「関西圏」の国家戦略特区の計画は、これらの範囲を超えたものが提案されているが、内容はこの春に中医協で了承、通知が5月に出され、3月末日から遡及適用となったものだ。

 具体的には、米・英・仏・独・加・豪の6カ国で承認された医薬品等で日本では未承認、適応外のもの「すべて」を対象として、保険外併用療養の「特例」を活用し迅速に先進医療を提供できるようにする(先進医療B)。この特例は、「事前相談」のため厚労省が出張し申請書類の作成援助など「便宜」を図り、審査のスピード化を図り3ヵ月で実施を可能とする。

 ポイントは、先の迅速評価制度と違い、(1)実施は臨床研究中核病院ならびに同水準施設に限定され、(2)未承認・適応外の医薬品を抗癌剤に限定せずに「すべて」を対象とし、(3)厚労省の事前相談・援助を受けることで「まえさばき」をし、書類の不備での差し戻しや審査上の疑義照会などのタイムロスを避けスピード審査で実施を可能とする点にある。しかも、当然ながら(4)この医療が「先進医療B」とし承認されると、「施設基準」が設定され、全国の施設で要件を満たせばどこでも実施は可能――つまり未承認等の医薬品が混合診療で全国的にスピーディーに進む、「触媒」となる。

 「東京圏」では、この特例の活用を特定機能病院(大学病院)にまで広げるよう検討を進めている。これは患者起点の新制度(患者申出療養)を前にした「露払い」である。

 6カ国の未承認等の医薬品は現在、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(未承認薬等検討会議)において、一般要望を踏まえて振り分け、製薬企業に開発要請し治験の実施や、治験を略した「公知申請」を促し、薬事承認に向けて努力しているが、これを形骸化するものとなる。

 この国家戦略特区では、ダヴィンチ手術の臓器がんへの応用、免疫細胞治療の臨床研究開発、循環器領域における再生医療、バイオセラピー(免疫療法)等を実施するため、病床規制の特例(新規増床)も併せて提案されており、保険外併用療養の大幅拡大・運用緩和が相当に危惧される。

◆未確立な医療の蔓延、倫理の欠如を医療界は戒めるべき 被験者保護の観点は重要

 保険診療は安全性・有効性の確立された医療を実施するものである。この国家戦略特区の提案は、臨床研究への保険財源の流用拡大、未確立な医療の跋扈などを「促進」するものである。もはや保険外併用療養の拡大と称した「乱用」であり、医療倫理の欠如の際たるものである。

 2004年の混合診療解禁騒動の際、有名大学が混合診療に賛意を示し、「高度医療」(現・先進医療B)の制度化では臨床研究への保険財源の充当と歓迎の意をいくつかの大学は公にした。そして、いま保険外併用の乱用の水先案内、牽引役として動いている。

 「先進医療B」、つまり臨床研究を保険外併用療養として実施する際に求められている安全性・有効性の水準は実は高くない。(1)「数例」の使用で事故が起こっていない、(2)査読論文で有効性が「期待」できる等、である。

 医薬品は「治験」により薬事承認を経て「製品化」され、上市となり保険導入となる。薬事法の下、科学的評価に耐えうるデータにより、安全性・有効性が確認される。「先進医療B」は、臨床研究の倫理「指針」(ガイドライン)により実施され、そのデータは治験には使えない。この指針と法の二重基準の現実の中、この国ではフランスのような被験者保護法も存在していない。

 保険外併用療養制度化を前にした05年当時、「先進医療技術は通常医療よりも厳格な管理が必要」で、「有効性、安全性が確認されていない医療技術を事前の厳格な審査もなしに人に試すのは最も非倫理的行為」(橳島次郎氏:科学技術文明研究所主任研究員<当時>)との慧眼が示された(朝日新聞05年7月29日)が、この間の事態の推移は、これを無にしている。

◆金沢大学事件を教訓に、皆保険守るため国家戦略特区の提案は撤回を

 過日、金沢大学の骨軟部腫瘍へのカフェイン併用療法(先進医療B)が、厚労省への実績報告の欠落、大学の倫理委員会への無届け、適格基準外の患者への実施、患者死亡による訴訟と、次々と明るみになり、大学での謝罪会見と調査委員会報告の公表を経て、終には保険外併用療養からの「削除」となった。調査報告では、安全性、有効性の「根拠が不十分」との指摘がなされている。

 この療法は、規制改革会議が保険外併用療養の範囲拡大のために公開討論に持ち出してきたものであり、保険外併用療養の制度の前身、特定療養費制度の下で「高度先進医療」として厚労大臣が技術と実施機関を個別「承認」していたものである。

 この「管理」下でさえ、未承認薬・適応外薬の使用が「常態化」していたことが後で発覚し、追認後も倫理指針違反や報告義務違反が起きたのである。事件を医療界は「他山の石」とすべきである。

 われわれは、医療・医学の発展・進歩を否定するものではない。それらは、科学研究費の枠で被験者保護を十分にした上で行うべきである。保険診療を梃に、患者を翻弄する形で進めることはあってはならない。

 患者・国民に信頼される医療提供と、皆保険を守り、保険診療を壊させないため、国家戦略特区の保険外併用療養の乱用に断固反対する。

2014年10月8日

保険外併用療養の「乱用」に反対する

保険診療を壊す国家戦略特区の「戦略」は、亡国の道

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 政府が主導する国家戦略特区の「東京圏」(東京都・神奈川県・成田市)の関係会議が10月1日、開催され特区の具体的「計画」の素案が提示された。メニューには外国医師による全ての外国人の診療や病床規制の特例とならび、保険外併用療養(混合診療)の更なる緩和が盛り込まれている。既に政府「認定」された「関西圏」の計画とも軌を一にするこの策動は、健保法改定による患者申出療養の創設に先行する内容となっている。大学病院等での「治験」未実施、「治験」を度外視した未承認等の医薬品使用の拡大、そのための「スピード」化と、保険外併用療養を"隠れ蓑"に、医療倫理を欠いた実験医療へのお墨付きを求めている。しかも、この実験医療へ、健康保険の財源を横流しし、流用にさらに拍車をかけるものとなる。われわれは、健康保険、保険診療を潜脱し、保険診療を壊す、この国家戦略特区の計画を厳しく指弾し、警鐘をする。

◆先進医療の混合診療は審査6カ月、未承認の抗がん剤使用は3ヵ月のスピード審査

 保険外併用療養は、合法的な混合診療として制度化されており、医療技術・医薬品は保険診療への導入の篩に定期的にかける「評価療養」として認められている。ただ、未承認薬・適用外の医薬品・医療機器を用いた医療、いわば「臨床研究」が保険外併用療養の対象とされ、厚労省への実施計画の届け出や、実績報告(有害事象など含む)を義務づけて「先進医療B」として実施が容認されている。この実施に際して、厚労省の審査は6カ月となっている。

 これを先般、骨抜きにする事実上の全面解禁、「選択療養」が規制改革会議により提唱され、寸でのところで事前審査と臨床研究中核病院の介在を組み込んだ「患者申出療養」の閣議決定とし、首の皮一枚で何とかつながったかのようにみえている。今後、法改定に向けた制度骨格が焦点となるが、実施計画が出され1カ月半の国の審査で実施が認められ「前例」さえできれば、あとは臨床研究中核病院による2週間の実施体制審査で、市中の基幹病院や一般病院でもそのブランチ、共同研究機関として実施が可能で、広く適用されていくだけに、憂慮はつきない。

 これとは別に、成長戦略の一環で「最先端医療迅速評価制度」が設けられ、未承認・適用外の抗がん剤は国から外部委託された国立がん研究センターによる技術評価により、「3ヵ月」のスピード審査で、混合診療(保険外併用療養)が「特例」として認められている。この実施は臨床研究中核病院(15カ所)、がん診療連携拠点病院(407カ所)、特定機能病院(大学病院とナショナルセンター等)(86カ所)に限定されている。この迅速評価制度は、再生医療、医療機器も対象となるが、これらいずれも「先進医療B」の範疇であり、その中での運用の「複線化」となる。

◆大学病院に「全て」の未承認薬を3ヵ月審査での使用求める、国家戦略特区提案

 今回の「東京圏」「関西圏」の国家戦略特区の計画は、これらの範囲を超えたものが提案されているが、内容はこの春に中医協で了承、通知が5月に出され、3月末日から遡及適用となったものだ。

 具体的には、米・英・仏・独・加・豪の6カ国で承認された医薬品等で日本では未承認、適応外のもの「すべて」を対象として、保険外併用療養の「特例」を活用し迅速に先進医療を提供できるようにする(先進医療B)。この特例は、「事前相談」のため厚労省が出張し申請書類の作成援助など「便宜」を図り、審査のスピード化を図り3ヵ月で実施を可能とする。

 ポイントは、先の迅速評価制度と違い、(1)実施は臨床研究中核病院ならびに同水準施設に限定され、(2)未承認・適応外の医薬品を抗癌剤に限定せずに「すべて」を対象とし、(3)厚労省の事前相談・援助を受けることで「まえさばき」をし、書類の不備での差し戻しや審査上の疑義照会などのタイムロスを避けスピード審査で実施を可能とする点にある。しかも、当然ながら(4)この医療が「先進医療B」とし承認されると、「施設基準」が設定され、全国の施設で要件を満たせばどこでも実施は可能――つまり未承認等の医薬品が混合診療で全国的にスピーディーに進む、「触媒」となる。

 「東京圏」では、この特例の活用を特定機能病院(大学病院)にまで広げるよう検討を進めている。これは患者起点の新制度(患者申出療養)を前にした「露払い」である。

 6カ国の未承認等の医薬品は現在、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(未承認薬等検討会議)において、一般要望を踏まえて振り分け、製薬企業に開発要請し治験の実施や、治験を略した「公知申請」を促し、薬事承認に向けて努力しているが、これを形骸化するものとなる。

 この国家戦略特区では、ダヴィンチ手術の臓器がんへの応用、免疫細胞治療の臨床研究開発、循環器領域における再生医療、バイオセラピー(免疫療法)等を実施するため、病床規制の特例(新規増床)も併せて提案されており、保険外併用療養の大幅拡大・運用緩和が相当に危惧される。

◆未確立な医療の蔓延、倫理の欠如を医療界は戒めるべき 被験者保護の観点は重要

 保険診療は安全性・有効性の確立された医療を実施するものである。この国家戦略特区の提案は、臨床研究への保険財源の流用拡大、未確立な医療の跋扈などを「促進」するものである。もはや保険外併用療養の拡大と称した「乱用」であり、医療倫理の欠如の際たるものである。

 2004年の混合診療解禁騒動の際、有名大学が混合診療に賛意を示し、「高度医療」(現・先進医療B)の制度化では臨床研究への保険財源の充当と歓迎の意をいくつかの大学は公にした。そして、いま保険外併用の乱用の水先案内、牽引役として動いている。

 「先進医療B」、つまり臨床研究を保険外併用療養として実施する際に求められている安全性・有効性の水準は実は高くない。(1)「数例」の使用で事故が起こっていない、(2)査読論文で有効性が「期待」できる等、である。

 医薬品は「治験」により薬事承認を経て「製品化」され、上市となり保険導入となる。薬事法の下、科学的評価に耐えうるデータにより、安全性・有効性が確認される。「先進医療B」は、臨床研究の倫理「指針」(ガイドライン)により実施され、そのデータは治験には使えない。この指針と法の二重基準の現実の中、この国ではフランスのような被験者保護法も存在していない。

 保険外併用療養制度化を前にした05年当時、「先進医療技術は通常医療よりも厳格な管理が必要」で、「有効性、安全性が確認されていない医療技術を事前の厳格な審査もなしに人に試すのは最も非倫理的行為」(橳島次郎氏:科学技術文明研究所主任研究員<当時>)との慧眼が示された(朝日新聞05年7月29日)が、この間の事態の推移は、これを無にしている。

◆金沢大学事件を教訓に、皆保険守るため国家戦略特区の提案は撤回を

 過日、金沢大学の骨軟部腫瘍へのカフェイン併用療法(先進医療B)が、厚労省への実績報告の欠落、大学の倫理委員会への無届け、適格基準外の患者への実施、患者死亡による訴訟と、次々と明るみになり、大学での謝罪会見と調査委員会報告の公表を経て、終には保険外併用療養からの「削除」となった。調査報告では、安全性、有効性の「根拠が不十分」との指摘がなされている。

 この療法は、規制改革会議が保険外併用療養の範囲拡大のために公開討論に持ち出してきたものであり、保険外併用療養の制度の前身、特定療養費制度の下で「高度先進医療」として厚労大臣が技術と実施機関を個別「承認」していたものである。

 この「管理」下でさえ、未承認薬・適応外薬の使用が「常態化」していたことが後で発覚し、追認後も倫理指針違反や報告義務違反が起きたのである。事件を医療界は「他山の石」とすべきである。

 われわれは、医療・医学の発展・進歩を否定するものではない。それらは、科学研究費の枠で被験者保護を十分にした上で行うべきである。保険診療を梃に、患者を翻弄する形で進めることはあってはならない。

 患者・国民に信頼される医療提供と、皆保険を守り、保険診療を壊させないため、国家戦略特区の保険外併用療養の乱用に断固反対する。

2014年10月8日