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2015/2/20 政策部長談話「『患者申出療養』に反対する 日本の臨床研究の信頼崩し、第一線医療へ与える混乱を憂慮する」

「患者申出療養」に反対する

日本の臨床研究の信頼崩し、第一線医療へ与える混乱を憂慮する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 3月上旬に、「患者申出療養」(仮称)の創設が医療改革関連法案に盛り込まれ国会に提出される。これは患者の申し出を「起点」に、保険外の医薬品や医療技術と健康保険との併用を認めるもので、現在の保険外併用療養(混合診療)の「評価療養」(先進医療等)、「選定療養」(差額ベッド等)に次ぐ第3類型となる。施政方針演説で改革断行として首相が触れたが、この新類型のスキームは高度な医療研究を牽引する臨床研究中核病院の信頼を崩し、第一線医療を担う開業医、かかりつけ医の診療に混乱を来す危険性が高い。医療倫理、健康保険の運用上も問題が大きい。われわれは患者申出療養に改めて反対する。

◆法定化した臨床研究中核病院の門出に不安 杜撰な「実施計画」、未確立な医療の蔓延に懸念

 混合診療とは保険外と健康保険との混合、保険外「混合」診療である。これを厚労省の管理下で合法化し制度にしたものが「保険外"併用"療養」である。

 いま保険外の医療技術、医薬品等は「先進医療A、B」として併用が認められており、薬事法(現「医薬品医療機器等法」、以下同じ)で未承認の医薬品・医療機器は、「臨床研究」の枠内で「実施計画」を策定し、使用する便法(先進医療B)が図られている。研究段階の医療技術もこの対象であり、未確立な医療への健康保険の「参入」である。しかし患者申出療養は、これに収まらないものと位置づけられている。

 この新類型のスキームは、患者の申し出を「起点」に、臨床研究中核病院を「拠点」とし、保険外の医療の「実施計画」を策定し、「スピーディーな審査」で併用を認め、多施設共同研究の体裁で広く市中の医療機関での実施も視野にいれている。対象とする保険外の医療は(1)先進医療の対象にならない医療(実施計画「対象外」の患者への療養、実施計画「作成が進まなかった」技術等)や、(2)治験の対象外の患者への未承認薬使用などであり、「臨床研究の倫理指針」からの逸脱、プロトコル(実施計画)違反や薬事法のGCP省令への抵触が、非常に懸念され疑問が多い。

 4月より、臨床研究中核病院は医療法で位置づけられ、医師主導治験や査読論文の数、実施体制、施設・人員要件など高い水準の基準が設けられる。不正、改竄で堕ちた日本の臨床研究への世界からの信頼回復、度重なる保険適用外の腹腔鏡手術での医療事故を教訓とした捲土重来が期されているだけに、これでは元の木阿弥である。

 しかも、開業医などの「かかりつけ医」への患者からの「相談」を組み込んでおり、「前捌き」や「紹介・連携」の役割を担うこととなり、否が応にも巻き込まれ、その対応に混乱が予想される。

◆保険外の医療・医薬品との混合診療の「スピード実施」に拍車

 患者申療養の「スピーディーな審査」だが、初回例は「1カ月半」で国が臨床研究中核病院の実施計画を、前例があるものの他施設実施(共同研究)は「2週間」で臨床研究中核病院が実施体制を、各々審査し保険外併用の実施を認める。現在、先進医療は、原則6カ月審査であり、超短期間となる。

 いま未承認の抗がん剤、再生医療、医療機器の3分野は、臨床研究中核病院で3ヵ月の審査で併用を認める最先端医療迅速評価制度がある。また国家戦略特区では「臨床研究中核病院等と同水準の国際医療機関」との定義で、実は人員体制、治験実績などが臨床研究中核病院より相当に低い基準で、「特例」を認め、厚労省が「事前相談」など特別な便宜を計らい、3カ月で保険外併用の実施となる。

 しかし、「患者申出療養」は、実施までの審査スピードが半分以下であり、ここへ収斂する可能性が高い。患者の申し出とはいえ、現実には医療・医学知識に圧倒的な差がある医療側からの教示がなければ成立しない。いずれにせよ、そこでの医療提供は未確立な医療であり、通常医療の保険診療や、薬事法に基づく治験の「壁」をも超えた、「指針」対応の臨床研究である。

 臨床研究(実験的医療)の併用は、安全性・有効性が確立した医療提供が前提の健康保険のルールに反し、財源流用でもある。患者申出療養は、その名称からも「自己責任」を背にしており、医療事故の際の補償も覚束ない。「将来的な保険導入」といわれるが、「近い将来」ではなく、保険診療への収載までは遥かに「距離」がある。(別紙参照)

 われわれは、未確立な医療との併用を自己責任の下、新たに制度化し、臨床研究、第一線医療の双方に回復困難な打撃を与える、患者申出療養に断固反対する。

2015年2月20日

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「患者申出療養」に反対する

日本の臨床研究の信頼崩し、第一線医療へ与える混乱を憂慮する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 3月上旬に、「患者申出療養」(仮称)の創設が医療改革関連法案に盛り込まれ国会に提出される。これは患者の申し出を「起点」に、保険外の医薬品や医療技術と健康保険との併用を認めるもので、現在の保険外併用療養(混合診療)の「評価療養」(先進医療等)、「選定療養」(差額ベッド等)に次ぐ第3類型となる。施政方針演説で改革断行として首相が触れたが、この新類型のスキームは高度な医療研究を牽引する臨床研究中核病院の信頼を崩し、第一線医療を担う開業医、かかりつけ医の診療に混乱を来す危険性が高い。医療倫理、健康保険の運用上も問題が大きい。われわれは患者申出療養に改めて反対する。

◆法定化した臨床研究中核病院の門出に不安 杜撰な「実施計画」、未確立な医療の蔓延に懸念

 混合診療とは保険外と健康保険との混合、保険外「混合」診療である。これを厚労省の管理下で合法化し制度にしたものが「保険外"併用"療養」である。

 いま保険外の医療技術、医薬品等は「先進医療A、B」として併用が認められており、薬事法(現「医薬品医療機器等法」、以下同じ)で未承認の医薬品・医療機器は、「臨床研究」の枠内で「実施計画」を策定し、使用する便法(先進医療B)が図られている。研究段階の医療技術もこの対象であり、未確立な医療への健康保険の「参入」である。しかし患者申出療養は、これに収まらないものと位置づけられている。

 この新類型のスキームは、患者の申し出を「起点」に、臨床研究中核病院を「拠点」とし、保険外の医療の「実施計画」を策定し、「スピーディーな審査」で併用を認め、多施設共同研究の体裁で広く市中の医療機関での実施も視野にいれている。対象とする保険外の医療は(1)先進医療の対象にならない医療(実施計画「対象外」の患者への療養、実施計画「作成が進まなかった」技術等)や、(2)治験の対象外の患者への未承認薬使用などであり、「臨床研究の倫理指針」からの逸脱、プロトコル(実施計画)違反や薬事法のGCP省令への抵触が、非常に懸念され疑問が多い。

 4月より、臨床研究中核病院は医療法で位置づけられ、医師主導治験や査読論文の数、実施体制、施設・人員要件など高い水準の基準が設けられる。不正、改竄で堕ちた日本の臨床研究への世界からの信頼回復、度重なる保険適用外の腹腔鏡手術での医療事故を教訓とした捲土重来が期されているだけに、これでは元の木阿弥である。

 しかも、開業医などの「かかりつけ医」への患者からの「相談」を組み込んでおり、「前捌き」や「紹介・連携」の役割を担うこととなり、否が応にも巻き込まれ、その対応に混乱が予想される。

◆保険外の医療・医薬品との混合診療の「スピード実施」に拍車

 患者申療養の「スピーディーな審査」だが、初回例は「1カ月半」で国が臨床研究中核病院の実施計画を、前例があるものの他施設実施(共同研究)は「2週間」で臨床研究中核病院が実施体制を、各々審査し保険外併用の実施を認める。現在、先進医療は、原則6カ月審査であり、超短期間となる。

 いま未承認の抗がん剤、再生医療、医療機器の3分野は、臨床研究中核病院で3ヵ月の審査で併用を認める最先端医療迅速評価制度がある。また国家戦略特区では「臨床研究中核病院等と同水準の国際医療機関」との定義で、実は人員体制、治験実績などが臨床研究中核病院より相当に低い基準で、「特例」を認め、厚労省が「事前相談」など特別な便宜を計らい、3カ月で保険外併用の実施となる。

 しかし、「患者申出療養」は、実施までの審査スピードが半分以下であり、ここへ収斂する可能性が高い。患者の申し出とはいえ、現実には医療・医学知識に圧倒的な差がある医療側からの教示がなければ成立しない。いずれにせよ、そこでの医療提供は未確立な医療であり、通常医療の保険診療や、薬事法に基づく治験の「壁」をも超えた、「指針」対応の臨床研究である。

 臨床研究(実験的医療)の併用は、安全性・有効性が確立した医療提供が前提の健康保険のルールに反し、財源流用でもある。患者申出療養は、その名称からも「自己責任」を背にしており、医療事故の際の補償も覚束ない。「将来的な保険導入」といわれるが、「近い将来」ではなく、保険診療への収載までは遥かに「距離」がある。(別紙参照)

 われわれは、未確立な医療との併用を自己責任の下、新たに制度化し、臨床研究、第一線医療の双方に回復困難な打撃を与える、患者申出療養に断固反対する。

2015年2月20日

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